ペルソナP3P
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アパートへ帰ると玄関の鍵は空いていた。出来るだけ音を出さないように扉を開ければ、玄関には荒垣の靴。出て行かなかったのかと、何処か期待していたような残念なような気分になる。
靴を脱いでアマネも部屋の中へ上がり奥へと向かう。食事にも勉強にも作業にも使うローテーブルの上へ広げられたノート。英和辞書。そしてそれに向き合っている荒垣。
荒垣の印象を『聡い人』だと思っていながら、どうやらアマネは致命的なミスを犯した様だった。
「……解読、出来たんですね。ラテン語にしときゃ良かった」
「休学中つっても授業が出来なかったわけじゃねえよ」
顔を上げた荒垣の手元。アマネがまたいつ『×××』が使えなくなるのか分からないのと、少しでも頭痛の頻度を抑える為に書き記していた『これから起こる出来事』の羅列。万が一見られても自分以外には読めないようにとフォニック文字にしたのに、アルファベットへ置き換えられることに気付かれてしまったら、なるほどこうして解読出来てしまうのかと思う。
鞄をいつもの定位置へ置いて制服を脱ぐ。室内着にしているジャージに着替えて制服をハンガーへ掛けて、それから荒垣と向き合う位置へ腰を降ろした。
「どこまで読んじゃいました?」
「……アキたちが屋久島へ行くトコまでだ」
「そっか……セーフだなぁ」
曖昧に笑うと荒垣へ睨まれる。
「『コレ』は一体何なんだ? テメェの妄想にしちゃ細かい日付や未来の事まで明確に書かれてやがる。それにシャドウやペルソナのことまで」
「言ったでしょう。俺は『知ってる』んだってぇ。それはその覚書きです」
「全部か」
「正確には多分少しずれます。既に貴方と俺が出会った時点でズレも生じている。でも……大まかな流れはきっと変わってねぇ」
『前』はこんなに早く荒垣と言葉を交わさなかった。ましてや家に連れてきたり、ペルソナ使いである事をばらしたりもしていない。
けれども『それ』とこの先に起こるであろう事は関係が無いのだ。あったとしても荒垣が九月になって巌戸台分寮へ、あのメンバーへ加わりアマネの事を話しでもしない限り変わらないだろう。
そこまで分かっていてコソコソと動いている自分も滑稽だが。
「……どうしてテメェがそんな事を知ってやがる」
「俺にも事情があるんです」
昨日と同じ言葉を口にすれば、荒垣は信用出来ないといった顔をする。それが当たり前なのだからショックは受けなかった。
荒垣の反応は何も知らない者として当然だ。更に言うならむしろアマネを『変な妄想野郎』と一蹴しても荒垣は悪くない。
ただそれは実際にやられたらちょっとへこむ。
「……アキたちとはまだ接触してないのか」
「あの人達の傍には俺の『敵』がいるので。それに今の段階で変に情報を与えてメンバー同士で疑心暗鬼に陥らせるのも、良くねぇですから」
「オレはいいのか」
「貴方は勝手にノート見たんじゃねぇですか」
そもそも家へ連れて来るつもりも無かったのだ。
荒垣はアマネから視線を逸らし、考えるようにテーブルの上のノートを見下ろす。アマネの書いたものとは別に、荒垣が訳を書いたノートの文面には、これから起こるであろう山岸の事よりも更に後、屋久島へ旅行に行くところで途切れている。
いつから始めたのか知らないが、アマネが帰ってくるまでにそこまで訳せたというのは結構凄いことなのではないのか。辞書が無ければもう少し滞っていただろうが。
あの先の頁には、天田がメンバーへ加わる事もその後荒垣がメンバーへ加わる事も、荒垣が撃たれる事も既に書いてある。それが読まれていなくて良かった。
「……お前は何がしたいんだ」
「助けられそうな人を助けたい。少しでも悲しむ回数を減らしたい。……俺が本当に助けたかった人を助ける事は、無理そうなので」
膝の上に置いていた手を握り締める。本当に助けたかった『湊さん』はこの世界にはいない。代わりに同じような運命を辿るのだろう『彼女』がいた。
それでも『変えよう』と思ったのだ。『あの人』の為に、『あの人達』の為に。
探るようにアマネを観察していた荒垣は、深く息を吐き出すと広げられていたノートへシャーペンを挟んで閉じた。その音へアマネが顔を上げると荒垣が立ち上がったところで、もう追求はいいのかと思えば見下ろされる。
「『アイツ等』に害が無えなら今のところは見なかったことにしてやる。だが暫くは見張らせてもらうからな。このノートに関しても、読ませてもらうぞ」
「了解しました」
「それと……昨日の礼だ。夕飯はオレが奢ってやる」
「いえ、鶏肉が悪くなりそうなんで親子丼作ってください。材料あるんで」
「テメッ……」
「『知ってる』んだから貴方が料理出来る事も知ってるんですよ。それに外食は誰かへ会う可能性が増えますから」
一人で出歩く分にはいいのだが、荒垣と一緒に居る時は顔を隠さねばならない。分寮のメンバー、特に真田へ荒垣と一緒に居る時に遭遇してしまえば、『一緒に居るのは誰だ』と追究されてしまう。それは今のところ困る事柄だ。
荒垣は料理が出来る事が既にばれている、という事態が恥ずかしかったのか、少しどもりながら小声で文句を呟きつつ台所へと向かった。
アマネはテーブルへ置かれたままのノートを手にとって開き、『荒垣が死ぬ』内容が書かれたページを引き千切る。
『これ』はアマネの『変えたい』ことの一つだから、アマネだけが知っていればいい。
靴を脱いでアマネも部屋の中へ上がり奥へと向かう。食事にも勉強にも作業にも使うローテーブルの上へ広げられたノート。英和辞書。そしてそれに向き合っている荒垣。
荒垣の印象を『聡い人』だと思っていながら、どうやらアマネは致命的なミスを犯した様だった。
「……解読、出来たんですね。ラテン語にしときゃ良かった」
「休学中つっても授業が出来なかったわけじゃねえよ」
顔を上げた荒垣の手元。アマネがまたいつ『×××』が使えなくなるのか分からないのと、少しでも頭痛の頻度を抑える為に書き記していた『これから起こる出来事』の羅列。万が一見られても自分以外には読めないようにとフォニック文字にしたのに、アルファベットへ置き換えられることに気付かれてしまったら、なるほどこうして解読出来てしまうのかと思う。
鞄をいつもの定位置へ置いて制服を脱ぐ。室内着にしているジャージに着替えて制服をハンガーへ掛けて、それから荒垣と向き合う位置へ腰を降ろした。
「どこまで読んじゃいました?」
「……アキたちが屋久島へ行くトコまでだ」
「そっか……セーフだなぁ」
曖昧に笑うと荒垣へ睨まれる。
「『コレ』は一体何なんだ? テメェの妄想にしちゃ細かい日付や未来の事まで明確に書かれてやがる。それにシャドウやペルソナのことまで」
「言ったでしょう。俺は『知ってる』んだってぇ。それはその覚書きです」
「全部か」
「正確には多分少しずれます。既に貴方と俺が出会った時点でズレも生じている。でも……大まかな流れはきっと変わってねぇ」
『前』はこんなに早く荒垣と言葉を交わさなかった。ましてや家に連れてきたり、ペルソナ使いである事をばらしたりもしていない。
けれども『それ』とこの先に起こるであろう事は関係が無いのだ。あったとしても荒垣が九月になって巌戸台分寮へ、あのメンバーへ加わりアマネの事を話しでもしない限り変わらないだろう。
そこまで分かっていてコソコソと動いている自分も滑稽だが。
「……どうしてテメェがそんな事を知ってやがる」
「俺にも事情があるんです」
昨日と同じ言葉を口にすれば、荒垣は信用出来ないといった顔をする。それが当たり前なのだからショックは受けなかった。
荒垣の反応は何も知らない者として当然だ。更に言うならむしろアマネを『変な妄想野郎』と一蹴しても荒垣は悪くない。
ただそれは実際にやられたらちょっとへこむ。
「……アキたちとはまだ接触してないのか」
「あの人達の傍には俺の『敵』がいるので。それに今の段階で変に情報を与えてメンバー同士で疑心暗鬼に陥らせるのも、良くねぇですから」
「オレはいいのか」
「貴方は勝手にノート見たんじゃねぇですか」
そもそも家へ連れて来るつもりも無かったのだ。
荒垣はアマネから視線を逸らし、考えるようにテーブルの上のノートを見下ろす。アマネの書いたものとは別に、荒垣が訳を書いたノートの文面には、これから起こるであろう山岸の事よりも更に後、屋久島へ旅行に行くところで途切れている。
いつから始めたのか知らないが、アマネが帰ってくるまでにそこまで訳せたというのは結構凄いことなのではないのか。辞書が無ければもう少し滞っていただろうが。
あの先の頁には、天田がメンバーへ加わる事もその後荒垣がメンバーへ加わる事も、荒垣が撃たれる事も既に書いてある。それが読まれていなくて良かった。
「……お前は何がしたいんだ」
「助けられそうな人を助けたい。少しでも悲しむ回数を減らしたい。……俺が本当に助けたかった人を助ける事は、無理そうなので」
膝の上に置いていた手を握り締める。本当に助けたかった『湊さん』はこの世界にはいない。代わりに同じような運命を辿るのだろう『彼女』がいた。
それでも『変えよう』と思ったのだ。『あの人』の為に、『あの人達』の為に。
探るようにアマネを観察していた荒垣は、深く息を吐き出すと広げられていたノートへシャーペンを挟んで閉じた。その音へアマネが顔を上げると荒垣が立ち上がったところで、もう追求はいいのかと思えば見下ろされる。
「『アイツ等』に害が無えなら今のところは見なかったことにしてやる。だが暫くは見張らせてもらうからな。このノートに関しても、読ませてもらうぞ」
「了解しました」
「それと……昨日の礼だ。夕飯はオレが奢ってやる」
「いえ、鶏肉が悪くなりそうなんで親子丼作ってください。材料あるんで」
「テメッ……」
「『知ってる』んだから貴方が料理出来る事も知ってるんですよ。それに外食は誰かへ会う可能性が増えますから」
一人で出歩く分にはいいのだが、荒垣と一緒に居る時は顔を隠さねばならない。分寮のメンバー、特に真田へ荒垣と一緒に居る時に遭遇してしまえば、『一緒に居るのは誰だ』と追究されてしまう。それは今のところ困る事柄だ。
荒垣は料理が出来る事が既にばれている、という事態が恥ずかしかったのか、少しどもりながら小声で文句を呟きつつ台所へと向かった。
アマネはテーブルへ置かれたままのノートを手にとって開き、『荒垣が死ぬ』内容が書かれたページを引き千切る。
『これ』はアマネの『変えたい』ことの一つだから、アマネだけが知っていればいい。