ペルソナ4
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今日は月森が一年間だけという滞在の最終日で、駅で見送りをするからと花村にくるように言われていた。
月森自身からも、必ず見送りに来て欲しいと約束していたから行くことに異論はない。
数日後には俺自身が八十稲羽より都会にある大学に、もっと近いところへ引っ越す予定で、結局一年と少ししか過ごさなかったアパートの鍵を掛けて階段を降りる。部屋の中の荷物は既に最低限しか無くなっていて、ついうっかり暖房器具ももう送ってしまったものだから、早朝は寒くて仕方がない。
アパートの一階には、住人がいなくなった空き部屋。その部屋の鍵を、堂島氏と俺で一つずつ持っている。
足立さんはあんな人だったが、それでも会えば話す程度の、近所の住人というよりは親しい相手だったのだ。
駅へ向かって歩いていると、ふと、今日はこんなに霧が濃かっただろうかと不思議に思った。
息苦しいわけでもない。けれども一度気になると、だんだん濃くなっているかのように思える霧に立ち止まる。やがて数メートル先の距離さえ見えなくなってしまった道路に、不穏な雰囲気を感じ取って辺りを警戒した。
音が聞こえたのはその時である。
何か金属のようなものがこすれる音。こすれると言うよりは強い音だが、ぶつけていると表現するには小さすぎる。一定の間隔を置いて近付いてくるその音と共に、霧の中から現れた『それ』に振り返った。
「……イザ、ナギ?」
月森のペルソナであるイザナギが、持っていた武器の穂先を地面に突く。先程から聞こえていた音はそれによるものらしい。
視界を遮る霧の中に自分以外の人の気配は無かった。だとすれば目の前のイザナギはどうしてここにいるのかという疑問が浮かぶ。
イザナギは月森のペルソナであるはずだから、月森からそう離れて勝手に行動することは出来ない筈だ。そもそも、影時間でもテレビの中でもないこの場所で、イザナギが自力で姿を現せる訳も無い。
どういう事かという考えは、周囲を覆い隠す霧から一つの仮定を生み出す。
この霧が、この場所をテレビの中と同じ空間にしているのだと。
だとしてもイザナギが一人でここにいる説明はつかない。
ふと、何か引っ掛かるものを覚えて首を傾げる。だが何が引っ掛かるのか分からず、悩む俺を見下ろして、もう一度イザナギが武器の穂先を突いた。
イザナギの武器は刀だと思っていたのだが、こうしてじっくり観察するとアレは矛なのかもしれない。
コンクリを僅かに削ったそれがイザナギの手でくるりと回されたかと思うと、イザナギはしゃがんでその場に片膝を突き、俺に向けて頭を垂れた。
「……え」
いきなりのことに反応が上手く出来ないでいると、イザナギは顔を上げてまっすぐ俺を見る。
『……ノゾミ……カナエ……』
ペルソナも喋ることは知っているが、どうもイザナギの口調はペルソナらしくない。
『……我……願イ……代価……』
「うぉおおい、何が言いてぇのか分からねぇよ」
『……請ウ……』
「……何を」
何かを俺に頼もうとしている。それは理解できたので問い返した。
イザナギの眼が、青銀色の輝きを放つ。
「ぅわっ、ちょっ……」
『……我 『大イナル全知ノ亜種』 ヘ請ウ……妻ヘ……』
眩しくて腕を上げて光を遮った。
その向こうで一瞬、イザナギの姿が変わったように見えたものの、全身を白い光に包まれてすぐに見えなくなる。
月森自身からも、必ず見送りに来て欲しいと約束していたから行くことに異論はない。
数日後には俺自身が八十稲羽より都会にある大学に、もっと近いところへ引っ越す予定で、結局一年と少ししか過ごさなかったアパートの鍵を掛けて階段を降りる。部屋の中の荷物は既に最低限しか無くなっていて、ついうっかり暖房器具ももう送ってしまったものだから、早朝は寒くて仕方がない。
アパートの一階には、住人がいなくなった空き部屋。その部屋の鍵を、堂島氏と俺で一つずつ持っている。
足立さんはあんな人だったが、それでも会えば話す程度の、近所の住人というよりは親しい相手だったのだ。
駅へ向かって歩いていると、ふと、今日はこんなに霧が濃かっただろうかと不思議に思った。
息苦しいわけでもない。けれども一度気になると、だんだん濃くなっているかのように思える霧に立ち止まる。やがて数メートル先の距離さえ見えなくなってしまった道路に、不穏な雰囲気を感じ取って辺りを警戒した。
音が聞こえたのはその時である。
何か金属のようなものがこすれる音。こすれると言うよりは強い音だが、ぶつけていると表現するには小さすぎる。一定の間隔を置いて近付いてくるその音と共に、霧の中から現れた『それ』に振り返った。
「……イザ、ナギ?」
月森のペルソナであるイザナギが、持っていた武器の穂先を地面に突く。先程から聞こえていた音はそれによるものらしい。
視界を遮る霧の中に自分以外の人の気配は無かった。だとすれば目の前のイザナギはどうしてここにいるのかという疑問が浮かぶ。
イザナギは月森のペルソナであるはずだから、月森からそう離れて勝手に行動することは出来ない筈だ。そもそも、影時間でもテレビの中でもないこの場所で、イザナギが自力で姿を現せる訳も無い。
どういう事かという考えは、周囲を覆い隠す霧から一つの仮定を生み出す。
この霧が、この場所をテレビの中と同じ空間にしているのだと。
だとしてもイザナギが一人でここにいる説明はつかない。
ふと、何か引っ掛かるものを覚えて首を傾げる。だが何が引っ掛かるのか分からず、悩む俺を見下ろして、もう一度イザナギが武器の穂先を突いた。
イザナギの武器は刀だと思っていたのだが、こうしてじっくり観察するとアレは矛なのかもしれない。
コンクリを僅かに削ったそれがイザナギの手でくるりと回されたかと思うと、イザナギはしゃがんでその場に片膝を突き、俺に向けて頭を垂れた。
「……え」
いきなりのことに反応が上手く出来ないでいると、イザナギは顔を上げてまっすぐ俺を見る。
『……ノゾミ……カナエ……』
ペルソナも喋ることは知っているが、どうもイザナギの口調はペルソナらしくない。
『……我……願イ……代価……』
「うぉおおい、何が言いてぇのか分からねぇよ」
『……請ウ……』
「……何を」
何かを俺に頼もうとしている。それは理解できたので問い返した。
イザナギの眼が、青銀色の輝きを放つ。
「ぅわっ、ちょっ……」
『……我 『大イナル全知ノ亜種』 ヘ請ウ……妻ヘ……』
眩しくて腕を上げて光を遮った。
その向こうで一瞬、イザナギの姿が変わったように見えたものの、全身を白い光に包まれてすぐに見えなくなる。