ペルソナ4
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
クリスマスが終わり、新年が来て、受験が終わり。
桐条の勧めで選んだ大学に合格した。桐条はどうも俺を自分の企業グループに入れたがっている節がある。完全に油断は当然出来ないが、就職先がすでにあると思っていいのは気楽だ。好意に甘えられれば大学卒業後そのまま就職。出来ればアイギスのいる研究職にいきたい。
そうして来たる三月五日。奇しくもあの時と同じ日に、八十神高校の卒業式が行なわれた。
詰襟までキッチリと閉められた制服に身を包み、一つ上の二年前眠りについたあの人は、もう貰うことの出来ない卒業証書を受け取る。
門出を祝う声に別れを悲しむ声。明日になっても会えるし、携帯があるからいつでも連絡が取れるというのに、溢れる涙が止まらないでいる。
俺がじゃない。月森がだ。
「そんなに泣くなよ孝介。ほら、先輩困ってるぞ」
「……っう……ふ、ぅ」
手の甲や袖口で涙を拭うものだから、月森の目元は赤いし袖もグチャグチャになっている。見かねた天城がハンカチを差し出しているが、それを受け取るのも億劫らしい。
かくいう天城や、里中や久慈川、直斗まで涙が滲んでいる。涙ぐみはせずとも巽も鼻を啜っているし、花村だって目尻が下がっていた。
そんなに泣くほど慕われていたのかと、泣かれている当の本人だけが信じられないでいる。
最近は見開き型もあるそうだが、伝統的とも言える円筒の卒業証書入れを片手に、泣いているこれだけの人数の後輩達を宥めているのは多分俺だけだ。
「せっかくの門出なんだから、泣くより笑ってくれよぉ」
「っ、無理、です……」
「なんでぇ?」
「だ、だって、先輩……いなく、っなる、し」
「死に別れる訳じゃねぇんだぁ。いつだって会えるだろぉ? ん?」
よしよしとクマへやるように月森の頭を撫でれば、月森は顔を隠す様に俯く。月森だけが、俺から発せられた今の言葉の重みを理解したんだろう。
「で、でもセンパイ、春には大学行くんで八十稲羽出て行くんでしょ?」
「うん。四月にはいなくなるけど、それは月森だって同じだろぉ?」
「やっぱり寂しいですよ。月森君もそうだけど、先輩も居なくなっちゃうなんて」
彼等にとっては俺と月森の両方が居なくなるということだ。けれどもそれは、俺と月森からしてみれば皆が居なくなるということでもある。より寂しいのはどちらか、なんて競うつもりは無いが、そうなると一番寂しさを感じているのは月森だろうと思った。
嗚呼、だからこんなに泣いているのかと納得する。
「仕方無ぇなぁ。じゃあ月森、こうしよう。お前が泣き止んだらお前の願いを聞いてやる」
「……願い?」
「Si 何でもいいせぇ。愛家で奢ってとかビフテキ奢ってとか。何だったら八十稲羽出てくまで毎日遊べってんでもいい」
「……じゃあ、第二ボタンください」
「お前は女子か」
顔を上げた月森の発言に、律儀に突っ込みを入れる花村ももう見れないのだろう。それにしても第二ボタンか、と自分の制服を見下ろす。
第二ボタンは心臓に一番近いボタンだ。だから色々ジンクスが生まれているのだろうが、一番ポピュラーなのは『再び会える』というやつだろうか。
通常であれば女子が意中の男子のそれを貰うという筈だが、その辺は男同士だとどうなっているのだろう。そう思いながらボタンを引き千切って手の上で転がした。
月光館学園のブレザーはファスナーだったなと、どうでもいいことを思いながら月森の手を掴んで手の上へボタンを落とす。
「お前と会えて良かったよ、孝介」
こういう時ぐらいと思って初めてした名前呼びに、月森は不思議そうに目を瞬かせた後、再び涙腺が壊れたとばかりにボロボロと泣き始めた。驚く花村や久慈川にも構わず泣いている月森に、俺も湊さんへ向けてそういう風に泣きたかったと思う。
泣いておけば良かった。あの人の前でもっと。
「あー、ほら、そろそろ写真撮りません? ワタシデジカメ持ってきましたから!」
「あ、オレも持ってきてるぜ。へへっ、先輩一緒に撮りましょ!」
久慈川と花村が空気を変えるようにデジカメを取り出す。天城や里中も賛成して俺の両隣に移動し、ピースサインをするのを久慈川が写した。直斗や巽も一緒に撮ったり、それぞれの携帯で俺とのツーショットを撮ったりと忙しい。
どうにか月森が泣き止んだところで、自分の携帯を花村へ渡した。カメラ機能は起動してある。
「何枚撮ります?」
「一枚でいい。ホラ月森、笑えぇ」
「……こうすけ」
「はいはい。今日だけだからなぁ孝介」
花村に撮ってもらった写真の中で、月森だけではなく俺も笑っていた。今にも泣きそうな下手くそな笑みで、嗚呼何だ俺も泣きそうなんじゃないかと呆れる。
けれども俺は先輩だから、月森達の前で泣こうとは思わないし、泣いてはいけないと思う。その代わりに盛大に月森が俺との別れを悲しんでくれているのだ。それでいい。
「デジカメで撮った写真は、後でプリントアウトして渡しますね」
「あ、クマのこと忘れてたわ」
「じゃあ今からクマの奴も呼ぶッスか?」
「というかジュネス行けばいいじゃん」
「あの、斑鳩先輩。第二じゃなくていいので僕もボタン貰っていいですか?」
「あー、直斗クンずるいっ。センパイワタシにも!」
「じゃあオレも!」
「もう好きなだけ持ってけぇ……いや孝介、自分で脱ぐから」
桐条の勧めで選んだ大学に合格した。桐条はどうも俺を自分の企業グループに入れたがっている節がある。完全に油断は当然出来ないが、就職先がすでにあると思っていいのは気楽だ。好意に甘えられれば大学卒業後そのまま就職。出来ればアイギスのいる研究職にいきたい。
そうして来たる三月五日。奇しくもあの時と同じ日に、八十神高校の卒業式が行なわれた。
詰襟までキッチリと閉められた制服に身を包み、一つ上の二年前眠りについたあの人は、もう貰うことの出来ない卒業証書を受け取る。
門出を祝う声に別れを悲しむ声。明日になっても会えるし、携帯があるからいつでも連絡が取れるというのに、溢れる涙が止まらないでいる。
俺がじゃない。月森がだ。
「そんなに泣くなよ孝介。ほら、先輩困ってるぞ」
「……っう……ふ、ぅ」
手の甲や袖口で涙を拭うものだから、月森の目元は赤いし袖もグチャグチャになっている。見かねた天城がハンカチを差し出しているが、それを受け取るのも億劫らしい。
かくいう天城や、里中や久慈川、直斗まで涙が滲んでいる。涙ぐみはせずとも巽も鼻を啜っているし、花村だって目尻が下がっていた。
そんなに泣くほど慕われていたのかと、泣かれている当の本人だけが信じられないでいる。
最近は見開き型もあるそうだが、伝統的とも言える円筒の卒業証書入れを片手に、泣いているこれだけの人数の後輩達を宥めているのは多分俺だけだ。
「せっかくの門出なんだから、泣くより笑ってくれよぉ」
「っ、無理、です……」
「なんでぇ?」
「だ、だって、先輩……いなく、っなる、し」
「死に別れる訳じゃねぇんだぁ。いつだって会えるだろぉ? ん?」
よしよしとクマへやるように月森の頭を撫でれば、月森は顔を隠す様に俯く。月森だけが、俺から発せられた今の言葉の重みを理解したんだろう。
「で、でもセンパイ、春には大学行くんで八十稲羽出て行くんでしょ?」
「うん。四月にはいなくなるけど、それは月森だって同じだろぉ?」
「やっぱり寂しいですよ。月森君もそうだけど、先輩も居なくなっちゃうなんて」
彼等にとっては俺と月森の両方が居なくなるということだ。けれどもそれは、俺と月森からしてみれば皆が居なくなるということでもある。より寂しいのはどちらか、なんて競うつもりは無いが、そうなると一番寂しさを感じているのは月森だろうと思った。
嗚呼、だからこんなに泣いているのかと納得する。
「仕方無ぇなぁ。じゃあ月森、こうしよう。お前が泣き止んだらお前の願いを聞いてやる」
「……願い?」
「Si 何でもいいせぇ。愛家で奢ってとかビフテキ奢ってとか。何だったら八十稲羽出てくまで毎日遊べってんでもいい」
「……じゃあ、第二ボタンください」
「お前は女子か」
顔を上げた月森の発言に、律儀に突っ込みを入れる花村ももう見れないのだろう。それにしても第二ボタンか、と自分の制服を見下ろす。
第二ボタンは心臓に一番近いボタンだ。だから色々ジンクスが生まれているのだろうが、一番ポピュラーなのは『再び会える』というやつだろうか。
通常であれば女子が意中の男子のそれを貰うという筈だが、その辺は男同士だとどうなっているのだろう。そう思いながらボタンを引き千切って手の上で転がした。
月光館学園のブレザーはファスナーだったなと、どうでもいいことを思いながら月森の手を掴んで手の上へボタンを落とす。
「お前と会えて良かったよ、孝介」
こういう時ぐらいと思って初めてした名前呼びに、月森は不思議そうに目を瞬かせた後、再び涙腺が壊れたとばかりにボロボロと泣き始めた。驚く花村や久慈川にも構わず泣いている月森に、俺も湊さんへ向けてそういう風に泣きたかったと思う。
泣いておけば良かった。あの人の前でもっと。
「あー、ほら、そろそろ写真撮りません? ワタシデジカメ持ってきましたから!」
「あ、オレも持ってきてるぜ。へへっ、先輩一緒に撮りましょ!」
久慈川と花村が空気を変えるようにデジカメを取り出す。天城や里中も賛成して俺の両隣に移動し、ピースサインをするのを久慈川が写した。直斗や巽も一緒に撮ったり、それぞれの携帯で俺とのツーショットを撮ったりと忙しい。
どうにか月森が泣き止んだところで、自分の携帯を花村へ渡した。カメラ機能は起動してある。
「何枚撮ります?」
「一枚でいい。ホラ月森、笑えぇ」
「……こうすけ」
「はいはい。今日だけだからなぁ孝介」
花村に撮ってもらった写真の中で、月森だけではなく俺も笑っていた。今にも泣きそうな下手くそな笑みで、嗚呼何だ俺も泣きそうなんじゃないかと呆れる。
けれども俺は先輩だから、月森達の前で泣こうとは思わないし、泣いてはいけないと思う。その代わりに盛大に月森が俺との別れを悲しんでくれているのだ。それでいい。
「デジカメで撮った写真は、後でプリントアウトして渡しますね」
「あ、クマのこと忘れてたわ」
「じゃあ今からクマの奴も呼ぶッスか?」
「というかジュネス行けばいいじゃん」
「あの、斑鳩先輩。第二じゃなくていいので僕もボタン貰っていいですか?」
「あー、直斗クンずるいっ。センパイワタシにも!」
「じゃあオレも!」
「もう好きなだけ持ってけぇ……いや孝介、自分で脱ぐから」