ペルソナ4
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力尽きて敗北し、それでも負け惜しみのように笑う足立から、シャドウではなく黒い煙の様なものが立ち上り包んでいく。足立が本気を出したのかと思ったが、そんなことは無いだろうと警戒する。
重力を無視するように足立の身体が浮き上がり、何かが足立の身体を乗っ取ったのだと悟ったときには、既に足立の身体を奪ったものは意識を完全に表層へ表し、月森達を見た。
「人間は……ことごとくシャドウになる。そして平らかにひとつとなった世界に、秩序として私が降りるのだ」
人がシャドウになる、と言う言葉に眉を潜める。
二年前の、ニュクスを知った時のような、嫌な記憶を思い出した。
「我は霧を統べし者。人の意に呼び起こされしもの」
そう名乗った『何か』は、月森達のことを良い役者だったと評す。次々とこの空間のこと、ひいてはマヨナカテレビが映し出された理由や、この空間が人の欲望によって広がっている事を暴露した。
アメノサギリと名乗ったその『何か』は、己の生まれた理由を人の『欲』だという。
真実であろうと虚構であろうと、人は見たいものだけを見ようとする。それはありのままで無くとも良く、自分に都合の良く、自分が見たいものを。
見えない恐怖に怯え、見えているだけで安堵を覚える。
だからこのテレビの中という空間は、その無意識を取り込んで膨張し続けるのだ。
つまりは、かつて対峙したニュクスのようなものなのだろう。
ニュクスは『死』であったが、それを求めるのは人だった。人の無意識的意識的に関わらず抱く幻想が深い思考の海の中でエレボスという姿を得たように、その『何か』もまた人の意識によって生み出され、その役割を全うせんとする。
「やがて現実も虚ろの森に飲み込まれる」
思い出すのは、ここへ来る前に見た空に開いた穴。あれが全てを同一にしようとする為のものであるなら、現実は確実に蝕まれつつあるということ。
「……現実が無くなったら」
現実が無くなったら、湊さんが封印した意味が。
湊さんが、この世界を救った意味がなくなってしまう。
アメノサギリを認めてしまえば、彼がくれた『明日』をいらないと言ったも同然だ。
「こんなのがいるなら、月森達と関わって本当に良かったなぁ」
もし関わっていなければ、こんな存在が元凶だとも知らないまま、俺は見えなくなる明日を待っているだけになっていた。
運命とか信じるつもりは無いが、これだけは感謝する。
服に付いた埃を叩き落とし、しっかりと地面を踏みしめた。
「新しく不確かな覚醒。果たしてそれは、賭けるに足る、人の可能性であるのか……見極めねばならない」
世界を救う為に、ニュクスを救う為に大いなる封印となった湊さんのことを、それでも時々俺はなんて怖がりな人だったんだろうと思う。
一人だけ死にゆくこと。
彼の行動は端から見ればそう取れるのだけれど、俺みたいなヤツから見れば、皆と別れたくないから自分だけ永遠に『死』もなく『生』もない場所へ逃げたんじゃないかと思う。
認めたくないけれど俺は『大いなる全知の亜種』で、その影響なのか身体の死は来ても意識の死というものが今のところ来ていない。だから分かるけれど、この経験したことを全てずっと覚えている感覚は結構理想的なのだ。
辛いことも確かにあるが、必ずずっと覚えていたい幸せな思い出とかが人にはあって、俺や多分今の湊さんは、それを忘れられないでいられる。その記憶があれば、頑張れるというものが、あると言うのは強い。
けれどもそれは、ある意味虚構に近いものなんだろう。
目の前の辛いことから眼を背け、幸せな思い出だけを見続けることは、まさしく『見たいものだけ見ている』状態なのだ。
まぁ彼の事だから、本当に皆の明日を守りたかったって理由のほうが強いのだろうけれど。
俺はそんなに強くない。
例えば昔、俺は二番目の人生で親友の子孫の前で弱音を吐いた。自分は転生前の自分なのか自分の自分なのか。悩んだのは自分の持つ記憶が幸せなものだったからである。
結局どちらも自分の現実なのだと受け入れた。
ならば辛い事は、どうすればいい?
母親が俺を残して死んで、それを俺は置いていかれたと認識した。だから置いていかれる事が怖くて、一人で封印となるべく俺へ背中を向けた湊さんも受け入れられなかったまま。
『大いなる全知の亜種』だなんて訳の分からない自分のこと。それのせいで置いていかれるきっかけが生まれたのだ。いらなかった事実。
真実を見るとは、それを受け入れること。
「なぁイブリス。一つ気付いたことがあるんだぁ」
召喚したイブリスが頭上から視線を俺に向ける。
それを口にしてしまうという事が、今のところ眼を向けるべき真実なのだろう。
けれど言葉にしてしまうのは怖くて、受け入れるのはもっと怖い。
見たくないものもきちんと見ること。それが出来るか否かで、アメノサギリが人に可能性を見出すとするなら。
眼から零れた涙が、イブリスに伸ばされた指で拭われる。月森達のペルソナがアメノサギリへ最後の攻撃を叩き込むのを滲んだ視界で見つめながら、イブリスの手を握り締めた。
「湊さん、一度も救ってほしいなんて、言ってないんだよなぁ」
重力を無視するように足立の身体が浮き上がり、何かが足立の身体を乗っ取ったのだと悟ったときには、既に足立の身体を奪ったものは意識を完全に表層へ表し、月森達を見た。
「人間は……ことごとくシャドウになる。そして平らかにひとつとなった世界に、秩序として私が降りるのだ」
人がシャドウになる、と言う言葉に眉を潜める。
二年前の、ニュクスを知った時のような、嫌な記憶を思い出した。
「我は霧を統べし者。人の意に呼び起こされしもの」
そう名乗った『何か』は、月森達のことを良い役者だったと評す。次々とこの空間のこと、ひいてはマヨナカテレビが映し出された理由や、この空間が人の欲望によって広がっている事を暴露した。
アメノサギリと名乗ったその『何か』は、己の生まれた理由を人の『欲』だという。
真実であろうと虚構であろうと、人は見たいものだけを見ようとする。それはありのままで無くとも良く、自分に都合の良く、自分が見たいものを。
見えない恐怖に怯え、見えているだけで安堵を覚える。
だからこのテレビの中という空間は、その無意識を取り込んで膨張し続けるのだ。
つまりは、かつて対峙したニュクスのようなものなのだろう。
ニュクスは『死』であったが、それを求めるのは人だった。人の無意識的意識的に関わらず抱く幻想が深い思考の海の中でエレボスという姿を得たように、その『何か』もまた人の意識によって生み出され、その役割を全うせんとする。
「やがて現実も虚ろの森に飲み込まれる」
思い出すのは、ここへ来る前に見た空に開いた穴。あれが全てを同一にしようとする為のものであるなら、現実は確実に蝕まれつつあるということ。
「……現実が無くなったら」
現実が無くなったら、湊さんが封印した意味が。
湊さんが、この世界を救った意味がなくなってしまう。
アメノサギリを認めてしまえば、彼がくれた『明日』をいらないと言ったも同然だ。
「こんなのがいるなら、月森達と関わって本当に良かったなぁ」
もし関わっていなければ、こんな存在が元凶だとも知らないまま、俺は見えなくなる明日を待っているだけになっていた。
運命とか信じるつもりは無いが、これだけは感謝する。
服に付いた埃を叩き落とし、しっかりと地面を踏みしめた。
「新しく不確かな覚醒。果たしてそれは、賭けるに足る、人の可能性であるのか……見極めねばならない」
世界を救う為に、ニュクスを救う為に大いなる封印となった湊さんのことを、それでも時々俺はなんて怖がりな人だったんだろうと思う。
一人だけ死にゆくこと。
彼の行動は端から見ればそう取れるのだけれど、俺みたいなヤツから見れば、皆と別れたくないから自分だけ永遠に『死』もなく『生』もない場所へ逃げたんじゃないかと思う。
認めたくないけれど俺は『大いなる全知の亜種』で、その影響なのか身体の死は来ても意識の死というものが今のところ来ていない。だから分かるけれど、この経験したことを全てずっと覚えている感覚は結構理想的なのだ。
辛いことも確かにあるが、必ずずっと覚えていたい幸せな思い出とかが人にはあって、俺や多分今の湊さんは、それを忘れられないでいられる。その記憶があれば、頑張れるというものが、あると言うのは強い。
けれどもそれは、ある意味虚構に近いものなんだろう。
目の前の辛いことから眼を背け、幸せな思い出だけを見続けることは、まさしく『見たいものだけ見ている』状態なのだ。
まぁ彼の事だから、本当に皆の明日を守りたかったって理由のほうが強いのだろうけれど。
俺はそんなに強くない。
例えば昔、俺は二番目の人生で親友の子孫の前で弱音を吐いた。自分は転生前の自分なのか自分の自分なのか。悩んだのは自分の持つ記憶が幸せなものだったからである。
結局どちらも自分の現実なのだと受け入れた。
ならば辛い事は、どうすればいい?
母親が俺を残して死んで、それを俺は置いていかれたと認識した。だから置いていかれる事が怖くて、一人で封印となるべく俺へ背中を向けた湊さんも受け入れられなかったまま。
『大いなる全知の亜種』だなんて訳の分からない自分のこと。それのせいで置いていかれるきっかけが生まれたのだ。いらなかった事実。
真実を見るとは、それを受け入れること。
「なぁイブリス。一つ気付いたことがあるんだぁ」
召喚したイブリスが頭上から視線を俺に向ける。
それを口にしてしまうという事が、今のところ眼を向けるべき真実なのだろう。
けれど言葉にしてしまうのは怖くて、受け入れるのはもっと怖い。
見たくないものもきちんと見ること。それが出来るか否かで、アメノサギリが人に可能性を見出すとするなら。
眼から零れた涙が、イブリスに伸ばされた指で拭われる。月森達のペルソナがアメノサギリへ最後の攻撃を叩き込むのを滲んだ視界で見つめながら、イブリスの手を握り締めた。
「湊さん、一度も救ってほしいなんて、言ってないんだよなぁ」