ペルソナ4
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SIDE 月森
足立さんは、いや足立は強かった。
テレビの外が退廃したような空間と赤黒い空。無秩序に張り巡らされる黄色いテープが彼が警察官であることを示している。奥へと進む度に明らかになる事件の真実や、真実などいらないという足立の言葉が知らないうちに胸のうちを蝕むようで。
月森の最初のペルソナと色違いで、それ以上に禍々しさを抱えたペルソナが、腕を広げて笑う足立の後ろで膝を突く月森達のことを見下ろしていた。
「ホラさぁ。君たちが正しいなら僕こそ這い蹲ってるんじゃないの? 君たちのちっちゃい抵抗ってさ、無駄だってもう分かったでしょ?」
「……ぐ」
動けないペルソナを足立のペルソナが蹴り飛ばし、月森の身体も吹き飛ばされる。花村か里中あたりが月森のことを呼んだけれど、返事をするどころか受身を取ることすら出来なかった。
嗚呼、ここで負けて全部終わってしまうのか。なんて、少しでも思ってしまった自分が恨めしくて月森は身体の痛みを堪えて顔を上げ足立を睨む。
「まだそんな目して。いい加減諦めなよ、クソガキのリーダーさん」
「アンタだって昔はクソガキだっただろうがぁ。この糞ガキ」
唐突に聞こえた、よく聞き覚えのある声に、足立も月森も、まだ意識があった仲間たちも声がしたほうを振り返った。
「足立さん。この前約束したロールキャベツ、持ってきたんです」
「……斑鳩くん」
赤黒く殺伐とした風景を背後に背負い、場違いな笑顔を浮かべた斑鳩が、左手に持っていた紙袋を軽く挙げて見せ付ける。まるで普段と何も変わらない、近所の知り合いへ話しかけるような口調に、足立が肩を竦めた。
「キミさ、緊張感とか空気読むとか出来ないの? こんなとこまでロールキャベツとか」
「だってここを出たらアンタ食えねぇでしょう?」
「出るつもりないし」
「いや、アンタは月森達に負けて出る羽目になる」
「……この状況を見て、まだそういう事言うかな」
「Si まぁ俺はこれでもそいつ等の先輩なので、コイツ等が負けたら自分を撃ってもいいくらいには、後輩が勝つ方へ賭けますよ」
そう言って斑鳩が見せたのは、ずっと右手に握っていた銃。確かその銃は、菜々子を追いかけた斑鳩が持っていたアタッシュケースの中に入っていたモノだと月森は思い出す。
「賭けって……ギャンブルはあんまり好きじゃないんだ」
「嘘吐き。いつ月森達が事件の犯人に気付くか一人で楽しんでたくせに。楽しかったですか? 現実で行われたドラマみたいな非現実染みたゲームは。――実を言うと、俺は足立さんもゲームの参加者だって気付いてました。俺がテレビの中へ入れられ戻ってきた次の日、足立さんわざわざタッパー持って来てくれましたね。でも駄目ですよ。前の日にも渡しに来たなら濡れてる訳無ぇんですから。直前に洗って俺のとこへ来る言い訳に利用したって丸分かりですよ」
「……へぇ、目敏いんだね。前の日は洗わず返そうとしてたとは思わなかったの」
「自分の部屋でカビを生やしたいなら、そうしてたでしょうね」
斑鳩と足立の会話の内容は月森の知らないところだった。おそらく二人の間であった些細な話だ。
「まぁ、完全に気付いてたわけじゃねぇんですけど」
「嘘だね」
「貴方の専売特許を俺がとってどうすんですか?」
「まぁいいけどさ」
「どうでもいいですね」
二人はそれぞれ持っていた銃をプラプラと揺らし、口の端を歪める様に笑った。足立のそういう顔はここへ来てから何度も見ていて、もう慣れたといってもいいぐらいだが、斑鳩のそんな笑みは初めて見る。
足立よりも実はそんな顔が似合うように思えて、月森は慌ててそんな考えをかき消した。
「で、キミも僕を止めにでも来たの?」
「ロールキャベツを持ってきただけですが、何か御用でも?」
「無いよ。でもキミだけ戻るのもつまんないよね。孝介くん達の先輩なんだし、最後まで一緒にいてあげなよ。それぐらいなら僕も黙認してあげるからさ」
斑鳩は笑顔を浮かべ続けている。
「嫌ですよ。俺、人の死に目とか嫌いなんで後輩の死体見るとか無理ですって」
「あはは、自分は最後に死ぬとでも思ってんの?」
「ええ」
足立と向かい合ってから何度も聞いている乾いた音が響いた。斑鳩の頬に赤い筋が流れる。
「どいつもこいつも自分に都合のいい考えしかしてないって、こっちからすればイラつくだけなんだよね」
「それは困ったなぁ。じゃあこれ以上苛つかせねぇように、退出準備でもしましょうかね」
斑鳩が持っていた銃の銃口へ嬉しげに口付けた。
それから、お前には理解できないだろうと言わんばかりの笑みを浮かべる斑鳩に、流石の足立も引いた。
「自殺志願者?」
「どうとでも」
「っ先輩!」
笑った斑鳩が銃口を、自身のこめかみへ押し付けるのを見て誰かが叫んだ。月森は、ふと斑鳩と目が合う。
その目が足立と会話の応酬をしていた時と違い、いつもの温かみさえある紫の眼をしている事に気付いた。
斑鳩が引き金を引く。
「――イブリス」
乾いた発砲音。薄い硝子の割れるような音。
しっかりと聞き取れる大きく耳触りの良い声に、ああもう大丈夫だと漠然と思った。
足立さんは、いや足立は強かった。
テレビの外が退廃したような空間と赤黒い空。無秩序に張り巡らされる黄色いテープが彼が警察官であることを示している。奥へと進む度に明らかになる事件の真実や、真実などいらないという足立の言葉が知らないうちに胸のうちを蝕むようで。
月森の最初のペルソナと色違いで、それ以上に禍々しさを抱えたペルソナが、腕を広げて笑う足立の後ろで膝を突く月森達のことを見下ろしていた。
「ホラさぁ。君たちが正しいなら僕こそ這い蹲ってるんじゃないの? 君たちのちっちゃい抵抗ってさ、無駄だってもう分かったでしょ?」
「……ぐ」
動けないペルソナを足立のペルソナが蹴り飛ばし、月森の身体も吹き飛ばされる。花村か里中あたりが月森のことを呼んだけれど、返事をするどころか受身を取ることすら出来なかった。
嗚呼、ここで負けて全部終わってしまうのか。なんて、少しでも思ってしまった自分が恨めしくて月森は身体の痛みを堪えて顔を上げ足立を睨む。
「まだそんな目して。いい加減諦めなよ、クソガキのリーダーさん」
「アンタだって昔はクソガキだっただろうがぁ。この糞ガキ」
唐突に聞こえた、よく聞き覚えのある声に、足立も月森も、まだ意識があった仲間たちも声がしたほうを振り返った。
「足立さん。この前約束したロールキャベツ、持ってきたんです」
「……斑鳩くん」
赤黒く殺伐とした風景を背後に背負い、場違いな笑顔を浮かべた斑鳩が、左手に持っていた紙袋を軽く挙げて見せ付ける。まるで普段と何も変わらない、近所の知り合いへ話しかけるような口調に、足立が肩を竦めた。
「キミさ、緊張感とか空気読むとか出来ないの? こんなとこまでロールキャベツとか」
「だってここを出たらアンタ食えねぇでしょう?」
「出るつもりないし」
「いや、アンタは月森達に負けて出る羽目になる」
「……この状況を見て、まだそういう事言うかな」
「Si まぁ俺はこれでもそいつ等の先輩なので、コイツ等が負けたら自分を撃ってもいいくらいには、後輩が勝つ方へ賭けますよ」
そう言って斑鳩が見せたのは、ずっと右手に握っていた銃。確かその銃は、菜々子を追いかけた斑鳩が持っていたアタッシュケースの中に入っていたモノだと月森は思い出す。
「賭けって……ギャンブルはあんまり好きじゃないんだ」
「嘘吐き。いつ月森達が事件の犯人に気付くか一人で楽しんでたくせに。楽しかったですか? 現実で行われたドラマみたいな非現実染みたゲームは。――実を言うと、俺は足立さんもゲームの参加者だって気付いてました。俺がテレビの中へ入れられ戻ってきた次の日、足立さんわざわざタッパー持って来てくれましたね。でも駄目ですよ。前の日にも渡しに来たなら濡れてる訳無ぇんですから。直前に洗って俺のとこへ来る言い訳に利用したって丸分かりですよ」
「……へぇ、目敏いんだね。前の日は洗わず返そうとしてたとは思わなかったの」
「自分の部屋でカビを生やしたいなら、そうしてたでしょうね」
斑鳩と足立の会話の内容は月森の知らないところだった。おそらく二人の間であった些細な話だ。
「まぁ、完全に気付いてたわけじゃねぇんですけど」
「嘘だね」
「貴方の専売特許を俺がとってどうすんですか?」
「まぁいいけどさ」
「どうでもいいですね」
二人はそれぞれ持っていた銃をプラプラと揺らし、口の端を歪める様に笑った。足立のそういう顔はここへ来てから何度も見ていて、もう慣れたといってもいいぐらいだが、斑鳩のそんな笑みは初めて見る。
足立よりも実はそんな顔が似合うように思えて、月森は慌ててそんな考えをかき消した。
「で、キミも僕を止めにでも来たの?」
「ロールキャベツを持ってきただけですが、何か御用でも?」
「無いよ。でもキミだけ戻るのもつまんないよね。孝介くん達の先輩なんだし、最後まで一緒にいてあげなよ。それぐらいなら僕も黙認してあげるからさ」
斑鳩は笑顔を浮かべ続けている。
「嫌ですよ。俺、人の死に目とか嫌いなんで後輩の死体見るとか無理ですって」
「あはは、自分は最後に死ぬとでも思ってんの?」
「ええ」
足立と向かい合ってから何度も聞いている乾いた音が響いた。斑鳩の頬に赤い筋が流れる。
「どいつもこいつも自分に都合のいい考えしかしてないって、こっちからすればイラつくだけなんだよね」
「それは困ったなぁ。じゃあこれ以上苛つかせねぇように、退出準備でもしましょうかね」
斑鳩が持っていた銃の銃口へ嬉しげに口付けた。
それから、お前には理解できないだろうと言わんばかりの笑みを浮かべる斑鳩に、流石の足立も引いた。
「自殺志願者?」
「どうとでも」
「っ先輩!」
笑った斑鳩が銃口を、自身のこめかみへ押し付けるのを見て誰かが叫んだ。月森は、ふと斑鳩と目が合う。
その目が足立と会話の応酬をしていた時と違い、いつもの温かみさえある紫の眼をしている事に気付いた。
斑鳩が引き金を引く。
「――イブリス」
乾いた発砲音。薄い硝子の割れるような音。
しっかりと聞き取れる大きく耳触りの良い声に、ああもう大丈夫だと漠然と思った。