ペルソナ4
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溜息を吐いて立ち上がる。不安そうな直斗に話を先へ進めるように言って談話室から出た。
病院内で携帯は使えない。
一般外来や散歩か移動中の入院患者が居る受付を抜けて外へ出ると、後ろから駆け足で近付いてくる気配に気付いて立ち止まった。
「月森?」
「先輩と一緒に居ます」
戻れと言っても素直に従わないだろうなとは、その顔を見れば分かる。溜息を吐きかけて止めたのは、月森の優しさなんだろうと甘受することにしたからだ。
出入り口から駐車場の隅に移動して、ポケットに入れたままだった携帯の電源を入れる。
途端幾つもの着信が来るのを黙って見ていた。メールの数が少なかったのは、文面でなく俺の口から説明をして欲しかったからかもしれない。
相手が忙しくて電話に出れないことを、少なからず願いながら電話を掛ける。期待に反して三度目のコールで相手は出た。
『……もしもし?』
「ぁ、その、斑鳩です」
『っ!? 斑鳩っ、君は今までっ』
「ずっと、連絡しなくてすいませんでした」
『っ……元気にはしてたのか?』
「はい」
『そうか』
電話の向こうの声は、久しぶりに聞くというのに相変わらず凛としている。
隣に立っている月森の袖を、手を伸ばして握り締めた。
『それで』
「勝手に居なくなった事への謝罪と、俺の話を少し聞いて頂きたくて」
『それは今、話せることなのか?』
嗚呼、聡い人だとこんな状況だというのにも関わらずおかしく思う。
「本当はもう少し時間が欲しいと思ってました。でも先輩、俺の居場所や俺が関わっているかもしれない事には、もう目星が付いていたんでしょう?」
無言は肯定。
「桐条先輩。俺にとって大切な人がいなくなってしまった事は、二度目の経験だったんです。だから何も思わないなんて事も、糧にして前を見る事も想像以上に難しくて、どうするべきか分からなくて、分からないから逃げることを選んでしまいました。最近やっと、心の整理をすることが出来たんです。俺はもう大丈夫だとはすぐには言えませんけど、先輩に電話することは出来ました。そうやって、少しずつ、また」
『斑鳩』
「はい」
『今度君から連絡が来たり、顔を見たら問答無用で処刑しようとしていたよ。実のところ次の休みには君の元へ行こうとも考えていた。けれど、その必要は無いみたいだな』
滲んだ視界。
悲しい時にだけ泣く人種だと自分のことを思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
『君はいつも一人で抱え込んでしまうから、心配だったよ』
「……はい。すみません。ありがとうございます」
隣の月森が袖を掴んでいた俺の手を反対の手で握る。袖を離してその手を掴み返せば握手をしているような形になった。
『……だが、君が電話してきた理由はそれだけでは無いのだろう?』
「はい。俺の居場所を掴んでいるなら知っているとは思いますが、連続誘拐事件について言っておきたいことがあります」
涙でぼやけかけた頭の中の思考を切り替えて、真面目な話に集中する。
「居場所を掴む切っ掛けは何でしたか?」
『桐条サーバーからのシャドウに関する文書の流出だ。誰がそれを見たかはもう調べが付いていて、その中にあの探偵として有名な白鐘家の者がいた。そこから君を見つけたよ。君が指示したのか?』
「いえ、それは偶然です。ですがその文書のことについては、どうか黙認していただけませんか?」
『理由を聞こうか』
「シャドウが関わっています」
『っ!? それは本当か』
「とは言っても影時間が再び現れたとか、ニュクスが来るとかそういう類ではありません。ただ、事件の一部にシャドウが関わっているようなので、最低限の基礎知識だけは必要でした」
『……分かった。だがアイギスだけでもそちらへ向かわせたほうが』
「大丈夫だと思います。俺の独断になってはしまいますが、無理だと思ったらすぐに先輩へ連絡すると約束します。ですからまだ、何も手出ししないでください」
これは今まで頑張ってきた月森達の為に。ここまで来ていくら経験者だからといっても部外者に事件を渡してしまっては可哀想だから。
それに月森達は既に『ペルソナ使い』という当事者だ。
いまさら、バトンタッチで終わりになんてしてはいけない。
『分かった。君の言葉を信じよう。……すまないが用事があるのでこれで失礼する。明彦やゆかりも君もことを心配していたから、いつか連絡をしてやるといい。もちろん、君の好きな時でいい。私にも、いつでも連絡してくれ』
「ありがとうございます。桐条先輩」
切れた携帯を少しの間見つめてから、ポケットへしまい込む。深く吐き出した息といつの間にか冷たくなっていた手に、月森を見て微笑んだ。
「……悪ぃなぁ。手」
「大切な人って、先輩が辰巳ポートアイランドへ居た頃亡くなったっていう先輩ですか?」
心臓が跳ねる。
「どうして……佐藤かぁ」
頷く月森に佐藤を思わず恨めしく思う。だが既に知られていて時既に遅し。
誤魔化してしまおうかと考えた途端、握ったままだった手に放しまいと力が篭る。月森はいつものようにまっすぐ俺を見つめていて。
「教えてください。聞きたいです」
病院内で携帯は使えない。
一般外来や散歩か移動中の入院患者が居る受付を抜けて外へ出ると、後ろから駆け足で近付いてくる気配に気付いて立ち止まった。
「月森?」
「先輩と一緒に居ます」
戻れと言っても素直に従わないだろうなとは、その顔を見れば分かる。溜息を吐きかけて止めたのは、月森の優しさなんだろうと甘受することにしたからだ。
出入り口から駐車場の隅に移動して、ポケットに入れたままだった携帯の電源を入れる。
途端幾つもの着信が来るのを黙って見ていた。メールの数が少なかったのは、文面でなく俺の口から説明をして欲しかったからかもしれない。
相手が忙しくて電話に出れないことを、少なからず願いながら電話を掛ける。期待に反して三度目のコールで相手は出た。
『……もしもし?』
「ぁ、その、斑鳩です」
『っ!? 斑鳩っ、君は今までっ』
「ずっと、連絡しなくてすいませんでした」
『っ……元気にはしてたのか?』
「はい」
『そうか』
電話の向こうの声は、久しぶりに聞くというのに相変わらず凛としている。
隣に立っている月森の袖を、手を伸ばして握り締めた。
『それで』
「勝手に居なくなった事への謝罪と、俺の話を少し聞いて頂きたくて」
『それは今、話せることなのか?』
嗚呼、聡い人だとこんな状況だというのにも関わらずおかしく思う。
「本当はもう少し時間が欲しいと思ってました。でも先輩、俺の居場所や俺が関わっているかもしれない事には、もう目星が付いていたんでしょう?」
無言は肯定。
「桐条先輩。俺にとって大切な人がいなくなってしまった事は、二度目の経験だったんです。だから何も思わないなんて事も、糧にして前を見る事も想像以上に難しくて、どうするべきか分からなくて、分からないから逃げることを選んでしまいました。最近やっと、心の整理をすることが出来たんです。俺はもう大丈夫だとはすぐには言えませんけど、先輩に電話することは出来ました。そうやって、少しずつ、また」
『斑鳩』
「はい」
『今度君から連絡が来たり、顔を見たら問答無用で処刑しようとしていたよ。実のところ次の休みには君の元へ行こうとも考えていた。けれど、その必要は無いみたいだな』
滲んだ視界。
悲しい時にだけ泣く人種だと自分のことを思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
『君はいつも一人で抱え込んでしまうから、心配だったよ』
「……はい。すみません。ありがとうございます」
隣の月森が袖を掴んでいた俺の手を反対の手で握る。袖を離してその手を掴み返せば握手をしているような形になった。
『……だが、君が電話してきた理由はそれだけでは無いのだろう?』
「はい。俺の居場所を掴んでいるなら知っているとは思いますが、連続誘拐事件について言っておきたいことがあります」
涙でぼやけかけた頭の中の思考を切り替えて、真面目な話に集中する。
「居場所を掴む切っ掛けは何でしたか?」
『桐条サーバーからのシャドウに関する文書の流出だ。誰がそれを見たかはもう調べが付いていて、その中にあの探偵として有名な白鐘家の者がいた。そこから君を見つけたよ。君が指示したのか?』
「いえ、それは偶然です。ですがその文書のことについては、どうか黙認していただけませんか?」
『理由を聞こうか』
「シャドウが関わっています」
『っ!? それは本当か』
「とは言っても影時間が再び現れたとか、ニュクスが来るとかそういう類ではありません。ただ、事件の一部にシャドウが関わっているようなので、最低限の基礎知識だけは必要でした」
『……分かった。だがアイギスだけでもそちらへ向かわせたほうが』
「大丈夫だと思います。俺の独断になってはしまいますが、無理だと思ったらすぐに先輩へ連絡すると約束します。ですからまだ、何も手出ししないでください」
これは今まで頑張ってきた月森達の為に。ここまで来ていくら経験者だからといっても部外者に事件を渡してしまっては可哀想だから。
それに月森達は既に『ペルソナ使い』という当事者だ。
いまさら、バトンタッチで終わりになんてしてはいけない。
『分かった。君の言葉を信じよう。……すまないが用事があるのでこれで失礼する。明彦やゆかりも君もことを心配していたから、いつか連絡をしてやるといい。もちろん、君の好きな時でいい。私にも、いつでも連絡してくれ』
「ありがとうございます。桐条先輩」
切れた携帯を少しの間見つめてから、ポケットへしまい込む。深く吐き出した息といつの間にか冷たくなっていた手に、月森を見て微笑んだ。
「……悪ぃなぁ。手」
「大切な人って、先輩が辰巳ポートアイランドへ居た頃亡くなったっていう先輩ですか?」
心臓が跳ねる。
「どうして……佐藤かぁ」
頷く月森に佐藤を思わず恨めしく思う。だが既に知られていて時既に遅し。
誤魔化してしまおうかと考えた途端、握ったままだった手に放しまいと力が篭る。月森はいつものようにまっすぐ俺を見つめていて。
「教えてください。聞きたいです」