マヨナカテレビへ映った白鐘嬢は、サイズの合わない白衣姿の科学者だった。
人体改造手術という当たり、探偵とは関係が無いように思うのだが、良く考えれば昭和の少年探偵団や近未来を想定した、七つ道具を持つような探偵に憧れているという事だろう。
背景に見える建物も、そういう近未来をイメージした子供が作ったかのようなそれだった。
白鐘嬢は、テレビ番組に映った人物が狙われている事に気付いていて、わざと番組に出ることで自分を囮にしたのだろう。失敗してテレビの中へ入れられているが、その行動はなるほど手っ取り早いと思った。
だが、相手は俺でも分からない人物だ。
きっと白鐘嬢は、何かあった時月森達が動く事さえ想定して動いた。
それは月森達を信用しているとか、そういう事に近いと思う。

｢待ちくたびれましたよ。この子の相手をするのに、ほとほと参っていたところです｣

画面の向こうで、離れようとした直斗に影が叫んだ。

｢やだぁ！やだ、やだ、行かないで！！｣
｢君と話しても無意味だ。僕はもう帰らないと｣
｢なぁんで？ なんで僕だけおいて行くの！？ どぉしていつも僕だけひとりぼっちなのっ！？ 寂しい……寂しい！｣

息が詰まるような感覚を堪える。チャリ、とウォレットチェーンが揺れて音を立てるのを聞いて深呼吸をした。

「先輩？」
「……大丈夫だぁ」

顔を上げて俺達の妨害をする為に襲い掛かってくるシャドウへ向けて走り出す。腰のナイフを抜いてそれらを倒した。

「月森ぃ！ 時間稼ぎは俺がやるぜぇ！」

振り返って叫べば、意味が分かったらしい月森達のペルソナが、白鐘嬢がいる部屋への頑丈な扉へ向かっていく。
ペルソナを出さない俺にはそんな事しか出来ないのがもどかしい。画面の中ではシャドウが白鐘嬢の本当の性別を口にして、聞いていた月森達が驚いていた。

「もしかしてお前ら、気付いてなかったのかぁ？」
「え、斑鳩先輩気付いてたの！？」

本気で気付いていなかったらしい。だとすれば白鐘嬢の誤魔化し技術は相当なものだろう。
手術台に貼り付けにされていた白鐘嬢を完二が助ける。
『子供のくせに』なんて、白鐘嬢でなくとも誰だって言われるものだ。けれど白鐘嬢の頭脳は少しだけ飛び出ていた。だから周囲は尚更そう言ったのだろう。大人といえど元は子供で、子供こそそういうものを妬み羨むものだから。
大人な分その気持ちを隠すように妬むから、本当に子供だった白鐘嬢には辛かった。
だからこそ、子供の自分を受け入れた彼女は、強いと思う。