ペルソナ4
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
まさか会うとは思っていなかったが、そういえば彼女はここに住んでいた。となれば当然駅とかもここを使うだろう。
誰にも会わないとは流石に思ってなかったが、それでも最初に会ったのが彼女でよかった。他の先輩達であったなら、もっと俺を責めていたかもしれない。
何故いなくなったのかと。
放置したままの携帯は未だに電源が入れられないでいる。電話をした途端怒られそうで怖い。処刑される。電話越しでも。
駅を出たところでため息を吐いて、しがみついたままだったクマの頭を撫でてやる。
「そろそろ離れろぉ。歩きにくい」
「……さっきのお姉さん、誰クマか?」
見上げてくるクマが何故か不安げで、なんて説明すればいいのか少し悩んだ。
「俺の先輩だぁ。今は専門学校に通ってるらしい」
「苛められてたんじゃないクマね?」
「苛め?」
「アマネ、さっき震えてたクマ」
それに気付いて俺のことを心配しているのかと理解し、笑いながら離れたクマの肩に手を置く。クマがその手を掴んで俺を見上げる視線はまだ心配していた。
「……大丈夫だぁ。苛められてなんかねぇよ」
苛められも苛めてもいない。ただ心の準備が出来ていないのに会ってしまっただけなのだから。
『驚いたの。いきなり転校って聞いて、どこに行くのかも知らなかったから』
『すみません』
『今はどこにいるの?』
『……その』
『無理なら、言わなくていいよ』
『すみません』
『元気にはしてるの?』
『はい』
『桐条先輩達も、心配してたよ』
『すみません』
『あの、ね。アマネ君。その』
『……先輩、俺、今少しずつ前を見る努力をしてるんです』
『……そう、なの。じゃあ』
『クマーン! 探したクマよアマネ!』
山岸さんが何を言いたかったのかは、分からないふりをする。あの時クマが来て正直助かった。
イブリスを受け入れたおかげで少しだけ前を見られるようになっても、まだ怖い。
だって俺はまだ気付いたばかりなんだ。
「クマーン! だったら早くセンセイを捜しに行くクマ!」
俺の手を取って大げさに叫ぶクマに気を使わせてしまったかなと思い、考えていたことを頭の中でなかったことにして笑う。
「まだこの時間じゃ学校だと思うぜぇ? 少しは休憩させてくれよぉ」
「仕方ないクマね。じゃあ美味しいものが食べたいクマ」
「ガッツリ?」
「バックリクマ!」
意味が分からないが腹が空いてはいるのだろうと当たりをつけて、商店街へと歩き出す。地図を見なくとも澱み無い俺の足取りに、クマは何も言わなかった。
駅前のビジネスホテルをとって、何かあったらここへ戻ってくることとホテルの外線番号を書いた紙を言い渡し、月森達が泊まるらしいホテルへ行くのだというクマを見送った。
本当は付いていくべきなのだろうが、クマに断られたのだ。
花村の修学旅行のしおりを盗み見て覚えたらしい宿泊場所は、白河通りなんてどう考えても高校生の泊まる場所ではなかったが、クマは何も知らないまま嬉々として出かけていく。無垢とか無知というのがこういうときだけ強いのがよく分かる。
自分以外誰も居なくなった一室で、コンビニで買っておいた炭酸飲料を開けながら窓に近付く。窓の向こうに広がる帰宅ラッシュを迎えたらしい駅と、いつだったか窓を割った飲食店が見えた。
あの飲食店で包丁を拝借し、シャドウを踏み潰して、先輩達に出会ったのだ。
こう書くと碌な出会い方ではない。
よく考えると他にも碌でもない出会い方は他にもあった。そもそも親友に切りかかっている時点で碌でもない生き方をしてきた気がする。
何度繰り返したって、過去を振り返れば碌でもないことばかりだ。
誰かが犠牲になるくらいなら自分がなる。そうして今まで世界が救われたのは結果論だ。
けれどもそのせいで俺は『カミサマ』にでもなったんじゃないかとさえ思った。
でも結局それは思い上がりだった。それでいい。運が良かっただけ。
イブリスが教えてくれたように、俺は『寂しがりや』であって『万能』なんかじゃないのだ。
「……酒飲みてぇ」
気付けば炭酸飲料は飲み終わっていて、思っていたよりも長いこと眼下の雑踏を眺めていたらしい。いつの間にか暮れた夕日の代わりに、丸に近い月が昇っている。
こういう時こそ酒の力を借りたいというのに、悲しいかなこの身体はまだ未成年だ。呑めないことはないが入手が面倒だ。身分証明とかで制御するのではなく、いっそ自己責任にしてしまえばいいのに。
仕方なく、酒はいいからとりあえず夕食を何処かで取ろうと、上着のポケットに電源の入っていない携帯と財布、イゴールから貰ったウォレットチェーンを着けて部屋を出ようとすると、電話が鳴った。
花村からである。
「Ciao 花村。クマは合流できたかぁ?」
『んなことより先輩っ、助け……』
切れた。
不吉な切れ方をした電話に、まさか何かあったのかと考えて部屋を出る。高校生が泊まっていることも笑顔で見なかったことにしてくれた受付に、一応会釈をしながらホテルを出て駆け出した。
誰にも会わないとは流石に思ってなかったが、それでも最初に会ったのが彼女でよかった。他の先輩達であったなら、もっと俺を責めていたかもしれない。
何故いなくなったのかと。
放置したままの携帯は未だに電源が入れられないでいる。電話をした途端怒られそうで怖い。処刑される。電話越しでも。
駅を出たところでため息を吐いて、しがみついたままだったクマの頭を撫でてやる。
「そろそろ離れろぉ。歩きにくい」
「……さっきのお姉さん、誰クマか?」
見上げてくるクマが何故か不安げで、なんて説明すればいいのか少し悩んだ。
「俺の先輩だぁ。今は専門学校に通ってるらしい」
「苛められてたんじゃないクマね?」
「苛め?」
「アマネ、さっき震えてたクマ」
それに気付いて俺のことを心配しているのかと理解し、笑いながら離れたクマの肩に手を置く。クマがその手を掴んで俺を見上げる視線はまだ心配していた。
「……大丈夫だぁ。苛められてなんかねぇよ」
苛められも苛めてもいない。ただ心の準備が出来ていないのに会ってしまっただけなのだから。
『驚いたの。いきなり転校って聞いて、どこに行くのかも知らなかったから』
『すみません』
『今はどこにいるの?』
『……その』
『無理なら、言わなくていいよ』
『すみません』
『元気にはしてるの?』
『はい』
『桐条先輩達も、心配してたよ』
『すみません』
『あの、ね。アマネ君。その』
『……先輩、俺、今少しずつ前を見る努力をしてるんです』
『……そう、なの。じゃあ』
『クマーン! 探したクマよアマネ!』
山岸さんが何を言いたかったのかは、分からないふりをする。あの時クマが来て正直助かった。
イブリスを受け入れたおかげで少しだけ前を見られるようになっても、まだ怖い。
だって俺はまだ気付いたばかりなんだ。
「クマーン! だったら早くセンセイを捜しに行くクマ!」
俺の手を取って大げさに叫ぶクマに気を使わせてしまったかなと思い、考えていたことを頭の中でなかったことにして笑う。
「まだこの時間じゃ学校だと思うぜぇ? 少しは休憩させてくれよぉ」
「仕方ないクマね。じゃあ美味しいものが食べたいクマ」
「ガッツリ?」
「バックリクマ!」
意味が分からないが腹が空いてはいるのだろうと当たりをつけて、商店街へと歩き出す。地図を見なくとも澱み無い俺の足取りに、クマは何も言わなかった。
駅前のビジネスホテルをとって、何かあったらここへ戻ってくることとホテルの外線番号を書いた紙を言い渡し、月森達が泊まるらしいホテルへ行くのだというクマを見送った。
本当は付いていくべきなのだろうが、クマに断られたのだ。
花村の修学旅行のしおりを盗み見て覚えたらしい宿泊場所は、白河通りなんてどう考えても高校生の泊まる場所ではなかったが、クマは何も知らないまま嬉々として出かけていく。無垢とか無知というのがこういうときだけ強いのがよく分かる。
自分以外誰も居なくなった一室で、コンビニで買っておいた炭酸飲料を開けながら窓に近付く。窓の向こうに広がる帰宅ラッシュを迎えたらしい駅と、いつだったか窓を割った飲食店が見えた。
あの飲食店で包丁を拝借し、シャドウを踏み潰して、先輩達に出会ったのだ。
こう書くと碌な出会い方ではない。
よく考えると他にも碌でもない出会い方は他にもあった。そもそも親友に切りかかっている時点で碌でもない生き方をしてきた気がする。
何度繰り返したって、過去を振り返れば碌でもないことばかりだ。
誰かが犠牲になるくらいなら自分がなる。そうして今まで世界が救われたのは結果論だ。
けれどもそのせいで俺は『カミサマ』にでもなったんじゃないかとさえ思った。
でも結局それは思い上がりだった。それでいい。運が良かっただけ。
イブリスが教えてくれたように、俺は『寂しがりや』であって『万能』なんかじゃないのだ。
「……酒飲みてぇ」
気付けば炭酸飲料は飲み終わっていて、思っていたよりも長いこと眼下の雑踏を眺めていたらしい。いつの間にか暮れた夕日の代わりに、丸に近い月が昇っている。
こういう時こそ酒の力を借りたいというのに、悲しいかなこの身体はまだ未成年だ。呑めないことはないが入手が面倒だ。身分証明とかで制御するのではなく、いっそ自己責任にしてしまえばいいのに。
仕方なく、酒はいいからとりあえず夕食を何処かで取ろうと、上着のポケットに電源の入っていない携帯と財布、イゴールから貰ったウォレットチェーンを着けて部屋を出ようとすると、電話が鳴った。
花村からである。
「Ciao 花村。クマは合流できたかぁ?」
『んなことより先輩っ、助け……』
切れた。
不吉な切れ方をした電話に、まさか何かあったのかと考えて部屋を出る。高校生が泊まっていることも笑顔で見なかったことにしてくれた受付に、一応会釈をしながらホテルを出て駆け出した。