ペルソナ4
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SIDE 月森
修学旅行の行き先を話した時、斑鳩が少し顔色を悪くしていたと月森は思う。花村も里中も、天城だって気付いた様子は無かったけれど、今思えばそれは思い違いでは無かったらしい。
一二年合同の修学旅行の先は、辰巳ポートアイランドだった。そこにある月光館学園で授業を受けるということに花村は煩く騒いでいたけれど、受けた授業自体は面白いと思う。
何故か日本書紀の話で、何故か教師が保険医ではあったけれど。
授業が終わってささやかな自由時間。皆で校内探索をしようと集まったはいいが、すぐに皆が逸れてしまった。とりあえず散って探すことにする。
修学旅行で月森達が来るからと休みになったらしい学校には、生徒会の者や部活に来た者以外の生徒の姿は見当たらない。だから自然と静かな廊下に、月森の足音だけが響いた。
その足音が掲示板の前で止まる。
去年の物らしい校内新聞が張られた掲示板。ここだけ忘れられたのか他の場所で目にしたものより古い。その中に載せられた写真には昇降口前で見た生徒会長も写っている。少し緊張気味な様子は実際に見た彼女よりは、自信が無さげだ。
そしてその隣に、生徒会役員全員が写っているらしい写真。
は、と息を呑んだのは驚いたからだ。
「……斑鳩先輩?」
「ヒッドイ顔してんだろ、それ」
声がして廊下を振り返れば、この学校の制服を着た男子生徒が歩いてくる。生徒会役員の一人だと分かったのは、見たばかりの写真に彼が写っていたからだ。
「知り合い?」
「誰とですか」
「斑鳩と。センパイって言ってたじゃん」
隣に来て並び写真を懐かしげに見る男子生徒に、肯定も否定もしないままもう一度写真を見る。
日に焼けた白黒の写真に写る、酷くやつれた様子で無理に微笑む長髪の男子学生。
最初に出会った頃の、もっと明日が来る事に怯えるかのような、どうなっても構わないと考えているような、厭世的で全部が他人事の様な態度を取っている。そのくせ一秒先の未来を欲していて、今日が過ぎ去るのを嫌がるような目。
そんな斑鳩が、写っていた。
「それでもまだマシな時期の顔なんだよ」
「マシな時期?」
「成績が良いからって無理矢理生徒会に入れられてさ。遅くまで学校に居たり色々しなくちゃいけないじゃん? それはコイツにとって苦痛だったんだと思うんだ」
「どうしてですか?」
男子生徒はチラリと眼だけでこちらを見てから、改めて顔を向ける。値踏みするような視線が居心地悪かったが、それ自体はすぐに逸らされた。
「斑鳩の知り合い?」
そうして再び問われる。
「はい」
「アイツ元気?」
「はい」
「……どういう関係?」
「大好きな先輩です」
それは本当のことだったから月森はすぐに答えられた。生徒会役員らしい男子生徒は少しだけ驚いた様に月森を見て、笑う。
「オレ、佐藤ってんだよ。アイツの友達」
「友達?」
「そ。転校してから連絡一切取ってないけど、むしろ取らせねぇけど」
佐藤さんはそう言って掲示板に背を向け寄りかかった。
「アイツが転校したの、オレが言ったからなんだ」
自分達以外人気の無い廊下に、窓の外からの声だけが響いている。
「オレらが一年の時に一個上の先輩が亡くなったんだけど、その人斑鳩と同じ寮に住んでてさ。斑鳩すごいその人のこと慕ってたんだよ。
卒業式の日だったんだけど、その後暫く学校来られないほどに落ち込んで、同じ寮の先輩達が慰めたらしくてまた学校来るようにはなったんだけど、全然違うんだぜ。
当時流行ってた無気力症? アレみたいになってさ。話しかければ返事するし笑うし動くんだけど、目が濁ってるし泣かないんだよ、アイツ。他の奴らは今まで通りに見えるって言うしおかしいトコなんて無いって言うけど、オレからすれば別人だった。
んで、十二月頃だったかな。雪が降った日に浮かれてオレ早く学校行ったんだよ。そしたらアイツが居て、暖房も付いてない教室でコートとかマフラーとかもしないで全部の窓全開にしてぼんやりしてた。
なんかさ、もう可哀想とかそんなんじゃねぇのな。オレのほうが泣きそうになりながらアイツに転校して、とにかくここから出て行くように言ったんだ。この学校というか、この街にいるのがいけない気がして」
どういう物かは分からないけれど、斑鳩に気に病む過去があったのはなんとなく思っていた、それを本人の知らないところで知ってしまったという小さな罪悪感と妙な関心が浮かぶ。
佐藤は思い出したかのように笑って月森を見た。
よく笑う人だと月森は思う。彼があの斑鳩と友人だったというのは少し信じられないけれど、二人が並んでいる姿を想像すると妙にしっくりくる。
「アイツが元気なら間違ってなかったんだな。離れて良かったんだよ」
「色々親切にしてもらってます」
「アイツだいぶ世話好きだから。ってか何、そこまで回復してんのアイツ?」
「元を知りません」
「あ、そうだよな。悪い」
「佐藤さんは、先輩のこと好きなんですね」
「好きだよ。何十年経っても高校時代の友人はって言われたら最初にアイツの名前が出せるくらいに友人だよ。っていうか君よく素で『大好き』とか『好きなんですか』って聞けるな。オレ無理」
「そうですか?」
「うん。なんかアレ、センパイに似てる」
「センパイ」
「斑鳩と同じ寮だった人。有里……名前なんだったかな」
修学旅行の行き先を話した時、斑鳩が少し顔色を悪くしていたと月森は思う。花村も里中も、天城だって気付いた様子は無かったけれど、今思えばそれは思い違いでは無かったらしい。
一二年合同の修学旅行の先は、辰巳ポートアイランドだった。そこにある月光館学園で授業を受けるということに花村は煩く騒いでいたけれど、受けた授業自体は面白いと思う。
何故か日本書紀の話で、何故か教師が保険医ではあったけれど。
授業が終わってささやかな自由時間。皆で校内探索をしようと集まったはいいが、すぐに皆が逸れてしまった。とりあえず散って探すことにする。
修学旅行で月森達が来るからと休みになったらしい学校には、生徒会の者や部活に来た者以外の生徒の姿は見当たらない。だから自然と静かな廊下に、月森の足音だけが響いた。
その足音が掲示板の前で止まる。
去年の物らしい校内新聞が張られた掲示板。ここだけ忘れられたのか他の場所で目にしたものより古い。その中に載せられた写真には昇降口前で見た生徒会長も写っている。少し緊張気味な様子は実際に見た彼女よりは、自信が無さげだ。
そしてその隣に、生徒会役員全員が写っているらしい写真。
は、と息を呑んだのは驚いたからだ。
「……斑鳩先輩?」
「ヒッドイ顔してんだろ、それ」
声がして廊下を振り返れば、この学校の制服を着た男子生徒が歩いてくる。生徒会役員の一人だと分かったのは、見たばかりの写真に彼が写っていたからだ。
「知り合い?」
「誰とですか」
「斑鳩と。センパイって言ってたじゃん」
隣に来て並び写真を懐かしげに見る男子生徒に、肯定も否定もしないままもう一度写真を見る。
日に焼けた白黒の写真に写る、酷くやつれた様子で無理に微笑む長髪の男子学生。
最初に出会った頃の、もっと明日が来る事に怯えるかのような、どうなっても構わないと考えているような、厭世的で全部が他人事の様な態度を取っている。そのくせ一秒先の未来を欲していて、今日が過ぎ去るのを嫌がるような目。
そんな斑鳩が、写っていた。
「それでもまだマシな時期の顔なんだよ」
「マシな時期?」
「成績が良いからって無理矢理生徒会に入れられてさ。遅くまで学校に居たり色々しなくちゃいけないじゃん? それはコイツにとって苦痛だったんだと思うんだ」
「どうしてですか?」
男子生徒はチラリと眼だけでこちらを見てから、改めて顔を向ける。値踏みするような視線が居心地悪かったが、それ自体はすぐに逸らされた。
「斑鳩の知り合い?」
そうして再び問われる。
「はい」
「アイツ元気?」
「はい」
「……どういう関係?」
「大好きな先輩です」
それは本当のことだったから月森はすぐに答えられた。生徒会役員らしい男子生徒は少しだけ驚いた様に月森を見て、笑う。
「オレ、佐藤ってんだよ。アイツの友達」
「友達?」
「そ。転校してから連絡一切取ってないけど、むしろ取らせねぇけど」
佐藤さんはそう言って掲示板に背を向け寄りかかった。
「アイツが転校したの、オレが言ったからなんだ」
自分達以外人気の無い廊下に、窓の外からの声だけが響いている。
「オレらが一年の時に一個上の先輩が亡くなったんだけど、その人斑鳩と同じ寮に住んでてさ。斑鳩すごいその人のこと慕ってたんだよ。
卒業式の日だったんだけど、その後暫く学校来られないほどに落ち込んで、同じ寮の先輩達が慰めたらしくてまた学校来るようにはなったんだけど、全然違うんだぜ。
当時流行ってた無気力症? アレみたいになってさ。話しかければ返事するし笑うし動くんだけど、目が濁ってるし泣かないんだよ、アイツ。他の奴らは今まで通りに見えるって言うしおかしいトコなんて無いって言うけど、オレからすれば別人だった。
んで、十二月頃だったかな。雪が降った日に浮かれてオレ早く学校行ったんだよ。そしたらアイツが居て、暖房も付いてない教室でコートとかマフラーとかもしないで全部の窓全開にしてぼんやりしてた。
なんかさ、もう可哀想とかそんなんじゃねぇのな。オレのほうが泣きそうになりながらアイツに転校して、とにかくここから出て行くように言ったんだ。この学校というか、この街にいるのがいけない気がして」
どういう物かは分からないけれど、斑鳩に気に病む過去があったのはなんとなく思っていた、それを本人の知らないところで知ってしまったという小さな罪悪感と妙な関心が浮かぶ。
佐藤は思い出したかのように笑って月森を見た。
よく笑う人だと月森は思う。彼があの斑鳩と友人だったというのは少し信じられないけれど、二人が並んでいる姿を想像すると妙にしっくりくる。
「アイツが元気なら間違ってなかったんだな。離れて良かったんだよ」
「色々親切にしてもらってます」
「アイツだいぶ世話好きだから。ってか何、そこまで回復してんのアイツ?」
「元を知りません」
「あ、そうだよな。悪い」
「佐藤さんは、先輩のこと好きなんですね」
「好きだよ。何十年経っても高校時代の友人はって言われたら最初にアイツの名前が出せるくらいに友人だよ。っていうか君よく素で『大好き』とか『好きなんですか』って聞けるな。オレ無理」
「そうですか?」
「うん。なんかアレ、センパイに似てる」
「センパイ」
「斑鳩と同じ寮だった人。有里……名前なんだったかな」