自分を見てと叫ぶ久慈川りせのシャドウは笑う。そして本来の自分である表の久慈川りせを攻め立てる。
今までは遠めだったり終わった後だったりとシャドウに本質を突きつけられる姿を直接には見たことが無かったせいか、どうも他人事のように見てしまった。
それにしても、彼女も色々苦労していたのだろう。
アイドルになってしまったことで本来の自分らしさを隠し、画面の向こうの不特定多数に演じ続けなければならなかった。そして次第に本来の自分が分からなくなった。
けれど本来の自分ってなんだ。そんな物は自分で決めるものであって誰かに決められるものでも不変的なものでも無いだろうに。
彼女の場合それに気付かないまま自分らしさというものを考えて戸惑ってしまった。自分を見て、という言葉は本当の自分を教えてとも取れる。

「だから彼女のシャドウは索敵能力、本当の姿を調べる能力に長けてんだなぁ」
「んなこと言ってないでどうにかなんないんすかぁ！」

覚醒してしまった久慈川りせのシャドウに弱点を探られてしまった上に、こちらの攻撃も読まれてなかなか当たらない。当たったとしてもさほどダメージを与えられない状況に、花村が弱音を吐いた。
月森がペルソナを変えても弱点を知られてしまうばかり。他の皆は一体しかないペルソナで頑張っているが、それでも苦戦している。
ここで俺が特攻してもいいのだけれど、それだって弱点を探られてしまうし攻撃も分析されてしまうだろう。
もう一度攻撃をされでもすれば、全員ここで終わってしまうかもしれない。
誰かがここで死ぬのかと呟いた。

「ックマ！？」
「先輩！？」

向けられた緑の光線から彼等を庇う様に前で出れば、すぐ横に同じようにクマが並ぶ。使い続けて愛用していたナイフで防御体制を取っていたのだけれど、さすがに重い。
ナイフに罅が入った。

「っ、クマ、お前も下がってろぉ」
「か、考えるより先にか、体が……な、なに前に出てんだ、わしゃあ！？ ぬ、ぬぉぉう！？と、トンデモない事をしでかしそうでクマってしまっている自分っ！！」

訳の分からないことを言いながら一歩、また一歩と踏み出していたクマがシャドウへ向けて走っていく。余波の攻撃を払い避けながら見ていれば、クマはシャドウへとぶつかり爆音が響いた。
ペラペラになってしまったクマと、僅かにブレを見せるシャドウ。

「クマ！」
「っち！」

舌打ちしたシャドウがそれでもすばやく立て直し、再び攻撃の切っ先を月森達へと向ける。
けれどもクマが作ってくれたチャンスを逃しはしない。シャドウが俺が月森達の前からいなくなっている事に気付く前に、瓦礫を利用して頭上に飛び上がり、頭部に踵落としを決めた。