ペルソナ4
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「親友は犠牲を要らないものだと言った。そう思い込んでるのはお前だ。親友は犠牲を尊ぶ事を愚かだと言ったんだ。だから犠牲という言葉を嫌がってる。けど、犠牲なんて何も無いんだよ。お前は、手から砂の一粒でも零れるのが嫌なだけなんだ」
「……つまり、失うのが怖い?」
口を挟んできた声に彼が後ろの月森を振り返る。俺から彼の顔は見えない。
「もっと単純に言ってやるよ。こいつは『おいていかれる』のが一番怖いんだ」
「おいて、いかれる?」
「そう。寂しがりやで一度親しくなった人との別れが怖い。一度受け入れた存在の喪失が怖い。その最たるものが『死別』だ。だから自分を犠牲にしてとか、先に死なれることを厭う。例えば弟。例えばアルコバレーノの姫。例えば同じ組織にいた団員。例えば朱色の弟分」
「……ちがう」
「そして彼等を助ける事には成功してしまった。だからお前は思ったんだ。『犠牲になる人は皆俺が救えばいい』……端から見ればお前が犠牲になってるだけなんだけどな」
「ちがう」
「でも二年前、先輩が救えなくて愕然としたんだ。いなくなってしまった人。手から零れ落ちてしまった人。俺を……おいていった人」
「違うつってんだろぉおお! 俺はあの人を救える。犠牲なんて俺が必要が無ぇだけだぁ! どうしても必要なら俺がなればいい! 俺はその為に……っ」
「犠牲になる為に生まれた奴なんていねぇよ。お前が生まれた意味は無い。それは知ってるくせに、どうして一言言ってくれねぇんだよ」
彼の声が寂しそうだったが、俺にはそんなこと構っていられなかった。
イブリス。俺の一部。
だから彼の言っていることは本当のことなんだろう。
燃え上がる炎が彼の身体を包み込み、人ではない姿に転換する。それは俺の見覚えのある姿とは違っていたから、これがシャドウとしての姿なのだろう。
月森達がペルソナを召喚して身構える。本来なら俺も立ち向かうべきなのだろうけれど、そんな気力はなかった。
何が間違っていたのだろう。
俺から視線を離したイブリスが、月森達の召喚したペルソナ達と攻防を始める。それをボンヤリと目に映しながら、もう一度考え直す必要があるとは思った。
イブリスが戦い始めたのは、俺に時間を与える為であり、結論を出せという事。
そしておそらく、ここで結論を出せなければ俺はイブリスに今度こそ本気で見限られ、終わりだ。
犠牲という言葉が嫌いだ。それは失う事に繋がるから。
失うのは嫌いだ。喪失は耐えられない。
でも何を喪失するんだ。消耗品は絶えず喪失し続けている。
では消耗品でないもの。それだっていつかは壊れるのが自然の摂理だろう。
ならば人は。
人は好きだ。弟や、親友や、知人、後輩、先輩、知り合い。仲間なんてものもいたし義理ではあるけど家族だっていた。本当の家族だっていた。
一緒にお茶をしたり、頭を撫でられたり、話をして、朝おはようと言えて、夜お休みと言える。それが何気なくも特別な事だと知っている。
そういえばどうして知っているんだ。と考えた。
記憶を何処までも遡って、嗚呼と思い至る。
最初の母親が、最初の喪失だった。
優しい母親。髪の色も目の色も誰にも似ていなかった俺を、それでも全力で愛してくれた人。
一緒に俺を受け入れてくれた弟とあの人がいれば、俺は幸せだった。
嗚呼そうか母親を亡くしたのが、ずっとショックだったのか。そういえばあの時、俺は泣いたかどうだか思い出せない。弟がずっと泣いていたのは覚えている。それを抱きしめて宥めながら、俺は何を考えていたのだろうか。
明日からの生活だ。父親はいなかったから幼い兄弟二人、どうやって生きていくか考え続けていた。これで弟まで死んでいなくなったら、俺が生きていけないと思ったから、弟だけは何があっても失いたくないと思って。
思って、育った。
それから親友が出来て、俺が受け入れられて。弟を庇って死んだもの弟を失いたくなかったからだ。
ああなるほどイブリスの言った事は正しいのか。
確かに俺は自己犠牲の精神が高い。でもそれは皆が犠牲になろうとするからだ。俺は皆にいなくならないでほしいのに。
いなくならないで。
ちがう。いなくならないでほしいんじゃない。
おれのことを
「おいてかないで」
「……つまり、失うのが怖い?」
口を挟んできた声に彼が後ろの月森を振り返る。俺から彼の顔は見えない。
「もっと単純に言ってやるよ。こいつは『おいていかれる』のが一番怖いんだ」
「おいて、いかれる?」
「そう。寂しがりやで一度親しくなった人との別れが怖い。一度受け入れた存在の喪失が怖い。その最たるものが『死別』だ。だから自分を犠牲にしてとか、先に死なれることを厭う。例えば弟。例えばアルコバレーノの姫。例えば同じ組織にいた団員。例えば朱色の弟分」
「……ちがう」
「そして彼等を助ける事には成功してしまった。だからお前は思ったんだ。『犠牲になる人は皆俺が救えばいい』……端から見ればお前が犠牲になってるだけなんだけどな」
「ちがう」
「でも二年前、先輩が救えなくて愕然としたんだ。いなくなってしまった人。手から零れ落ちてしまった人。俺を……おいていった人」
「違うつってんだろぉおお! 俺はあの人を救える。犠牲なんて俺が必要が無ぇだけだぁ! どうしても必要なら俺がなればいい! 俺はその為に……っ」
「犠牲になる為に生まれた奴なんていねぇよ。お前が生まれた意味は無い。それは知ってるくせに、どうして一言言ってくれねぇんだよ」
彼の声が寂しそうだったが、俺にはそんなこと構っていられなかった。
イブリス。俺の一部。
だから彼の言っていることは本当のことなんだろう。
燃え上がる炎が彼の身体を包み込み、人ではない姿に転換する。それは俺の見覚えのある姿とは違っていたから、これがシャドウとしての姿なのだろう。
月森達がペルソナを召喚して身構える。本来なら俺も立ち向かうべきなのだろうけれど、そんな気力はなかった。
何が間違っていたのだろう。
俺から視線を離したイブリスが、月森達の召喚したペルソナ達と攻防を始める。それをボンヤリと目に映しながら、もう一度考え直す必要があるとは思った。
イブリスが戦い始めたのは、俺に時間を与える為であり、結論を出せという事。
そしておそらく、ここで結論を出せなければ俺はイブリスに今度こそ本気で見限られ、終わりだ。
犠牲という言葉が嫌いだ。それは失う事に繋がるから。
失うのは嫌いだ。喪失は耐えられない。
でも何を喪失するんだ。消耗品は絶えず喪失し続けている。
では消耗品でないもの。それだっていつかは壊れるのが自然の摂理だろう。
ならば人は。
人は好きだ。弟や、親友や、知人、後輩、先輩、知り合い。仲間なんてものもいたし義理ではあるけど家族だっていた。本当の家族だっていた。
一緒にお茶をしたり、頭を撫でられたり、話をして、朝おはようと言えて、夜お休みと言える。それが何気なくも特別な事だと知っている。
そういえばどうして知っているんだ。と考えた。
記憶を何処までも遡って、嗚呼と思い至る。
最初の母親が、最初の喪失だった。
優しい母親。髪の色も目の色も誰にも似ていなかった俺を、それでも全力で愛してくれた人。
一緒に俺を受け入れてくれた弟とあの人がいれば、俺は幸せだった。
嗚呼そうか母親を亡くしたのが、ずっとショックだったのか。そういえばあの時、俺は泣いたかどうだか思い出せない。弟がずっと泣いていたのは覚えている。それを抱きしめて宥めながら、俺は何を考えていたのだろうか。
明日からの生活だ。父親はいなかったから幼い兄弟二人、どうやって生きていくか考え続けていた。これで弟まで死んでいなくなったら、俺が生きていけないと思ったから、弟だけは何があっても失いたくないと思って。
思って、育った。
それから親友が出来て、俺が受け入れられて。弟を庇って死んだもの弟を失いたくなかったからだ。
ああなるほどイブリスの言った事は正しいのか。
確かに俺は自己犠牲の精神が高い。でもそれは皆が犠牲になろうとするからだ。俺は皆にいなくならないでほしいのに。
いなくならないで。
ちがう。いなくならないでほしいんじゃない。
おれのことを
「おいてかないで」