ペルソナ3
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数日後、作戦室に呼ばれたアマネ達の前には病院を退院したらしい山岸が座っていた。
彼女が退院したことも喜ばしいが、他にも校門の前で倒れていた生徒達も無気力症から回復したらしい。そういえばテレビでそういうニュースを聞いた気がする。
早速ではあるがペルソナを扱える者として美鶴が協力を仰ぐ。やんわりとではあるがすぐに決めなくていいと提案する岳羽を遮るように、山岸は協力すると告げた。
「どうせ家には、私の居場所はないし……」
寮に住むことになる、と言った岳羽に、山岸がそう呟くのが聞こえる。家族との仲が良くないのだろうか、と思いもしたが、特に知る必要も無いので尋ねはしなかった。
「ところで、また今月も、例の『普通じゃないシャドウ』が出たね……」
幾月が話題を変える。『普通じゃないシャドウ』とはなんのことかと首を傾げた。
「何ですかそれ」
「ああ、斑鳩君は知らなかったね。あの大型シャドウのことだよ。何処から現れるのか、とか謎は残るけど、真田君の予測は、おそらく当たりだ。ヤツらは『満月』にやってくる。今後の指針にしてくれていいと思うよ」
「来月からは、満月が近付いたら、ご注意って事っスね」
「敵の来訪周期が掴めたというのは大きなアドバンテージだ。対戦の日取りが決まれば、トレーニングのメニューが組める」
真田のその言い方は少しふざけているようにも聞こえたが、それが彼なりの解釈なのだろう。言っていることは確かにその通りだし、分かりやすい。
そういうアマネだってまさしく『月からの使者』だなどと変なことを考えている。一ヶ月に一度現れることにも意味があるのだろうか。
思い出したのはタルタロスで出会った少年の言葉。
彼はあの時、『今夜やってくる試練は一つではない』と言っていた。その後対峙することになった大型シャドウも二体。それ以外に二つのものなど無かった。
ではあの大型シャドウを倒すことが『試練』なのだとしたら。
ソファに座っている有里を見ると、彼も何か考え込んでいる。何も知らない、人ではない少年の言葉。その意味。その少年の正体。
いったい『試練』とは何で、どうしてそれを有里が受ける必要があるのか。
もしくはこれは、アマネも含めたペルソナ使い全員に関することなのかも知れない。
どうにも分からないことが多すぎる。ともかく満月が近付いてきたら気をつけるべきだろう。と結論付けて、今日は家へ帰るらしい山岸と、それを送っていくという真田と桐条の三人を見送った。
***
寮に帰って夕食後、新しく入寮する山岸の為の部屋を掃除するからと、女性二人は早々に女子専用の三階へと行ってしまった。基本三階は通り過ぎて四階へ行く時くらいしか男は行けないので、アマネも手伝いは出来ない。
一応ゴキブリが出た時などは呼ばれるが、後は重い物を運ぶことにでもならないと呼ばれはしないだろう。というのが先輩である真田のお言葉だ。
部屋に居ても上の階が騒がしいのではと、アマネが自室へ篭るのではなくキッチンで蒸しカップケーキを作っていると叫び声が聞こえ、真田が一度呼ばれていた。いたのだろう。アレが。
夜遅くになって出掛けていた有里が帰ってきた頃、疲れた様子で降りてきた女子二人も交えて夜食としてカップケーキを勧め、部屋へ戻った。
影時間になるのを待って、イブリスを呼ぼうとするとまたあの気配がする。
嗚呼有里の部屋からだと、様子を見に行くべきか一瞬悩んだ。結局行かなかったのは、その気配の主がアマネの部屋へ来たからである。
ベッドで横たわっていたアマネの視界、部屋の中心にその少年はいきなり現れた。
「こんばんは」
「……こんばんはぁ」
前に見た時と変わらないボーダーの上下と泣き黒子。少年はにっこりと笑う。
「いきなり来てごめんね?」
「……大丈夫。起きてたから」
有里の部屋からは気配が消えている。起き上がって座り、少年と向き合った。
「何の用だぁ?」
「うん。君に会いに来たんだ。君はなんだかとても似ている気がする。何に似ているかは分からないんだけれど、とても似てる」
持ったままだった召喚器を枕元へ放り投げる。これではイブリスを召喚する時間はなさそうだ。
少年が言う、似ている『何か』というものに覚えは一つしかなかったが、確証がないので黙って少年に続きを促す。
「君の名前を聞いてもいい?」
「斑鳩 周」
「……あれ、違う名前もあるよね?」
不思議そうに首を傾げる少年に、そこまで分かっているのかと内心で舌打ちを零した。
「……シルビ」
「うん。どちらも君の名前なんだろうけれど、どちらも素敵な名前だね」
「お前は何て言うんだぁ?」
「僕は、ファルロス」
少年は誇らしげに己の名前を口にする。
「先輩にも教えたかぁ? あの人、お前の名前すら知らねぇままだったぞぉ」
「うん。たった今教えたよ。彼とはトモダチになったんだ」
「良かったなぁ」
敵意も害意も今のところ分からない少年が嬉しげに微笑んだ。少しだけ目に輝きが生まれた気がしたのは、気のせいだろう。
「それでね、君ともトモダチになりたいんだ」
「どうして」
「どうしてって。理由が必要?」
「理由があるなら聞こうと思っただけだぁ。よろしく、ファルロス」
「……ふふ、よろしく」
差し出した手をファルロスが握る。冷たくも暖かくもないが、小さな手だと思った。
***
佐藤に放課後お勧めの映画があるのだと引っ張られ、映画館のある駅前へ向かうと有里がいた。
一緒に居るのは確かベルベットルームとか言う場所で見た女性だ。エスカレーターを逆走したり下水道工事の傍で何か話をしていたり、なんと言うか、楽しげではある。
そう言えばあれ以降あの部屋に行ったことが無かったなと思い出して、佐藤がチケットを買ってくる間青い服の女性を眺めていると、女性は有里を連れて何処かへと行ってしまった。
あの人あの部屋から出られるのだと妙なことに感心していると、佐藤が戻ってくる。
「これだよこれ! 字幕なんだけど大丈夫だよな?」
「何処の映画だぁ?」
佐藤は答えられなかった。映画の内容に関しては賛否両論あるだろうが、好きな人が居ても悪くは無いだろう。いわゆるB級だった。佐藤の話では日本ではまだ上映されていないだけで、既に四作目まで出来上がっている映画らしい。
寮に帰って夕食を作っていると有里が帰ってきた。
「おかえりなさい」
「今日の夕食は?」
「ハンバーグです」
メインのおかずを聞いた有里が僅かに嬉しげにキッチンを覗き込む。好きなのだろうか。ちなみに美鶴のリクエストである。
「そういえば先輩。駅前で今日見ました」
「ああ、エリザベス。依頼だったんだ」
「あの人エリザベスって言うんですか」
「知らなかった?」
「最初に行ったきりですから。というか、タルタロス以外にももしかして扉があるんですか」
「モールの路地裏にあるよ」
いつも夜に出かけると思っていたが、もしかしてそこへ行っているのだろうか。場所を聞けたので一度アマネも行ってみるのも良いかもしれない。
最近は無気力症の被害の話も聞かないので、タルタロスヘ行かない日にでも行ってみることにする。
自室へ戻るらしい有里を見送ってキッチンへ戻れば、腹が空いたらしい伊織と山岸がやってきて焼く前のタネの状態の肉を見て何か話していた。
「どうかしましたか?」
「おう斑鳩、これ今日の夕飯?」
「桐条先輩のリクエストです」
「これは?」
「まだ形にしてねぇだけですけど」
「イヤだから、これ何?」
伊織が何を言いたいのか分からない。首を傾げると伊織と山岸が困ったような顔をする。
「嫌いですか?」
「あのね、その」
「嫌いでしたら二人の分は違うおかずを作りますけど」
「違げーよ! これが何の料理になるかって聞いてんの!」
「ハンバーグです」
料理名を聞いたときの二人の顔はちょっと笑いそうになった。
ハンバーグは出来上がっている料理を見ている人は多いが、その作る工程となると意外と知らない人が多い。玉葱が入っているのは分かっても何の肉を使っているのか知らないと答える人すらいるくらいだ。二人も作っている途中のハンバーグは見たことが無かったのだろう。
山岸さんは女性なのだし知っていてもおかしくは無いと思うのだが、普段料理をしない人なのかも知れない。
「作るの見てますか? 好きな形にしますよ」
結局、伊織と山岸のだけ他と違う形のハンバーグになった。
彼女が退院したことも喜ばしいが、他にも校門の前で倒れていた生徒達も無気力症から回復したらしい。そういえばテレビでそういうニュースを聞いた気がする。
早速ではあるがペルソナを扱える者として美鶴が協力を仰ぐ。やんわりとではあるがすぐに決めなくていいと提案する岳羽を遮るように、山岸は協力すると告げた。
「どうせ家には、私の居場所はないし……」
寮に住むことになる、と言った岳羽に、山岸がそう呟くのが聞こえる。家族との仲が良くないのだろうか、と思いもしたが、特に知る必要も無いので尋ねはしなかった。
「ところで、また今月も、例の『普通じゃないシャドウ』が出たね……」
幾月が話題を変える。『普通じゃないシャドウ』とはなんのことかと首を傾げた。
「何ですかそれ」
「ああ、斑鳩君は知らなかったね。あの大型シャドウのことだよ。何処から現れるのか、とか謎は残るけど、真田君の予測は、おそらく当たりだ。ヤツらは『満月』にやってくる。今後の指針にしてくれていいと思うよ」
「来月からは、満月が近付いたら、ご注意って事っスね」
「敵の来訪周期が掴めたというのは大きなアドバンテージだ。対戦の日取りが決まれば、トレーニングのメニューが組める」
真田のその言い方は少しふざけているようにも聞こえたが、それが彼なりの解釈なのだろう。言っていることは確かにその通りだし、分かりやすい。
そういうアマネだってまさしく『月からの使者』だなどと変なことを考えている。一ヶ月に一度現れることにも意味があるのだろうか。
思い出したのはタルタロスで出会った少年の言葉。
彼はあの時、『今夜やってくる試練は一つではない』と言っていた。その後対峙することになった大型シャドウも二体。それ以外に二つのものなど無かった。
ではあの大型シャドウを倒すことが『試練』なのだとしたら。
ソファに座っている有里を見ると、彼も何か考え込んでいる。何も知らない、人ではない少年の言葉。その意味。その少年の正体。
いったい『試練』とは何で、どうしてそれを有里が受ける必要があるのか。
もしくはこれは、アマネも含めたペルソナ使い全員に関することなのかも知れない。
どうにも分からないことが多すぎる。ともかく満月が近付いてきたら気をつけるべきだろう。と結論付けて、今日は家へ帰るらしい山岸と、それを送っていくという真田と桐条の三人を見送った。
***
寮に帰って夕食後、新しく入寮する山岸の為の部屋を掃除するからと、女性二人は早々に女子専用の三階へと行ってしまった。基本三階は通り過ぎて四階へ行く時くらいしか男は行けないので、アマネも手伝いは出来ない。
一応ゴキブリが出た時などは呼ばれるが、後は重い物を運ぶことにでもならないと呼ばれはしないだろう。というのが先輩である真田のお言葉だ。
部屋に居ても上の階が騒がしいのではと、アマネが自室へ篭るのではなくキッチンで蒸しカップケーキを作っていると叫び声が聞こえ、真田が一度呼ばれていた。いたのだろう。アレが。
夜遅くになって出掛けていた有里が帰ってきた頃、疲れた様子で降りてきた女子二人も交えて夜食としてカップケーキを勧め、部屋へ戻った。
影時間になるのを待って、イブリスを呼ぼうとするとまたあの気配がする。
嗚呼有里の部屋からだと、様子を見に行くべきか一瞬悩んだ。結局行かなかったのは、その気配の主がアマネの部屋へ来たからである。
ベッドで横たわっていたアマネの視界、部屋の中心にその少年はいきなり現れた。
「こんばんは」
「……こんばんはぁ」
前に見た時と変わらないボーダーの上下と泣き黒子。少年はにっこりと笑う。
「いきなり来てごめんね?」
「……大丈夫。起きてたから」
有里の部屋からは気配が消えている。起き上がって座り、少年と向き合った。
「何の用だぁ?」
「うん。君に会いに来たんだ。君はなんだかとても似ている気がする。何に似ているかは分からないんだけれど、とても似てる」
持ったままだった召喚器を枕元へ放り投げる。これではイブリスを召喚する時間はなさそうだ。
少年が言う、似ている『何か』というものに覚えは一つしかなかったが、確証がないので黙って少年に続きを促す。
「君の名前を聞いてもいい?」
「斑鳩 周」
「……あれ、違う名前もあるよね?」
不思議そうに首を傾げる少年に、そこまで分かっているのかと内心で舌打ちを零した。
「……シルビ」
「うん。どちらも君の名前なんだろうけれど、どちらも素敵な名前だね」
「お前は何て言うんだぁ?」
「僕は、ファルロス」
少年は誇らしげに己の名前を口にする。
「先輩にも教えたかぁ? あの人、お前の名前すら知らねぇままだったぞぉ」
「うん。たった今教えたよ。彼とはトモダチになったんだ」
「良かったなぁ」
敵意も害意も今のところ分からない少年が嬉しげに微笑んだ。少しだけ目に輝きが生まれた気がしたのは、気のせいだろう。
「それでね、君ともトモダチになりたいんだ」
「どうして」
「どうしてって。理由が必要?」
「理由があるなら聞こうと思っただけだぁ。よろしく、ファルロス」
「……ふふ、よろしく」
差し出した手をファルロスが握る。冷たくも暖かくもないが、小さな手だと思った。
***
佐藤に放課後お勧めの映画があるのだと引っ張られ、映画館のある駅前へ向かうと有里がいた。
一緒に居るのは確かベルベットルームとか言う場所で見た女性だ。エスカレーターを逆走したり下水道工事の傍で何か話をしていたり、なんと言うか、楽しげではある。
そう言えばあれ以降あの部屋に行ったことが無かったなと思い出して、佐藤がチケットを買ってくる間青い服の女性を眺めていると、女性は有里を連れて何処かへと行ってしまった。
あの人あの部屋から出られるのだと妙なことに感心していると、佐藤が戻ってくる。
「これだよこれ! 字幕なんだけど大丈夫だよな?」
「何処の映画だぁ?」
佐藤は答えられなかった。映画の内容に関しては賛否両論あるだろうが、好きな人が居ても悪くは無いだろう。いわゆるB級だった。佐藤の話では日本ではまだ上映されていないだけで、既に四作目まで出来上がっている映画らしい。
寮に帰って夕食を作っていると有里が帰ってきた。
「おかえりなさい」
「今日の夕食は?」
「ハンバーグです」
メインのおかずを聞いた有里が僅かに嬉しげにキッチンを覗き込む。好きなのだろうか。ちなみに美鶴のリクエストである。
「そういえば先輩。駅前で今日見ました」
「ああ、エリザベス。依頼だったんだ」
「あの人エリザベスって言うんですか」
「知らなかった?」
「最初に行ったきりですから。というか、タルタロス以外にももしかして扉があるんですか」
「モールの路地裏にあるよ」
いつも夜に出かけると思っていたが、もしかしてそこへ行っているのだろうか。場所を聞けたので一度アマネも行ってみるのも良いかもしれない。
最近は無気力症の被害の話も聞かないので、タルタロスヘ行かない日にでも行ってみることにする。
自室へ戻るらしい有里を見送ってキッチンへ戻れば、腹が空いたらしい伊織と山岸がやってきて焼く前のタネの状態の肉を見て何か話していた。
「どうかしましたか?」
「おう斑鳩、これ今日の夕飯?」
「桐条先輩のリクエストです」
「これは?」
「まだ形にしてねぇだけですけど」
「イヤだから、これ何?」
伊織が何を言いたいのか分からない。首を傾げると伊織と山岸が困ったような顔をする。
「嫌いですか?」
「あのね、その」
「嫌いでしたら二人の分は違うおかずを作りますけど」
「違げーよ! これが何の料理になるかって聞いてんの!」
「ハンバーグです」
料理名を聞いたときの二人の顔はちょっと笑いそうになった。
ハンバーグは出来上がっている料理を見ている人は多いが、その作る工程となると意外と知らない人が多い。玉葱が入っているのは分かっても何の肉を使っているのか知らないと答える人すらいるくらいだ。二人も作っている途中のハンバーグは見たことが無かったのだろう。
山岸さんは女性なのだし知っていてもおかしくは無いと思うのだが、普段料理をしない人なのかも知れない。
「作るの見てますか? 好きな形にしますよ」
結局、伊織と山岸のだけ他と違う形のハンバーグになった。