ペルソナ4
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「先輩、一緒に帰りましょう」
「帰りに買い物するから無理」
「何買うんですか?」
「……別にいいじゃねぇかぁ。何買ったって」
放課後、そう親しい奴の居るわけでもない教室を出ると、わざわざ廊下で待っていたらしい月森が近寄ってきた。
学年が違うのに何で居るのかと思ったが、誰かに言われたら俺を待っていたと言えばいいのか。
親しくなって懐柔しようという作戦かと思ったが、休み時間の行動を思い出してすぐにそんな訳ないだろうと思い直す。
結論。何を思ったか、月森は俺に懐いたらしい。
正直あんなに邪険に断って、懐かれるとは思っていなかったから驚きである。そんな人に懐かれやすい雰囲気だとも思わないし、月森は殆ど初対面に近い。
そんなのと帰る予定はなかった。
「花村はどうしたぁ?」
「バイトがあるって帰りました」
「里中さんは」
「天城の見舞いです」
「……お前、部活とかやってねぇの?」
「バスケ部に入ってます。でも今日は部活無くて」
つまり一人で暇だからという事だろう。こちらは内心がドロドロしているのに陽気なものだ。
一緒に帰ると言った覚えは無いのに、後ろを付いて来ている月森と俺を傍から見れば、一緒に帰っているように見えるのだろう。一言も話さず校門を抜けても、月森は後ろを素直に付いてきていた。
溜息が漏れる。
「……分かったから、後ろを歩くのはやめろぉ」
「はい」
表情はあまり変わらないのに、月森の背後に花が見えた気がした。後ろをずっと歩かれるよりは隣を歩かれたほうがまだマシである。
隣に並んだ月森は既に俺の身長を抜いていて、少し見下ろすように首を傾げた。
「買い物、何処行くんですか?」
先程の誘いを断るための嘘を信じ込んでいる。ここまでくるといっそ清々しいとさえ思えるから不思議だ。
立ち止まって月森を見れば、どうしたのと目で語らんばかりに直視してくる月森に、沈んだ気分でいる事が馬鹿らしくなってきた。
「何処行きてぇ?」
「え、えっと、愛家行きたかったです」
「じゃあそこにしよう」
「え?」
「……一緒に帰りたかったんだろぉ?」
こちらが折れたのだと言外に告げれば、月森の顔が面白いほどに明るくなる。
二年前、コロマルに餌を与えた時の気分を思い出して思わず吹き出した。あの頃自分は年下に分類される立場で、誰もが先輩らしく年上らしくしようとしてきていたのを思い出す。
何度も何かある度に一緒に帰りたいとか、頭を撫でたりしてきた『あの人』まで思い出してしまったが、嬉しげな月森を見て溜息は我慢した。
「じゃあ斑鳩先輩も転校してきたばかりなんですね」
「……殆ど半年前だけどなぁ」
理由は言わず、自分も転校してここへ来た身だと言うと、月森は牛丼を食べながら嬉しげに笑う。
「俺も四月に来たばかりなんです」
「前にも聞いたぜぇ。転校してきたとは」
「両親が仕事で、叔父の家に一年間という事で、今年一年しか居られないんですけど」
「いいじゃねぇかぁ。一年は随分長くて、随分短いよ」
空にした器をテーブルの端へ寄せてグラスの水を飲んだ。思い出してしまうのは二年前の事ばかりである。
ここへ来ていいことがあったかどうかも、何かが変わったかどうかも分からない。
分からな過ぎて前進しているのか後退しているのか、そもそも前を見ているのか。もしかしたら、俺だけまだ三月三十一日を繰り返しているんじゃないかとすら、思う時があった。
変わり栄えのない学校生活とか、毎日同じ事を繰り返しているだけとか。俺が進みたい方向は、何処だったのか。
「先輩?」
ふと呼ばれていることに気付いて顔を上げると月森が不思議そうな顔をしていた。自分の思考に没頭してしまっていたらしいと気付いて、慌てて取り繕う。
「何でもねぇ。何の話だっけ?」
「先輩は、一人暮らしなんですか?」
「ああ、今はそうだなぁ」
「前にいた学校は?」
「寮だった」
「オレ、寮生活ってしたこと無いんですけど、どういう感じなんですか?」
「色々あったけど楽しかった、と思う。だからもう、あの場所へは戻れない気がする」
楽しかった思い出があるからこそ、いけない。
「それってどういう……」
「空の器お下げしまーす」
店員の何処か調子外れに間延びした声が月森の質問を掻き消して、俺は聞こえなかったフリをして笑う。
月森に話しても仕方が無い事だし、何処まで話していいのかも分からない。話すとなると、それこそ一度は断ったテレビの向こう側だって関わってくるかもしれないのだ。
「俺もう帰るけど、お前どうするぅ?」
「あ、オレも帰ります」
急いで立ち上がる月森を急かすことなく会計を払って外へ出る。今日の夕食は今のでいいかと結論を出して、遅れて出てきた月森が財布を出しているのを、首を振って制した。
「俺の奢り」
「でも……」
律儀なのか真面目なのか。
「そこはありがとうとお礼を言えばいいところだぁ。それとも俺に奢られるのは嫌かぁ?」
「そんなことは、ないです」
「じゃあ奢られとけぇ」
手を伸ばして頭を撫でようとして、しまったなと思いつつ手を引っ込める。月森はやっぱり不思議そうだったが、それも気付かないフリをした。
「帰りに買い物するから無理」
「何買うんですか?」
「……別にいいじゃねぇかぁ。何買ったって」
放課後、そう親しい奴の居るわけでもない教室を出ると、わざわざ廊下で待っていたらしい月森が近寄ってきた。
学年が違うのに何で居るのかと思ったが、誰かに言われたら俺を待っていたと言えばいいのか。
親しくなって懐柔しようという作戦かと思ったが、休み時間の行動を思い出してすぐにそんな訳ないだろうと思い直す。
結論。何を思ったか、月森は俺に懐いたらしい。
正直あんなに邪険に断って、懐かれるとは思っていなかったから驚きである。そんな人に懐かれやすい雰囲気だとも思わないし、月森は殆ど初対面に近い。
そんなのと帰る予定はなかった。
「花村はどうしたぁ?」
「バイトがあるって帰りました」
「里中さんは」
「天城の見舞いです」
「……お前、部活とかやってねぇの?」
「バスケ部に入ってます。でも今日は部活無くて」
つまり一人で暇だからという事だろう。こちらは内心がドロドロしているのに陽気なものだ。
一緒に帰ると言った覚えは無いのに、後ろを付いて来ている月森と俺を傍から見れば、一緒に帰っているように見えるのだろう。一言も話さず校門を抜けても、月森は後ろを素直に付いてきていた。
溜息が漏れる。
「……分かったから、後ろを歩くのはやめろぉ」
「はい」
表情はあまり変わらないのに、月森の背後に花が見えた気がした。後ろをずっと歩かれるよりは隣を歩かれたほうがまだマシである。
隣に並んだ月森は既に俺の身長を抜いていて、少し見下ろすように首を傾げた。
「買い物、何処行くんですか?」
先程の誘いを断るための嘘を信じ込んでいる。ここまでくるといっそ清々しいとさえ思えるから不思議だ。
立ち止まって月森を見れば、どうしたのと目で語らんばかりに直視してくる月森に、沈んだ気分でいる事が馬鹿らしくなってきた。
「何処行きてぇ?」
「え、えっと、愛家行きたかったです」
「じゃあそこにしよう」
「え?」
「……一緒に帰りたかったんだろぉ?」
こちらが折れたのだと言外に告げれば、月森の顔が面白いほどに明るくなる。
二年前、コロマルに餌を与えた時の気分を思い出して思わず吹き出した。あの頃自分は年下に分類される立場で、誰もが先輩らしく年上らしくしようとしてきていたのを思い出す。
何度も何かある度に一緒に帰りたいとか、頭を撫でたりしてきた『あの人』まで思い出してしまったが、嬉しげな月森を見て溜息は我慢した。
「じゃあ斑鳩先輩も転校してきたばかりなんですね」
「……殆ど半年前だけどなぁ」
理由は言わず、自分も転校してここへ来た身だと言うと、月森は牛丼を食べながら嬉しげに笑う。
「俺も四月に来たばかりなんです」
「前にも聞いたぜぇ。転校してきたとは」
「両親が仕事で、叔父の家に一年間という事で、今年一年しか居られないんですけど」
「いいじゃねぇかぁ。一年は随分長くて、随分短いよ」
空にした器をテーブルの端へ寄せてグラスの水を飲んだ。思い出してしまうのは二年前の事ばかりである。
ここへ来ていいことがあったかどうかも、何かが変わったかどうかも分からない。
分からな過ぎて前進しているのか後退しているのか、そもそも前を見ているのか。もしかしたら、俺だけまだ三月三十一日を繰り返しているんじゃないかとすら、思う時があった。
変わり栄えのない学校生活とか、毎日同じ事を繰り返しているだけとか。俺が進みたい方向は、何処だったのか。
「先輩?」
ふと呼ばれていることに気付いて顔を上げると月森が不思議そうな顔をしていた。自分の思考に没頭してしまっていたらしいと気付いて、慌てて取り繕う。
「何でもねぇ。何の話だっけ?」
「先輩は、一人暮らしなんですか?」
「ああ、今はそうだなぁ」
「前にいた学校は?」
「寮だった」
「オレ、寮生活ってしたこと無いんですけど、どういう感じなんですか?」
「色々あったけど楽しかった、と思う。だからもう、あの場所へは戻れない気がする」
楽しかった思い出があるからこそ、いけない。
「それってどういう……」
「空の器お下げしまーす」
店員の何処か調子外れに間延びした声が月森の質問を掻き消して、俺は聞こえなかったフリをして笑う。
月森に話しても仕方が無い事だし、何処まで話していいのかも分からない。話すとなると、それこそ一度は断ったテレビの向こう側だって関わってくるかもしれないのだ。
「俺もう帰るけど、お前どうするぅ?」
「あ、オレも帰ります」
急いで立ち上がる月森を急かすことなく会計を払って外へ出る。今日の夕食は今のでいいかと結論を出して、遅れて出てきた月森が財布を出しているのを、首を振って制した。
「俺の奢り」
「でも……」
律儀なのか真面目なのか。
「そこはありがとうとお礼を言えばいいところだぁ。それとも俺に奢られるのは嫌かぁ?」
「そんなことは、ないです」
「じゃあ奢られとけぇ」
手を伸ばして頭を撫でようとして、しまったなと思いつつ手を引っ込める。月森はやっぱり不思議そうだったが、それも気付かないフリをした。