序
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悪魔と契約した人間の末路が地獄だとしても、生憎シルビは悪魔と契約なんてしたことがない。だのに地獄に産まれ堕ちているのだから笑えなかった。
地獄の定義などはどうでもいい。ただ単純にこの世界がシルビにとっては地獄のようだというだけだ。
「――ぁ」
小さく声がこぼれる。食事をしようと食堂へ向かう教団本部の薄暗い廊下の壁際。思わず立ち止まった床にポタリと鼻血が落ちた。
血管の中を巡る血液と同じタイミングで痛む頭。寄りかかった壁の冷たさにごく僅かな心地よさを覚えつつ、さてどうしようかと悩む。
昔から、転生する前から不定期にあった頭痛だ。何故か今生は前々世の時と同じ頻度で起きているそれは、慣れたせいで昔程意識を飛ばすことはなくなった。
その代わり苦痛が長く続く。とりあえず誰かに見つかる前に医務室の婦長の元へ向かうかと決めた足から力が抜けた。
落下する様に倒れて辛うじて頭部を床にぶつけることだけは阻止する。これ以上の脳への衝撃は遠慮したい。ただ鼻血は服に付いてしまった。
目を閉じる。このまま死んでしまったところで特に問題はないだろう。黒の教団という組織としては戦力が減って多少は困るだろうが、それだって次の誰かへイノセンスを持たせればいいだけの話。
このまま死んでしまえれば、せめて次に目を覚ます時までは安楽を手に入れられるのだろうかと思った。
「――シルビ?」
頭上から声がして閉じたばかりの目を開ける。
「こんなところでどうし――鼻血! 鼻血出てるじゃないですか!?」
驚くアレンの声。ティムキャンピーの羽ばたき。シルビの身を案じて傍にしゃがんだ彼から甘い香りがする。花のそれではなくデザートか何かのそれだ。
それが何故だか、妙におかしかった。
「大丈夫ですか!? えっと、医者? 医務室? 立ち上がれます?」
動揺しながらも掛けられる声。立ち上がるのは今は無理だなと答えてやる前に、シルビは熱でぼやける視界にアレンの姿を映す。
銀髪。銀灰色の眼。不思議そうに不安げに“心配げに”覗き込んでくるその眼の色が、涙で潤むのは嫌だなと考えた。
この子は“弟”ではないのに。
「……アレン」
「っはい。立てますか?」
「婦長を、呼んで、いつものだって、伝えて……」
「いつもの? いつものって何……シルビ、ちょっとシルビ!?」
眼を閉じて今度こそ意識を飛ばす。このまま死ねたらきっと幸せだろうと、何度も思ったことを再び考えた。
どうせ結局は死ねないのだけれど。
地獄の定義などはどうでもいい。ただ単純にこの世界がシルビにとっては地獄のようだというだけだ。
「――ぁ」
小さく声がこぼれる。食事をしようと食堂へ向かう教団本部の薄暗い廊下の壁際。思わず立ち止まった床にポタリと鼻血が落ちた。
血管の中を巡る血液と同じタイミングで痛む頭。寄りかかった壁の冷たさにごく僅かな心地よさを覚えつつ、さてどうしようかと悩む。
昔から、転生する前から不定期にあった頭痛だ。何故か今生は前々世の時と同じ頻度で起きているそれは、慣れたせいで昔程意識を飛ばすことはなくなった。
その代わり苦痛が長く続く。とりあえず誰かに見つかる前に医務室の婦長の元へ向かうかと決めた足から力が抜けた。
落下する様に倒れて辛うじて頭部を床にぶつけることだけは阻止する。これ以上の脳への衝撃は遠慮したい。ただ鼻血は服に付いてしまった。
目を閉じる。このまま死んでしまったところで特に問題はないだろう。黒の教団という組織としては戦力が減って多少は困るだろうが、それだって次の誰かへイノセンスを持たせればいいだけの話。
このまま死んでしまえれば、せめて次に目を覚ます時までは安楽を手に入れられるのだろうかと思った。
「――シルビ?」
頭上から声がして閉じたばかりの目を開ける。
「こんなところでどうし――鼻血! 鼻血出てるじゃないですか!?」
驚くアレンの声。ティムキャンピーの羽ばたき。シルビの身を案じて傍にしゃがんだ彼から甘い香りがする。花のそれではなくデザートか何かのそれだ。
それが何故だか、妙におかしかった。
「大丈夫ですか!? えっと、医者? 医務室? 立ち上がれます?」
動揺しながらも掛けられる声。立ち上がるのは今は無理だなと答えてやる前に、シルビは熱でぼやける視界にアレンの姿を映す。
銀髪。銀灰色の眼。不思議そうに不安げに“心配げに”覗き込んでくるその眼の色が、涙で潤むのは嫌だなと考えた。
この子は“弟”ではないのに。
「……アレン」
「っはい。立てますか?」
「婦長を、呼んで、いつものだって、伝えて……」
「いつもの? いつものって何……シルビ、ちょっとシルビ!?」
眼を閉じて今度こそ意識を飛ばす。このまま死ねたらきっと幸せだろうと、何度も思ったことを再び考えた。
どうせ結局は死ねないのだけれど。