序
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この世界での最初の記憶は、金髪の男が泣きながら首を絞めようとしている光景だった。朧気な視界を埋め尽くしていたそれはけれども、横から割り込んできた老婆の姿と声で中断され、この身体は今も生きている。
“前”の世界での最後の記憶は、年老いた知人や友人達の悲しげな表情だった。老いて若い頃の様に動くことも出来なくなっていたくせに、道路に飛び出した子供を助けようとしたのである。
そんなことをしなければきっとあと数十年は生きていられただろう。けれども子供を助けなければそれから死ぬまで自分は後悔しただろうし、正直もう満足しているといえば満足していたのだ。
友人達の子孫と会えて。友人達と変わらぬ知人が増えて、新しかった人生はそれはもう幸せなものだったのである。
だから――そうだ。自分はきっと絶望したのだろう。
友人達のいない世界で。知人達のいない世界で。常識も文化も理すらも違う世界で、強制的にまた『生きろ』と命じられた。
もう良かったのだ。もういらなかった。
もう充分だったのに。
「――嗚呼、孤独だ」
貧民が逃げ集まって出来た集落の更に路地の奥でそう一人ごちる。既に自分を産んだ母親も父親も死に絶え、生きる希望も何もあったものではないのに何故か生き続けていた。
死のうと思う度に親友の顔が思い浮かぶ。
このままなら死ねると思うと当時に弟の顔が思い浮かぶ。
その度にこの身体は惨めったらしく生きることに執着しなかなか死ねなかった。
生きる理由なんて無い。死ねない理由は少しだけあった。
だから自分は今も生きている。
「――帰りたい、場所は無いのか」
黒服の男は言う。
なんて事を言うのだろうかとシルビは笑った。もしかしたらこの世界に産まれて初めて笑ったかもしれない。
男とその同行者が滅茶苦茶にしてしまった貧民街の一角。たくさんの瓦礫の下にはシルビが特に理由もなく面倒を見てきた子供達が埋まってしまっている。その事を悲しむべきなのだろうけれど、シルビは泣けなかった。
そこまで感情が揺れ動かない。
「それ、哀れみぃ?」
「じゃねぇつもりだ」
「帰りてぇ場所は……無ぇよ。でも」
「でも?」
「行きてぇ場所も無い」
「そうか」
男の相槌は何の感情も籠もっていなかった。というより既にすり切れていたのだろうが。
「なら、ついてくるか? ここより地獄だし人権も無いし飯の味も微妙だが――死ねない理由を偽る事は出来る」
傷だらけの身体。すり切れた衣服。破けた手袋越しの指からは既に乾いているものの血が出た痕が残っている。
死ねないから生きている訳ではない。死にたいまま生きているだけだ。
「……あんた、もっと利口になったほうがいいと思うぜぇ。早死にしそ――ッ!?」
「あっ!?」
「ゴタゴタ煩せえんだよ。カギ共」
“前”の世界での最後の記憶は、年老いた知人や友人達の悲しげな表情だった。老いて若い頃の様に動くことも出来なくなっていたくせに、道路に飛び出した子供を助けようとしたのである。
そんなことをしなければきっとあと数十年は生きていられただろう。けれども子供を助けなければそれから死ぬまで自分は後悔しただろうし、正直もう満足しているといえば満足していたのだ。
友人達の子孫と会えて。友人達と変わらぬ知人が増えて、新しかった人生はそれはもう幸せなものだったのである。
だから――そうだ。自分はきっと絶望したのだろう。
友人達のいない世界で。知人達のいない世界で。常識も文化も理すらも違う世界で、強制的にまた『生きろ』と命じられた。
もう良かったのだ。もういらなかった。
もう充分だったのに。
「――嗚呼、孤独だ」
貧民が逃げ集まって出来た集落の更に路地の奥でそう一人ごちる。既に自分を産んだ母親も父親も死に絶え、生きる希望も何もあったものではないのに何故か生き続けていた。
死のうと思う度に親友の顔が思い浮かぶ。
このままなら死ねると思うと当時に弟の顔が思い浮かぶ。
その度にこの身体は惨めったらしく生きることに執着しなかなか死ねなかった。
生きる理由なんて無い。死ねない理由は少しだけあった。
だから自分は今も生きている。
「――帰りたい、場所は無いのか」
黒服の男は言う。
なんて事を言うのだろうかとシルビは笑った。もしかしたらこの世界に産まれて初めて笑ったかもしれない。
男とその同行者が滅茶苦茶にしてしまった貧民街の一角。たくさんの瓦礫の下にはシルビが特に理由もなく面倒を見てきた子供達が埋まってしまっている。その事を悲しむべきなのだろうけれど、シルビは泣けなかった。
そこまで感情が揺れ動かない。
「それ、哀れみぃ?」
「じゃねぇつもりだ」
「帰りてぇ場所は……無ぇよ。でも」
「でも?」
「行きてぇ場所も無い」
「そうか」
男の相槌は何の感情も籠もっていなかった。というより既にすり切れていたのだろうが。
「なら、ついてくるか? ここより地獄だし人権も無いし飯の味も微妙だが――死ねない理由を偽る事は出来る」
傷だらけの身体。すり切れた衣服。破けた手袋越しの指からは既に乾いているものの血が出た痕が残っている。
死ねないから生きている訳ではない。死にたいまま生きているだけだ。
「……あんた、もっと利口になったほうがいいと思うぜぇ。早死にしそ――ッ!?」
「あっ!?」
「ゴタゴタ煩せえんだよ。カギ共」
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