日常編
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「チャオっす」
スーパーの早朝タイムセールによる戦利品を両手にぶら下げて家路を急いでいれば、不意に頭上から声がして足を止める。生き物の気配が近づいてきている事には気付いていたがこの辺を縄張りにしている野良猫だろうと思って気にしていなかったので、振り返った塀の上に赤ん坊が居たことにアマネは正直に驚いた。
ただ、赤ん坊が黒いスーツを着こなして二本足で自立していることには驚かない。それには〝前世の記憶〟ではあるが覚えがあった。記憶の中の赤ん坊はスーツも着ていなければボルサリーノも被ってなどいなかったが。
赤ん坊は記憶の中にある彼とは違い今風の赤ん坊だ。しかしその雰囲気は手練れの暗殺者がそうである様に隙が無い。空気に紛れる程度の敵意とわざと表に出しているのだろう警戒心。この場合この状況のどれに反応するのが正しいのか。
考えて、恭弥から最近面白い赤ん坊が出現しているのだという話を聞いたことを思い出した。あの喧嘩や乱闘が好きな幼馴染が気にいる赤ん坊なんてロクなものではないなと思っていたが、成程とうとうアマネにも接触しに来たらしい。
目的は不明。恭弥の話では一年の沢田と関係があるということだった。であれば今日のこの邂逅も沢田が関わっているのだろうかと考える。
「――あ、上着?」
「それはツナに返してもらえ」
「ツナ? ああ沢田『ツナ』吉ね」
沢田を愛称で呼ぶ程度には親しい仲らしい。
「でぇ? 俺に何か用かぁ?」
「赤ん坊が一人で会いに来たってのに驚かねーんだナ」
「バミューダだって赤ん坊だったぁ」
「〝バミューダ〟?」
「おっとぉ」
口を塞ぐも時既に遅し。アマネの溢した名前に心当たりは無い様だったが、自身と似たような存在をアマネが知っている事には気付いた様である。
膨れ上がる敵愾心。アマネは両手に持っていた買い物袋を落とす様に離してその場から飛びのいた。そんなことが出来たのはやはりシルビとしての記憶のお陰か。
寸前までアマネが立っていた場所に何かが撃ち込まれ地面が焦げる。
素早く周囲を見回して遮蔽物が無いかを探すもここは各々の敷地が塀に囲われた住宅地だ。点々と立つ電信柱かゴミ収集所くらいしか無い状況に舌打ちを溢して、アマネは砂利を拾いながら次の攻撃に備えて身構える。
赤ん坊はそんなアマネを見て感心したような息を漏らした。
「今のを躱すか。及第点だ――」
地面を蹴る。赤ん坊だとしても容赦をする気はない。そもそもこれは赤ん坊ではない。
飛び掛かる様に迫ったアマネに赤ん坊が餌に掛かった獲物を見る様に口角を上げる。
アマネはそれを見て、今の時代の暗殺者はこの程度なのだろうかと思った。〝自分の時代〟ならこんなものでは生き残れなかっただろう。
いや、今はアマネの度量を図る為に来ただけかと考え直したのは、赤ん坊の姿が視界から消えたからだ。姿は見えずとも気配のする方へ向かって砂利を弾き飛ばす。
銃声一発。
「イテーな。赤ん坊にも躊躇無しか」
「〝アルコバレーノ〟に手加減しろとぉ?」
頬に擦り傷を作った赤ん坊が塀の上に立つアマネを睨んできた。アマネが挑発に乗ってきたところでそれを躱し、実力を見せて精神的優位な位置から話をするつもりだったのだろう。
だが相手が悪かった。アマネは彼らの秘密を知っている。例え彼の見た目がつぶらな瞳をした可愛らしい赤ん坊だとしても、油断して手を抜ける相手ではないことを分かっていた。
「――オマエ、何者だ」
塀から降りて置いたままだった買い物袋を拾う。今日は冷凍庫へ入れる物を買っていなくて良かった。呪われた赤ん坊の一人がどうしてここに居るのかは知らない。
赤ん坊らしからぬ殺意。
「君は沢田と関係がある赤ん坊、だったなぁ?」
「……リボーンだ」
獄寺から聞いたボンゴレの十代目候補という話と、最近になって沢田の傍にリボーンが現れたらしいことから考えるに、きっと沢田があのイタリアマフィア『ボンゴレ』の後継者候補として選ばれたのだろう。リボーンは護衛で事情を知っていた獄寺は側近候補か見習いといったところか。
アマネに接触しようとしてきた理由は不明だ。しかしあのリボーンの様子からしてアマネが『シルビ』だと知っていて近付いてきた訳ではない。
マフィアボンゴレ初代ボス『ジョット』の面影。
「リボーン?」
第三者の声がして振り返る。銃声を聞きつけて何処かから走ってきたのか軽く息を切らした様子の沢田が、アマネとリボーンを見て目を丸くした。
「おま、先輩に何やってんだよ!」
「丁度いい。ツナ、お前も手貸せ」
「えっ」
リボーンの銃口が沢田へと向けられる。この状況で沢田の手を借りる方法なんて分からなかったが、それとは全く関係なくアマネはほぼ無意識に沢田の前へと飛び出した。
「――ッ」
撃たれる。銃弾が胸へと食い込んでいく。
痛い筈だろうに痛くはなかった。ただ、何だか無性に泣きたくなった。
スーパーの早朝タイムセールによる戦利品を両手にぶら下げて家路を急いでいれば、不意に頭上から声がして足を止める。生き物の気配が近づいてきている事には気付いていたがこの辺を縄張りにしている野良猫だろうと思って気にしていなかったので、振り返った塀の上に赤ん坊が居たことにアマネは正直に驚いた。
ただ、赤ん坊が黒いスーツを着こなして二本足で自立していることには驚かない。それには〝前世の記憶〟ではあるが覚えがあった。記憶の中の赤ん坊はスーツも着ていなければボルサリーノも被ってなどいなかったが。
赤ん坊は記憶の中にある彼とは違い今風の赤ん坊だ。しかしその雰囲気は手練れの暗殺者がそうである様に隙が無い。空気に紛れる程度の敵意とわざと表に出しているのだろう警戒心。この場合この状況のどれに反応するのが正しいのか。
考えて、恭弥から最近面白い赤ん坊が出現しているのだという話を聞いたことを思い出した。あの喧嘩や乱闘が好きな幼馴染が気にいる赤ん坊なんてロクなものではないなと思っていたが、成程とうとうアマネにも接触しに来たらしい。
目的は不明。恭弥の話では一年の沢田と関係があるということだった。であれば今日のこの邂逅も沢田が関わっているのだろうかと考える。
「――あ、上着?」
「それはツナに返してもらえ」
「ツナ? ああ沢田『ツナ』吉ね」
沢田を愛称で呼ぶ程度には親しい仲らしい。
「でぇ? 俺に何か用かぁ?」
「赤ん坊が一人で会いに来たってのに驚かねーんだナ」
「バミューダだって赤ん坊だったぁ」
「〝バミューダ〟?」
「おっとぉ」
口を塞ぐも時既に遅し。アマネの溢した名前に心当たりは無い様だったが、自身と似たような存在をアマネが知っている事には気付いた様である。
膨れ上がる敵愾心。アマネは両手に持っていた買い物袋を落とす様に離してその場から飛びのいた。そんなことが出来たのはやはりシルビとしての記憶のお陰か。
寸前までアマネが立っていた場所に何かが撃ち込まれ地面が焦げる。
素早く周囲を見回して遮蔽物が無いかを探すもここは各々の敷地が塀に囲われた住宅地だ。点々と立つ電信柱かゴミ収集所くらいしか無い状況に舌打ちを溢して、アマネは砂利を拾いながら次の攻撃に備えて身構える。
赤ん坊はそんなアマネを見て感心したような息を漏らした。
「今のを躱すか。及第点だ――」
地面を蹴る。赤ん坊だとしても容赦をする気はない。そもそもこれは赤ん坊ではない。
飛び掛かる様に迫ったアマネに赤ん坊が餌に掛かった獲物を見る様に口角を上げる。
アマネはそれを見て、今の時代の暗殺者はこの程度なのだろうかと思った。〝自分の時代〟ならこんなものでは生き残れなかっただろう。
いや、今はアマネの度量を図る為に来ただけかと考え直したのは、赤ん坊の姿が視界から消えたからだ。姿は見えずとも気配のする方へ向かって砂利を弾き飛ばす。
銃声一発。
「イテーな。赤ん坊にも躊躇無しか」
「〝アルコバレーノ〟に手加減しろとぉ?」
頬に擦り傷を作った赤ん坊が塀の上に立つアマネを睨んできた。アマネが挑発に乗ってきたところでそれを躱し、実力を見せて精神的優位な位置から話をするつもりだったのだろう。
だが相手が悪かった。アマネは彼らの秘密を知っている。例え彼の見た目がつぶらな瞳をした可愛らしい赤ん坊だとしても、油断して手を抜ける相手ではないことを分かっていた。
「――オマエ、何者だ」
塀から降りて置いたままだった買い物袋を拾う。今日は冷凍庫へ入れる物を買っていなくて良かった。呪われた赤ん坊の一人がどうしてここに居るのかは知らない。
赤ん坊らしからぬ殺意。
「君は沢田と関係がある赤ん坊、だったなぁ?」
「……リボーンだ」
獄寺から聞いたボンゴレの十代目候補という話と、最近になって沢田の傍にリボーンが現れたらしいことから考えるに、きっと沢田があのイタリアマフィア『ボンゴレ』の後継者候補として選ばれたのだろう。リボーンは護衛で事情を知っていた獄寺は側近候補か見習いといったところか。
アマネに接触しようとしてきた理由は不明だ。しかしあのリボーンの様子からしてアマネが『シルビ』だと知っていて近付いてきた訳ではない。
マフィアボンゴレ初代ボス『ジョット』の面影。
「リボーン?」
第三者の声がして振り返る。銃声を聞きつけて何処かから走ってきたのか軽く息を切らした様子の沢田が、アマネとリボーンを見て目を丸くした。
「おま、先輩に何やってんだよ!」
「丁度いい。ツナ、お前も手貸せ」
「えっ」
リボーンの銃口が沢田へと向けられる。この状況で沢田の手を借りる方法なんて分からなかったが、それとは全く関係なくアマネはほぼ無意識に沢田の前へと飛び出した。
「――ッ」
撃たれる。銃弾が胸へと食い込んでいく。
痛い筈だろうに痛くはなかった。ただ、何だか無性に泣きたくなった。