日常編
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小学生時代からの幼馴染の為に作った弁当と自分の分とを持って、幼馴染が拠点にしている応接室へ向かう。昼休みの校内は授業中と違って騒がしく、毎日のことながらアマネは未だに慣れることが出来なかった。
部屋の主が『群れる草食動物』が嫌いだという事が周知されている故に、他の場所よりも静まり返った応接室のある階の廊下。時折すれ違う学ラン姿の学生は、アマネを見て律儀に挨拶をする者と訝しげな視線を寄越す者とで半々だ。
そんな視線の一切を無視して向かった応接室の戸をノックして開ければ、部屋の主でありアマネの幼馴染である雲雀恭弥が窓際から階下を眺めていた。
「恭弥、今日の弁当」
「置いておいて」
「なんかあったのかぁ?」
「道場で笹川京子が大変なことになっているよ」
「あ? なんでぇ?」
「知らない」
恭弥の横から同じく階下を見下ろせば、なるほど隣接している道場の入口に生徒が集まって騒ぎが起こっていた。時々聞こえる大声はクラスメイトのそれの様な気もするが、距離があってハッキリとは分からない。
ともあれ今はもう二人いる幼馴染の内の一人である笹川京子だ。
「報告来てねぇの?」
「一応来たけど興味なかったかな」
どうでもよさげに言う恭弥は本当に心底どうでもいいのだろう。コイツの興味関心は強い相手にしか働かない。
「ちょっと様子見てくるぅ。弁当冷蔵庫入れといてくれぇ」
「やだ」
恭弥の否定が口に出される前に応接室の窓から飛び降りた。着地して応接室を見上げて手を振れば、肩をすくめた恭弥が窓際から見えなくなる。あの様子から弁当は無事に冷蔵庫へ入れられるだろう。ひっくり返されたりしないかは別として。
道場へ向かう道すがら野次馬の生徒達の会話から騒ぎの内容を把握していく。断片を集めていく度にじんわりと強くなっていく頭痛に眉を顰めつつ、辿り着いた先である道場の出入り口でアマネは中を確認するよりも先に怒鳴った。
「持田ぁ! テメェ京子を賞品扱いしやがったらしいなぁ! 今日は無事に帰れると思うなよこのスットコドッコイぃ!」
「げっ、斑鳩だ!」
アマネの声に道場の中に居た当事者達が振り返る。その中でも中心人物である筈のクラスメイト、持田は何故か頭部の毛を無くして倒れていた。
情報の断片を繋ぎ合わせて推測するに、事の始まりは持田が京子に横恋慕したことの様である。アマネから見ても天然待った無しの京子を彼女扱いするにはちゃんと自己紹介や告白といった段階を踏むべきだろうにそれもせず、勝手に『オレの女』扱い相して騒いでいたらしい。
あまつさえ剣道部の主将である自分を強いと思い込み、その得意な剣道で後輩に喧嘩を売り、なんやかんやで返り討ちに遭ったところでアマネが到着したようだった。
倒れている持田を剣道部の部員達が助け起こそうとしていて、アマネの姿にその手が止まっている。視界の端には何故かトランクス一枚の姿をした知らない男子生徒が居た。
「――ジョッ」
「アマネちゃん!」
トランクス姿の男子生徒を見て、思わず言いかけた名前は京子の声で飲み込む。駆け寄ってきた京子は笑顔で、怪我をしている様子や精神的に傷付いている様子も無いことに安堵した。
「京子。怪我はしてねぇなぁ? 今来たばかりで何も分かんねぇけど、とりあえず持田は後で説教しとくからなぁ」
「ううん。沢田君がやっつけてくれたからいいよ」
アマネが頭を撫でるのを甘受する京子が首を振る。
「さわだぁ?」
「同じクラスの沢田君」
そう言って京子が指差した先にはあのトランクス姿の男子生徒。京子から離れて歩み寄れば、何故かどこからともなくこちらを観察している様な視線を覚える。
観察というか訝しんでいるというか。悪意はないが少しの敵意と警戒が混ざったそれは、アマネにとっては随分と久しぶりだった。
いや、アマネにとっては〝初めて〟だろうか。
「おい」
「は、はい! ごめんなさいっ」
「何謝ってんだぁ。京子を助けてくれたみてぇで、ありがとうなぁ」
「え、と、その」
「俺は二年の斑鳩だぁ。斑鳩アマネ」
「さ、沢田綱吉ですっ」
「とりあえず上着貸してやるから早く服を着なさい。女を助けられてもその後が決められねぇのは格好良くねぇよ」
初対面の先輩に話しかけられたからというのもあってか、目を白黒させながら沢田はアマネが差し出した上着を掴んで走り去っていった。ちゃんと上着を受け取る際にお礼を言えていたので、こんなところで全裸同然になるにしてはしっかりとした礼節を備えているらしい。
日本人にしては明るすぎて金にも近い茶髪の後ろ姿。ひょろりとして発達しきっていない体格は子供のそれだけれど、何となく『彼』を彷彿とさせた。
こんなところで会える訳がないのに。
こんなところでは話を聞く事すらないだろうに。
「沢田綱吉、ねぇ」
部屋の主が『群れる草食動物』が嫌いだという事が周知されている故に、他の場所よりも静まり返った応接室のある階の廊下。時折すれ違う学ラン姿の学生は、アマネを見て律儀に挨拶をする者と訝しげな視線を寄越す者とで半々だ。
そんな視線の一切を無視して向かった応接室の戸をノックして開ければ、部屋の主でありアマネの幼馴染である雲雀恭弥が窓際から階下を眺めていた。
「恭弥、今日の弁当」
「置いておいて」
「なんかあったのかぁ?」
「道場で笹川京子が大変なことになっているよ」
「あ? なんでぇ?」
「知らない」
恭弥の横から同じく階下を見下ろせば、なるほど隣接している道場の入口に生徒が集まって騒ぎが起こっていた。時々聞こえる大声はクラスメイトのそれの様な気もするが、距離があってハッキリとは分からない。
ともあれ今はもう二人いる幼馴染の内の一人である笹川京子だ。
「報告来てねぇの?」
「一応来たけど興味なかったかな」
どうでもよさげに言う恭弥は本当に心底どうでもいいのだろう。コイツの興味関心は強い相手にしか働かない。
「ちょっと様子見てくるぅ。弁当冷蔵庫入れといてくれぇ」
「やだ」
恭弥の否定が口に出される前に応接室の窓から飛び降りた。着地して応接室を見上げて手を振れば、肩をすくめた恭弥が窓際から見えなくなる。あの様子から弁当は無事に冷蔵庫へ入れられるだろう。ひっくり返されたりしないかは別として。
道場へ向かう道すがら野次馬の生徒達の会話から騒ぎの内容を把握していく。断片を集めていく度にじんわりと強くなっていく頭痛に眉を顰めつつ、辿り着いた先である道場の出入り口でアマネは中を確認するよりも先に怒鳴った。
「持田ぁ! テメェ京子を賞品扱いしやがったらしいなぁ! 今日は無事に帰れると思うなよこのスットコドッコイぃ!」
「げっ、斑鳩だ!」
アマネの声に道場の中に居た当事者達が振り返る。その中でも中心人物である筈のクラスメイト、持田は何故か頭部の毛を無くして倒れていた。
情報の断片を繋ぎ合わせて推測するに、事の始まりは持田が京子に横恋慕したことの様である。アマネから見ても天然待った無しの京子を彼女扱いするにはちゃんと自己紹介や告白といった段階を踏むべきだろうにそれもせず、勝手に『オレの女』扱い相して騒いでいたらしい。
あまつさえ剣道部の主将である自分を強いと思い込み、その得意な剣道で後輩に喧嘩を売り、なんやかんやで返り討ちに遭ったところでアマネが到着したようだった。
倒れている持田を剣道部の部員達が助け起こそうとしていて、アマネの姿にその手が止まっている。視界の端には何故かトランクス一枚の姿をした知らない男子生徒が居た。
「――ジョッ」
「アマネちゃん!」
トランクス姿の男子生徒を見て、思わず言いかけた名前は京子の声で飲み込む。駆け寄ってきた京子は笑顔で、怪我をしている様子や精神的に傷付いている様子も無いことに安堵した。
「京子。怪我はしてねぇなぁ? 今来たばかりで何も分かんねぇけど、とりあえず持田は後で説教しとくからなぁ」
「ううん。沢田君がやっつけてくれたからいいよ」
アマネが頭を撫でるのを甘受する京子が首を振る。
「さわだぁ?」
「同じクラスの沢田君」
そう言って京子が指差した先にはあのトランクス姿の男子生徒。京子から離れて歩み寄れば、何故かどこからともなくこちらを観察している様な視線を覚える。
観察というか訝しんでいるというか。悪意はないが少しの敵意と警戒が混ざったそれは、アマネにとっては随分と久しぶりだった。
いや、アマネにとっては〝初めて〟だろうか。
「おい」
「は、はい! ごめんなさいっ」
「何謝ってんだぁ。京子を助けてくれたみてぇで、ありがとうなぁ」
「え、と、その」
「俺は二年の斑鳩だぁ。斑鳩アマネ」
「さ、沢田綱吉ですっ」
「とりあえず上着貸してやるから早く服を着なさい。女を助けられてもその後が決められねぇのは格好良くねぇよ」
初対面の先輩に話しかけられたからというのもあってか、目を白黒させながら沢田はアマネが差し出した上着を掴んで走り去っていった。ちゃんと上着を受け取る際にお礼を言えていたので、こんなところで全裸同然になるにしてはしっかりとした礼節を備えているらしい。
日本人にしては明るすぎて金にも近い茶髪の後ろ姿。ひょろりとして発達しきっていない体格は子供のそれだけれど、何となく『彼』を彷彿とさせた。
こんなところで会える訳がないのに。
こんなところでは話を聞く事すらないだろうに。
「沢田綱吉、ねぇ」