閑話20
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薬局室の棚に、それは飾るように置かれていた。
飾るように、というよりは本当に飾られていたのだろう。それの見た目は寝そべる白澤の置物で、赤い敷布の上へおざなりに鎮座していた。
多分飾った人は大ざっぱだったのだなと思わせるそれは、中国とは言え一応薬の神なので薬局室に飾ったのだろうか。その証拠か隣には蛇が巻き付いた杯、ヒュギエイアの杯を模した置物が並んでいた。何となくバイト先の薬局の店長を思い出す。
磁器製の白澤の、ちょうどわき腹部分には三つの眼が開かれており、その内の二つはガラス玉がはめ込まれている。顔の部分の眼も同じくガラス玉で、しかし精巧な作りではあった。
わき腹の、残りの一つが問題だ。
「それ、同僚が四年前にフランスの中華街で買ってきたのよ。その同僚とは大崩落の時に別れたっきりだけど」
院長と一緒に付いてきていた眼鏡を掛けた白衣の女医が言う。病院内で何人も同じ姿を見て姉妹か何かと思ったが、目の前で分裂したのを見たのでおそらくは異界的要因でそうなっているのだ。何か理由があってそうなったのだろうが、本人は存外生き生きとしているので多分問題はない。
問題があるのは自分とこの置物だけだろうなと、シルビは女医に許可を取ってからその置物へ手を伸ばした。
そうして床へ叩きつける。
「ちょっと! ――え?」
盛大に割れ砕けた置物の破片の中から、ころりと丸い眼球が転がり出てきた。紫の瞳をしたそれはガラス玉と違ってとろみのような柔らかさがあるようで、シルビが拾い上げるとそれは普通の眼球と変わりなく見た目通り柔らかい。
指に力を入れれば握り潰せそうなそれを、シルビは手の上で転がしてから口へ含んだ。
涙が出そうな程味がせず、ただ気持ち悪い食感だけを与えてくるそれを無理矢理飲み込む。食道を通り抜ける違和感が抜けた後、シルビが意図して出した訳でもないのに左手を中心に【黒い炎】が燃え上がって消えた。
意識していないのに出てしまった角と尻尾に、女医が後退りかけてぐっと堪えている。それを横目にシルビはしゃがんで砕けた置物へ手を翳した。
【黒い炎】が破片を包み込むように燃え上がり、それが消えた後には元通りの、しかしわき腹の眼が一つポッカリと空いたままになってしまった置物を拾い上げ、棚の上へと戻す。
「ありがとう、ございました」
「アナタ、……平気?」
振り返って二人へ頭を下げれば女医がそう尋ねてきた。顔を上げて医者としてではなく人としてシルビのことを心配した彼女を見つめ、シルビは出来るだけ普通に微笑む。
嬉しいような悲しいような、気分だった。
飾るように、というよりは本当に飾られていたのだろう。それの見た目は寝そべる白澤の置物で、赤い敷布の上へおざなりに鎮座していた。
多分飾った人は大ざっぱだったのだなと思わせるそれは、中国とは言え一応薬の神なので薬局室に飾ったのだろうか。その証拠か隣には蛇が巻き付いた杯、ヒュギエイアの杯を模した置物が並んでいた。何となくバイト先の薬局の店長を思い出す。
磁器製の白澤の、ちょうどわき腹部分には三つの眼が開かれており、その内の二つはガラス玉がはめ込まれている。顔の部分の眼も同じくガラス玉で、しかし精巧な作りではあった。
わき腹の、残りの一つが問題だ。
「それ、同僚が四年前にフランスの中華街で買ってきたのよ。その同僚とは大崩落の時に別れたっきりだけど」
院長と一緒に付いてきていた眼鏡を掛けた白衣の女医が言う。病院内で何人も同じ姿を見て姉妹か何かと思ったが、目の前で分裂したのを見たのでおそらくは異界的要因でそうなっているのだ。何か理由があってそうなったのだろうが、本人は存外生き生きとしているので多分問題はない。
問題があるのは自分とこの置物だけだろうなと、シルビは女医に許可を取ってからその置物へ手を伸ばした。
そうして床へ叩きつける。
「ちょっと! ――え?」
盛大に割れ砕けた置物の破片の中から、ころりと丸い眼球が転がり出てきた。紫の瞳をしたそれはガラス玉と違ってとろみのような柔らかさがあるようで、シルビが拾い上げるとそれは普通の眼球と変わりなく見た目通り柔らかい。
指に力を入れれば握り潰せそうなそれを、シルビは手の上で転がしてから口へ含んだ。
涙が出そうな程味がせず、ただ気持ち悪い食感だけを与えてくるそれを無理矢理飲み込む。食道を通り抜ける違和感が抜けた後、シルビが意図して出した訳でもないのに左手を中心に【黒い炎】が燃え上がって消えた。
意識していないのに出てしまった角と尻尾に、女医が後退りかけてぐっと堪えている。それを横目にシルビはしゃがんで砕けた置物へ手を翳した。
【黒い炎】が破片を包み込むように燃え上がり、それが消えた後には元通りの、しかしわき腹の眼が一つポッカリと空いたままになってしまった置物を拾い上げ、棚の上へと戻す。
「ありがとう、ございました」
「アナタ、……平気?」
振り返って二人へ頭を下げれば女医がそう尋ねてきた。顔を上げて医者としてではなく人としてシルビのことを心配した彼女を見つめ、シルビは出来るだけ普通に微笑む。
嬉しいような悲しいような、気分だった。