閑話19
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五年前から時々、幾つかの夢を見る。それは誰かの、もしくは何かの視界を映している夢らしかった。
夢の中でシルビは声を聞く。聞いたことのある言語である時もあれば、漠然とした理解は出来るが聞いたことのない響きの時もあり、それは夢の中の視界を体感している何かの周囲の音だった。
感情はその何かではなく、シルビのものだ。見える光景を寂しいと思えば楽しいと思う時もあり、既視感を覚える時もあれば息が止まりそうな程美しいと思う時もあった。
シルビはそれを覚えていようと思うのに、目を覚ますとどうしても忘れてしまうのである。最初の頃は殆ど毎日、それこそ二十四時間三百六十五日の大半をその夢の中で過ごしていたというのに。
やがて『一つ目の眼』が友人達の尽力によって取り戻され、見ていた夢の一つを見なくなった。
やがて『二つ目の眼』が知人達の努力によって取り戻され、見ていた夢の一つをまた見なくなった。
そうして悟ったのは、あの幾つかの夢は『奪われた眼が見ている光景』なのだということ。
けれどもシルビはその夢から『残りの眼』の場所を推理しようとは思わなかったし、誰かへ話すこともしなかった。理由はシルビ自身うまく説明出来ない。
そんなことをせずともいつか必ず『眼』が揃うと思っているからかも知れなかったし、夢で見るその光景が惜しかったのかも知れなかった。だってそれは今のシルビには決して見られないはずのものだ。そしてその光景を見ている『眼』が戻ってきたら、もう見られない夢である。
『眼』と一緒に力を失って一番苦労したのはシルビだし、周りの皆へも多大な迷惑を掛けたからそんなことは公言できないが。
「……本?」
眼を覚まして朧気に覚えている夢へついて考える。前は雑多な露天で、中華風の雑貨と一緒に道を往く人を見ていた夢だったが、四年前のある時から場所が移動して、何処かの建物の一室からドアに付いた磨り硝子の向こうの者達を眺めているものへと変わっていた。
三年前からその夢は見なくなっていたのに、今日になって再び見たのである。目の前に細い針金で支えられた本が立っていたのが印象的で、むしろそれに驚いて起きたといってもいい。
何を教えたいのかも何をさせたいのかも分からない夢だ。けれどもシルビはその夢について意味を求めたことはない。そう『在る』だけ。
携帯のアラームが鳴って起床時間を知らせる。今日は薬局のバイトもモルツォグァッツァでのバイトも入っていない。
五年前から幾つかの夢を見る。それはシルビの、奪われた『眼』が映している視界の夢だった。
夢の中でシルビは声を聞く。聞いたことのある言語である時もあれば、漠然とした理解は出来るが聞いたことのない響きの時もあり、それは夢の中の視界を体感している何かの周囲の音だった。
感情はその何かではなく、シルビのものだ。見える光景を寂しいと思えば楽しいと思う時もあり、既視感を覚える時もあれば息が止まりそうな程美しいと思う時もあった。
シルビはそれを覚えていようと思うのに、目を覚ますとどうしても忘れてしまうのである。最初の頃は殆ど毎日、それこそ二十四時間三百六十五日の大半をその夢の中で過ごしていたというのに。
やがて『一つ目の眼』が友人達の尽力によって取り戻され、見ていた夢の一つを見なくなった。
やがて『二つ目の眼』が知人達の努力によって取り戻され、見ていた夢の一つをまた見なくなった。
そうして悟ったのは、あの幾つかの夢は『奪われた眼が見ている光景』なのだということ。
けれどもシルビはその夢から『残りの眼』の場所を推理しようとは思わなかったし、誰かへ話すこともしなかった。理由はシルビ自身うまく説明出来ない。
そんなことをせずともいつか必ず『眼』が揃うと思っているからかも知れなかったし、夢で見るその光景が惜しかったのかも知れなかった。だってそれは今のシルビには決して見られないはずのものだ。そしてその光景を見ている『眼』が戻ってきたら、もう見られない夢である。
『眼』と一緒に力を失って一番苦労したのはシルビだし、周りの皆へも多大な迷惑を掛けたからそんなことは公言できないが。
「……本?」
眼を覚まして朧気に覚えている夢へついて考える。前は雑多な露天で、中華風の雑貨と一緒に道を往く人を見ていた夢だったが、四年前のある時から場所が移動して、何処かの建物の一室からドアに付いた磨り硝子の向こうの者達を眺めているものへと変わっていた。
三年前からその夢は見なくなっていたのに、今日になって再び見たのである。目の前に細い針金で支えられた本が立っていたのが印象的で、むしろそれに驚いて起きたといってもいい。
何を教えたいのかも何をさせたいのかも分からない夢だ。けれどもシルビはその夢について意味を求めたことはない。そう『在る』だけ。
携帯のアラームが鳴って起床時間を知らせる。今日は薬局のバイトもモルツォグァッツァでのバイトも入っていない。
五年前から幾つかの夢を見る。それはシルビの、奪われた『眼』が映している視界の夢だった。