閑話17
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宴席があった為に普段とは違う予定で動いていたので、もしかしたらと思ってライブラの事務所へ向かうと、案の定と言うべきか皺だらけになった礼服のまま、疲れ切った様子でソファやイスへ座り込んでいるライブラの面々が揃っていた。
比較的無事なのは流石というべきかクラウスと、何故かレオである。
「そんなに辛ぇ宴席だったんですかぁ?」
「……宴席自体は成功だったな」
息も絶え絶え、といった風でありながらも返してくるスティーブンに、クラウスがおろおろしていた。ソファでは珍しくザップとチェインが並んで座り込んでいるが、互いに言い合う気力もないらしい。一人掛けのイスへ沈んでいるK・Kは、誰に言うでもなく何かを呟き続けていた。
シルビは賄いでしかモルツォグァッツァの料理を食べたことはないし、一度もそんなことを経験した覚えも無かったが、あのレストランの料理は俗に『人を狂わす』と言われる程の衝撃を食べた者へ与える。らしい。
その暴力的なまでに味覚を揺さぶる料理のお陰で、客はトランス状態に陥りコースの最後へまで至れない者が現れるのだ。場合によっては最初の一口で陥落する事もあるらしい。
陥落やトランスは勝手だが、せっかく作ったデザートを食べてもらえなかったのはやはり寂しかったのだ。
「ギルベルトさんに食べてもらおうと思って持ってきたんですけど、看病で忙しいですか?」
「いえ、大丈夫ですよ。私にですか?」
「ええ。ギルベルトさんは“来れなかったでしょう”?」
持っていた箱を傍へ来たギルベルトへ渡す。
「バイト先で余ったデザートなんです。本当は持ち出し禁止なんですけど、料理長直々に『二個ぐらいバレない』って言われたので。今日中に食べれば問題無ぇと思いますし」
「おやおや。では早速頂かねばですな」
にこにこと箱を抱えて食器を用意しにいくギルベルトを見送って、シルビは死屍累々と化しているライブラのメンバーを見やった。少し休んだからかシルビが来た直後よりは回復している。
スーツが皺になるから着替えてから休めばいいのに、と思うがその為に動くのも辛いのか。とりあえずツェッドを水槽へ放り込むかとソファへ寄りかかって床に座り込み、うなだれているツェッドの腕を引いて立たせた。疲れ切ってはいるが特に身体へ異常などは無いようである。
「ほら、寝られるならもう寝ちまっていいからぁ」
「……すみません」
「レオ君ちょっと手伝ってくれるかぁ?」
「あ、うん」
チェインにタオルケットを掛けていたレオの駆け寄ってくる姿に、ツェッドへ肩を貸しながら眺めて思った。
「……レオ君ってさぁ、スーツ」
「分かってるよ似合ってねーよ!」
「なんだかもの凄く疲れましたね」
「食べただけであんなに疲れるなんて思わねーっすよねー」
「次期国王も一緒だったっていう緊張はぁ?」
「それがさ、イメージしてたよりもフツーっていうか、それよりスティーブンさんの方が最初は怖かった」
「ああ、ちょっと分かりますそれ」
「どんだけ粗相心配してんだぁあの人」
疲れ切って這々の体で水槽へ入って一息吐いたツェッドと少し話し、レオと一緒に皆のいる執務室へ戻ればギルベルトがデザートを皿へ移して戻ってきていた。スティーブンが顔を上げているがまだ目が死んでいる。
ソファの前のローテーブルにはシルビの分なのか皿に盛り付けられたデザート。ギルベルトは空いていたソファの席へ座って、今まさに一口目を食べようとしていた。
「シルビさん。お先に頂きますね」
「あ、ギルベルトさん。それ――」
フォークの先を口に含んだ途端、ギルベルトの動きが止まる。包帯の隙間で見開かれた目に、様子がおかしいと気付いたクラウスが慌てて近づいた。
「ギルベルト!?」
「――……、だ、大丈夫です坊ちゃま」
皿を置いて心配するクラウスを宥めつつ、ギルベルトが口を押さえていた手をゆるゆると降ろして見つめている。シルビとしては不味かったのかと首を傾げた。
元から変な物が入っていたのではという心配はしていない。レストランから持ってくる間に悪くなっていたにしても、一口目で分かる程悪くなっているとは思えなかった。
「美味しくありませんでした? 無理なら食べなくていいですから」
「いえ、とても美味しいですよシルビさん。美味しすぎて身体が即死状態に陥ったと勘違いしただけですから」
「嫌な勘違いだなオイ! ――じゃない!そんなに美味いんすか!?」
「美味しいのかって、“食べなかった”のかぁ?」
驚いているレオへ聞けば、レオだけではなくスティーブンも不思議そうにシルビへと振り向く。レオはともかくスティーブンは気づいても良さそうなものだが。
「モルツォグァッツァに“来たんでしょう”?」
「――はぁああああああ!?」
叫ぶスティーブンの声にザップとK・Kが飛び起きていた。敵襲か出動かと慌てて周囲を見回す二人は、流石疲れ切っていても世界の均衡を守る組織の一員だ。
レオも【神々の義眼】をさらけ出すように目を見開いてシルビを凝視しているし、クラウスもギルベルトの背へ手を添えながらシルビを見ていた。
「レストランでバイトしてるって言ったじゃねぇですか」
比較的無事なのは流石というべきかクラウスと、何故かレオである。
「そんなに辛ぇ宴席だったんですかぁ?」
「……宴席自体は成功だったな」
息も絶え絶え、といった風でありながらも返してくるスティーブンに、クラウスがおろおろしていた。ソファでは珍しくザップとチェインが並んで座り込んでいるが、互いに言い合う気力もないらしい。一人掛けのイスへ沈んでいるK・Kは、誰に言うでもなく何かを呟き続けていた。
シルビは賄いでしかモルツォグァッツァの料理を食べたことはないし、一度もそんなことを経験した覚えも無かったが、あのレストランの料理は俗に『人を狂わす』と言われる程の衝撃を食べた者へ与える。らしい。
その暴力的なまでに味覚を揺さぶる料理のお陰で、客はトランス状態に陥りコースの最後へまで至れない者が現れるのだ。場合によっては最初の一口で陥落する事もあるらしい。
陥落やトランスは勝手だが、せっかく作ったデザートを食べてもらえなかったのはやはり寂しかったのだ。
「ギルベルトさんに食べてもらおうと思って持ってきたんですけど、看病で忙しいですか?」
「いえ、大丈夫ですよ。私にですか?」
「ええ。ギルベルトさんは“来れなかったでしょう”?」
持っていた箱を傍へ来たギルベルトへ渡す。
「バイト先で余ったデザートなんです。本当は持ち出し禁止なんですけど、料理長直々に『二個ぐらいバレない』って言われたので。今日中に食べれば問題無ぇと思いますし」
「おやおや。では早速頂かねばですな」
にこにこと箱を抱えて食器を用意しにいくギルベルトを見送って、シルビは死屍累々と化しているライブラのメンバーを見やった。少し休んだからかシルビが来た直後よりは回復している。
スーツが皺になるから着替えてから休めばいいのに、と思うがその為に動くのも辛いのか。とりあえずツェッドを水槽へ放り込むかとソファへ寄りかかって床に座り込み、うなだれているツェッドの腕を引いて立たせた。疲れ切ってはいるが特に身体へ異常などは無いようである。
「ほら、寝られるならもう寝ちまっていいからぁ」
「……すみません」
「レオ君ちょっと手伝ってくれるかぁ?」
「あ、うん」
チェインにタオルケットを掛けていたレオの駆け寄ってくる姿に、ツェッドへ肩を貸しながら眺めて思った。
「……レオ君ってさぁ、スーツ」
「分かってるよ似合ってねーよ!」
「なんだかもの凄く疲れましたね」
「食べただけであんなに疲れるなんて思わねーっすよねー」
「次期国王も一緒だったっていう緊張はぁ?」
「それがさ、イメージしてたよりもフツーっていうか、それよりスティーブンさんの方が最初は怖かった」
「ああ、ちょっと分かりますそれ」
「どんだけ粗相心配してんだぁあの人」
疲れ切って這々の体で水槽へ入って一息吐いたツェッドと少し話し、レオと一緒に皆のいる執務室へ戻ればギルベルトがデザートを皿へ移して戻ってきていた。スティーブンが顔を上げているがまだ目が死んでいる。
ソファの前のローテーブルにはシルビの分なのか皿に盛り付けられたデザート。ギルベルトは空いていたソファの席へ座って、今まさに一口目を食べようとしていた。
「シルビさん。お先に頂きますね」
「あ、ギルベルトさん。それ――」
フォークの先を口に含んだ途端、ギルベルトの動きが止まる。包帯の隙間で見開かれた目に、様子がおかしいと気付いたクラウスが慌てて近づいた。
「ギルベルト!?」
「――……、だ、大丈夫です坊ちゃま」
皿を置いて心配するクラウスを宥めつつ、ギルベルトが口を押さえていた手をゆるゆると降ろして見つめている。シルビとしては不味かったのかと首を傾げた。
元から変な物が入っていたのではという心配はしていない。レストランから持ってくる間に悪くなっていたにしても、一口目で分かる程悪くなっているとは思えなかった。
「美味しくありませんでした? 無理なら食べなくていいですから」
「いえ、とても美味しいですよシルビさん。美味しすぎて身体が即死状態に陥ったと勘違いしただけですから」
「嫌な勘違いだなオイ! ――じゃない!そんなに美味いんすか!?」
「美味しいのかって、“食べなかった”のかぁ?」
驚いているレオへ聞けば、レオだけではなくスティーブンも不思議そうにシルビへと振り向く。レオはともかくスティーブンは気づいても良さそうなものだが。
「モルツォグァッツァに“来たんでしょう”?」
「――はぁああああああ!?」
叫ぶスティーブンの声にザップとK・Kが飛び起きていた。敵襲か出動かと慌てて周囲を見回す二人は、流石疲れ切っていても世界の均衡を守る組織の一員だ。
レオも【神々の義眼】をさらけ出すように目を見開いてシルビを凝視しているし、クラウスもギルベルトの背へ手を添えながらシルビを見ていた。
「レストランでバイトしてるって言ったじゃねぇですか」