―王様のレストランの王様―
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「あ、すいません俺それパスでぇ」
言った途端のスティーブンの顔と言ったら。
事の始まりはアラビア半島にある国、フリージャの次期国王が極秘にヘルサレムズ・ロットへ来訪する事にあった。次期国王という地位である為、当然その立場や安全面を考えれば本来一般市民がその面前へ立つのは許されない事である。一国の王とその一族というのは、国の象徴であり代表であり、彼等が貶されるのは国を貶されるも同じ事。そこに不作法や無礼講などがあってはならず、一般人からすれば雲の上の存在も同じ。
それは世界の均衡を守っているとは言え、ライブラのメンバーへも言えることであった。
その本来普通に生きていればすれ違うことすら無い立場の相手との対面が行われる事になったのは、少し前にライブラがそのフリージャ国の危機に関する問題を解決した為であり、その活躍から今後の活躍に対し金銭的援助を打診されたからである。つまりはスポンサーになる前のライブラという組織の見極めとでも言えばいいのか。
ちなみにシルビがライブラへ派遣されることになった切っ掛けである『復讐者』は、そういったまどろっこしい真似はせずに過去の経歴を見ただけでスポンサーになったと聞いたことがある。正直横着ではないかと思ったが、シルビ以外は人前へ出たがらない面々が揃っているので、半分は仕方なかったのかも知れない。
話を戻してフリージャ次期国王との会食の話であるが、ライブラのミーティングルームで副官であるスティーブンからその会食の予定を話に出されて、そもそも『フリージャ国』と聞いた段階で、シルビは断るつもりだった。
「パスってお前。そんな簡単に……」
「簡単に言ったのは謝ります。でも申し訳ありませんけど、俺にも事情ってモンがあるんですよ」
出来るだけ申し訳なさそうに、出来るだけその会食の価値が分かっていないといった体を装って答えれば、近くで聞いていたザップが馬鹿にしたようにシルビを見る。
「はーん? 相手が次期国王だってんでビビってんのか?」
「そーいうザップさんこそビビってんじゃねーっすか?」
「んだとレオ」
「まぁ黙れ二人とも。シルビも事情があるなら仕方ないしな」
思ったよりもあっさりと引いてくれたスティーブンはそれでも残念そうだった。だがシルビとしてもその国の重鎮に会うわけにはいかない。
正しくは、『シルビ・T・グラマト』として顔を出す訳にはいかないのである。
その宴席の報告だけだったらしいミーティングを終えてそれぞれが今日の仕事へと動き出していくのに、紅茶を淹れて寄ってきたギルベルトにシルビは話しかけられた。
「お会いしたことがおありで?」
「……そうですね。何度か」
こっそりと聞かれて是と答える。シルビはフリージャ次期国王に会ったことがあった。
無論、その時の名前は『シルビ』ではなく本名の方だが、世界の重鎮や金持ちやらの集められた社交界や会合では、シルビは最低限にしか顔を出さないがこの黒い長髪と紫の眼は珍しく目立つ部類に入る。それにシルビが背負っている肩書きのこともあって、一度しか同じ会合へ参加したことのない者でもシルビを覚えていることが多々あった。
好きこのんでそんな立場を得た訳ではなく、結果的にそうなってしまったのだが、そういった関わりが多いことは確かである。フリージャ国の国王と王子も確かそういう関係で会ったことがあり、故にライブラの構成員であるシルビがその宴席へ赴いたとなれば、ライブラへの感謝や出資などそっちのけで、シルビの本名に関する方の活動の話が出てくることは間違いがないだろう。
それだけシルビの『本名』は厄介だ。
「自慢か」
店先に持ち出した七輪でイカを炙っていた店長が呟く。その隣にはシルビのもう一つのバイト先であるレストランの料理長が居て、イカが焼けるのを今か今かと待っていた。
「自慢だったらもっと仰々しく言いますよ」
「お前の本名なんざHLで知ってる奴は一握りしかいねーよ」
「知ってる人が言ってもなぁ」
「■■■? ■■■■」
「そーだよ。コイツアンタの店で一ヶ月ぐらい飯食える金持ちだよ」
「■■! ■■■■■」
「あっテメ! そのイカはオレんだ!」
炙れたらしいイカの足が宙に跳ぶのを入り口越しに眺めつつ、シルビはカウンターで頬杖を突く。店長がシルビの本名を知っているのは彼がジャパニーズフリークで、日本の財閥についても調べたことがあるかららしい。ラインヘルツ家の執事であるギルベルトの情報収集力ならともかく、一般人がちょっと調べた程度では情報操作されていて出てこない筈なのだが、大分しっかりと調べたものである。そのくせいつもは中国文化や韓国製などを混同するし、興味に対する熱意の方向がよく分からなかった。
最初の炙ったイカを勝ち取って齧っていた料理長が振り返る。
「■■■?」
「え? ああ、そうですね。その日は急な予定が入らなけりゃ暇でしょう」
「■■、■■■■?」
「行け行け。稼いでこいや」
二本目に完成した炙りイカを銜えてシルビを見た店長は、シルビが稼いだところでこの店の利益になるという訳でもないのに適当なことを言う。
「別にいいですけど、お手当でますぅ?」
「■!」
親指をグッ、と立てる料理長はこんな町中の薬局の前で炙りイカを食っているとはいえ、これでもシルビには到底及べない料理のセンスを持った高級料理店の料理長だった。
言った途端のスティーブンの顔と言ったら。
事の始まりはアラビア半島にある国、フリージャの次期国王が極秘にヘルサレムズ・ロットへ来訪する事にあった。次期国王という地位である為、当然その立場や安全面を考えれば本来一般市民がその面前へ立つのは許されない事である。一国の王とその一族というのは、国の象徴であり代表であり、彼等が貶されるのは国を貶されるも同じ事。そこに不作法や無礼講などがあってはならず、一般人からすれば雲の上の存在も同じ。
それは世界の均衡を守っているとは言え、ライブラのメンバーへも言えることであった。
その本来普通に生きていればすれ違うことすら無い立場の相手との対面が行われる事になったのは、少し前にライブラがそのフリージャ国の危機に関する問題を解決した為であり、その活躍から今後の活躍に対し金銭的援助を打診されたからである。つまりはスポンサーになる前のライブラという組織の見極めとでも言えばいいのか。
ちなみにシルビがライブラへ派遣されることになった切っ掛けである『復讐者』は、そういったまどろっこしい真似はせずに過去の経歴を見ただけでスポンサーになったと聞いたことがある。正直横着ではないかと思ったが、シルビ以外は人前へ出たがらない面々が揃っているので、半分は仕方なかったのかも知れない。
話を戻してフリージャ次期国王との会食の話であるが、ライブラのミーティングルームで副官であるスティーブンからその会食の予定を話に出されて、そもそも『フリージャ国』と聞いた段階で、シルビは断るつもりだった。
「パスってお前。そんな簡単に……」
「簡単に言ったのは謝ります。でも申し訳ありませんけど、俺にも事情ってモンがあるんですよ」
出来るだけ申し訳なさそうに、出来るだけその会食の価値が分かっていないといった体を装って答えれば、近くで聞いていたザップが馬鹿にしたようにシルビを見る。
「はーん? 相手が次期国王だってんでビビってんのか?」
「そーいうザップさんこそビビってんじゃねーっすか?」
「んだとレオ」
「まぁ黙れ二人とも。シルビも事情があるなら仕方ないしな」
思ったよりもあっさりと引いてくれたスティーブンはそれでも残念そうだった。だがシルビとしてもその国の重鎮に会うわけにはいかない。
正しくは、『シルビ・T・グラマト』として顔を出す訳にはいかないのである。
その宴席の報告だけだったらしいミーティングを終えてそれぞれが今日の仕事へと動き出していくのに、紅茶を淹れて寄ってきたギルベルトにシルビは話しかけられた。
「お会いしたことがおありで?」
「……そうですね。何度か」
こっそりと聞かれて是と答える。シルビはフリージャ次期国王に会ったことがあった。
無論、その時の名前は『シルビ』ではなく本名の方だが、世界の重鎮や金持ちやらの集められた社交界や会合では、シルビは最低限にしか顔を出さないがこの黒い長髪と紫の眼は珍しく目立つ部類に入る。それにシルビが背負っている肩書きのこともあって、一度しか同じ会合へ参加したことのない者でもシルビを覚えていることが多々あった。
好きこのんでそんな立場を得た訳ではなく、結果的にそうなってしまったのだが、そういった関わりが多いことは確かである。フリージャ国の国王と王子も確かそういう関係で会ったことがあり、故にライブラの構成員であるシルビがその宴席へ赴いたとなれば、ライブラへの感謝や出資などそっちのけで、シルビの本名に関する方の活動の話が出てくることは間違いがないだろう。
それだけシルビの『本名』は厄介だ。
「自慢か」
店先に持ち出した七輪でイカを炙っていた店長が呟く。その隣にはシルビのもう一つのバイト先であるレストランの料理長が居て、イカが焼けるのを今か今かと待っていた。
「自慢だったらもっと仰々しく言いますよ」
「お前の本名なんざHLで知ってる奴は一握りしかいねーよ」
「知ってる人が言ってもなぁ」
「■■■? ■■■■」
「そーだよ。コイツアンタの店で一ヶ月ぐらい飯食える金持ちだよ」
「■■! ■■■■■」
「あっテメ! そのイカはオレんだ!」
炙れたらしいイカの足が宙に跳ぶのを入り口越しに眺めつつ、シルビはカウンターで頬杖を突く。店長がシルビの本名を知っているのは彼がジャパニーズフリークで、日本の財閥についても調べたことがあるかららしい。ラインヘルツ家の執事であるギルベルトの情報収集力ならともかく、一般人がちょっと調べた程度では情報操作されていて出てこない筈なのだが、大分しっかりと調べたものである。そのくせいつもは中国文化や韓国製などを混同するし、興味に対する熱意の方向がよく分からなかった。
最初の炙ったイカを勝ち取って齧っていた料理長が振り返る。
「■■■?」
「え? ああ、そうですね。その日は急な予定が入らなけりゃ暇でしょう」
「■■、■■■■?」
「行け行け。稼いでこいや」
二本目に完成した炙りイカを銜えてシルビを見た店長は、シルビが稼いだところでこの店の利益になるという訳でもないのに適当なことを言う。
「別にいいですけど、お手当でますぅ?」
「■!」
親指をグッ、と立てる料理長はこんな町中の薬局の前で炙りイカを食っているとはいえ、これでもシルビには到底及べない料理のセンスを持った高級料理店の料理長だった。