閑話14
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「なんて曲?」
「……日本のOTAKUが作った歌ですよ。今度CDを差し入れましょう」
「もう一回弾けよ」
ブローディに言われて、持ってきた電子キーボードの鍵盤へ指を滑らせる。ハマーがそれを聞きながらクラウスによって差し入れられた絵筆を動かすのに、シルビは視線を投げてから自身の手元へ顔を戻した。
あれから数日経って、ヘルサレムズ・ロットは巨大な異界人が現れるなんて騒動も無かったかのように、喧騒と混沌との日常へと戻っている。リ・ガドはまだライブラの事務所でレオやスティーブン相手に何かを語っていて、リールはレオの掌へ乗るくらいに小さくなって戻ってきていた。体組織の急激な進化の反動による縮小化で、無理に戻さずとも自然治癒で治る筈である。
シルビはスティーブンとクラウスに、正確には主にスティーブンへ青い炎についての説明を求められたが、ブローディ&ハマーを迎えに来たネバーヘイワーズ獄長が何処から見ていたのか『流石は『復讐者』の拘束術』と多少間違いのある賞賛をしてくれたので、【雨の炎】についてはそれでどうにか誤魔化した。
レオの【神々の義眼】への干渉については、まだ説明が出来ていない。したくないと態度で示しているせいか向こうからも聞いてくる気配は来なかった。
本当は非常に訊きたいのだろうなと思うのだけれど、言えることなんて殆ど無い。
「楽譜見ないで弾くのって、暗譜ていうんだっけ? よく覚えてるよねー」
「昔にも弾いた曲ですし」
絵を描く事は出来ないし議論も苦手なのでのその代わりに、と楽器演奏を申し出たのはシルビからだった。声楽も不得手だが楽器演奏だけは褒められた事もあって、一度弾いた曲なら楽譜も覚えている。
「ボクだったら忘れちゃうな」
「お前はアリギュラのことも忘れてたしな」
「……。やっぱり、忘れるのが普通なのかなぁ」
カンパスの上を滑らせていた筆を止めて、ハマーとブローディがシルビを振り返った。
「だとしたら俺はやっぱり『化け物』だよなぁ。こんなんが『友達』とか笑える……」
「オメー面倒クセー奴だな」
「知ってる。よく言われる」
「シルビ君は何に悩んでるの?」
「ドグ。コイツは自分が変なのに友達いるのが不思議で仕方ねーってだけだ。気にスンナ」
「へー、シルビ君って変なんだ!」
「……悪いな嬢ちゃん。他意はねーんだ」
何故か極悪人がフォローをしているのがおかしい。
「でもボクもデルドロも変だからおあいこだね。クラウス兄ちゃんも血から十字架出すし、レオ君も目から綺麗な奴出すし。だからいいんじゃない?」
「……何がですか」
ハマーが楽しげに笑うのに、シルビは何がおかしいのか分からなかった。
「HLで変だとか気にしてたらさ、せっかく綺麗なその髪がハゲちゃうよ」
アサイラムを出たその足でライブラの事務所へ向かえば、扉を開けた途端申し訳無さそうに落ち込んでいるチェインが見えた。その前では退院したばかりでまだギブスや包帯の取れていないザップが、怒っているのか呆れているのか分からないがとりあえず不満そうな顔をしている。
「おうおうシルビ! オメーも言ってやれ。この犬女によぉ!」
「……何の話ですか」
ザップにではなく近くを通り抜けたギルベルトへ尋ねれば、ギルベルトは微笑を浮かべつつしかし呆れを滲ませながら、先のリール巨大化騒動の際にチェインが出動出来なかった理由をザップが論っているのだと教えてくれた。ケースに入れて肩から提げていた電子キーボードをギルベルトへ渡しながらザップを見れば、ザップは完全に言い掛かりをする子供の顔だ。
コレで一応シルビより肉体年齢は年上である。
勝手に落ち込んでいたとはいえ、ブローディ&ハマーとの会話もしてきて疲れているというのに、レオに自身が現場へ来なかった理由を言われて焦っているザップは、黙る様子が無かった。
「チェインさん」
落ち込んで神妙にしているチェインを呼べば、申し訳無さそうなチェインが振り返ってシルビを見る。それに近付いて彼女の手をとって微笑みかければチェインの背後でレオとザップがこちらを見た。
「……そんなに落ち込む必要はありません。貴女だっていつも頑張ってくれているのですから、たまにはそんな失敗をしたほうが人間らしいでしょう。俺達だって、そうしてやっぱり貴女がいることの大切さを再認識するのですから」
「でも、皆が頑張ってたのに」
「ええ、だから次は一緒に頑張りましょう」
掴んでいる手へやんわり力を入れて握る。チェインへ向ける笑顔の裏で、シルビはお前にこそ『次は一緒に』があると思っているのかと非難してくる内心の声を聞いていたが、チェインはシルビを見つめた後、反省して落ち込む事は止めたようで微笑んでシルビの手を離した。
クラウスがそれを見て満足そうに背後へ花を飛ばしている。本当に雰囲気が雄弁に物を語る人だ。ザップは入院中に看護婦へ手を出していたとバラしていたレオの頭を踏みつけていたが、チェインが立ち直ったのを見てつまらなそうに舌打ちを零していた。とはいえ本気でチェインを責める気は最初から無かったのだろう。
代わりに、シルビへの傍へ来てチェインを押しのけシルビの頬を摘まみ上げた。
「いふぇぇいふぇぇ!」
「お前はお前でなぁんかスゲー大技披露したらしいじゃねーの? ちょっとオレにも見せろや」
現場で見たわけでは無いから、レオやツェッドからの伝聞と多分戻ってきたシルビの様子から突っかかりに行ったんだろうなとレオは思った。ザップはスティーブンの言葉を借りれば度し難い程のクズだが、そういうところは妙に聡い。
上空から見た巨大化したリールさんの足へ絡みつく青い炎。ツェッドと後から話をして分かった事だが、ツェッド達にはその青い炎と一緒に鎖が見えていたらしい。遠かったからという訳でもないだろうが、レオにはその鎖は見えなかった。
その青い炎はシルビが出していたらしい。クラウスやスティーブンもシルビがそんな事を出来るとは聞いていなかったらしくて、事後処理の合間にシルビを追究していたのを見た。ただそれは、ブローディ&ハマーが収獄されているアサイラムの獄長の話だと、シルビが属している『復讐者』の拘束術らしい。【空間転移】だけではなかったのかと驚くと同時に、犯罪者を監視する組織なんだから逃亡防止に拘束術とか当たり前だろと納得した。
納得出来なかったのはその後、シルビがレオから【神々の義眼】の使い過ぎによる熱と頭痛を鎮めたことである。
確かに以前、レオの【義眼】を覗き込んで干渉がどうとか負担軽減がどうどかと言っていた。でも同時に【義眼】に関する事は知らないとも言っていたのだ。
世界の均衡を守る秘密結社でも殆ど【神々の義眼】へ関する情報は無くて、ましてやシルビがレオへ行なったように『干渉』なんて、今まで調べた何処にも記録に無かった。
じゃあそれが出来るシルビは、本当に【神々の義眼】のことを知らないのかとか、思って。
「でぃひゃひゃひゃ! 伸びる伸びる!」
「ひゃっふさん! いいひゃへんいしねぇとおろふふぉ!」
「ああん? 何言ってんだ? あ?」
「っ……ふぉのっ!」
両手で頬を摘まんで伸ばしていたザップの腕を掴んでいたシルビが、もう我慢してられないとばかりにザップの顔へ手を伸ばした。アイアンクローの様にザップの顔を掴んだかと思うと、その手から青い炎が燃え上がる。
「ぶふぅ!?」
「っ、暫く動けなくなってろぉ!」
ビタンと床へ倒れ伏したザップは、痙攣こそすれピクリとも動かない。レオが見ると深く息を吐いて呼吸を整えたシルビと目が合い、一拍程動きを止めてから眼を逸らされる。
あ、コレまた面倒くさい奴だと悟った。ザップ達の師匠である汁外衛と知り合いだった事がバレた時のような、その類の。
色々気になっているのはこっちだというのに。
「シルビ!」
「ぅおっ、はい!?」
「昼飯行こーぜ。ツェッドさんも誘って」
振り向いたシルビが驚いている。その足元でザップが小さく唸っているのは『自分も行く』という意思表示だろうか。
少し安心したような、何処か困ったような顔で頷いたシルビに、レオは内心で呆れ交じりのため息を吐く。
弟妹のいる『兄』というのは我慢強い。だから友達の前でなら少しくらい遠慮なんてするものではないのだ。
「……日本のOTAKUが作った歌ですよ。今度CDを差し入れましょう」
「もう一回弾けよ」
ブローディに言われて、持ってきた電子キーボードの鍵盤へ指を滑らせる。ハマーがそれを聞きながらクラウスによって差し入れられた絵筆を動かすのに、シルビは視線を投げてから自身の手元へ顔を戻した。
あれから数日経って、ヘルサレムズ・ロットは巨大な異界人が現れるなんて騒動も無かったかのように、喧騒と混沌との日常へと戻っている。リ・ガドはまだライブラの事務所でレオやスティーブン相手に何かを語っていて、リールはレオの掌へ乗るくらいに小さくなって戻ってきていた。体組織の急激な進化の反動による縮小化で、無理に戻さずとも自然治癒で治る筈である。
シルビはスティーブンとクラウスに、正確には主にスティーブンへ青い炎についての説明を求められたが、ブローディ&ハマーを迎えに来たネバーヘイワーズ獄長が何処から見ていたのか『流石は『復讐者』の拘束術』と多少間違いのある賞賛をしてくれたので、【雨の炎】についてはそれでどうにか誤魔化した。
レオの【神々の義眼】への干渉については、まだ説明が出来ていない。したくないと態度で示しているせいか向こうからも聞いてくる気配は来なかった。
本当は非常に訊きたいのだろうなと思うのだけれど、言えることなんて殆ど無い。
「楽譜見ないで弾くのって、暗譜ていうんだっけ? よく覚えてるよねー」
「昔にも弾いた曲ですし」
絵を描く事は出来ないし議論も苦手なのでのその代わりに、と楽器演奏を申し出たのはシルビからだった。声楽も不得手だが楽器演奏だけは褒められた事もあって、一度弾いた曲なら楽譜も覚えている。
「ボクだったら忘れちゃうな」
「お前はアリギュラのことも忘れてたしな」
「……。やっぱり、忘れるのが普通なのかなぁ」
カンパスの上を滑らせていた筆を止めて、ハマーとブローディがシルビを振り返った。
「だとしたら俺はやっぱり『化け物』だよなぁ。こんなんが『友達』とか笑える……」
「オメー面倒クセー奴だな」
「知ってる。よく言われる」
「シルビ君は何に悩んでるの?」
「ドグ。コイツは自分が変なのに友達いるのが不思議で仕方ねーってだけだ。気にスンナ」
「へー、シルビ君って変なんだ!」
「……悪いな嬢ちゃん。他意はねーんだ」
何故か極悪人がフォローをしているのがおかしい。
「でもボクもデルドロも変だからおあいこだね。クラウス兄ちゃんも血から十字架出すし、レオ君も目から綺麗な奴出すし。だからいいんじゃない?」
「……何がですか」
ハマーが楽しげに笑うのに、シルビは何がおかしいのか分からなかった。
「HLで変だとか気にしてたらさ、せっかく綺麗なその髪がハゲちゃうよ」
アサイラムを出たその足でライブラの事務所へ向かえば、扉を開けた途端申し訳無さそうに落ち込んでいるチェインが見えた。その前では退院したばかりでまだギブスや包帯の取れていないザップが、怒っているのか呆れているのか分からないがとりあえず不満そうな顔をしている。
「おうおうシルビ! オメーも言ってやれ。この犬女によぉ!」
「……何の話ですか」
ザップにではなく近くを通り抜けたギルベルトへ尋ねれば、ギルベルトは微笑を浮かべつつしかし呆れを滲ませながら、先のリール巨大化騒動の際にチェインが出動出来なかった理由をザップが論っているのだと教えてくれた。ケースに入れて肩から提げていた電子キーボードをギルベルトへ渡しながらザップを見れば、ザップは完全に言い掛かりをする子供の顔だ。
コレで一応シルビより肉体年齢は年上である。
勝手に落ち込んでいたとはいえ、ブローディ&ハマーとの会話もしてきて疲れているというのに、レオに自身が現場へ来なかった理由を言われて焦っているザップは、黙る様子が無かった。
「チェインさん」
落ち込んで神妙にしているチェインを呼べば、申し訳無さそうなチェインが振り返ってシルビを見る。それに近付いて彼女の手をとって微笑みかければチェインの背後でレオとザップがこちらを見た。
「……そんなに落ち込む必要はありません。貴女だっていつも頑張ってくれているのですから、たまにはそんな失敗をしたほうが人間らしいでしょう。俺達だって、そうしてやっぱり貴女がいることの大切さを再認識するのですから」
「でも、皆が頑張ってたのに」
「ええ、だから次は一緒に頑張りましょう」
掴んでいる手へやんわり力を入れて握る。チェインへ向ける笑顔の裏で、シルビはお前にこそ『次は一緒に』があると思っているのかと非難してくる内心の声を聞いていたが、チェインはシルビを見つめた後、反省して落ち込む事は止めたようで微笑んでシルビの手を離した。
クラウスがそれを見て満足そうに背後へ花を飛ばしている。本当に雰囲気が雄弁に物を語る人だ。ザップは入院中に看護婦へ手を出していたとバラしていたレオの頭を踏みつけていたが、チェインが立ち直ったのを見てつまらなそうに舌打ちを零していた。とはいえ本気でチェインを責める気は最初から無かったのだろう。
代わりに、シルビへの傍へ来てチェインを押しのけシルビの頬を摘まみ上げた。
「いふぇぇいふぇぇ!」
「お前はお前でなぁんかスゲー大技披露したらしいじゃねーの? ちょっとオレにも見せろや」
現場で見たわけでは無いから、レオやツェッドからの伝聞と多分戻ってきたシルビの様子から突っかかりに行ったんだろうなとレオは思った。ザップはスティーブンの言葉を借りれば度し難い程のクズだが、そういうところは妙に聡い。
上空から見た巨大化したリールさんの足へ絡みつく青い炎。ツェッドと後から話をして分かった事だが、ツェッド達にはその青い炎と一緒に鎖が見えていたらしい。遠かったからという訳でもないだろうが、レオにはその鎖は見えなかった。
その青い炎はシルビが出していたらしい。クラウスやスティーブンもシルビがそんな事を出来るとは聞いていなかったらしくて、事後処理の合間にシルビを追究していたのを見た。ただそれは、ブローディ&ハマーが収獄されているアサイラムの獄長の話だと、シルビが属している『復讐者』の拘束術らしい。【空間転移】だけではなかったのかと驚くと同時に、犯罪者を監視する組織なんだから逃亡防止に拘束術とか当たり前だろと納得した。
納得出来なかったのはその後、シルビがレオから【神々の義眼】の使い過ぎによる熱と頭痛を鎮めたことである。
確かに以前、レオの【義眼】を覗き込んで干渉がどうとか負担軽減がどうどかと言っていた。でも同時に【義眼】に関する事は知らないとも言っていたのだ。
世界の均衡を守る秘密結社でも殆ど【神々の義眼】へ関する情報は無くて、ましてやシルビがレオへ行なったように『干渉』なんて、今まで調べた何処にも記録に無かった。
じゃあそれが出来るシルビは、本当に【神々の義眼】のことを知らないのかとか、思って。
「でぃひゃひゃひゃ! 伸びる伸びる!」
「ひゃっふさん! いいひゃへんいしねぇとおろふふぉ!」
「ああん? 何言ってんだ? あ?」
「っ……ふぉのっ!」
両手で頬を摘まんで伸ばしていたザップの腕を掴んでいたシルビが、もう我慢してられないとばかりにザップの顔へ手を伸ばした。アイアンクローの様にザップの顔を掴んだかと思うと、その手から青い炎が燃え上がる。
「ぶふぅ!?」
「っ、暫く動けなくなってろぉ!」
ビタンと床へ倒れ伏したザップは、痙攣こそすれピクリとも動かない。レオが見ると深く息を吐いて呼吸を整えたシルビと目が合い、一拍程動きを止めてから眼を逸らされる。
あ、コレまた面倒くさい奴だと悟った。ザップ達の師匠である汁外衛と知り合いだった事がバレた時のような、その類の。
色々気になっているのはこっちだというのに。
「シルビ!」
「ぅおっ、はい!?」
「昼飯行こーぜ。ツェッドさんも誘って」
振り向いたシルビが驚いている。その足元でザップが小さく唸っているのは『自分も行く』という意思表示だろうか。
少し安心したような、何処か困ったような顔で頷いたシルビに、レオは内心で呆れ交じりのため息を吐く。
弟妹のいる『兄』というのは我慢強い。だから友達の前でなら少しくらい遠慮なんてするものではないのだ。