―マクロの決死圏―
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
通信機からレオが上空で配置に着いたと報告が来る。目の前にはリールの素足が下手なビルよりも大きく鎮座していた。
「ようし、行くぞ」
その号令へクラウスやK・K、ツェッドやスティーブンが前へと進み出るのに、シルビは隣からデルドロという血液の装甲を纏って同じように進んでいくハマーを呼び止める。
「ハマーさん。デルドロ」
「ん?」
「んだあ? 今更怖気ついたか?」
「嫌わねぇでくださいね」
左手を空へ掲げて指を連続で鳴らす。立ち尽くしているリールの巨大な足を囲むように【第八の炎】が到る場所で燃え上がるのに、攻撃をしようとしていたクラウスがこちらを振り返ったのが見えた。
そのまま再び指を鳴らせば、シルビが掲げた手元へ一本の鎖が現れる。両端が【第八の炎】の中へと消えているそれを掴み更にもう一度指を鳴らせば、鎖へ絡みつくように『青い炎』が這っていった。
『青い炎』を絡みつかせた幻覚の鎖が、【第八の炎】を経由してリールの足へと巻き付いていく。その段階になればクラウスだけではなく、スティーブンやK・K達も周囲の状況に気付いてシルビを振り返っていた。
「シルビ!?」
「青い炎へは決して触れねぇでください!」
シルビが現在出せるだけの高純度の【雨の炎】である。鎮静の効果を持つその炎であれば、負荷を与えると強化増大してしまう物質に対しても、その負荷が掛かったという信号や強化機能の伝達を遅らせることが出来るのではと考えたのだ。
そしてそれは予想以上に効果を発揮したのか、リールの足はその拘束を受けても大きくなる様子は無く、更にはほんの僅かにではあるが、足が小さくなっているようにも見えなくも無い。クラウス達の攻撃を受けてもそのせいで大きくなっている様子もなく、今なら足に関してだけは巨大化する危険性を考慮せずに攻撃出来るだろう。だが非常に疲れる。
片手で鎖を掴み、炎を供給したままシルビは感じた眩暈に眼を細めた。全力を出せない状態での【死ぬ気の炎】の同時使用は、そもそもの同時使用があまり得意ではないので更に辛い。
けれどもそんな事、シルビ以外には分かりはしないのだ。
分かりはしないものを人は恐れる。弱いものが強いもののその強さへ怯えるように、強いものが弱いものの弱い理由などを察しないように、シルビがそういった力を隠していたことを、その理由を知れるものはいない。
聞かれたら話す。自分は『化け物』だと。しかしその説明では誰も納得しない。
そうしてシルビの中へ溜まっていった『痛み』が、果たしてリールの様に暴走する日も来るのだろうか。
不意に、リールの身体が仰向けに倒れていく。
あれだけ巨大化したリールの身体は、ヘルサレムズ・ロットの中心部にある『永遠の虚』へと落ちるように倒れていき、吸い込まれるように見えなくなってしまった。
倒れていく途中でシルビのほうも限界が来て幻覚の鎖を消してしまった為、落ちているリールが元の大きさに戻っていたとしても、鎖で引き上げる事は出来なかっただろう。『永遠の虚』は内部が完全に異界でヘルサレムズ・ロットよりも危険らしいので、助けられれば良かったと後悔が残った。
だってリールはレオの友人だ。
「……うぇ」
膝に手を突いて前屈みになりながら吐き気を堪える。今すぐ【白澤】の姿になって眠ってしまいたいがそれも叶わない。
「シルビ君!」
クラウスがシルビの名前を呼んで駆け寄ってくるのに何だか泣きたくなる。顔を上げればクラウスだけではなくツェッドやK・Kも駆け寄ってきているのに、シルビは無理して身体を起こした。
「大丈夫か!?」
「……そんな事よりリールさんを」
「そうね彼も気になるけどまずはアナタよ! あんな事も出来るのならもっと早く言いなさいよ!」
「すみません……」
やっぱり言われてしまったなと思いつつ膝に力を込めてしっかり立てば、通りにレオとギルベルトの乗った飛行機が降りてくる。飛行機と言うには小型で、しかしヘリというには大きい。意匠からしてその機体もライブラ所有のものなのだろう。操縦しているのはギルベルトだった。
その機体から目許を抑えてふらつきながら降りてきたレオが、クラウス達に囲まれているシルビを見て慌てて駆け寄ってくる。自分の痛みよりシルビの心配かと思わず呆れてしまって、無意識に漏れてしまった笑いへK・Kが咎めるようにシルビを振り返った。そうして複雑そうな顔をする彼女へシルビは困ってしまう。
そんな顔を向けられて平然としていられるような、強いものではない。
「大丈夫っすか皆さん! 上からちょっと見えたけどあの青い炎何っ――!?」
近付いてきたレオの顔へ手を差し伸べて、引き寄せて自身の額を彼のそれへ押し当てる。
触れた額や【神々の義眼】を宿すレオの眼元が案の定熱を持っていて、しかしその熱が冷や汗を掻いていたシルビには少しだけ心地良かった。
「っ、シルビ?」
「……熱暴走だけでも収めてやるから、ちょっと眼を開いて」
ごく至近距離で息を詰める音がして、近すぎてぼやけた視界に綺麗な青が映り込む。ここまでやってしまえば後はもう、どうとでもなってしまえという自棄糞な気分が少しだけ落ち着きを取り戻した。
少し鼻を突く、熱で何かが焼けたような匂い。
シルビの脳に、色々なものが流れ込んでくる。
以前レオの眼を少しだけ調べさせてもらった時に判明した事だが、レオの持つ【神々の義眼】にはは少しばかり負担軽減の呪文列が少なく、更にはやろうとすれば干渉が出来ない事も無い。
無論干渉をするにはそれなりの“力”が必要だが、曲がりなりにも『神的存在』の端へ引っ掛かっているシルビなら、多少の干渉が出来る自信があった。
誰が見たのかも分からない光景が、幾重にも重なって閉じた瞼の裏側に映し出される。一つはその光景の移動する速度から、きっとソニックの視界だったのだろう。もう一つはレオとソニックの顔が一瞬大きく映ったので、おそらくリ・ガドのもの。
最後によろけたシルビ自身へ近付く、ぼやけた光景が見えてそれがレオの見たものだと認識する。三つだけであったことと、そう激しい視界の混乱では無いことに安堵して、シルビはその光景をそれぞれファイルへ収めるイメージで掻き消した。
他人へ、自分が見ているものを転送した事は昔にもあったのだ。今回はその時とは逆のことをした。つまり本来レオの脳が処理する筈だった【神々の義眼】が取り込んだ情報を、シルビの意識が引き受けたのである。
冷や汗のにじむ手をレオの顔へ添えたまま額を離せば、眼を見開いたレオがシルビを見つめていた。
「頭痛と熱はぁ?」
「してない」
信じられないとばかりにシルビの事を凝視しているレオの眼が、シルビには『化け物』を見ているように思えて仕方が無い。
それでも、レオの苦痛を代わってやれて良かったと思うのだから、自分も大概である。
「素晴らしい! 今のはレオナルドの持っていた情報を自身の脳へ転送させたのだな! 魔導科学は専門では無いといっていたが、君には魔術の心得があるのかね!?」
リ・ガドが興奮気味にレオの肩からシルビの肩へと移ってきた。正直今はその重さもうんざりする。
「しかしそれは危険な行為だぞ。脳の受容範囲を超えれば君が廃人に――」
「この程度で廃人になる程ヤワじゃねぇ」
元は【×××】による情報を扱っていた脳みそだ。今更三人分の視界情報程度で壊れるようなものではない。そういう意味ではシルビの脳も、きっと人とは違うのだろう。
「それに――友人の苦痛黙って見てられる程、人間やめたくねぇんだよ」
移った頭痛と熱を受け流すように深く息を吐いた。そうして改めてレオを見やればレオは戸惑いの表情でシルビを見ている。
傍で一部始終を見ていたK・Kやツェッドも似たような顔で、嗚呼、やっぱり駄目だと少しだけ胸が痛んだ。クラウスだけが静かな眼をしている。彼は知っていて、シルビが頼んでいたから黙ってくれているだけだ。だから彼は何も悪くなかった。
「ごめんなぁ」
胸が、痛い。
「ようし、行くぞ」
その号令へクラウスやK・K、ツェッドやスティーブンが前へと進み出るのに、シルビは隣からデルドロという血液の装甲を纏って同じように進んでいくハマーを呼び止める。
「ハマーさん。デルドロ」
「ん?」
「んだあ? 今更怖気ついたか?」
「嫌わねぇでくださいね」
左手を空へ掲げて指を連続で鳴らす。立ち尽くしているリールの巨大な足を囲むように【第八の炎】が到る場所で燃え上がるのに、攻撃をしようとしていたクラウスがこちらを振り返ったのが見えた。
そのまま再び指を鳴らせば、シルビが掲げた手元へ一本の鎖が現れる。両端が【第八の炎】の中へと消えているそれを掴み更にもう一度指を鳴らせば、鎖へ絡みつくように『青い炎』が這っていった。
『青い炎』を絡みつかせた幻覚の鎖が、【第八の炎】を経由してリールの足へと巻き付いていく。その段階になればクラウスだけではなく、スティーブンやK・K達も周囲の状況に気付いてシルビを振り返っていた。
「シルビ!?」
「青い炎へは決して触れねぇでください!」
シルビが現在出せるだけの高純度の【雨の炎】である。鎮静の効果を持つその炎であれば、負荷を与えると強化増大してしまう物質に対しても、その負荷が掛かったという信号や強化機能の伝達を遅らせることが出来るのではと考えたのだ。
そしてそれは予想以上に効果を発揮したのか、リールの足はその拘束を受けても大きくなる様子は無く、更にはほんの僅かにではあるが、足が小さくなっているようにも見えなくも無い。クラウス達の攻撃を受けてもそのせいで大きくなっている様子もなく、今なら足に関してだけは巨大化する危険性を考慮せずに攻撃出来るだろう。だが非常に疲れる。
片手で鎖を掴み、炎を供給したままシルビは感じた眩暈に眼を細めた。全力を出せない状態での【死ぬ気の炎】の同時使用は、そもそもの同時使用があまり得意ではないので更に辛い。
けれどもそんな事、シルビ以外には分かりはしないのだ。
分かりはしないものを人は恐れる。弱いものが強いもののその強さへ怯えるように、強いものが弱いものの弱い理由などを察しないように、シルビがそういった力を隠していたことを、その理由を知れるものはいない。
聞かれたら話す。自分は『化け物』だと。しかしその説明では誰も納得しない。
そうしてシルビの中へ溜まっていった『痛み』が、果たしてリールの様に暴走する日も来るのだろうか。
不意に、リールの身体が仰向けに倒れていく。
あれだけ巨大化したリールの身体は、ヘルサレムズ・ロットの中心部にある『永遠の虚』へと落ちるように倒れていき、吸い込まれるように見えなくなってしまった。
倒れていく途中でシルビのほうも限界が来て幻覚の鎖を消してしまった為、落ちているリールが元の大きさに戻っていたとしても、鎖で引き上げる事は出来なかっただろう。『永遠の虚』は内部が完全に異界でヘルサレムズ・ロットよりも危険らしいので、助けられれば良かったと後悔が残った。
だってリールはレオの友人だ。
「……うぇ」
膝に手を突いて前屈みになりながら吐き気を堪える。今すぐ【白澤】の姿になって眠ってしまいたいがそれも叶わない。
「シルビ君!」
クラウスがシルビの名前を呼んで駆け寄ってくるのに何だか泣きたくなる。顔を上げればクラウスだけではなくツェッドやK・Kも駆け寄ってきているのに、シルビは無理して身体を起こした。
「大丈夫か!?」
「……そんな事よりリールさんを」
「そうね彼も気になるけどまずはアナタよ! あんな事も出来るのならもっと早く言いなさいよ!」
「すみません……」
やっぱり言われてしまったなと思いつつ膝に力を込めてしっかり立てば、通りにレオとギルベルトの乗った飛行機が降りてくる。飛行機と言うには小型で、しかしヘリというには大きい。意匠からしてその機体もライブラ所有のものなのだろう。操縦しているのはギルベルトだった。
その機体から目許を抑えてふらつきながら降りてきたレオが、クラウス達に囲まれているシルビを見て慌てて駆け寄ってくる。自分の痛みよりシルビの心配かと思わず呆れてしまって、無意識に漏れてしまった笑いへK・Kが咎めるようにシルビを振り返った。そうして複雑そうな顔をする彼女へシルビは困ってしまう。
そんな顔を向けられて平然としていられるような、強いものではない。
「大丈夫っすか皆さん! 上からちょっと見えたけどあの青い炎何っ――!?」
近付いてきたレオの顔へ手を差し伸べて、引き寄せて自身の額を彼のそれへ押し当てる。
触れた額や【神々の義眼】を宿すレオの眼元が案の定熱を持っていて、しかしその熱が冷や汗を掻いていたシルビには少しだけ心地良かった。
「っ、シルビ?」
「……熱暴走だけでも収めてやるから、ちょっと眼を開いて」
ごく至近距離で息を詰める音がして、近すぎてぼやけた視界に綺麗な青が映り込む。ここまでやってしまえば後はもう、どうとでもなってしまえという自棄糞な気分が少しだけ落ち着きを取り戻した。
少し鼻を突く、熱で何かが焼けたような匂い。
シルビの脳に、色々なものが流れ込んでくる。
以前レオの眼を少しだけ調べさせてもらった時に判明した事だが、レオの持つ【神々の義眼】にはは少しばかり負担軽減の呪文列が少なく、更にはやろうとすれば干渉が出来ない事も無い。
無論干渉をするにはそれなりの“力”が必要だが、曲がりなりにも『神的存在』の端へ引っ掛かっているシルビなら、多少の干渉が出来る自信があった。
誰が見たのかも分からない光景が、幾重にも重なって閉じた瞼の裏側に映し出される。一つはその光景の移動する速度から、きっとソニックの視界だったのだろう。もう一つはレオとソニックの顔が一瞬大きく映ったので、おそらくリ・ガドのもの。
最後によろけたシルビ自身へ近付く、ぼやけた光景が見えてそれがレオの見たものだと認識する。三つだけであったことと、そう激しい視界の混乱では無いことに安堵して、シルビはその光景をそれぞれファイルへ収めるイメージで掻き消した。
他人へ、自分が見ているものを転送した事は昔にもあったのだ。今回はその時とは逆のことをした。つまり本来レオの脳が処理する筈だった【神々の義眼】が取り込んだ情報を、シルビの意識が引き受けたのである。
冷や汗のにじむ手をレオの顔へ添えたまま額を離せば、眼を見開いたレオがシルビを見つめていた。
「頭痛と熱はぁ?」
「してない」
信じられないとばかりにシルビの事を凝視しているレオの眼が、シルビには『化け物』を見ているように思えて仕方が無い。
それでも、レオの苦痛を代わってやれて良かったと思うのだから、自分も大概である。
「素晴らしい! 今のはレオナルドの持っていた情報を自身の脳へ転送させたのだな! 魔導科学は専門では無いといっていたが、君には魔術の心得があるのかね!?」
リ・ガドが興奮気味にレオの肩からシルビの肩へと移ってきた。正直今はその重さもうんざりする。
「しかしそれは危険な行為だぞ。脳の受容範囲を超えれば君が廃人に――」
「この程度で廃人になる程ヤワじゃねぇ」
元は【×××】による情報を扱っていた脳みそだ。今更三人分の視界情報程度で壊れるようなものではない。そういう意味ではシルビの脳も、きっと人とは違うのだろう。
「それに――友人の苦痛黙って見てられる程、人間やめたくねぇんだよ」
移った頭痛と熱を受け流すように深く息を吐いた。そうして改めてレオを見やればレオは戸惑いの表情でシルビを見ている。
傍で一部始終を見ていたK・Kやツェッドも似たような顔で、嗚呼、やっぱり駄目だと少しだけ胸が痛んだ。クラウスだけが静かな眼をしている。彼は知っていて、シルビが頼んでいたから黙ってくれているだけだ。だから彼は何も悪くなかった。
「ごめんなぁ」
胸が、痛い。