―マクロの決死圏―
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リ・ガドの熱弁染みた説明によれば、ゲムネモの術式を無効化することが出来たら、『リール』は元通りになる可能性があるらしい。だがそのゲムネモの術式を無効化させるには、何処かへいるであろうゲムネモ自身を攻撃する必要がある。
ゲムネモはリールの身体の何処かへ隠れていて、そこから直接指示を出していると推測された。つまりゲムネモの居場所を探し出し、リ・ガドが作った術式破壊砲を直接叩き込めばいい。
問題はその方法だった。
「シルビの空間転移じゃ無理か」
「五年前ならともかく今は無理です。脳幹の場所は分かってもゲムネモの場所が分かりません。間違って脳の関係ねぇ場所へ繋げちまったら悲惨でしょう」
今更説明するのも困る話だが、五年前に【×××】が使えなくなってからシルビは【第八の炎】を繋げる先の安全性の確保が難しかった。どうやら今までは無意識に【×××】を利用して空間を繋げていたようで、五年前の『とある事件』直後は壁へめり込みかけた事もある。だから広い空間や先に下調べをして、把握しておかないと空間を繋げるのは怖い。ましてや生きている者の体内に繋げるとなれば、危険性は高まるというものだ。
「チェインさんの【存在希釈】とかは」
「ああいや、チェインは……来れないんだ」
スティーブンが言いにくそうに言って目を逸らす。不思議に思ったが彼女も人狼局の方で何か忙しいのかもしれない。
「じゃあザップさんの血法でこう、スルスルーっと」
「あいつは入院してる」
「あのヤロウ使えねーな」
「なんでお前がいるんだぁ?」
何故か作戦会議へ当然のように参加していたブローディ&ハマーに突っ込めば、クラウスが美術鑑賞の帰りだったのだと教えてくれた。ハマーが模範囚なので許可されたらしい。
そうしてアサイラムへ帰る途中でリールに接触。拘束を失敗して彼を巨大化させるだけの結果となってしまい、ついでにライブラの一員として騒動鎮圧の為に残ったのだという。
「シルビ君は絵画とか好き?」
「え、えっと……描くのは無理です。物凄く下手で」
「僕は描くの好きだよ。今度クラウス兄ちゃんが画材くれるんだ。描けたらシルビ君にも見て欲しいな」
こんな状況だというのにハマーが大層嬉しげに報告してきた。報告というよりは自慢か。
「どんなのを描かれるんですか?」
「うーん。描きたいものを描く感じだからな。あ、前にシルビ君がやったアレとか描きたいんだけど」
「あれ?」
「うん。鎖がジャラジャラしてたあれ!」
どれだ。
「あー、アレか。飛行機の頭縛ってた。ドグお前、アレ見てスゲーって言ってたもんな」
「飛行機……ああ、汁外衛が来た時の」
「それだ!」
作戦を考えていたはずのスティーブンが、話に参加せず呑気な会話をしていたシルビとハマーを振り返った。いきなり叫ばれて驚いたが、驚いたのはシルビだけではなく他のメンバーもで、リ・ガドなどは全く分かっていなさそうである。
「シルビ! 脳幹の場所近くへ空間を繋げることは出来るんだろ!? ならそこから鎖を伸ばしてゲムネモを捕まえたりは」
「出来ません。鎖の先をどうやって操作すりゃいいんですか。小型カメラじゃあるまいし」
あの鎖はシルビによる幻覚だが当然万能ではない。シルビがあっさりと否定したことに落ち込むスティーブンへ、しかしレオの肩へいたリ・ガドが何かを思いついたように叫んだ。
「そうだレオナルド! 君の眼だ!」
「は、はい?」
「ソニック君ほどの大きさであれば、あの山脈の様になってしまった体内へ入り込む事はそう難しくはあるまい。なら彼へ体内に侵入してもらいゲムネモを見つけ出すのだ!」
「それはまた無謀な作戦じゃ。第一どうやってソニックを脳幹へまで」
「無謀なものか! レオナルドの眼があればそれは出来るだろう!」
「つまり、少年がソニックの視界をジャックして誘導すると?」
「うむ!」
力強く肯定したリ・ガドの言葉に全員が考えるように黙り込む。頭上では今は何を考えているのか微動だにしないリールを、市民達が誰も手を出さずに固唾を呑んで眺めていた。
「……やります」
レオの返事に、周囲にいたライブラメンバー全員の視線が交わされる。
「じゃあ少年とソニックは出来るだけ頭に近い空からの接近だ。他の皆は地上から彼の意識をソニックへ気付かせないように陽動するぞ」
作戦が決まり、一気に動き出すなかでシルビは空へ向かう為にクラウスと一緒に何処かへ行くレオを見送った。シルビも今回はサポートではなく地上からの陽動に加わるので、レオとは一緒に行けない。
本当は【第八の炎】で途中までソニックを送ってやれればいいのだが、そういう中途半端な潜入は居場所が分からなくなるので提案出来なかった。【×××】があればそれも問題なく出来るだろうに、本当、覚悟があっても力が足りないのが歯がゆい。
友達を助ける為に必死になることを、シルビは素晴らしい事だと思う。そうして守るものがあるから人は弱くも強くもなれるのだと、知らないうちから悟っていた。
覚悟があって、足りなくても“力”があることを、シルビは友人を助ける為に忌避した事は無い。
ただ。
「友人の友人助けるのは、どうなんだろうなぁ……」
「友達の友達は友達じゃない?」
「ぅおっ!? ハマーさん?」
聞いていたのか、いつの間にか横に立っていたハマーがシルビを見下ろして微笑む。
「陽動だって! いつもは別行動だからワクワクするね」
「俺はいつもサポート扱いでしたねぇ。そういや」
「目の前でキミの戦うところ? 見たことないんだ」
「嬢ちゃんそもそも戦えんのか? あそこの眼帯女みてーに遠くからヤるタイプだろ?」
「ちょっとブローディ! 聞こえてんだけど!」
少し離れたところで銃火器の用意をしていたK・Kがブローディへ向けて怒鳴る。それにハマーの手首から出ているブローディが血液のくせに器用に肩を竦ませる動きをした。
ハマーがそれを見て相変わらずニコニコしている。
「で、嬢ちゃんは戦えんのか?」
「……戦えるよ。前線に出してもらえねぇだけで」
「そーかよ。じゃああのガキのこと“助けて”やれよ」
ブローディがシルビを見ないように言った。
「オレは強者だったがな、ドグの血液になって弱えヤツ等を殺せねえで見てきたぜ。スゲー歯がゆかったけどよ」
「お前それ、俺が一応『看守』だって分かってて言ってるかぁ?」
「気にスンナ。で、えーと、なんだ。世界は時々弱肉強食だってのは同意する」
さっきレオと話していたことをどうやら聞いていたらしい。シルビの主観でしかないその考えに同意したブローディはしかし懲役千年を超える重大犯罪者で、多分ナイフを選んだシルビと同じ強者であり、今も強者のままだ。
それはハマーの血液となって、彼と命運を共にする余生となっても変わっていまい。何かが変わったとしたら、彼は強制的に自分の為にハマーという彼にとっては『弱者』を守り抱えることになったという事実か。
同時にそれは、これ以上彼へ罪を重ねさせない事情となり、その事情から確実に何かを免れた『弱者』がいただろう。
強いものが弱いものを潰し、弱いものは更に弱いものを潰す。そのピラミッドの頂点にいた強者が弱いものを『助ける』のは。
強い者だって、どこかでは弱いからだ。
「それで、なんだ……」
「デルドロはね、シルビ君と仲良くなりたいんだよ」
「……は?」
「ちょっ」
ブローディが何を言いたいのか分からずにいればハマーがあっけらかんと言うものだから変な声が漏れた。それを聞いたブローディはシルビよりも慌てているが、ハマーがそれを気にした様子は無い。
「さっき絵を描くのは下手だって言ってたけど、観るのは好き? デルドロも好きなんだけどボクじゃあまり話に付き合えないんだ」
「はぁ……」
「だからデルドロとも友達になってよ」
「……“も”?」
「だってボクとは友達デショ?」
ハマーはニッコリと笑う。彼の手首からはブローディがまだ慌てて何も言えずにいた。
「ちなみにレオ君とも友達だからさー、レオ君の友達助けるのにそれ以上の理由も無いよね」
ゲムネモはリールの身体の何処かへ隠れていて、そこから直接指示を出していると推測された。つまりゲムネモの居場所を探し出し、リ・ガドが作った術式破壊砲を直接叩き込めばいい。
問題はその方法だった。
「シルビの空間転移じゃ無理か」
「五年前ならともかく今は無理です。脳幹の場所は分かってもゲムネモの場所が分かりません。間違って脳の関係ねぇ場所へ繋げちまったら悲惨でしょう」
今更説明するのも困る話だが、五年前に【×××】が使えなくなってからシルビは【第八の炎】を繋げる先の安全性の確保が難しかった。どうやら今までは無意識に【×××】を利用して空間を繋げていたようで、五年前の『とある事件』直後は壁へめり込みかけた事もある。だから広い空間や先に下調べをして、把握しておかないと空間を繋げるのは怖い。ましてや生きている者の体内に繋げるとなれば、危険性は高まるというものだ。
「チェインさんの【存在希釈】とかは」
「ああいや、チェインは……来れないんだ」
スティーブンが言いにくそうに言って目を逸らす。不思議に思ったが彼女も人狼局の方で何か忙しいのかもしれない。
「じゃあザップさんの血法でこう、スルスルーっと」
「あいつは入院してる」
「あのヤロウ使えねーな」
「なんでお前がいるんだぁ?」
何故か作戦会議へ当然のように参加していたブローディ&ハマーに突っ込めば、クラウスが美術鑑賞の帰りだったのだと教えてくれた。ハマーが模範囚なので許可されたらしい。
そうしてアサイラムへ帰る途中でリールに接触。拘束を失敗して彼を巨大化させるだけの結果となってしまい、ついでにライブラの一員として騒動鎮圧の為に残ったのだという。
「シルビ君は絵画とか好き?」
「え、えっと……描くのは無理です。物凄く下手で」
「僕は描くの好きだよ。今度クラウス兄ちゃんが画材くれるんだ。描けたらシルビ君にも見て欲しいな」
こんな状況だというのにハマーが大層嬉しげに報告してきた。報告というよりは自慢か。
「どんなのを描かれるんですか?」
「うーん。描きたいものを描く感じだからな。あ、前にシルビ君がやったアレとか描きたいんだけど」
「あれ?」
「うん。鎖がジャラジャラしてたあれ!」
どれだ。
「あー、アレか。飛行機の頭縛ってた。ドグお前、アレ見てスゲーって言ってたもんな」
「飛行機……ああ、汁外衛が来た時の」
「それだ!」
作戦を考えていたはずのスティーブンが、話に参加せず呑気な会話をしていたシルビとハマーを振り返った。いきなり叫ばれて驚いたが、驚いたのはシルビだけではなく他のメンバーもで、リ・ガドなどは全く分かっていなさそうである。
「シルビ! 脳幹の場所近くへ空間を繋げることは出来るんだろ!? ならそこから鎖を伸ばしてゲムネモを捕まえたりは」
「出来ません。鎖の先をどうやって操作すりゃいいんですか。小型カメラじゃあるまいし」
あの鎖はシルビによる幻覚だが当然万能ではない。シルビがあっさりと否定したことに落ち込むスティーブンへ、しかしレオの肩へいたリ・ガドが何かを思いついたように叫んだ。
「そうだレオナルド! 君の眼だ!」
「は、はい?」
「ソニック君ほどの大きさであれば、あの山脈の様になってしまった体内へ入り込む事はそう難しくはあるまい。なら彼へ体内に侵入してもらいゲムネモを見つけ出すのだ!」
「それはまた無謀な作戦じゃ。第一どうやってソニックを脳幹へまで」
「無謀なものか! レオナルドの眼があればそれは出来るだろう!」
「つまり、少年がソニックの視界をジャックして誘導すると?」
「うむ!」
力強く肯定したリ・ガドの言葉に全員が考えるように黙り込む。頭上では今は何を考えているのか微動だにしないリールを、市民達が誰も手を出さずに固唾を呑んで眺めていた。
「……やります」
レオの返事に、周囲にいたライブラメンバー全員の視線が交わされる。
「じゃあ少年とソニックは出来るだけ頭に近い空からの接近だ。他の皆は地上から彼の意識をソニックへ気付かせないように陽動するぞ」
作戦が決まり、一気に動き出すなかでシルビは空へ向かう為にクラウスと一緒に何処かへ行くレオを見送った。シルビも今回はサポートではなく地上からの陽動に加わるので、レオとは一緒に行けない。
本当は【第八の炎】で途中までソニックを送ってやれればいいのだが、そういう中途半端な潜入は居場所が分からなくなるので提案出来なかった。【×××】があればそれも問題なく出来るだろうに、本当、覚悟があっても力が足りないのが歯がゆい。
友達を助ける為に必死になることを、シルビは素晴らしい事だと思う。そうして守るものがあるから人は弱くも強くもなれるのだと、知らないうちから悟っていた。
覚悟があって、足りなくても“力”があることを、シルビは友人を助ける為に忌避した事は無い。
ただ。
「友人の友人助けるのは、どうなんだろうなぁ……」
「友達の友達は友達じゃない?」
「ぅおっ!? ハマーさん?」
聞いていたのか、いつの間にか横に立っていたハマーがシルビを見下ろして微笑む。
「陽動だって! いつもは別行動だからワクワクするね」
「俺はいつもサポート扱いでしたねぇ。そういや」
「目の前でキミの戦うところ? 見たことないんだ」
「嬢ちゃんそもそも戦えんのか? あそこの眼帯女みてーに遠くからヤるタイプだろ?」
「ちょっとブローディ! 聞こえてんだけど!」
少し離れたところで銃火器の用意をしていたK・Kがブローディへ向けて怒鳴る。それにハマーの手首から出ているブローディが血液のくせに器用に肩を竦ませる動きをした。
ハマーがそれを見て相変わらずニコニコしている。
「で、嬢ちゃんは戦えんのか?」
「……戦えるよ。前線に出してもらえねぇだけで」
「そーかよ。じゃああのガキのこと“助けて”やれよ」
ブローディがシルビを見ないように言った。
「オレは強者だったがな、ドグの血液になって弱えヤツ等を殺せねえで見てきたぜ。スゲー歯がゆかったけどよ」
「お前それ、俺が一応『看守』だって分かってて言ってるかぁ?」
「気にスンナ。で、えーと、なんだ。世界は時々弱肉強食だってのは同意する」
さっきレオと話していたことをどうやら聞いていたらしい。シルビの主観でしかないその考えに同意したブローディはしかし懲役千年を超える重大犯罪者で、多分ナイフを選んだシルビと同じ強者であり、今も強者のままだ。
それはハマーの血液となって、彼と命運を共にする余生となっても変わっていまい。何かが変わったとしたら、彼は強制的に自分の為にハマーという彼にとっては『弱者』を守り抱えることになったという事実か。
同時にそれは、これ以上彼へ罪を重ねさせない事情となり、その事情から確実に何かを免れた『弱者』がいただろう。
強いものが弱いものを潰し、弱いものは更に弱いものを潰す。そのピラミッドの頂点にいた強者が弱いものを『助ける』のは。
強い者だって、どこかでは弱いからだ。
「それで、なんだ……」
「デルドロはね、シルビ君と仲良くなりたいんだよ」
「……は?」
「ちょっ」
ブローディが何を言いたいのか分からずにいればハマーがあっけらかんと言うものだから変な声が漏れた。それを聞いたブローディはシルビよりも慌てているが、ハマーがそれを気にした様子は無い。
「さっき絵を描くのは下手だって言ってたけど、観るのは好き? デルドロも好きなんだけどボクじゃあまり話に付き合えないんだ」
「はぁ……」
「だからデルドロとも友達になってよ」
「……“も”?」
「だってボクとは友達デショ?」
ハマーはニッコリと笑う。彼の手首からはブローディがまだ慌てて何も言えずにいた。
「ちなみにレオ君とも友達だからさー、レオ君の友達助けるのにそれ以上の理由も無いよね」