―マクロの決死圏―
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夕方まで薬局のバイト、というシルビの計画はそれから数時間後に頓挫した。スティーブンによるライブラの緊急招集に呼ばれたのである。
働く気のない店長の、何の呼び出しだかも知らないくせに『せいぜい頑張れ』という応援を背後に、早急に召集場所へ向かう途中から見えていたのは、ビルよりも大きい準人型の異界人だった。巨人よりも大きいがエレボスよりは小さいなと、シルビにしか分からない基準で思う。
合流したスティーブンの話に寄れば、あれはレオの友人の『リール』らしい。しかしあの大きさであるのには訳があり、その訳こそライブラのメンバーが召集された理由だという。
「『細胞組織の超強化加速分裂菌術式』? それって魔導科学の領域じゃねぇ?」
「ほう! 魔導科学について知っているのかね!?」
「専門じゃねぇけど一応は」
レオの肩へ乗っかっていた球体に不安になるほど細い手足のついた機械、正確にはその機械を操縦しているミジンコは、機装医師の菌類『リ・ガド』と名乗っていた。ミジンコの姿に見えるがそれも体を守る為のスーツで、本来は細菌らしい。
その細菌が何故レオと一緒にいて、あのビルよりも大きくなっているレオの友人について知っているのかというと、どうやらそのレオの友人がビルよりも大きくなってしまった原因が、彼と同じ細菌類のテロリストにあるのだという。
「その『ゲムネモ』というテロリストがアレを?」
「うむ。奴が考えた術式を掛けられたのだろう」
『ゲムネモ』というテロリストが考え出したその術式は、掛けられたものの身体へ負荷が与えられる事により、体組織の強化、増大を瞬時かつ無限に繰り返していくものらしい。つまりアスリートが行なう筋力トレニーニングを平時から爆発的に行なっているようなものだ。
人に関わらず動物というのは、常時些細な動きからも筋肉を使っている。すぐに思い浮かぶ歩行運動だけではなく、血液を体内循環させる為の心筋収縮だって運動と言えば運動だ。見上げた先のレオの友人らしい『リール』は、今のところそういった生命活動による体組織の強化は見られないが、外面的に見えないだけかもしれない。
彼がビルの高さを超えるほどまでに強化される前に、偶然接触し拘束を試みたクラウスとリ・ガドの話では、殴ったりねじ伏せたりといった外的要因の負荷はもっと巨大化することになるらしかった。
「だとすりゃ、彼は可哀想だなぁ」
「可哀想?」
『リール』を見上げて呟いたシルビの声が聞こえたのか、横で同じように彼を見上げていたレオがシルビを見る。
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、彼があの大きさになってしまったのは、誰かに痛めつけられたからってことだろぉ?」
殴られたりねじ伏せられたり、そういった負荷によって千切れた筋繊維や折れた骨が、ゲムネモの術式のせいとはいえどんどん強化されていった。それだけ見れば単純に『ゲムネモが彼へ術式を掛けたからだ』とも取れなくは無いが、そうだったとしても『誰かが彼を傷付けなければここまで大きくならなかった』のだろう。
「彼は痛いのが好きだったのかぁ?」
「……そんな訳無いだろ。リールさんはオレより細くて弱い人だったんだぞ」
頭上ではヘルサレムズ・ロットに住む世界最大の個人と名高いギガフトマシフが、ビルの隙間で窮屈そうに立っているリールをねじ伏せようとしている。情報が届かないものだからギガフトマシフが手を出したら、また彼は大きくなってしまうのだろう。
「HLに限った事じゃねぇけど、世界は時々弱肉強食だよなぁ」
それは栄えた大都会の路地裏の奥や、発展途上の国の道端や、誰かが認識するしないに関わらず到るところへ存在していた。シルビ自身最初の人生の前半は、そんな乱暴な世界で生きていたのを思い出す。
強いものが弱いものを潰し、弱いものは更に弱いものを潰す世界だ。では弱いものにとってこの世界は生き辛いだけなのかというと、それがそうでもないのが面白いところだとシルビは考えている。
やり方次第では下克上をして生きる事だって群れて生きる事だって、出来なくは無い。そうしてシルビはナイフを手にして下克上を選んだ。それでやっと群れて生きる余裕を得られた。
ギガフトマシフへ殴られ、航空警官隊に撃たれたリールの上半身がズタボロとなるのに、レオが悲痛そうな叫びを上げる。しかし次の瞬間リールの身体は回復と同時に更に巨大化し、もうシルビ達のいる地上からは彼の顔も見えない。
今のは痛かっただろうなとシルビは思う。彼は抵抗もしていなかった。あの大きさになるまで一度も抵抗しなかったとは流石に思わないが、それでも同じだけの痛みを受けたから彼はあの大きさになっている。
「強くなるのと巨大化は違げぇと思うんだけど、テロリストには分かんねぇよなぁ」
テロリストの考えなどシルビには分からない。当然向こうもシルビの考えなど分からないだろう。
「なぁシルビ」
「ん?」
「この事態をどうにかすんのがライブラだけどさ、オレがリールさん助けたいって思うのは、わがままな事かな」
レオの肩でソニックも巨大化してしまった友人を見上げていた。そんな一人と一匹に聞こえないように、シルビは深く息を吐く。
リールを『羨ましい』と思ってしまった。
働く気のない店長の、何の呼び出しだかも知らないくせに『せいぜい頑張れ』という応援を背後に、早急に召集場所へ向かう途中から見えていたのは、ビルよりも大きい準人型の異界人だった。巨人よりも大きいがエレボスよりは小さいなと、シルビにしか分からない基準で思う。
合流したスティーブンの話に寄れば、あれはレオの友人の『リール』らしい。しかしあの大きさであるのには訳があり、その訳こそライブラのメンバーが召集された理由だという。
「『細胞組織の超強化加速分裂菌術式』? それって魔導科学の領域じゃねぇ?」
「ほう! 魔導科学について知っているのかね!?」
「専門じゃねぇけど一応は」
レオの肩へ乗っかっていた球体に不安になるほど細い手足のついた機械、正確にはその機械を操縦しているミジンコは、機装医師の菌類『リ・ガド』と名乗っていた。ミジンコの姿に見えるがそれも体を守る為のスーツで、本来は細菌らしい。
その細菌が何故レオと一緒にいて、あのビルよりも大きくなっているレオの友人について知っているのかというと、どうやらそのレオの友人がビルよりも大きくなってしまった原因が、彼と同じ細菌類のテロリストにあるのだという。
「その『ゲムネモ』というテロリストがアレを?」
「うむ。奴が考えた術式を掛けられたのだろう」
『ゲムネモ』というテロリストが考え出したその術式は、掛けられたものの身体へ負荷が与えられる事により、体組織の強化、増大を瞬時かつ無限に繰り返していくものらしい。つまりアスリートが行なう筋力トレニーニングを平時から爆発的に行なっているようなものだ。
人に関わらず動物というのは、常時些細な動きからも筋肉を使っている。すぐに思い浮かぶ歩行運動だけではなく、血液を体内循環させる為の心筋収縮だって運動と言えば運動だ。見上げた先のレオの友人らしい『リール』は、今のところそういった生命活動による体組織の強化は見られないが、外面的に見えないだけかもしれない。
彼がビルの高さを超えるほどまでに強化される前に、偶然接触し拘束を試みたクラウスとリ・ガドの話では、殴ったりねじ伏せたりといった外的要因の負荷はもっと巨大化することになるらしかった。
「だとすりゃ、彼は可哀想だなぁ」
「可哀想?」
『リール』を見上げて呟いたシルビの声が聞こえたのか、横で同じように彼を見上げていたレオがシルビを見る。
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、彼があの大きさになってしまったのは、誰かに痛めつけられたからってことだろぉ?」
殴られたりねじ伏せられたり、そういった負荷によって千切れた筋繊維や折れた骨が、ゲムネモの術式のせいとはいえどんどん強化されていった。それだけ見れば単純に『ゲムネモが彼へ術式を掛けたからだ』とも取れなくは無いが、そうだったとしても『誰かが彼を傷付けなければここまで大きくならなかった』のだろう。
「彼は痛いのが好きだったのかぁ?」
「……そんな訳無いだろ。リールさんはオレより細くて弱い人だったんだぞ」
頭上ではヘルサレムズ・ロットに住む世界最大の個人と名高いギガフトマシフが、ビルの隙間で窮屈そうに立っているリールをねじ伏せようとしている。情報が届かないものだからギガフトマシフが手を出したら、また彼は大きくなってしまうのだろう。
「HLに限った事じゃねぇけど、世界は時々弱肉強食だよなぁ」
それは栄えた大都会の路地裏の奥や、発展途上の国の道端や、誰かが認識するしないに関わらず到るところへ存在していた。シルビ自身最初の人生の前半は、そんな乱暴な世界で生きていたのを思い出す。
強いものが弱いものを潰し、弱いものは更に弱いものを潰す世界だ。では弱いものにとってこの世界は生き辛いだけなのかというと、それがそうでもないのが面白いところだとシルビは考えている。
やり方次第では下克上をして生きる事だって群れて生きる事だって、出来なくは無い。そうしてシルビはナイフを手にして下克上を選んだ。それでやっと群れて生きる余裕を得られた。
ギガフトマシフへ殴られ、航空警官隊に撃たれたリールの上半身がズタボロとなるのに、レオが悲痛そうな叫びを上げる。しかし次の瞬間リールの身体は回復と同時に更に巨大化し、もうシルビ達のいる地上からは彼の顔も見えない。
今のは痛かっただろうなとシルビは思う。彼は抵抗もしていなかった。あの大きさになるまで一度も抵抗しなかったとは流石に思わないが、それでも同じだけの痛みを受けたから彼はあの大きさになっている。
「強くなるのと巨大化は違げぇと思うんだけど、テロリストには分かんねぇよなぁ」
テロリストの考えなどシルビには分からない。当然向こうもシルビの考えなど分からないだろう。
「なぁシルビ」
「ん?」
「この事態をどうにかすんのがライブラだけどさ、オレがリールさん助けたいって思うのは、わがままな事かな」
レオの肩でソニックも巨大化してしまった友人を見上げていた。そんな一人と一匹に聞こえないように、シルビは深く息を吐く。
リールを『羨ましい』と思ってしまった。