閑話12
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クラウス視点
温室の大型植物の陰で伏せて眠っているシルビに、クラウスは撫でてもいいだろうかと少し距離を置いて眺めながら考える。牛のような山羊のようなその身体には、額と脇腹へ通常の動物でならありえない目が存在していた。
しかしその目のうち幾つかは現在眼球の無い眼窩が空いているだけで、閉じられた瞼がまるで傷口のように少し膿を出している。それ以外にも頭や背中へ並ぶ角が、異界ではともかく地球上では存在しない生物である事を示していた。
その正体は中国神話に出てくる瑞獣【白澤】なのだという。
キリシマ先生の言葉を切っ掛けにクラウスが知ってしまったそれに、シルビは神話事典へ書かれていた文章を引用しながらも何かを諦めたように話してくれたのだが。
『友人達が言うには、俺も【神的存在】なのだそうです』
悲しげに、しかし決して嫌悪は抱かずにそう告げたシルビへクラウスは何も言葉を掛けられなかった。
『俺にその自覚はありません。レオ君の【神々の義眼】についても何も知らねぇし、説明した通り五年前から力の四割を奪われている状態で全力も出せねぇし、今は、本当に、化け物でしかねぇんです』
自身を化け物だと自ら罵るシルビのその事実に、驚かなかったといえば嘘になる。クラウスも長い事牙狩りの一人として戦い続けてきたが、こうも人らしく、こうも弱々しい【神的存在】と対面したのは初めてだった。
だがシルビは【そう】である以前に、既にクラウスの大切な仲間の一人である。全力が出せなかろうが、誰かが彼を『化け物だ』と罵ろうが、クラウスはそれをハッキリと否定できる自信があった。
だからそう告げればシルビは微笑んだ。そうしてあの珍しい紫の眼へクラウスを映した。
『……どうか、貴方はそのままに』
その後神話事典へ載っていた【白澤】の挿絵に、流石にこんな不細工じゃないと落ち込んでいたのには、どうにも慰められなかったが。
自身を『化け物』と罵り、しかしその力を使う事を彼は躊躇しない。滅封の血を持つクラウスからしてもシルビの持つ能力は“異常”で“異様”で、場合によっては何の知らない者からすれば恐れる為の要因でしかないだろうに。
恐れられる覚悟を、既にしているのだろうと思う。
伸ばした手でシルビの白い毛並みへ触れた。相変わらず触り心地が良く、汚れを知らないような白さをしている。まるでそれこそが彼の覚悟を示しているようだった。
「……目に指を突っ込まないでくださいね」
起きていたのか薄目を開けてそう言ったシルビに、クラウスは撫でていた手を引きかける。
「撫でていていいですよ」
「起こしてしまったかね?」
「……撫でられるのは好きなんです」
呟くように告げて、シルビは再び眠るように目を閉じた。
温室の大型植物の陰で伏せて眠っているシルビに、クラウスは撫でてもいいだろうかと少し距離を置いて眺めながら考える。牛のような山羊のようなその身体には、額と脇腹へ通常の動物でならありえない目が存在していた。
しかしその目のうち幾つかは現在眼球の無い眼窩が空いているだけで、閉じられた瞼がまるで傷口のように少し膿を出している。それ以外にも頭や背中へ並ぶ角が、異界ではともかく地球上では存在しない生物である事を示していた。
その正体は中国神話に出てくる瑞獣【白澤】なのだという。
キリシマ先生の言葉を切っ掛けにクラウスが知ってしまったそれに、シルビは神話事典へ書かれていた文章を引用しながらも何かを諦めたように話してくれたのだが。
『友人達が言うには、俺も【神的存在】なのだそうです』
悲しげに、しかし決して嫌悪は抱かずにそう告げたシルビへクラウスは何も言葉を掛けられなかった。
『俺にその自覚はありません。レオ君の【神々の義眼】についても何も知らねぇし、説明した通り五年前から力の四割を奪われている状態で全力も出せねぇし、今は、本当に、化け物でしかねぇんです』
自身を化け物だと自ら罵るシルビのその事実に、驚かなかったといえば嘘になる。クラウスも長い事牙狩りの一人として戦い続けてきたが、こうも人らしく、こうも弱々しい【神的存在】と対面したのは初めてだった。
だがシルビは【そう】である以前に、既にクラウスの大切な仲間の一人である。全力が出せなかろうが、誰かが彼を『化け物だ』と罵ろうが、クラウスはそれをハッキリと否定できる自信があった。
だからそう告げればシルビは微笑んだ。そうしてあの珍しい紫の眼へクラウスを映した。
『……どうか、貴方はそのままに』
その後神話事典へ載っていた【白澤】の挿絵に、流石にこんな不細工じゃないと落ち込んでいたのには、どうにも慰められなかったが。
自身を『化け物』と罵り、しかしその力を使う事を彼は躊躇しない。滅封の血を持つクラウスからしてもシルビの持つ能力は“異常”で“異様”で、場合によっては何の知らない者からすれば恐れる為の要因でしかないだろうに。
恐れられる覚悟を、既にしているのだろうと思う。
伸ばした手でシルビの白い毛並みへ触れた。相変わらず触り心地が良く、汚れを知らないような白さをしている。まるでそれこそが彼の覚悟を示しているようだった。
「……目に指を突っ込まないでくださいね」
起きていたのか薄目を開けてそう言ったシルビに、クラウスは撫でていた手を引きかける。
「撫でていていいですよ」
「起こしてしまったかね?」
「……撫でられるのは好きなんです」
呟くように告げて、シルビは再び眠るように目を閉じた。