―The Outlaw of Green―
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建物である以上当然といえば当然だが、裏口がある。管理人室の脇にあったその裏口はシルビが確認すると開け放たれていた。
正面の正規出入り口はシルビが居たので誰も通っていない事は分かりきっている。ならばこの植物園から出て行った者は裏口から出て行ったと考えるのが当たり前で。
メイヴィの言う通りクラウスがこの植物園へ来ていて、この裏口から出て行ったのだとしたらシルビはすれ違いになった事になる。
「クラウスさんのGPSって確認できます!? 出来たら教えてください。追いかけます!」
『僕もクラウスの元へ向かうよ。そっちにも警察をやる。話は通しておくからそのまま行け!』
スティーブンとの通話を切って携帯をしまい、シルビは植物園を後にする前にと、ここの管理人であり滑塵組の関係者であったらしい『キリシマエイジ』関連の情報が無いかを探した。しかし見つけられたのはキリシマエイジが滑塵組の幹部であることを暗示させる写真が一枚だけで、大した収穫は無い。
送られてきたメールでクラウスが、どうやら九頭見会の事務所へ向かっているのだと推測して向かおうとし、ふと後ろから脚に抱きつかれた。
「ミス・メイヴィ。俺も行かなくちゃいけねぇんだけどぉ……」
シルビの脚へしがみ付いたメイヴィは、無言でシルビを見上げてくる。まるで一人にするなという目に即決出来なかったのは、この場所に現在ヤクザの死体が数人分転がっているからだ。死体がある場所へ子供を置いていくのはシルビとしても如何なものかと思うが、しかしこれから向かう場所はヤクザの本拠地である。
決して子供を連れて行っていい場所ではない。なのに彼女は頑なにシルビの脚を掴んで放さなかった。
「もうすぐここへ警察が来るから、保護してもらったほうが安全だぜぇ? 先生もそのほうが直ぐに戻ってきてくれると思うんだけどなぁ」
「……ぅううう」
「怖ぇなら布団に潜っててもいいからぁ……駄目だよなぁ。やっぱり」
必死に唸るメイヴィに、とうとうシルビのほうが根負けして彼女を抱き上げる。本来なら警察が来るまで一緒に待っていてやるとか、無理に眠らせて置いてくとかの手段を取ればいいのだが、それをさせない理由が彼女の精神状態にあった。
彼女は今、先生だけを求めているのだ。
シルビに気安い態度を取れているのはこの場で唯一の安全な者である事と、【白澤】の姿であれ既知だからである。子供ゆえに自分の身を守る為の本能は強い。
その本能が今は強く出ている故にシルビを信頼しているわけだが。
裏口からメイヴィを連れて植物園を出ると遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。思ったよりも早く来たそれに、今なら彼女を保護してもらえると腕の中のメイヴィを見下ろす。しかし彼女はそんな事は許さないとばかりにシルビを見つめていた。
仕方なく彼女を抱きかかえたままシルビは左手で指を鳴らす。目の前に燃え上がった炎の輪が繋ぐ先は、九頭見会の事務所が入っているビルの前である。
ビルからは何やら酷い暴れる音が響いていた。悲鳴や発砲音も聞こえ、往来を歩いていた一般人が何事かと立ち止まっている。
植物園へキリシマエイジが居なかった事などから考えて、いわゆる滑塵組によるカチ込みが既に行なわれているのかと危惧しつつ、シルビはメイヴィへ何も見せないように抱え直し事務所のある階へ向かう為の階段を駆け上がった。
近付くごとに近くなる暴力的な音は、シルビの目の前を上半分だけになった人と一緒にドアが吹き飛んだ事で治まりを見せる。ドアがなくなったことで開放感溢れる出入り口から中を警戒しつつ覗き込めば、“紅い獣”が中心で立っていた。
気配か視線か、何かしらの要因でシルビに気付いたのだろう闘争心剥き出しの獣が振り向き、その碧の目と視線が絡み合う。次の瞬間には、シルビはメイヴィをしっかりと抱き締めたまま壁へめり込むようにして獣の拳を避けていた。
「ク――クラウスさん! シルビです! 敵じゃありません!」
壁へ背中を押し付け、しゃがんでいなかったら顔が潰れていたであろう拳を頭上にシルビは叫ぶ。いくらシルビでもクラウスに殴られるのは遠慮したい。
シルビの声が意識へ届いたらしいクラウスが、ハッとした様子で手を引いてシルビを見下ろした。
「だ、大丈夫かねシルビ君! どうにも我を忘れてしまって……」
そうやって慌てる姿は普段のクラウスである。九頭見会へ向けていたらしい怒りをシルビにまで向ける事は無いのかと安堵しつつ、急なシルビの動きに驚いてかしがみ付いているメイヴィを庇いながら立ち上がった。
周囲は予想以上に凄惨な状況である。生きている者が居るとは思えず、壁や天井の到るところへ肉片や血が飛び散り、酷いところではドスで天井に死体が磔になっていた。
これをクラウスが一人で行なったのだとすれば、流石だと言う他無い。クラウス自身も反撃を受けてか暴れすぎてかボロボロだ。
「シルビ君。すまないがミス・メイヴィを探すのを手伝ってくれないか。ここへ連れてこられたという話なのだが」
「彼女ならここに。連れて行かれる前に保護しました。一人で植物園で待つのは嫌らしいので連れてきてしまいましたが」
「それは、良かった」
心底そう思っているのだとばかりに、クラウスが安堵の息を漏らした。まさかメイヴィが連れ攫われたと思って単身九頭見会の事務所へ飛び込んだのか。それはそれではた迷惑だと思わなくも無いが、どうせ相手はヤクザだったと思い直した。
正面の正規出入り口はシルビが居たので誰も通っていない事は分かりきっている。ならばこの植物園から出て行った者は裏口から出て行ったと考えるのが当たり前で。
メイヴィの言う通りクラウスがこの植物園へ来ていて、この裏口から出て行ったのだとしたらシルビはすれ違いになった事になる。
「クラウスさんのGPSって確認できます!? 出来たら教えてください。追いかけます!」
『僕もクラウスの元へ向かうよ。そっちにも警察をやる。話は通しておくからそのまま行け!』
スティーブンとの通話を切って携帯をしまい、シルビは植物園を後にする前にと、ここの管理人であり滑塵組の関係者であったらしい『キリシマエイジ』関連の情報が無いかを探した。しかし見つけられたのはキリシマエイジが滑塵組の幹部であることを暗示させる写真が一枚だけで、大した収穫は無い。
送られてきたメールでクラウスが、どうやら九頭見会の事務所へ向かっているのだと推測して向かおうとし、ふと後ろから脚に抱きつかれた。
「ミス・メイヴィ。俺も行かなくちゃいけねぇんだけどぉ……」
シルビの脚へしがみ付いたメイヴィは、無言でシルビを見上げてくる。まるで一人にするなという目に即決出来なかったのは、この場所に現在ヤクザの死体が数人分転がっているからだ。死体がある場所へ子供を置いていくのはシルビとしても如何なものかと思うが、しかしこれから向かう場所はヤクザの本拠地である。
決して子供を連れて行っていい場所ではない。なのに彼女は頑なにシルビの脚を掴んで放さなかった。
「もうすぐここへ警察が来るから、保護してもらったほうが安全だぜぇ? 先生もそのほうが直ぐに戻ってきてくれると思うんだけどなぁ」
「……ぅううう」
「怖ぇなら布団に潜っててもいいからぁ……駄目だよなぁ。やっぱり」
必死に唸るメイヴィに、とうとうシルビのほうが根負けして彼女を抱き上げる。本来なら警察が来るまで一緒に待っていてやるとか、無理に眠らせて置いてくとかの手段を取ればいいのだが、それをさせない理由が彼女の精神状態にあった。
彼女は今、先生だけを求めているのだ。
シルビに気安い態度を取れているのはこの場で唯一の安全な者である事と、【白澤】の姿であれ既知だからである。子供ゆえに自分の身を守る為の本能は強い。
その本能が今は強く出ている故にシルビを信頼しているわけだが。
裏口からメイヴィを連れて植物園を出ると遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。思ったよりも早く来たそれに、今なら彼女を保護してもらえると腕の中のメイヴィを見下ろす。しかし彼女はそんな事は許さないとばかりにシルビを見つめていた。
仕方なく彼女を抱きかかえたままシルビは左手で指を鳴らす。目の前に燃え上がった炎の輪が繋ぐ先は、九頭見会の事務所が入っているビルの前である。
ビルからは何やら酷い暴れる音が響いていた。悲鳴や発砲音も聞こえ、往来を歩いていた一般人が何事かと立ち止まっている。
植物園へキリシマエイジが居なかった事などから考えて、いわゆる滑塵組によるカチ込みが既に行なわれているのかと危惧しつつ、シルビはメイヴィへ何も見せないように抱え直し事務所のある階へ向かう為の階段を駆け上がった。
近付くごとに近くなる暴力的な音は、シルビの目の前を上半分だけになった人と一緒にドアが吹き飛んだ事で治まりを見せる。ドアがなくなったことで開放感溢れる出入り口から中を警戒しつつ覗き込めば、“紅い獣”が中心で立っていた。
気配か視線か、何かしらの要因でシルビに気付いたのだろう闘争心剥き出しの獣が振り向き、その碧の目と視線が絡み合う。次の瞬間には、シルビはメイヴィをしっかりと抱き締めたまま壁へめり込むようにして獣の拳を避けていた。
「ク――クラウスさん! シルビです! 敵じゃありません!」
壁へ背中を押し付け、しゃがんでいなかったら顔が潰れていたであろう拳を頭上にシルビは叫ぶ。いくらシルビでもクラウスに殴られるのは遠慮したい。
シルビの声が意識へ届いたらしいクラウスが、ハッとした様子で手を引いてシルビを見下ろした。
「だ、大丈夫かねシルビ君! どうにも我を忘れてしまって……」
そうやって慌てる姿は普段のクラウスである。九頭見会へ向けていたらしい怒りをシルビにまで向ける事は無いのかと安堵しつつ、急なシルビの動きに驚いてかしがみ付いているメイヴィを庇いながら立ち上がった。
周囲は予想以上に凄惨な状況である。生きている者が居るとは思えず、壁や天井の到るところへ肉片や血が飛び散り、酷いところではドスで天井に死体が磔になっていた。
これをクラウスが一人で行なったのだとすれば、流石だと言う他無い。クラウス自身も反撃を受けてか暴れすぎてかボロボロだ。
「シルビ君。すまないがミス・メイヴィを探すのを手伝ってくれないか。ここへ連れてこられたという話なのだが」
「彼女ならここに。連れて行かれる前に保護しました。一人で植物園で待つのは嫌らしいので連れてきてしまいましたが」
「それは、良かった」
心底そう思っているのだとばかりに、クラウスが安堵の息を漏らした。まさかメイヴィが連れ攫われたと思って単身九頭見会の事務所へ飛び込んだのか。それはそれではた迷惑だと思わなくも無いが、どうせ相手はヤクザだったと思い直した。