―The Outlaw of Green―
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街中を走っている、のは分かったがクラウスの脚の上に顎を置いて寛いでいると窓の外の風景はあまり見えない。とりあえず事務所へ向かっているのだろうと思っていた車が、距離的に事務所ではないところで速度を落としたのを感じた。
クラウスの向こうで開けられた車窓越しに、歩道を歩いていたらしいスティーブンが見える。ああ、彼を見つけたから速度を緩めたのかと理解したところで、スティーブンがクラウスへUSBを戦利品のように見せてきた。
「手に入ったよ」
どうやら何かの情報のデータなのだろう。という事はライブラが動く仕事が近々あるということだ。
仕事なら文句を言うつもりは無いが、どうせなら身体を動かせるようなものがいいなと思ったところで、車に乗り込もうとして回り込んだスティーブンがシルビの側にあったドアを開けた。そうしてそこで寝そべっていたシルビを見て目を瞬かせる。
「……何やってるんだい? キミ」
「アニマルセラピー」
尻尾を動かしてスティーブンが座れる場所を作りはしたが、正直助手席へ座ったほうが広いだろう。しかしスティーブンは面白そうにそのまま乗り込んできた。
「私の用事に付き合ってもらったのだ」
「用事って、園芸サークルの会合じゃなかったか? まぁいいけど。僕も触っていいかな?」
シルビが許可を返す前に既にスティーブンの手はシルビの背中を撫でている。スティーブンがドアを閉めた直後に走り出した車の中ではあるが、流石に平均以上の巨体であるクラウスと平均より長身のスティーブンに挟まれているこの位置は、狭い。
大体シルビ自体、【白澤】の姿は下手な大型犬以上に大きいのだ。いくらこの車が広かろうと無理はある。現にシルビは現在クラウスとスティーブンの膝に半分以上乗っかってしまっていた。
流石にこれはナイな、と判断して獣の姿から角と目と尻尾だけが残る半獣の姿へと戻って、二人の間へ収まる。それから尻尾の先を残念がっているスティーブンへと差し出した。
「へー、そんな事も出来るんだ」
「さっきの姿より嫌いですけどねぇ」
それでもスティーブンが心なし疲れているようだったから尻尾は残したのである。隣に座ったから分かるが彼からは少し女物の香水の匂いがした。
一体どういう方法でUSBを手に入れたのか知らないが、多分シルビの予想した方法であったのなら、まぁ、苦労しているのだなと思う。
「いや、相手によっては役得……?」
「この尻尾って痛覚あるのかい?」
スティーブンと顔を見合わせて、互いに微笑んだ。クラウスが聞こえていなかったのか不思議そうにしていた。
ライブラの事務所へ帰るまでの、スティーブンとの粛々とした攻防戦は熾烈を極めたとだけ記しておく。彼が車内でエスメラルダ式血凍道を使う暴挙に出なくて良かった。その場合、ギルベルトに怒られるのはスティーブンだけになるようにシルビは立ち回るが。
「これを見てくれ」
「日本のヤクザですか」
【白澤】の半獣姿から人の姿へ戻り、事務所へ入ったところで呼ばれてスティーブンのパソコン画面に映し出された組織図は、五ヶ月前から日毎に激化しているジャパニーズヤクザ同士の勢力抗争関係だった。シルビは国籍で言えば今は日本人だが、どちらかというとマフィア寄りなので日本のヤクザには然程詳しくない。伝手を頼ればヤクザの情報も掌握できるだろうが、あまり興味が無かった。
シルビに興味が無かろうとヤクザのほうが自身達の組織を強くしよう、大きくしようと必死なのが常で、それはどこであろうと変わらない。流石にシルビの友人達がいるボンゴレほど大きくなってしまえば話は別だが。
「『復讐者』のほうからは何か情報が無いか?」
「特に覚えのあるものは来ていませんね。この程度の抗争は許容範囲ですから」
マフィアでなかろうとシルビに興味が無かろうと、ヤクザという『裏社会に属している』以上は裏社会のルールを外れる可能性があった場合『復讐者』が動くはずである。今回その情報がシルビの許へ来ていないということは、このヤクザ達はルールを破っていないということになるのだが。
「なら、これをどう思う」
椅子へ座っていたスティーブンがマウスを操作して、画面に何かの画像が映し出される。
銃を持った男へ今にも襲い掛かろうとしている緑の目の、化け物。の画像だ。
明瞭に写っている訳でもなく、その写真からは化け物の輪郭と緑の目しかわからない。成人男性より大きく、輪郭を良く見れば何かに覆われているらしいことが辛うじて理解出来た。
「五ヶ月前の、九頭見会と滑塵組の抗争の切っ掛けになった、キャバレーでの小競り合いのときの写真だ。まぁシルビからしたら役得らしい入手法で手に入れたんだけどね」
「後でお詫びになんか作ってあげますから、そう根に持たねぇでくれます?」
「食べ物で釣るなよ。僕は子供か?」
「子供はもっと甘やかす派です」
スティーブンが胡乱げに後ろからパソコン画面を覗き込んでいたシルビを見上げてくる。
「大人の甘やかし方をして欲しいところだ」
「大人は人の尻尾であんなに盛り上がりません」
だが人に尻尾は無いという話は現在スルーだ。
ともあれシルビの許へ『復讐者』からの情報は来ていない。だがまだこの映像のような化け物の存在を認識していないが故、という可能性も少なくは無かった。『復讐者』といえどシルビ以外はヘルサレムズ・ロットの外にいる。それでヘルサレムズ・ロット内で起きた問題をシルビより先に知ることは難しいだろう。そもそも、シルビがヘルサレムズ・ロットに居ることがそういう事態に対する対処であるところもある。
なので『復讐者』を含めたシルビ側からは、何の情報もあがっていなかった。
「この化け物の逃亡時の目撃証言は?」
「あるにはあるがあまり参考にはならないな。ただ事件の際、キャバレーがあるビルの前で民間人が巻き込まれている」
「民間人?」
「どうやら化け物が着地に失敗して落下した際巻き込まれたらしい。更には化け物を殺そうと九頭見会の生き残りが発砲もしていてね。流れ弾で即死だ」
胸糞悪いとばかりに淡々と告げるスティーブンに、しかしシルビは画面へ映し出される化け物の緑の目を見つめながら口を開く。発砲された流れ弾が当たっていなかったとしても、遅かれ早かれその民間人は死んでいただろうなというのがシルビの考えだが、口に出しては何も言わなかった。
「……滑塵組の動向は?」
「そう簡単に言うなよ。今チェインに頼んで探ってもらってる」
九頭見会と滑塵組では、滑塵組のほうが小さな組だ。弱小とまではいかないが中級とまでもいかない。対して九頭見会は上の下くらいの組織で、本来であったなら滑塵組は九頭見会へ楯突こうなど考えもしないだろう。
その考えもしない事態が起こっており、その理由にこの緑の目をした化け物があるのならそれは確かに脅威になりうる。この化け物の正体が何であれ、滑塵組が自分より強大な組織へ対して強気でいられる程の戦力を持っているらしいその緑の目の化け物の存在が、今後滑塵組の外へ流出し更にはヘルサレムズ・ロットの外へまで流出するのであれば、それは『復讐者』としても避けたい事案だ。
世界の均衡を崩す何かが、裏社会から流れるのは『復讐者』が防がねばならない。
「半日ほど時間貰ってもいいですか?」
「何処に行く?」
「九頭見会へ行ってから現場と滑塵組ですね。先にチェインさんが戻ってきたらその情報送ってください」
「ならミーティングに参加はしなくていい。何か分かり次第連絡をくれ」
「了解」
潜入捜査が一番楽だろうなと考えつつ、シルビはスティーブンからそれぞれの住所を教えて貰った。
クラウスの向こうで開けられた車窓越しに、歩道を歩いていたらしいスティーブンが見える。ああ、彼を見つけたから速度を緩めたのかと理解したところで、スティーブンがクラウスへUSBを戦利品のように見せてきた。
「手に入ったよ」
どうやら何かの情報のデータなのだろう。という事はライブラが動く仕事が近々あるということだ。
仕事なら文句を言うつもりは無いが、どうせなら身体を動かせるようなものがいいなと思ったところで、車に乗り込もうとして回り込んだスティーブンがシルビの側にあったドアを開けた。そうしてそこで寝そべっていたシルビを見て目を瞬かせる。
「……何やってるんだい? キミ」
「アニマルセラピー」
尻尾を動かしてスティーブンが座れる場所を作りはしたが、正直助手席へ座ったほうが広いだろう。しかしスティーブンは面白そうにそのまま乗り込んできた。
「私の用事に付き合ってもらったのだ」
「用事って、園芸サークルの会合じゃなかったか? まぁいいけど。僕も触っていいかな?」
シルビが許可を返す前に既にスティーブンの手はシルビの背中を撫でている。スティーブンがドアを閉めた直後に走り出した車の中ではあるが、流石に平均以上の巨体であるクラウスと平均より長身のスティーブンに挟まれているこの位置は、狭い。
大体シルビ自体、【白澤】の姿は下手な大型犬以上に大きいのだ。いくらこの車が広かろうと無理はある。現にシルビは現在クラウスとスティーブンの膝に半分以上乗っかってしまっていた。
流石にこれはナイな、と判断して獣の姿から角と目と尻尾だけが残る半獣の姿へと戻って、二人の間へ収まる。それから尻尾の先を残念がっているスティーブンへと差し出した。
「へー、そんな事も出来るんだ」
「さっきの姿より嫌いですけどねぇ」
それでもスティーブンが心なし疲れているようだったから尻尾は残したのである。隣に座ったから分かるが彼からは少し女物の香水の匂いがした。
一体どういう方法でUSBを手に入れたのか知らないが、多分シルビの予想した方法であったのなら、まぁ、苦労しているのだなと思う。
「いや、相手によっては役得……?」
「この尻尾って痛覚あるのかい?」
スティーブンと顔を見合わせて、互いに微笑んだ。クラウスが聞こえていなかったのか不思議そうにしていた。
ライブラの事務所へ帰るまでの、スティーブンとの粛々とした攻防戦は熾烈を極めたとだけ記しておく。彼が車内でエスメラルダ式血凍道を使う暴挙に出なくて良かった。その場合、ギルベルトに怒られるのはスティーブンだけになるようにシルビは立ち回るが。
「これを見てくれ」
「日本のヤクザですか」
【白澤】の半獣姿から人の姿へ戻り、事務所へ入ったところで呼ばれてスティーブンのパソコン画面に映し出された組織図は、五ヶ月前から日毎に激化しているジャパニーズヤクザ同士の勢力抗争関係だった。シルビは国籍で言えば今は日本人だが、どちらかというとマフィア寄りなので日本のヤクザには然程詳しくない。伝手を頼ればヤクザの情報も掌握できるだろうが、あまり興味が無かった。
シルビに興味が無かろうとヤクザのほうが自身達の組織を強くしよう、大きくしようと必死なのが常で、それはどこであろうと変わらない。流石にシルビの友人達がいるボンゴレほど大きくなってしまえば話は別だが。
「『復讐者』のほうからは何か情報が無いか?」
「特に覚えのあるものは来ていませんね。この程度の抗争は許容範囲ですから」
マフィアでなかろうとシルビに興味が無かろうと、ヤクザという『裏社会に属している』以上は裏社会のルールを外れる可能性があった場合『復讐者』が動くはずである。今回その情報がシルビの許へ来ていないということは、このヤクザ達はルールを破っていないということになるのだが。
「なら、これをどう思う」
椅子へ座っていたスティーブンがマウスを操作して、画面に何かの画像が映し出される。
銃を持った男へ今にも襲い掛かろうとしている緑の目の、化け物。の画像だ。
明瞭に写っている訳でもなく、その写真からは化け物の輪郭と緑の目しかわからない。成人男性より大きく、輪郭を良く見れば何かに覆われているらしいことが辛うじて理解出来た。
「五ヶ月前の、九頭見会と滑塵組の抗争の切っ掛けになった、キャバレーでの小競り合いのときの写真だ。まぁシルビからしたら役得らしい入手法で手に入れたんだけどね」
「後でお詫びになんか作ってあげますから、そう根に持たねぇでくれます?」
「食べ物で釣るなよ。僕は子供か?」
「子供はもっと甘やかす派です」
スティーブンが胡乱げに後ろからパソコン画面を覗き込んでいたシルビを見上げてくる。
「大人の甘やかし方をして欲しいところだ」
「大人は人の尻尾であんなに盛り上がりません」
だが人に尻尾は無いという話は現在スルーだ。
ともあれシルビの許へ『復讐者』からの情報は来ていない。だがまだこの映像のような化け物の存在を認識していないが故、という可能性も少なくは無かった。『復讐者』といえどシルビ以外はヘルサレムズ・ロットの外にいる。それでヘルサレムズ・ロット内で起きた問題をシルビより先に知ることは難しいだろう。そもそも、シルビがヘルサレムズ・ロットに居ることがそういう事態に対する対処であるところもある。
なので『復讐者』を含めたシルビ側からは、何の情報もあがっていなかった。
「この化け物の逃亡時の目撃証言は?」
「あるにはあるがあまり参考にはならないな。ただ事件の際、キャバレーがあるビルの前で民間人が巻き込まれている」
「民間人?」
「どうやら化け物が着地に失敗して落下した際巻き込まれたらしい。更には化け物を殺そうと九頭見会の生き残りが発砲もしていてね。流れ弾で即死だ」
胸糞悪いとばかりに淡々と告げるスティーブンに、しかしシルビは画面へ映し出される化け物の緑の目を見つめながら口を開く。発砲された流れ弾が当たっていなかったとしても、遅かれ早かれその民間人は死んでいただろうなというのがシルビの考えだが、口に出しては何も言わなかった。
「……滑塵組の動向は?」
「そう簡単に言うなよ。今チェインに頼んで探ってもらってる」
九頭見会と滑塵組では、滑塵組のほうが小さな組だ。弱小とまではいかないが中級とまでもいかない。対して九頭見会は上の下くらいの組織で、本来であったなら滑塵組は九頭見会へ楯突こうなど考えもしないだろう。
その考えもしない事態が起こっており、その理由にこの緑の目をした化け物があるのならそれは確かに脅威になりうる。この化け物の正体が何であれ、滑塵組が自分より強大な組織へ対して強気でいられる程の戦力を持っているらしいその緑の目の化け物の存在が、今後滑塵組の外へ流出し更にはヘルサレムズ・ロットの外へまで流出するのであれば、それは『復讐者』としても避けたい事案だ。
世界の均衡を崩す何かが、裏社会から流れるのは『復讐者』が防がねばならない。
「半日ほど時間貰ってもいいですか?」
「何処に行く?」
「九頭見会へ行ってから現場と滑塵組ですね。先にチェインさんが戻ってきたらその情報送ってください」
「ならミーティングに参加はしなくていい。何か分かり次第連絡をくれ」
「了解」
潜入捜査が一番楽だろうなと考えつつ、シルビはスティーブンからそれぞれの住所を教えて貰った。