―The Outlaw of Green―
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少女の目はシルビ達を映しているが、そこに子供が本来持つ光が無い。感情の起伏が無いわけではないが、心因反応を持つ者の多くがそうであるように自分からの行動を示そうとしていなかった。
ただ始めて見る生き物に興味はあるらしい。少女の隠れ場所になっていた、老人達曰く先生は、お座りをして二人を見上げているシルビを見て目を丸くしていた。
「これは……」
「勝手に連れて来てしまったのですが迷惑だったでしょうか。やはり先に連絡を」
「ああいえ、少し驚いただけです。それにしてもこれは……まるでハクタクサンですな」
「ハクタクサン?」
先生の言葉をキョトンとした様子で繰り返すクラウスに対し、シルビは内心で冷や汗をかく。
「中国の薬の神さんですよ。僕も故郷でチラと聞いた程度ですがね」
どうやら東洋人らしい先生はそう言ってシルビを眺めたまましゃがみ、シルビの頭を撫でた。
『ハクタクサン』というのはそれで一つの名称ではなく、正しくは『白澤さん』だろう。そうであるのなら『中国の薬の神』という説明も大雑把過ぎるが間違ってはいない。
だがクラウスにもちゃんと話していない正体が、こんなところで気付かれるとは流石に思ってもいなかった。クラウスの事だからなかなか忘れてもくれないだろう。後で誤魔化すか正体を説明するかしなければならない事に、今から少し落ち込んだ。
ヘルサレムズ・ロットがあるアメリカはキリスト教が主な宗教国家だが、異界と融合した事によって宗派の隔たりは以前より薄まったのだろう。だから異国の神の話題を出しても怒る様な者はここには居なかった。
「薬の神様に似ているなんていいわね。でも神様というのならあの霧の中に居るタコと同じってことでしょう? それは可哀想だわ」
「しかも神様がこんな老人の集まりに顔を出すのかって話さ。あーいや、この子を貶したわけじゃないよクラウス君」
ほのぼのと笑い飛ばす老人達に首の皮一枚繋がったような気分でシルビは感謝する。先生の手に頭を摺り寄せてから後ろへ隠れているメイヴィを見やれば、植木鉢を抱えていた少女がおずおずと前へ出てきた。
彼女が自分から手を伸ばしてくるのを待つ。が、メイヴィはやはり大き目の生き物であるシルビが怖いのか途中で手を戻してしまった。
無理に撫でろという訳ではないので撫でられなかった事に関しては仕方ない。そんなすぐに飛びつける子供だったらクラウスも心配しないと思う。アニマルセラピーにシルビが向いているのかどうかは別として。
今日の集まりの間に一度撫でられるかもう少し近くへ来る事があれば重畳だろうと、シルビは立ち上がってクラウスの傍へ戻った。
園芸サークルの会合が終わり植物園の入り口で先生とメイヴィに見送られる時、挨拶をしていたクラウスを待っているとコッソリといった様子でメイヴィがシルビへと近付いてきた。
座っていたシルビの前でしゃがみ、脇に抱えていた植木鉢を置いて見上げてくる姿はまだ少し怯えが残っている。しかし最初に挨拶をした時ほどではないなと考えて、シルビは彼女を驚かせないようにゆっくりとその場へ伏せた。
チラリと見やれば勇気を振り絞っているという様子で手が伸びてくる。その手がシルビの頭へ触れて、頭に置かれて、毛並みに埋めるように指が動いた。
動物に慣れていない子供の手付きだ。当たり前であるが乱雑で、誰かの手付きを真似しただけに思える。
それでも自分から触ろうとしただけ、彼女の精神状態は落ち着いているのだと知れた。
「メイヴィ」
先生の声にメイヴィの手がパッと離される。植木鉢を抱えて先生の許へ駆けていく彼女に、シルビも後を追いかけていき先生と話をしていたクラウスの脇へと控えた。
「触らしてもらってたのか?」
聞かれて俯きながら更に頷いたメイヴィの頭を先生が撫でる。シルビがクラウスを見上げればクラウスも安堵したように目許を細めていた。
この調子だと来月にまたあるらしい会合へも、クラウスはシルビを同行させようとするかもしれない。植物園を出る間際に、メイヴィがシルビへ向けて手を振っているのが見えた。
植物園の外でそれぞれの方角へ帰るサークルメンバーと別れ、待っていた迎えのギルベルトの車へ乗り込む。どうやって乗っていたほうがいいか尋ねようとまだ外に居たクラウスを見れば、クラウスは植物園へ入っていこうとする人影を見つめていた。
スーツの上にスカジャンを羽織った、なんというか植物には微塵も興味の無さそうな男である。シルビも人の事は言えないが男の癖に染めた長髪で、ヘルサレムズ・ロットに居るのはおかしいが日本に居ればもう少しおかしくないだろう。
つまりあの男はジャパニーズマフィア、いわゆるヤクザだ。
「……借金取り、って感じでも無さそうだなぁ」
スカジャンの男は一応人目を気にしながら、こそこそと植物園の中へと入っていった。それを眺めていたクラウスが車へ乗り込んでくる。ただ珍しくて眺めていただけだろう。ああいう格好は本場日本でも古い。
クラウスが座った横で腹這いになってクラウスの脚へ顎を乗せた。驚くクラウスを目だけで見上げる。
「……喉渇きました」
「戻ったらギルベルトの紅茶を飲もう」
「楽しみにしてます」
バックミラー越しに運転席でギルベルトが笑ったのが見えた。
ただ始めて見る生き物に興味はあるらしい。少女の隠れ場所になっていた、老人達曰く先生は、お座りをして二人を見上げているシルビを見て目を丸くしていた。
「これは……」
「勝手に連れて来てしまったのですが迷惑だったでしょうか。やはり先に連絡を」
「ああいえ、少し驚いただけです。それにしてもこれは……まるでハクタクサンですな」
「ハクタクサン?」
先生の言葉をキョトンとした様子で繰り返すクラウスに対し、シルビは内心で冷や汗をかく。
「中国の薬の神さんですよ。僕も故郷でチラと聞いた程度ですがね」
どうやら東洋人らしい先生はそう言ってシルビを眺めたまましゃがみ、シルビの頭を撫でた。
『ハクタクサン』というのはそれで一つの名称ではなく、正しくは『白澤さん』だろう。そうであるのなら『中国の薬の神』という説明も大雑把過ぎるが間違ってはいない。
だがクラウスにもちゃんと話していない正体が、こんなところで気付かれるとは流石に思ってもいなかった。クラウスの事だからなかなか忘れてもくれないだろう。後で誤魔化すか正体を説明するかしなければならない事に、今から少し落ち込んだ。
ヘルサレムズ・ロットがあるアメリカはキリスト教が主な宗教国家だが、異界と融合した事によって宗派の隔たりは以前より薄まったのだろう。だから異国の神の話題を出しても怒る様な者はここには居なかった。
「薬の神様に似ているなんていいわね。でも神様というのならあの霧の中に居るタコと同じってことでしょう? それは可哀想だわ」
「しかも神様がこんな老人の集まりに顔を出すのかって話さ。あーいや、この子を貶したわけじゃないよクラウス君」
ほのぼのと笑い飛ばす老人達に首の皮一枚繋がったような気分でシルビは感謝する。先生の手に頭を摺り寄せてから後ろへ隠れているメイヴィを見やれば、植木鉢を抱えていた少女がおずおずと前へ出てきた。
彼女が自分から手を伸ばしてくるのを待つ。が、メイヴィはやはり大き目の生き物であるシルビが怖いのか途中で手を戻してしまった。
無理に撫でろという訳ではないので撫でられなかった事に関しては仕方ない。そんなすぐに飛びつける子供だったらクラウスも心配しないと思う。アニマルセラピーにシルビが向いているのかどうかは別として。
今日の集まりの間に一度撫でられるかもう少し近くへ来る事があれば重畳だろうと、シルビは立ち上がってクラウスの傍へ戻った。
園芸サークルの会合が終わり植物園の入り口で先生とメイヴィに見送られる時、挨拶をしていたクラウスを待っているとコッソリといった様子でメイヴィがシルビへと近付いてきた。
座っていたシルビの前でしゃがみ、脇に抱えていた植木鉢を置いて見上げてくる姿はまだ少し怯えが残っている。しかし最初に挨拶をした時ほどではないなと考えて、シルビは彼女を驚かせないようにゆっくりとその場へ伏せた。
チラリと見やれば勇気を振り絞っているという様子で手が伸びてくる。その手がシルビの頭へ触れて、頭に置かれて、毛並みに埋めるように指が動いた。
動物に慣れていない子供の手付きだ。当たり前であるが乱雑で、誰かの手付きを真似しただけに思える。
それでも自分から触ろうとしただけ、彼女の精神状態は落ち着いているのだと知れた。
「メイヴィ」
先生の声にメイヴィの手がパッと離される。植木鉢を抱えて先生の許へ駆けていく彼女に、シルビも後を追いかけていき先生と話をしていたクラウスの脇へと控えた。
「触らしてもらってたのか?」
聞かれて俯きながら更に頷いたメイヴィの頭を先生が撫でる。シルビがクラウスを見上げればクラウスも安堵したように目許を細めていた。
この調子だと来月にまたあるらしい会合へも、クラウスはシルビを同行させようとするかもしれない。植物園を出る間際に、メイヴィがシルビへ向けて手を振っているのが見えた。
植物園の外でそれぞれの方角へ帰るサークルメンバーと別れ、待っていた迎えのギルベルトの車へ乗り込む。どうやって乗っていたほうがいいか尋ねようとまだ外に居たクラウスを見れば、クラウスは植物園へ入っていこうとする人影を見つめていた。
スーツの上にスカジャンを羽織った、なんというか植物には微塵も興味の無さそうな男である。シルビも人の事は言えないが男の癖に染めた長髪で、ヘルサレムズ・ロットに居るのはおかしいが日本に居ればもう少しおかしくないだろう。
つまりあの男はジャパニーズマフィア、いわゆるヤクザだ。
「……借金取り、って感じでも無さそうだなぁ」
スカジャンの男は一応人目を気にしながら、こそこそと植物園の中へと入っていった。それを眺めていたクラウスが車へ乗り込んでくる。ただ珍しくて眺めていただけだろう。ああいう格好は本場日本でも古い。
クラウスが座った横で腹這いになってクラウスの脚へ顎を乗せた。驚くクラウスを目だけで見上げる。
「……喉渇きました」
「戻ったらギルベルトの紅茶を飲もう」
「楽しみにしてます」
バックミラー越しに運転席でギルベルトが笑ったのが見えた。