―The Outlaw of Green―
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ニューヨークの崩壊とヘルザレムズ・ロットとしての再構築を経てからは異界の植物も育てているらしい予想以上に大きな植物園が、クラウスの参加している園芸サークルの集会場所だった。ギルベルトの運転する車から降りて見上げた植物園は、人の姿で見たとしても大きいだろう。
「入り口は向こうだ」
植物園の入り口を示すクラウスに、シルビは声での返事の代わりにクラウスを見上げた。今日の目的の為にも、【白澤】の姿である時は人語を喋らない事をここへ来る前に告げてあり、クラウスはそれを思い出したのか申し訳無さそうにシルビの頭を撫でる。
飼い主がペットへそんなに申し訳無さそうな顔をするなと言ってやりたかった。周囲にただのペットとして認識されなかったらシルビが来た意味が無い。
申し訳無さそうにするのなら、それはここへ来る為にギルベルトへも【白澤】の姿を見せることになってしまった事のほうを謝ってもらいたかった。彼の運転する車へ乗る以上、得体の知れない生き物ではないと証明する為にギルベルトへもシルビはバラすことになったのである。
既にシルビが『転生している』ことを知っていたギルベルトは、驚きつつも怒りもせずに直ぐ受け入れてくれたが。
クラウスへ付き添うように植物園へ入れば、既に同じサークルのメンバーらしい年寄りが園内に置かれていたテーブルに集まって談笑を始めていた。クラウスが来たことに気付いて挨拶してくる彼らは、直ぐに真面目に挨拶を返すクラウスの横へ居たシルビへ気付く。
「おや、ずいぶんと大きい犬だね」
「イヤだわ。犬じゃありませんよ。角があるじゃないですか」
角があったら犬じゃないのかと思ったが、それ以前によく犬だと思ったものである。
「クラウスさんのお友達?」
「いやぁ立派な角と毛並みだ。異界の生き物にしては綺麗だね」
「触ってもいいかしら?」
椅子から立ち上がってシルビへ近付いてくる老婆に、シルビは許可を求めるようにクラウスを見上げてから、差し出された手へ角で傷付けないように気を付けて頭を摺り寄せた。他の老人達もそれを見て自分も撫でさせてくれと傍に来るのに、シルビはゆっくりとされるがままを受け入れる。
「おや、わき腹にも眼があるよこの子」
「なんて種族だい?」
「いえ、その」
クラウスが尋ねられて戸惑っていた。そういえば彼には【白澤】の説明をしていないし、牙狩りであっても世界の神話や妖怪にまでは詳しくないだろうから、【白澤】なんて生き物は知らないのだろう。
これはどう弁解するものか、とシルビがクラウスを案じていると、シルビを撫でていた老婆が取り成した。
「種族なんていいじゃありませんか。クラウスさんのお友達ですもの、害なんてありませんよ」
「それもそうですねえ」
動物好きなのか老婆はシルビの顔を撫でて放さない。いい加減解放して欲しくて尻尾を振れば、喜んでいると勘違いされた。
「おとなしい子だね。これならメイヴィちゃんも怖がりはしないなー」
「もしかしてクラウス君、その為に連れてきたのかい?」
老人の一人が出した名前に、シルビは内心でだけ反応して聞き耳を立てる。ここへ来る前に聞いていた、クラウスがシルビを連れてきた理由の少女の名前だ。
「ええ。……彼なら彼女も怯えないかと」
「あらまあ、いい考えね。動物は子供の心を暖めてくれるわ。もちろん植物もだけれど」
テーブルの上にクラウスの分の飲み物が用意されて、クラウスが勧められて腰を降ろす。シルビがその足元へ伏せて丸くなれば、周囲のサークルメンバー達は礼儀正しい子だとシルビのことを褒めてきた。正直言うなら、シルビはこの中で一番年上だ。なので『子』と言われるのは仕方ないと分かっていても少し釈然としない。
クラウスが連れてきたシルビを褒めたり、自分達が育てている植物の話を再開したりするサークルメンバーの許に彼女が来たのは、老人達の話をBGMに眠気が近付いてきたところで、頭の上ではクラウスがスケジュール帳を取り出して怒られていた。聞いていなかったので何故そうなったのかは分からない。
二人分の足音に身体を起こせば、長靴に手袋とエプロンといった、汚れても良い格好をした男性と植木鉢を大事そうに抱えた少女が近付いてくるところだった。その少女が『メイヴィ』なのだろう。
サークルのメンバーへ『先生』と呼ばれて、ただの庭師だと訂正する男性はどうやら一人でこの植物園を管理しているらしい。
「メイヴィちゃん。こんにちは」
メンバーの一人が少女へ話しかけると、少女ははにかみこそしたが無言で男性の後ろへと隠れてしまった。老人達がそれを咎める様子は無く、全員が彼女の身へ起こった出来事を少なからず知っているのだろう。
シルビがクラウスの脚を鼻先で突いて見上げれば、クラウスの隣へ座っていた老人も気付いてシルビを見下ろした。
「そうだそうだ。今日は新しい友達がいるぞメイヴィちゃん」
クラウスよりも先にそう言ってシルビを立ち上がらせた老人に、シルビは距離を測りつつ男性とメイヴィの前へと移動する。そうして尻尾を振って見せれば、男性の後ろからメイヴィが不思議そうに顔を覗かせた。
「入り口は向こうだ」
植物園の入り口を示すクラウスに、シルビは声での返事の代わりにクラウスを見上げた。今日の目的の為にも、【白澤】の姿である時は人語を喋らない事をここへ来る前に告げてあり、クラウスはそれを思い出したのか申し訳無さそうにシルビの頭を撫でる。
飼い主がペットへそんなに申し訳無さそうな顔をするなと言ってやりたかった。周囲にただのペットとして認識されなかったらシルビが来た意味が無い。
申し訳無さそうにするのなら、それはここへ来る為にギルベルトへも【白澤】の姿を見せることになってしまった事のほうを謝ってもらいたかった。彼の運転する車へ乗る以上、得体の知れない生き物ではないと証明する為にギルベルトへもシルビはバラすことになったのである。
既にシルビが『転生している』ことを知っていたギルベルトは、驚きつつも怒りもせずに直ぐ受け入れてくれたが。
クラウスへ付き添うように植物園へ入れば、既に同じサークルのメンバーらしい年寄りが園内に置かれていたテーブルに集まって談笑を始めていた。クラウスが来たことに気付いて挨拶してくる彼らは、直ぐに真面目に挨拶を返すクラウスの横へ居たシルビへ気付く。
「おや、ずいぶんと大きい犬だね」
「イヤだわ。犬じゃありませんよ。角があるじゃないですか」
角があったら犬じゃないのかと思ったが、それ以前によく犬だと思ったものである。
「クラウスさんのお友達?」
「いやぁ立派な角と毛並みだ。異界の生き物にしては綺麗だね」
「触ってもいいかしら?」
椅子から立ち上がってシルビへ近付いてくる老婆に、シルビは許可を求めるようにクラウスを見上げてから、差し出された手へ角で傷付けないように気を付けて頭を摺り寄せた。他の老人達もそれを見て自分も撫でさせてくれと傍に来るのに、シルビはゆっくりとされるがままを受け入れる。
「おや、わき腹にも眼があるよこの子」
「なんて種族だい?」
「いえ、その」
クラウスが尋ねられて戸惑っていた。そういえば彼には【白澤】の説明をしていないし、牙狩りであっても世界の神話や妖怪にまでは詳しくないだろうから、【白澤】なんて生き物は知らないのだろう。
これはどう弁解するものか、とシルビがクラウスを案じていると、シルビを撫でていた老婆が取り成した。
「種族なんていいじゃありませんか。クラウスさんのお友達ですもの、害なんてありませんよ」
「それもそうですねえ」
動物好きなのか老婆はシルビの顔を撫でて放さない。いい加減解放して欲しくて尻尾を振れば、喜んでいると勘違いされた。
「おとなしい子だね。これならメイヴィちゃんも怖がりはしないなー」
「もしかしてクラウス君、その為に連れてきたのかい?」
老人の一人が出した名前に、シルビは内心でだけ反応して聞き耳を立てる。ここへ来る前に聞いていた、クラウスがシルビを連れてきた理由の少女の名前だ。
「ええ。……彼なら彼女も怯えないかと」
「あらまあ、いい考えね。動物は子供の心を暖めてくれるわ。もちろん植物もだけれど」
テーブルの上にクラウスの分の飲み物が用意されて、クラウスが勧められて腰を降ろす。シルビがその足元へ伏せて丸くなれば、周囲のサークルメンバー達は礼儀正しい子だとシルビのことを褒めてきた。正直言うなら、シルビはこの中で一番年上だ。なので『子』と言われるのは仕方ないと分かっていても少し釈然としない。
クラウスが連れてきたシルビを褒めたり、自分達が育てている植物の話を再開したりするサークルメンバーの許に彼女が来たのは、老人達の話をBGMに眠気が近付いてきたところで、頭の上ではクラウスがスケジュール帳を取り出して怒られていた。聞いていなかったので何故そうなったのかは分からない。
二人分の足音に身体を起こせば、長靴に手袋とエプロンといった、汚れても良い格好をした男性と植木鉢を大事そうに抱えた少女が近付いてくるところだった。その少女が『メイヴィ』なのだろう。
サークルのメンバーへ『先生』と呼ばれて、ただの庭師だと訂正する男性はどうやら一人でこの植物園を管理しているらしい。
「メイヴィちゃん。こんにちは」
メンバーの一人が少女へ話しかけると、少女ははにかみこそしたが無言で男性の後ろへと隠れてしまった。老人達がそれを咎める様子は無く、全員が彼女の身へ起こった出来事を少なからず知っているのだろう。
シルビがクラウスの脚を鼻先で突いて見上げれば、クラウスの隣へ座っていた老人も気付いてシルビを見下ろした。
「そうだそうだ。今日は新しい友達がいるぞメイヴィちゃん」
クラウスよりも先にそう言ってシルビを立ち上がらせた老人に、シルビは距離を測りつつ男性とメイヴィの前へと移動する。そうして尻尾を振って見せれば、男性の後ろからメイヴィが不思議そうに顔を覗かせた。