―Hello,World―
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彼女の腕を放し、胸部からも腕を引き抜く。そのまま膝から崩れ落ちるようにして地面へ膝と手を突けば、全身を重い疲労感が襲った。
気絶まではいかないが、やはりだいぶ疲れたようである。
「だ、大丈夫……?」
「疲れたぁ……駄目ですもう動けねぇ」
敵かどうかもまだ判明していない相手に心配されるという状況。これでは今後のHLでやっていけるのか不安にもなるというものだ。
ただ、まだ戻ろうとまでは思わない。
座りなおして顔を上げれば、目の前に居た彼女が視線を合わせるようにしゃがんだ。その動作でやっと判断が付く。
「名前を教えていただいてよろしいですか?」
「……チェイン・皇」
「シルビ・T・グラマトです。あと……スティーブンさんに、試すくらいなら直接聞いてくれってお願いしていいですかぁ」
ライブラの事務所を出た瞬間から観察されていたのだろう。シルビが信用に足るかどうか、実力はどんなものであるのか。彼女を見つけ出した事で合格したのかどうかは分からないが、駄目だったら駄目だったという話になるだけだ。
番頭というかライブラの副官らしいが、副官ゆえに色々考えているのだろう。シルビにもそういう経験はあるのでスティーブンの行いを咎めるつもりは無い。
チェインの携帯が鳴って彼女が電話に出る。二言三言相槌を打ってから差し出されたソレを受け取って耳へ押し当てた。
「貴方何処から見てるんです?」
『途中からは監視カメラだ。それまではチェインに撮影してもらっていたよ』
「言っておきますが、これ本来契約内容外の暴力ですよ」
『それについては僕の独断だ。罰するなら僕だけにしてくれ』
「いえ、いいですよ別に。最初から咎めるつもりはありませんでしたしぃ」
携帯から漏れ聞こえる会話を聞いていたのだろうチェインが、シルビの返事でホッとしたような顔をする。
「あー……チェインさんにはちゃんと謝ってあげてください。怖がらせてしまったでしょうし、俺も謝りますけど」
『そうするよ』
息を吐いて携帯をチェインへと返した。再び耳へ当てて電話の向こうのスティーブンと話す彼女に、何処かで水分補給の為に飲み物を買ってきてもらえるだろうかと考える。出血は大した事無いが疲労が酷いので今はまだ歩けそうに無かった。
通話を終えたチェインがシルビを見る。
「大丈夫?」
「ただの疲労ですから少しすれば回復します。それにしてもアレですねぇ。HLの皆さんって皆そういう感じですか?」
「『存在希釈』の事? でも今あなただって……」
「あれはもっと違うものなんです。つか……能力の話も聞かねぇと分かんねぇなぁ」
置いて行っていいと言ったのだが、親切にも頼んだら飲み物を買ってきてくれたチェインと別れ、何処だか知れない屋上でそのまま休んでいたらどうやら眠ってしまったらしい。眼を覚ますと既に空は霧を通して仄かに赤くなっていた。
携帯を確認しても何か連絡があった訳でもない。チェインから報告がいって、一度くらいスティーブンか誰かから連絡があってもいいのではと思ったが、ライブラは結構そういう関係性が希薄な職場なのかも知れなかった。
結局今日やった事と言えば、ただの副業探しである。それがHL生活として順調なのかどうかは微妙なところだ。
「……帰るかぁ」
全てにやる気が無くなって家へ帰ろうと決める。後で文句を言われたら『疲れたので』で押し通す事に決めた。悪いのはシルビではない。多分。
ビルの屋上から人目に付かなそうな場所を選んで地上へ降り、数日前から住処にしているマンションへ帰ろうとして歩き出した。チェインが買ってくれたが飲みきれていなかったボトルの中の水が揺れる。
朝からテンションが低かった理由は分かっていた。あまり【白澤】の姿を見られるのは好きではないのに、クラウスとスティーブンへと見せたからだ。
嫌な姿を見せ付けて、それが原因になって怪しまれて。一体どうすればよかったのか。
このままライブラに馴染めなかったら、心の支えとして誰か知り合いに来てもらうかと考えたところで、スクーターに跨ったレオナルドの姿を見つけて足を止めた。頭に被ったヘルメットの更に上に、チェインがいる事にはどう突っ込めばいいのか。
というか突っ込んでいいのか。
「……こんばんはぁ?」
「あーもーやっと見つけたよ! オレアドレスまだ聞いてないから連絡取れなかったんですけど!?」
「私も」
近付いて行きながらとりあえず声を掛けたら、何だか理不尽に怒られる。
「何処に居たの?」
「あー、昼間の屋上でそのまま寝てしまって……」
「少しどころじゃないじゃない」
何の話か分からないらしいレオナルドの頭からチェインが降りた。レオナルドの首は平気なのだろうかと心配してしまうが、レオナルドは首を痛めている様子すらない。きっとそれもチェインの能力の一つなのだろう。
何か用事があるのかも知れないし、二人の邪魔をしないように帰ってしまうかとシルビが考えあぐねていると、レオナルドがスクーターに跨ったまま後部の荷台を示した。
「乗ってください」
「……なんでぇ?」
「なんでって、ライブラの事務所で歓迎会やるんですよ。急だったから全員は来れないしあまり準備出来なかったんですけど、なによりも主役が来ないと」
「歓迎会……歓迎会!?」
驚いて繰り返すと二人が顔を見合わせてから呆れたように笑う。
「だからホラ、早く行きましょう! もう皆待ちきれなくて飲んでるかも知れねーですよ」
促されてというよりは強制的にスクーターの後ろへ乗せられた。ライブラの事務所へ向かえばドアを開けた途端にクラッカーの紙吹雪で迎えられて、料理や酒も勧められて。
朝食用にと買った卵は黄身が双生児だった。その時は今日の運を使い果たした気分になったが、どうやらそうでもなかったらしい。
気絶まではいかないが、やはりだいぶ疲れたようである。
「だ、大丈夫……?」
「疲れたぁ……駄目ですもう動けねぇ」
敵かどうかもまだ判明していない相手に心配されるという状況。これでは今後のHLでやっていけるのか不安にもなるというものだ。
ただ、まだ戻ろうとまでは思わない。
座りなおして顔を上げれば、目の前に居た彼女が視線を合わせるようにしゃがんだ。その動作でやっと判断が付く。
「名前を教えていただいてよろしいですか?」
「……チェイン・皇」
「シルビ・T・グラマトです。あと……スティーブンさんに、試すくらいなら直接聞いてくれってお願いしていいですかぁ」
ライブラの事務所を出た瞬間から観察されていたのだろう。シルビが信用に足るかどうか、実力はどんなものであるのか。彼女を見つけ出した事で合格したのかどうかは分からないが、駄目だったら駄目だったという話になるだけだ。
番頭というかライブラの副官らしいが、副官ゆえに色々考えているのだろう。シルビにもそういう経験はあるのでスティーブンの行いを咎めるつもりは無い。
チェインの携帯が鳴って彼女が電話に出る。二言三言相槌を打ってから差し出されたソレを受け取って耳へ押し当てた。
「貴方何処から見てるんです?」
『途中からは監視カメラだ。それまではチェインに撮影してもらっていたよ』
「言っておきますが、これ本来契約内容外の暴力ですよ」
『それについては僕の独断だ。罰するなら僕だけにしてくれ』
「いえ、いいですよ別に。最初から咎めるつもりはありませんでしたしぃ」
携帯から漏れ聞こえる会話を聞いていたのだろうチェインが、シルビの返事でホッとしたような顔をする。
「あー……チェインさんにはちゃんと謝ってあげてください。怖がらせてしまったでしょうし、俺も謝りますけど」
『そうするよ』
息を吐いて携帯をチェインへと返した。再び耳へ当てて電話の向こうのスティーブンと話す彼女に、何処かで水分補給の為に飲み物を買ってきてもらえるだろうかと考える。出血は大した事無いが疲労が酷いので今はまだ歩けそうに無かった。
通話を終えたチェインがシルビを見る。
「大丈夫?」
「ただの疲労ですから少しすれば回復します。それにしてもアレですねぇ。HLの皆さんって皆そういう感じですか?」
「『存在希釈』の事? でも今あなただって……」
「あれはもっと違うものなんです。つか……能力の話も聞かねぇと分かんねぇなぁ」
置いて行っていいと言ったのだが、親切にも頼んだら飲み物を買ってきてくれたチェインと別れ、何処だか知れない屋上でそのまま休んでいたらどうやら眠ってしまったらしい。眼を覚ますと既に空は霧を通して仄かに赤くなっていた。
携帯を確認しても何か連絡があった訳でもない。チェインから報告がいって、一度くらいスティーブンか誰かから連絡があってもいいのではと思ったが、ライブラは結構そういう関係性が希薄な職場なのかも知れなかった。
結局今日やった事と言えば、ただの副業探しである。それがHL生活として順調なのかどうかは微妙なところだ。
「……帰るかぁ」
全てにやる気が無くなって家へ帰ろうと決める。後で文句を言われたら『疲れたので』で押し通す事に決めた。悪いのはシルビではない。多分。
ビルの屋上から人目に付かなそうな場所を選んで地上へ降り、数日前から住処にしているマンションへ帰ろうとして歩き出した。チェインが買ってくれたが飲みきれていなかったボトルの中の水が揺れる。
朝からテンションが低かった理由は分かっていた。あまり【白澤】の姿を見られるのは好きではないのに、クラウスとスティーブンへと見せたからだ。
嫌な姿を見せ付けて、それが原因になって怪しまれて。一体どうすればよかったのか。
このままライブラに馴染めなかったら、心の支えとして誰か知り合いに来てもらうかと考えたところで、スクーターに跨ったレオナルドの姿を見つけて足を止めた。頭に被ったヘルメットの更に上に、チェインがいる事にはどう突っ込めばいいのか。
というか突っ込んでいいのか。
「……こんばんはぁ?」
「あーもーやっと見つけたよ! オレアドレスまだ聞いてないから連絡取れなかったんですけど!?」
「私も」
近付いて行きながらとりあえず声を掛けたら、何だか理不尽に怒られる。
「何処に居たの?」
「あー、昼間の屋上でそのまま寝てしまって……」
「少しどころじゃないじゃない」
何の話か分からないらしいレオナルドの頭からチェインが降りた。レオナルドの首は平気なのだろうかと心配してしまうが、レオナルドは首を痛めている様子すらない。きっとそれもチェインの能力の一つなのだろう。
何か用事があるのかも知れないし、二人の邪魔をしないように帰ってしまうかとシルビが考えあぐねていると、レオナルドがスクーターに跨ったまま後部の荷台を示した。
「乗ってください」
「……なんでぇ?」
「なんでって、ライブラの事務所で歓迎会やるんですよ。急だったから全員は来れないしあまり準備出来なかったんですけど、なによりも主役が来ないと」
「歓迎会……歓迎会!?」
驚いて繰り返すと二人が顔を見合わせてから呆れたように笑う。
「だからホラ、早く行きましょう! もう皆待ちきれなくて飲んでるかも知れねーですよ」
促されてというよりは強制的にスクーターの後ろへ乗せられた。ライブラの事務所へ向かえばドアを開けた途端にクラッカーの紙吹雪で迎えられて、料理や酒も勧められて。
朝食用にと買った卵は黄身が双生児だった。その時は今日の運を使い果たした気分になったが、どうやらそうでもなかったらしい。