―人狼大作戦―
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ライブラの事務所へチェインが顔を出したのは、シルビがザップの顔の擦り傷を治してやって、更にクラウスが『チェイン帰還おめでとうパーティ』の招待状を作成し終えた後だった。
苛々を治める為にギルベルトにキッチンを借りてロールケーキを作っていたシルビが執務室へ戻った時、ちょうどチェインはクラウスとの話を終えたところだったらしく、部屋へ入ってきたシルビを振り返る姿はシルビが覚えているものと遜色無く何一つ変わってもいないように思える。
振り返ってシルビを見て、何か言おうとしていた彼女に駆け寄って、シルビは勢いのままにチェインを抱き締めた。
「うわっ!?」
驚いて存在を希釈する事も忘れているチェインの声を聞きながら、彼女の心音や体温を確かめる。生きて目の前にいるのは、確かにチェインだ。決して世界が『書き換え』られたことによって『修正として加えられた何か』でもない。
チェインの肩を掴んで身を離し、シルビは驚いたままのチェインを睨んだ。
「……チェインさん。【存在希釈】を行なったでしょう。結構ヤベェところまで」
「え――っと」
「世界の『書き換え』が実際に行なわれた時の俺の気分が分かりますか? 今は力の四割が無ぇせいでそれを覚えてられねぇんですよ。なのに頭痛は酷でぇし『書き換え』られていく中で自分の中から誰かの記憶が消えていく感覚がどんなに怖ぇか分かりますか?」
自分が大層理不尽な事を言っている自覚はあったが、それでもこれは言っておきたかった。
「どんな事情があっても俺は貴女や、ライブラの誰かが消えるのを良しとは思いません」
かつて、シルビは中途半端な形であったけれど『“自分”の存在を“消滅”させた』ことがある。中途半端故に何かを切っ掛けにすぐ思い出す者や、覚えていたままだった者とかも残っていたが、それでも大勢の者の中から自分の存在を消滅させたのだ。
消滅させた後にその者達と再会して、自分のことを覚えていない、知らない彼らと言葉を交わして、『自分だけが覚えている彼ら』にどれだけ悲しくなったか。
チェインの【存在希釈】もある意味では変わらない。チェインの意識がどうなるのかは分からないが、もし最後に自身の意識が希釈されるのなら、皆が自分を忘れてしまったという認識は分かるのではないか。
それは寂しいと、シルビは思う。
「……何度だって、ボタン付けでも夕食作りでもしますから、あまり無茶はしねぇでください」
結局はそういうことだ。シルビは誰かにおいていかれるのが怖いし、おいていってしまうのも怖い。忘れるなんてことはその最たるもののようでシルビには許容したいとは思えなかった。
俯いたシルビの腕にチェインが触れる。
「放して」
「あ、すみません」
慌ててチェインの肩から手を離して、そういえばさほど親しくも無い相手にいきなり抱きついてしまったなと今更思い至る。家族や友人達とのスキンシップでしょっちゅう抱き着いたりするので、どうにも癖になっていた。
ここはヘルサレムズ・ロットだし職場なので、この癖は直したほうがいいかなと思っていると、チェインがシルビの名を呼んだ。
「男っぽくないと思ってたけど、そういうところは男だね」
「セクハラ扱いですか。いや俺が悪ぃんですけど」
「そうじゃなくて……符牒って知ってる? 『実存帰還符牒』」
「いえ……」
「私達『不可視の人狼』にはそれがあるから、戻って来れなくなることはないよ。だから大丈夫」
つまりそれは、人狼が世界へ存在するのに固執する為の何かということだろう。それがある限り世界へ存在し続ける何か。もしくは世界へ存在し続けさせられる何か。
シルビがこうして心配せずとも戻ってこられるのだと示したいのだろうが、シルビとしては既に一度チェインの存在を世界が『書き換え』、それを『書き換え直し』されている以上、一度確かにチェインはその存在が消失されきっていたと知っている。故にチェインの言葉をすんなり受け入れられるかといえば、嘘になった。
ただこれ以上、シルビが踏み込むのも変な話だという自覚もある。
「勝手にしてるだけですけど、あんまり心配させねぇでください」
「うん。ありがとう」
微笑むチェインへシルビも微笑む。とりあえずチェインは消えていないし、某軍事国家だって黙らせた。結果的にはそれでいいのだろう。
なんだか家族に会いたいなとチェインから顔を逸らした先に、ソファの背もたれ越しにこちらを凝視していたザップやツェッドと目が合った。斗流血法の兄弟弟子達は仲がいいのか悪いのか似たような格好でこちらを伺っており、何をしてるんだと呆れてしまう。
「何してんだぁ?」
「いやお前それこっちの台詞。んだぁ? ロン毛は犬女みてーのが好みかぁ?」
チェインが道端のごみを見るような目でザップを見やっていた。シルビとしては姉や娘とそう変わらない若さの女性には然程そういった興味は湧かない。
だからチェインを抱きしめてしまったのは衝動だ。ハグしていいのなら女でも男でも異界人でも出来る。
「猿はシルビと違ってセクハラ扱いするから」
「むしろオレが毎回DV食らってんだろーがよぉ! つか差別か犬女! それともアレか! シルビに抱き付かれて満更じゃねーってか?」
「万年発情猿とシルビは違うし」
「えっと……ザップさんもハグしようかぁ?」
「なんでそーなんだよ!」
両手を広げたら突っ込まれた。
苛々を治める為にギルベルトにキッチンを借りてロールケーキを作っていたシルビが執務室へ戻った時、ちょうどチェインはクラウスとの話を終えたところだったらしく、部屋へ入ってきたシルビを振り返る姿はシルビが覚えているものと遜色無く何一つ変わってもいないように思える。
振り返ってシルビを見て、何か言おうとしていた彼女に駆け寄って、シルビは勢いのままにチェインを抱き締めた。
「うわっ!?」
驚いて存在を希釈する事も忘れているチェインの声を聞きながら、彼女の心音や体温を確かめる。生きて目の前にいるのは、確かにチェインだ。決して世界が『書き換え』られたことによって『修正として加えられた何か』でもない。
チェインの肩を掴んで身を離し、シルビは驚いたままのチェインを睨んだ。
「……チェインさん。【存在希釈】を行なったでしょう。結構ヤベェところまで」
「え――っと」
「世界の『書き換え』が実際に行なわれた時の俺の気分が分かりますか? 今は力の四割が無ぇせいでそれを覚えてられねぇんですよ。なのに頭痛は酷でぇし『書き換え』られていく中で自分の中から誰かの記憶が消えていく感覚がどんなに怖ぇか分かりますか?」
自分が大層理不尽な事を言っている自覚はあったが、それでもこれは言っておきたかった。
「どんな事情があっても俺は貴女や、ライブラの誰かが消えるのを良しとは思いません」
かつて、シルビは中途半端な形であったけれど『“自分”の存在を“消滅”させた』ことがある。中途半端故に何かを切っ掛けにすぐ思い出す者や、覚えていたままだった者とかも残っていたが、それでも大勢の者の中から自分の存在を消滅させたのだ。
消滅させた後にその者達と再会して、自分のことを覚えていない、知らない彼らと言葉を交わして、『自分だけが覚えている彼ら』にどれだけ悲しくなったか。
チェインの【存在希釈】もある意味では変わらない。チェインの意識がどうなるのかは分からないが、もし最後に自身の意識が希釈されるのなら、皆が自分を忘れてしまったという認識は分かるのではないか。
それは寂しいと、シルビは思う。
「……何度だって、ボタン付けでも夕食作りでもしますから、あまり無茶はしねぇでください」
結局はそういうことだ。シルビは誰かにおいていかれるのが怖いし、おいていってしまうのも怖い。忘れるなんてことはその最たるもののようでシルビには許容したいとは思えなかった。
俯いたシルビの腕にチェインが触れる。
「放して」
「あ、すみません」
慌ててチェインの肩から手を離して、そういえばさほど親しくも無い相手にいきなり抱きついてしまったなと今更思い至る。家族や友人達とのスキンシップでしょっちゅう抱き着いたりするので、どうにも癖になっていた。
ここはヘルサレムズ・ロットだし職場なので、この癖は直したほうがいいかなと思っていると、チェインがシルビの名を呼んだ。
「男っぽくないと思ってたけど、そういうところは男だね」
「セクハラ扱いですか。いや俺が悪ぃんですけど」
「そうじゃなくて……符牒って知ってる? 『実存帰還符牒』」
「いえ……」
「私達『不可視の人狼』にはそれがあるから、戻って来れなくなることはないよ。だから大丈夫」
つまりそれは、人狼が世界へ存在するのに固執する為の何かということだろう。それがある限り世界へ存在し続ける何か。もしくは世界へ存在し続けさせられる何か。
シルビがこうして心配せずとも戻ってこられるのだと示したいのだろうが、シルビとしては既に一度チェインの存在を世界が『書き換え』、それを『書き換え直し』されている以上、一度確かにチェインはその存在が消失されきっていたと知っている。故にチェインの言葉をすんなり受け入れられるかといえば、嘘になった。
ただこれ以上、シルビが踏み込むのも変な話だという自覚もある。
「勝手にしてるだけですけど、あんまり心配させねぇでください」
「うん。ありがとう」
微笑むチェインへシルビも微笑む。とりあえずチェインは消えていないし、某軍事国家だって黙らせた。結果的にはそれでいいのだろう。
なんだか家族に会いたいなとチェインから顔を逸らした先に、ソファの背もたれ越しにこちらを凝視していたザップやツェッドと目が合った。斗流血法の兄弟弟子達は仲がいいのか悪いのか似たような格好でこちらを伺っており、何をしてるんだと呆れてしまう。
「何してんだぁ?」
「いやお前それこっちの台詞。んだぁ? ロン毛は犬女みてーのが好みかぁ?」
チェインが道端のごみを見るような目でザップを見やっていた。シルビとしては姉や娘とそう変わらない若さの女性には然程そういった興味は湧かない。
だからチェインを抱きしめてしまったのは衝動だ。ハグしていいのなら女でも男でも異界人でも出来る。
「猿はシルビと違ってセクハラ扱いするから」
「むしろオレが毎回DV食らってんだろーがよぉ! つか差別か犬女! それともアレか! シルビに抱き付かれて満更じゃねーってか?」
「万年発情猿とシルビは違うし」
「えっと……ザップさんもハグしようかぁ?」
「なんでそーなんだよ!」
両手を広げたら突っ込まれた。