―人狼大作戦―
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そんな事があった数日後。
「なんでジャパニーズカルチャーってのは、こうも揃って美しいんだろうな……」
「キモイ」
薬局の奥の部屋で、通販で手に入れたらしい切子グラスをかざして見とれている店長に、シルビは手元から視線を向けもせずに一言だけ返す。何でも数週間掛かってやっと手元へ来たものらしいが、どう見てもそれは日本製ではなかった。というか店長は気付いていないが、底のフチの裏にこっそりと『メイドインチャイナ』と思いきり刻印されている。
今日も今日とて店に出て仕事をしない店長の代わりに、シルビはカウンターで店番をしていた。ライブラの方の仕事は特に無く、あったとしても報告書の提出だけだったので問題は無い。
あるとしたらシルビの『副職』のほうだ。
客から見えないカウンターの奥に置いた私物のノートパソコンには、例の某軍事国家にあるミサイル発射基地の様子がリアルタイムで映し出されている。数時間前から発射準備へ入っており、その打ち出されるミサイルの落下位置は既に判明していた。しかしその国がそんな真似をする理由に関しては不明。
既に近隣に限らず各国から抗議の連絡は向かっているはずだ。だがその国がそれを受け入れた様子は無い。そんな真似をして世界を敵に回す度胸があるのは賞賛できるが、どうせ政府の上層部だけが話し合って決めた行ないだろう。
勝手に世界を敵へ回せばいい。しかし国民を犠牲にするなとは思う。
発射されるミサイルに関しては、『BBウイルス弾頭』という名前の情報が出回っていた。詳細は殆ど分かっておらず、その『BB』というのが何を示しているのかも不明だ。バイオテロなのだとしたら随分と大掛かりではある。
シルビの今回の『仕事』はその『“BB”とは何か』を探り出すことで、制限時間はミサイルが発射されて落ちるまで。
頓挫したとはいえ、兵士をブラッドブリード化させようとする計画が考えられていた国。そのブラッドブリード――『Blood Breeds』のイニシャルを取れば『BB』であることが、今回の騒動をより面倒なものにさせている。
携帯に来たメールを確認して、パソコンのキーボードを叩いた。こんな世界の隅っこの様な場所から“ハッキング”されているなど、向こうも思わないだろう。
「悪ぃなぁ。今は俺も“世界の均衡を守ってる”んだぁ」
誰にも聞こえない呟きへ答えるように、ミサイルを発射した国の情報バンクを丸裸にした。これで現在、あの国は腹の中どころか心臓の裏側まで丸見えである。シルビ以外の誰かがそれに気付いてしまえば情報流出なんて話ですらない。一国の崩壊すら始まる。
携帯の充電が危なくなってきたので充電器と繋げようと立ち上がったところで、シルビはいきなりせり上がってくる吐き気と頭痛に襲われた。
ローラー付の椅子を支えにしたつもりが、支えてもらえきれずに椅子と一緒になって崩れ落ちる。奥から店長の声がしたがそれに答える余裕どころか、なんと言ったのかを理解すら出来なかった。声がするというよりは音が響いている感覚。それも聞こえてきた耳鳴りに打ち消された。
視界が苦痛からの涙と脳の処理能力が追いつかない為に霞む。激しい頭痛からの吐き気に口を手で押さえた。
この感覚を、シルビは知っている。
今までに何度か『未来へ行った』時、これに似た感覚を経験した。脳の中へ大量の情報が一気に押し寄せている。本来は体感した時間に合わせて蓄積されていく情報が、全部否応無しに突っ込まれているのだ。
普通ならそんなことは日常生活で起こらない。シルビが異世界へ飛んだり現代からいきなり未来へ飛んだりすれば起こる現象であって、椅子から立ち上がった程度で起こる筈が無かった。
となれば違う要因なのだろう。
「おいっ、大丈夫か!? 息しろ! ほらヒッヒッフー! 吸って吸って吐け!」
「……ラマーズ法は、吐いて吐いて吸って、だってぇ、店長」
店長に突っ込みつつ、既に鈍いだけの痛みとなった頭痛に額を押さえた。頭へ謎の情報取り込まれたようだが、『×××』が使えない現状では何が変わったのかが分からない。使えないのに情報だけが取り込まれるのも困りものである。
頭痛の程度からして、小規模な世界の改変だった。流石にそのくらいは分かる。だが一体何が『書き換え』られたのか。
「……水ください」
「水か!? ちょっと待ってろ!」
店長が慌てて奥へ戻っていくのに、あの人一応薬剤師なのにあんなに慌てて大丈夫なのかと思う。だが調合の腕は確かだし、おっちょこちょいだとかではないのでいいのかもしれない。
カウンターの脚へ背中を預けて深く息を吐き、それから出来うる限りの覚えていることを思い出していく。世界が“書き換えられた”としたって、シルビの場合は覚えていることがあるのだ。ただしそれも『×××』が使えていた頃の話なので今は分からないが。
世界状況や頭痛がする直前までやっていたことは思い出せた。では次は家族や友人達の顔と名前だなと一人ひとり思い出していっていたところで、店長があの切子グラスに水を入れて戻ってくる。
「使うんですか、それ」
「他にグラス見当たらなかったんだよ! いいから飲め!」
正しい使い方だなと苦笑しつつ、受け取って水を飲み込んだ。少しすっきりした思考で手に持ったグラスの彫りを指先でなぞる。やっぱり日本の切子じゃないからか荒くて雑だ。
そう、世界の書き換えが行われたにしては雑だった。というよりは、ごく小さな書き換えだったというべきか。
「……名前が、出てこない?」
「なんでジャパニーズカルチャーってのは、こうも揃って美しいんだろうな……」
「キモイ」
薬局の奥の部屋で、通販で手に入れたらしい切子グラスをかざして見とれている店長に、シルビは手元から視線を向けもせずに一言だけ返す。何でも数週間掛かってやっと手元へ来たものらしいが、どう見てもそれは日本製ではなかった。というか店長は気付いていないが、底のフチの裏にこっそりと『メイドインチャイナ』と思いきり刻印されている。
今日も今日とて店に出て仕事をしない店長の代わりに、シルビはカウンターで店番をしていた。ライブラの方の仕事は特に無く、あったとしても報告書の提出だけだったので問題は無い。
あるとしたらシルビの『副職』のほうだ。
客から見えないカウンターの奥に置いた私物のノートパソコンには、例の某軍事国家にあるミサイル発射基地の様子がリアルタイムで映し出されている。数時間前から発射準備へ入っており、その打ち出されるミサイルの落下位置は既に判明していた。しかしその国がそんな真似をする理由に関しては不明。
既に近隣に限らず各国から抗議の連絡は向かっているはずだ。だがその国がそれを受け入れた様子は無い。そんな真似をして世界を敵に回す度胸があるのは賞賛できるが、どうせ政府の上層部だけが話し合って決めた行ないだろう。
勝手に世界を敵へ回せばいい。しかし国民を犠牲にするなとは思う。
発射されるミサイルに関しては、『BBウイルス弾頭』という名前の情報が出回っていた。詳細は殆ど分かっておらず、その『BB』というのが何を示しているのかも不明だ。バイオテロなのだとしたら随分と大掛かりではある。
シルビの今回の『仕事』はその『“BB”とは何か』を探り出すことで、制限時間はミサイルが発射されて落ちるまで。
頓挫したとはいえ、兵士をブラッドブリード化させようとする計画が考えられていた国。そのブラッドブリード――『Blood Breeds』のイニシャルを取れば『BB』であることが、今回の騒動をより面倒なものにさせている。
携帯に来たメールを確認して、パソコンのキーボードを叩いた。こんな世界の隅っこの様な場所から“ハッキング”されているなど、向こうも思わないだろう。
「悪ぃなぁ。今は俺も“世界の均衡を守ってる”んだぁ」
誰にも聞こえない呟きへ答えるように、ミサイルを発射した国の情報バンクを丸裸にした。これで現在、あの国は腹の中どころか心臓の裏側まで丸見えである。シルビ以外の誰かがそれに気付いてしまえば情報流出なんて話ですらない。一国の崩壊すら始まる。
携帯の充電が危なくなってきたので充電器と繋げようと立ち上がったところで、シルビはいきなりせり上がってくる吐き気と頭痛に襲われた。
ローラー付の椅子を支えにしたつもりが、支えてもらえきれずに椅子と一緒になって崩れ落ちる。奥から店長の声がしたがそれに答える余裕どころか、なんと言ったのかを理解すら出来なかった。声がするというよりは音が響いている感覚。それも聞こえてきた耳鳴りに打ち消された。
視界が苦痛からの涙と脳の処理能力が追いつかない為に霞む。激しい頭痛からの吐き気に口を手で押さえた。
この感覚を、シルビは知っている。
今までに何度か『未来へ行った』時、これに似た感覚を経験した。脳の中へ大量の情報が一気に押し寄せている。本来は体感した時間に合わせて蓄積されていく情報が、全部否応無しに突っ込まれているのだ。
普通ならそんなことは日常生活で起こらない。シルビが異世界へ飛んだり現代からいきなり未来へ飛んだりすれば起こる現象であって、椅子から立ち上がった程度で起こる筈が無かった。
となれば違う要因なのだろう。
「おいっ、大丈夫か!? 息しろ! ほらヒッヒッフー! 吸って吸って吐け!」
「……ラマーズ法は、吐いて吐いて吸って、だってぇ、店長」
店長に突っ込みつつ、既に鈍いだけの痛みとなった頭痛に額を押さえた。頭へ謎の情報取り込まれたようだが、『×××』が使えない現状では何が変わったのかが分からない。使えないのに情報だけが取り込まれるのも困りものである。
頭痛の程度からして、小規模な世界の改変だった。流石にそのくらいは分かる。だが一体何が『書き換え』られたのか。
「……水ください」
「水か!? ちょっと待ってろ!」
店長が慌てて奥へ戻っていくのに、あの人一応薬剤師なのにあんなに慌てて大丈夫なのかと思う。だが調合の腕は確かだし、おっちょこちょいだとかではないのでいいのかもしれない。
カウンターの脚へ背中を預けて深く息を吐き、それから出来うる限りの覚えていることを思い出していく。世界が“書き換えられた”としたって、シルビの場合は覚えていることがあるのだ。ただしそれも『×××』が使えていた頃の話なので今は分からないが。
世界状況や頭痛がする直前までやっていたことは思い出せた。では次は家族や友人達の顔と名前だなと一人ひとり思い出していっていたところで、店長があの切子グラスに水を入れて戻ってくる。
「使うんですか、それ」
「他にグラス見当たらなかったんだよ! いいから飲め!」
正しい使い方だなと苦笑しつつ、受け取って水を飲み込んだ。少しすっきりした思考で手に持ったグラスの彫りを指先でなぞる。やっぱり日本の切子じゃないからか荒くて雑だ。
そう、世界の書き換えが行われたにしては雑だった。というよりは、ごく小さな書き換えだったというべきか。
「……名前が、出てこない?」