―人狼大作戦―
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もう直ぐ満月になる月が窓の外でヘルサレムズ・ロットを煌々と照らしている、こんな月見が楽しめそうな夜に自分は仕事かと考えると泣きたくなる時がある。今日がそんな日だった。
ライブラでも『復讐者』でもない『副業』のほうからの依頼で、シルビは某軍事国家の将軍が企てていたらしい『ブラッドブリード兵士計画』が頓挫したかもしれないという情報の裏づけを、出来るだけ早く取らねばならないのである。だがその依頼が来たのが今日の午後、夕方もいい時間であったせいで、今日の夕食は作り置きの何かに決定だろう。
そう考えてパソコンの前に腰を降ろして数時間。充電器へ繋げていた携帯へ来たメールはライブラの一員であるチェインからだった。
『ボタン付けできる?』
「……何の?」
集中力が切れたので、そのまま休憩も兼ねてとりあえず出来ると返信すれば、今から行くと返事が返ってくる。いい年頃の女性が曲りなりにも男の家に、と思わなくも無かった。
パソコンの前から立ち上がって食べていなかった夕食を摂るかとキッチンへ向かい、チェインが来るのならお茶の支度もかと考えて湯を沸かす。それが沸いたタイミングで玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開ければラフな私服姿のチェインが、おざなりに用意したとばかりの紙袋をシルビへ差し出してくる。
「直して?」
「……シャツですかジャケットですか」
「シャツ」
受け取った紙袋の中には確かに軽く畳まれたシャツが入っていた。そのボタンの一つが取れて無くなっているのも確認できて、場所的に取れた理由も理解してしまう。
だがこんなボタンの一つくらい自分で縫い付けてしまえばいいのにとも思い、ソレを言おうとして顔を上げた矢先でチェインの指先に絆創膏が貼られていることに気付いた。シルビがそれに気付いたことへ気付いてか、チェインがさっと手を自身の背後へ隠す。
それは恥ずかしいと感じる感覚はあるのに、夜中に男であるシルビの元へ単身やってきて、更には胸が大きいという理由でボタンが取れてしまったのだろうシャツを直せと持ってくるあたりへの羞恥心は無いのか。
「とりあえず、夕食食べました?」
「まだだけど」
「俺もまだなんです。碌なモン無ぇですけど良ければ食べていってください。その間に直しますから」
夕食の話をした途端チェインの腹が鳴る。顔を赤くして腹を抑える彼女へ、呆れなのか微笑ましさか分からないものがこみ上げて、シルビはとりあえずドアを押し広げてチェインを家の中へと招待した。
「一人暮らしなのに片付いてる」
「潔癖症気味の家族が居たもんですから、綺麗にしておく癖がついただけですよ。適当に座っててください」
部屋を見回すチェインへ座るように勧めておいて、シルビは奥の部屋から裁縫道具を持ってくる。念の為と持ってきて部屋へ備えておくつもりの物だったが、ヘルサレムズ・ロットへ着てから服が破けることが増えたので意外と重宝していた。とはいえ携帯ソーイングセットより糸と予備のボタンが多いだけの代物である。
それをテーブルの上へ紙袋と一緒に置き、先に食事の用意をしてしまおうとキッチンへ向かった。チェインはそんなシルビの後を付いてきて、キッチンで動き回るシルビを観察している。
作り置いていたものを暖める程度の簡単な食事を二人分用意して、テーブルへと並べてチェインを座らせた。正面の席へ座って、シルビはフォークではなくチェインのシャツへと手を伸ばす。
「美味しい」
「手抜き料理ですけどねぇ。ボタンは――あった」
紙袋の底へ落ちていたボタンを取り出して針と糸を用意するシルビの手元を、チェインがフォークを咥えながら眺めていた。
「器用だね」
「ふふ、船のマストだって修正出来ますよ。こういうのは慣れなんでしょう」
「なんだかシルビって男っぽくないよね。料理も出来て裁縫も出来て? 猿やレオだったら絶対出来無さそうじゃん?」
「流石にレオ君は簡単な料理なら出来るんじゃねぇですかねぇ」
「簡単な、でしょ? こういうしっかりしたのは無理だと思う。あたしもあんまり料理出来ないし」
そうは言うが今チェインへ出している料理は、シルビにとっては結構手抜き料理である。
ボタンを一つ付け直すのにそう時間が掛かる訳も無く、余った部分の糸を切ってついでに他の箇所でほつれが無いかを確認した。一通り確認してからシャツを軽く畳んで紙袋へ戻す。洗濯してアイロン掛けまでしてやる必要は無いだろう。
「終わりましたよ。ついでにその指の怪我も治しましょう」
「これはいいよ」
「女性の指先に絆創膏は無粋でしょう」
「そういうところは男だね」
「元々男です」
「そうだった」
「……メールが来た時点でちょっと思ってましたけど、貴女俺のこと男だと思って警戒してねぇでしょう?」
スープを飲んでいたチェインがシルビを見返して目を瞬かせた。少し考えるように視線を宙へ漂わせたチェインは、やがて納得がいったように頷く。
「そうかもしれない」
どうやらシルビは薮から蛇をつつき出した様だ。言わなければチェインは気付かなかっただろう。無意識のまま行動に移していたことが厄介なのかどうかは、シルビにも分かりかねた。
ライブラでも『復讐者』でもない『副業』のほうからの依頼で、シルビは某軍事国家の将軍が企てていたらしい『ブラッドブリード兵士計画』が頓挫したかもしれないという情報の裏づけを、出来るだけ早く取らねばならないのである。だがその依頼が来たのが今日の午後、夕方もいい時間であったせいで、今日の夕食は作り置きの何かに決定だろう。
そう考えてパソコンの前に腰を降ろして数時間。充電器へ繋げていた携帯へ来たメールはライブラの一員であるチェインからだった。
『ボタン付けできる?』
「……何の?」
集中力が切れたので、そのまま休憩も兼ねてとりあえず出来ると返信すれば、今から行くと返事が返ってくる。いい年頃の女性が曲りなりにも男の家に、と思わなくも無かった。
パソコンの前から立ち上がって食べていなかった夕食を摂るかとキッチンへ向かい、チェインが来るのならお茶の支度もかと考えて湯を沸かす。それが沸いたタイミングで玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開ければラフな私服姿のチェインが、おざなりに用意したとばかりの紙袋をシルビへ差し出してくる。
「直して?」
「……シャツですかジャケットですか」
「シャツ」
受け取った紙袋の中には確かに軽く畳まれたシャツが入っていた。そのボタンの一つが取れて無くなっているのも確認できて、場所的に取れた理由も理解してしまう。
だがこんなボタンの一つくらい自分で縫い付けてしまえばいいのにとも思い、ソレを言おうとして顔を上げた矢先でチェインの指先に絆創膏が貼られていることに気付いた。シルビがそれに気付いたことへ気付いてか、チェインがさっと手を自身の背後へ隠す。
それは恥ずかしいと感じる感覚はあるのに、夜中に男であるシルビの元へ単身やってきて、更には胸が大きいという理由でボタンが取れてしまったのだろうシャツを直せと持ってくるあたりへの羞恥心は無いのか。
「とりあえず、夕食食べました?」
「まだだけど」
「俺もまだなんです。碌なモン無ぇですけど良ければ食べていってください。その間に直しますから」
夕食の話をした途端チェインの腹が鳴る。顔を赤くして腹を抑える彼女へ、呆れなのか微笑ましさか分からないものがこみ上げて、シルビはとりあえずドアを押し広げてチェインを家の中へと招待した。
「一人暮らしなのに片付いてる」
「潔癖症気味の家族が居たもんですから、綺麗にしておく癖がついただけですよ。適当に座っててください」
部屋を見回すチェインへ座るように勧めておいて、シルビは奥の部屋から裁縫道具を持ってくる。念の為と持ってきて部屋へ備えておくつもりの物だったが、ヘルサレムズ・ロットへ着てから服が破けることが増えたので意外と重宝していた。とはいえ携帯ソーイングセットより糸と予備のボタンが多いだけの代物である。
それをテーブルの上へ紙袋と一緒に置き、先に食事の用意をしてしまおうとキッチンへ向かった。チェインはそんなシルビの後を付いてきて、キッチンで動き回るシルビを観察している。
作り置いていたものを暖める程度の簡単な食事を二人分用意して、テーブルへと並べてチェインを座らせた。正面の席へ座って、シルビはフォークではなくチェインのシャツへと手を伸ばす。
「美味しい」
「手抜き料理ですけどねぇ。ボタンは――あった」
紙袋の底へ落ちていたボタンを取り出して針と糸を用意するシルビの手元を、チェインがフォークを咥えながら眺めていた。
「器用だね」
「ふふ、船のマストだって修正出来ますよ。こういうのは慣れなんでしょう」
「なんだかシルビって男っぽくないよね。料理も出来て裁縫も出来て? 猿やレオだったら絶対出来無さそうじゃん?」
「流石にレオ君は簡単な料理なら出来るんじゃねぇですかねぇ」
「簡単な、でしょ? こういうしっかりしたのは無理だと思う。あたしもあんまり料理出来ないし」
そうは言うが今チェインへ出している料理は、シルビにとっては結構手抜き料理である。
ボタンを一つ付け直すのにそう時間が掛かる訳も無く、余った部分の糸を切ってついでに他の箇所でほつれが無いかを確認した。一通り確認してからシャツを軽く畳んで紙袋へ戻す。洗濯してアイロン掛けまでしてやる必要は無いだろう。
「終わりましたよ。ついでにその指の怪我も治しましょう」
「これはいいよ」
「女性の指先に絆創膏は無粋でしょう」
「そういうところは男だね」
「元々男です」
「そうだった」
「……メールが来た時点でちょっと思ってましたけど、貴女俺のこと男だと思って警戒してねぇでしょう?」
スープを飲んでいたチェインがシルビを見返して目を瞬かせた。少し考えるように視線を宙へ漂わせたチェインは、やがて納得がいったように頷く。
「そうかもしれない」
どうやらシルビは薮から蛇をつつき出した様だ。言わなければチェインは気付かなかっただろう。無意識のまま行動に移していたことが厄介なのかどうかは、シルビにも分かりかねた。