―Hello,World―
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午前中のうちに日本フリークの日系人ジョン・ワタベが経営する薬局、『WATABEドラッグストア』で薬剤師として雇ってもらう事が決まってしまい、シルビは暇になった。
まさか好きな日の好きな時間に好きなだけ働けばいいというスタンスの店があるなど、普通は思わないだろう。だが店長であるワタベ自身あれはもう稼ぐ意思が無い。シルビと話している間も時代劇のDVDを見続けていたし。
あの店は大丈夫なんだろうかと思いつつも、売店で飲み物を買ってそれを持ったままHLを散策していく。歩くだけで視界の端で市民がいきなり食われていたり、謎の虫が空を飛んでいたりするが、それに逐一驚くのは昨日の段階で飽きてしまっていた。
それよりうなじに感じられる悪寒が気になって仕方が無い。何度も擦るが消えないそれに立ち止まって、本格的に集中しながらその原因を探ってみる。
「……ダメだなぁ。見つけられねぇ」
気配まではなんとか分かったが、そちらを見ても特に何かがいるようには見えない。目視出来ない何かが居るのだとしたら、それは残りの四割の力も無いと見えないのだろう。全く不便だと思うと同時に、今までは無自覚に人間離れをしていたのだなとここ五年間で何度も思った事を考えた。
ともあれ何かに見張られているというのは確定だ。その理由となると思いつくものが一つしかないが。
確かにいきなり『あんな物』を見せられて信用出来るかどうかと言われたら、シルビであればしないだろう。それだけシルビが『人とは違う』という事だがそれは仕方ない。内緒にしておけば良かっただろうかとも思ったが、今後何かあった時に直前で話すよりはいいと思ったのだ。
「秘密は人間関係のスパイス。しかして効かせ過ぎても駄目、とぉ」
呟いて飲み干した紙コップをゴミ箱へ放り捨てる。それから自分を観察している何者かがいる方角へ向かって直角に歩き出し、少しガタイのいい市民の隣をすれ違ったところで指を鳴らした。
どこぞのビルの屋上に着地して、気配の当たりを眺めているとぼんやりと人の姿が現れる。黒いスーツのその女性は、見失ったシルビの姿を必死に探しているようだった。
「それは貴方の能力ですか? お嬢さん」
「っ!?」
声を掛けた途端警戒しつつ振り返った彼女に、抵抗の意思は無いことを示すために両手を挙げる。
「何故……」
「別に幻覚で誤魔化した訳じゃねぇですよ。ただちょっとハエと同じ行動を取ってみただけでぇ」
自分を蝿に例えるのは少し気持ち悪かったなと思うも、そもそも彼女はその例えの意味が分からなかったらしく首をかしげていた。例えでも話が通じない時は少し寂しい。
飛んでいる蝿を眼で追いかけていると不意にその姿を見失う事がある。アレは眼で追いかけている内に蝿がその後進むであろう軌道を脳が勝手に推測してしまい、視線がその推測した方向へと動いてしまうからだ。だが実際には蝿はその推測とは違う方向へと飛び、その姿を見失ってしまうのである。
シルビがやったのはその応用で、ガタイのいい市民の影に隠れたタイミングで第八の炎を利用して空間を移動しただけだ。シルビにとってみれば大して驚く行動でもない。
だが目の前の彼女は違うのだろうなと、シルビを警戒している彼女の為に挙げていた両手を降ろしながら思う。
「こんにちは。一つお伺いしても?」
「……何?」
「貴女は“ライブラの”敵? それとも味方ですか?」
女性が疑わしげに眼を細めた。その姿が再び気薄になっていくのに、シルビは腰のナイフベルトから愛用のナイフを抜く。
そうしておもむろに自分の手首へ刃を滑らせた。吹き出る血を自分の周囲へばら撒いて地面を赤くし、腕を流れた血を舐め取る。
彼女が姿を消す原理が未だによく分からない。姿だけを見えなくしているのなら質量はあるはずで、ならば近づいてきてシルビの傍の地面を踏めばその靴底へ血が付着する。そうすれば居場所は分かるはずだ。
だがもしそうでなかった場合シルビの出血は損をしただけだし、なす術があまり無いということになる。ソレはそれで非常に困る。
暫く待ってもシルビが周囲に撒いた血は何者かに踏まれる気配さえなかった。という事は嫌なほうの推測が正しかった事になるのだろう。もしくは彼女がこれを何かの策略だと判断して行動しかねているか。
仕方なしに血の円から踏み出して、周囲を見回す。直後自分の胸元へ手が生えた。
「……びびったぁ」
「普通はもっと驚くんじゃない?」
後ろからシルビの胸部へ腕を突き刺しているだろう彼女の声には、少し呆れが混ざっている。
だがこの程度なら、『シルビだって出来る』のだ。
「――っ!?」
「おっとぉ、逃げねぇでくれますか? これ今凄げぇ疲れるんですよ」
振り返りながら彼女がシルビへ貫通させていた腕を掴み、逆の手を彼女の胸部へと突き刺す。先程彼女がシルビへやったことをやり返しているのだ。
いわゆる物質の【選択】という能力で、現在シルビの彼女の腕を掴む手は彼女の腕を『選択』し、胸部へ突き刺した腕は彼女の胸部を『拒絶』している。
「自分の出来る事は相手も出来ると思って油断されねぇことを、今後はお勧めします」
まさか好きな日の好きな時間に好きなだけ働けばいいというスタンスの店があるなど、普通は思わないだろう。だが店長であるワタベ自身あれはもう稼ぐ意思が無い。シルビと話している間も時代劇のDVDを見続けていたし。
あの店は大丈夫なんだろうかと思いつつも、売店で飲み物を買ってそれを持ったままHLを散策していく。歩くだけで視界の端で市民がいきなり食われていたり、謎の虫が空を飛んでいたりするが、それに逐一驚くのは昨日の段階で飽きてしまっていた。
それよりうなじに感じられる悪寒が気になって仕方が無い。何度も擦るが消えないそれに立ち止まって、本格的に集中しながらその原因を探ってみる。
「……ダメだなぁ。見つけられねぇ」
気配まではなんとか分かったが、そちらを見ても特に何かがいるようには見えない。目視出来ない何かが居るのだとしたら、それは残りの四割の力も無いと見えないのだろう。全く不便だと思うと同時に、今までは無自覚に人間離れをしていたのだなとここ五年間で何度も思った事を考えた。
ともあれ何かに見張られているというのは確定だ。その理由となると思いつくものが一つしかないが。
確かにいきなり『あんな物』を見せられて信用出来るかどうかと言われたら、シルビであればしないだろう。それだけシルビが『人とは違う』という事だがそれは仕方ない。内緒にしておけば良かっただろうかとも思ったが、今後何かあった時に直前で話すよりはいいと思ったのだ。
「秘密は人間関係のスパイス。しかして効かせ過ぎても駄目、とぉ」
呟いて飲み干した紙コップをゴミ箱へ放り捨てる。それから自分を観察している何者かがいる方角へ向かって直角に歩き出し、少しガタイのいい市民の隣をすれ違ったところで指を鳴らした。
どこぞのビルの屋上に着地して、気配の当たりを眺めているとぼんやりと人の姿が現れる。黒いスーツのその女性は、見失ったシルビの姿を必死に探しているようだった。
「それは貴方の能力ですか? お嬢さん」
「っ!?」
声を掛けた途端警戒しつつ振り返った彼女に、抵抗の意思は無いことを示すために両手を挙げる。
「何故……」
「別に幻覚で誤魔化した訳じゃねぇですよ。ただちょっとハエと同じ行動を取ってみただけでぇ」
自分を蝿に例えるのは少し気持ち悪かったなと思うも、そもそも彼女はその例えの意味が分からなかったらしく首をかしげていた。例えでも話が通じない時は少し寂しい。
飛んでいる蝿を眼で追いかけていると不意にその姿を見失う事がある。アレは眼で追いかけている内に蝿がその後進むであろう軌道を脳が勝手に推測してしまい、視線がその推測した方向へと動いてしまうからだ。だが実際には蝿はその推測とは違う方向へと飛び、その姿を見失ってしまうのである。
シルビがやったのはその応用で、ガタイのいい市民の影に隠れたタイミングで第八の炎を利用して空間を移動しただけだ。シルビにとってみれば大して驚く行動でもない。
だが目の前の彼女は違うのだろうなと、シルビを警戒している彼女の為に挙げていた両手を降ろしながら思う。
「こんにちは。一つお伺いしても?」
「……何?」
「貴女は“ライブラの”敵? それとも味方ですか?」
女性が疑わしげに眼を細めた。その姿が再び気薄になっていくのに、シルビは腰のナイフベルトから愛用のナイフを抜く。
そうしておもむろに自分の手首へ刃を滑らせた。吹き出る血を自分の周囲へばら撒いて地面を赤くし、腕を流れた血を舐め取る。
彼女が姿を消す原理が未だによく分からない。姿だけを見えなくしているのなら質量はあるはずで、ならば近づいてきてシルビの傍の地面を踏めばその靴底へ血が付着する。そうすれば居場所は分かるはずだ。
だがもしそうでなかった場合シルビの出血は損をしただけだし、なす術があまり無いということになる。ソレはそれで非常に困る。
暫く待ってもシルビが周囲に撒いた血は何者かに踏まれる気配さえなかった。という事は嫌なほうの推測が正しかった事になるのだろう。もしくは彼女がこれを何かの策略だと判断して行動しかねているか。
仕方なしに血の円から踏み出して、周囲を見回す。直後自分の胸元へ手が生えた。
「……びびったぁ」
「普通はもっと驚くんじゃない?」
後ろからシルビの胸部へ腕を突き刺しているだろう彼女の声には、少し呆れが混ざっている。
だがこの程度なら、『シルビだって出来る』のだ。
「――っ!?」
「おっとぉ、逃げねぇでくれますか? これ今凄げぇ疲れるんですよ」
振り返りながら彼女がシルビへ貫通させていた腕を掴み、逆の手を彼女の胸部へと突き刺す。先程彼女がシルビへやったことをやり返しているのだ。
いわゆる物質の【選択】という能力で、現在シルビの彼女の腕を掴む手は彼女の腕を『選択』し、胸部へ突き刺した腕は彼女の胸部を『拒絶』している。
「自分の出来る事は相手も出来ると思って油断されねぇことを、今後はお勧めします」