―ラン! ランチ!! ラン!!!―
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ツェッド視点
シルビ・T・グラマト。裏社会の番人『復讐者』へ属する男。
ツェッドが本人から聞いた紹介はその程度だった。世界の均衡を守る為に暗躍する秘密結社ライブラへは、提携を組んだ故に派遣されているらしい。
髪を伸ばし一見しては女性と間違える風貌ながら、多々ある異能能力の中でも扱いが難しいとされている『空間転移』を扱い、ライブラでは主にサポート役を担っている彼は、医学に関しての知識もあるらしく医者へ搬送するまでの応急処置も出来、更には軽い怪我なら数秒で治してしまう治癒能力も持っているらしかった。
血界の眷属を倒してツェッドが師匠にライブラへ置いていかれた次の日。ツェッドはシルビへ傷つけてしまった傷のことで改めて謝罪した。
何故かダルダルの服を着て落ち込んでいた彼は、ツェッドが怪我の事を聞くとミミズ腫れ以外残っていない腕を見せてくれたのである。もう治ったのかと驚いていると彼は指先でミミズ腫れを撫でながら微笑んでいた。
「あの程度の怪我なら簡単に治せるから心配しなくていいぜぇ」
「治せるんですか?」
聞いておいてなんだが、血が多く出ただけで怪我自体は小さかったという可能性もある。実際彼の腕の傷はミミズ腫れだってもう一日でも経てば消えてしまいそうだった。
「触ってみるかぁ?」
言われてグイと差し出された腕に、ツェッドは戸惑いながらも自身の鋭い指先へ気をつけながらそのミミズ腫れをなぞる。指先に感じるツェッドとも師匠とも違う肌触りの、僅かに膨れ上がった筋。
ツェッドを生み出した『伯爵』に触れた事などは無かったし、その後の師匠との修行生活でも他者と触れ合った事は無かったから、もしかしたら人間の肌へ触れるのはそれが初めてだったかもしれない。ヘルサレムズ・ロットの外ではツェッドの見た目は“異常”だった。当然師匠以外の者には出会ったところで驚かれたり怖がられたりして、触れ合った事など握手ですらなかったかもしれない。
腫れから、彼の腕を握るように掴み皮膚の下を通っている静脈の上へと指を滑らせる。やってしまってから唐突に失礼な事をと思ったが彼は文句を言わなかった。
「脈を測ってみてぇ?」
「いえっ、その、すみませんいきなり……」
不躾な事をしたとその時は本気で思ったのだ。きっとツェッドのような半魚人へ触られるのなんて嫌だっただろうに。
だからレオナルドに誘われて、兄弟子のザップと三人で昼食を食べに事務所を出て店へ向かうことになったのは驚いたし、背中を何の躊躇無く押されたことにも本当は驚いたのだ。
シルビはツェッドが触れても怒りも嫌がりもしなかった。レオは何の躊躇も無くツェッドへ触れてきた。あの兄弟子のザップも、口は悪いし喧嘩腰だし人としてどうかとも思うが、何のためらいも無くツェッドへ向き合う。
何の偏見も目論見も無いその行動が、正直ツェッドには不思議で仕方が無かった。自分のことが怖くないのかと尋ねるのははばかられたけれど、内心ではずっと思っている。
「不思議ですね」
「何がすか?」
「ああいえ、何でもないです」
「ほー、魚チャンは秘密がタップリってか!」
「……言う必要の無い些細な事を考えていただけです」
言う必要が無いのか、言っていいものか。ツェッドの言葉に納得したらしいレオが腹が減ってるとまともに考えられないっすよねー、などと言って興味を無くした。そんなものだろうとツェッドも思う。
「で、何が不思議なんすか?」
だから、聞き返されるとは思っていなかった。
「え、あ、……シルビさん、とかですかね」
「あー、分かる」
咄嗟に違う言い訳を、と考えて口から出た名前が、今ここに居ない人物のものであった事に陰口になってしまうのではと思ったが、レオは然程気にせずツェッドへ同意する。それはそれでどうかと思ったが、彼の事が不思議であったのも確かだ。
ツェッドにとって彼はとても『不思議』である。第一印象だとか言葉を交わした時の雰囲気とかそういうものがではなく、本能的に『彼は絶対に大丈夫だ』という確信があった。
その確信がいったいどういう意味なのかも、何を根拠としているのかも分からないのにである。根拠でいうなら初対面でも気絶したツェッドへ的確な応急処置をしてくれた事からかもしれないが、それを抜きにしたって本能的にまで安心するものではないように思えた。
けれども彼の傍に居ると、彼の声を聞くと自然と落ち着くのだ。
「シルビってここぞって時に甘やかしてくれる感じっすよね。弟が居るらしいから面倒見がいいんじゃないすか? ……いやオレも妹居るけど面倒見良くないな」
最後にレオが何か呟いて落ち込んだようだったが、よく聞こえなかった。だがレオの言う『面倒見がいい』という言葉にはナルホドと納得が出来る。
シルビが嵌めてくれたリストバンドを見下ろす。あの時ツェッドは、少しだけこそばゆい気分になったのだ。
ザップが案内してやってきた先は回転寿司屋だった。えげつない笑みでニヤニヤとツェッドを見ている彼に少し呆れたのは仕方ない事だろう。
普通に入ろうとしたら驚かれた。
シルビ・T・グラマト。裏社会の番人『復讐者』へ属する男。
ツェッドが本人から聞いた紹介はその程度だった。世界の均衡を守る為に暗躍する秘密結社ライブラへは、提携を組んだ故に派遣されているらしい。
髪を伸ばし一見しては女性と間違える風貌ながら、多々ある異能能力の中でも扱いが難しいとされている『空間転移』を扱い、ライブラでは主にサポート役を担っている彼は、医学に関しての知識もあるらしく医者へ搬送するまでの応急処置も出来、更には軽い怪我なら数秒で治してしまう治癒能力も持っているらしかった。
血界の眷属を倒してツェッドが師匠にライブラへ置いていかれた次の日。ツェッドはシルビへ傷つけてしまった傷のことで改めて謝罪した。
何故かダルダルの服を着て落ち込んでいた彼は、ツェッドが怪我の事を聞くとミミズ腫れ以外残っていない腕を見せてくれたのである。もう治ったのかと驚いていると彼は指先でミミズ腫れを撫でながら微笑んでいた。
「あの程度の怪我なら簡単に治せるから心配しなくていいぜぇ」
「治せるんですか?」
聞いておいてなんだが、血が多く出ただけで怪我自体は小さかったという可能性もある。実際彼の腕の傷はミミズ腫れだってもう一日でも経てば消えてしまいそうだった。
「触ってみるかぁ?」
言われてグイと差し出された腕に、ツェッドは戸惑いながらも自身の鋭い指先へ気をつけながらそのミミズ腫れをなぞる。指先に感じるツェッドとも師匠とも違う肌触りの、僅かに膨れ上がった筋。
ツェッドを生み出した『伯爵』に触れた事などは無かったし、その後の師匠との修行生活でも他者と触れ合った事は無かったから、もしかしたら人間の肌へ触れるのはそれが初めてだったかもしれない。ヘルサレムズ・ロットの外ではツェッドの見た目は“異常”だった。当然師匠以外の者には出会ったところで驚かれたり怖がられたりして、触れ合った事など握手ですらなかったかもしれない。
腫れから、彼の腕を握るように掴み皮膚の下を通っている静脈の上へと指を滑らせる。やってしまってから唐突に失礼な事をと思ったが彼は文句を言わなかった。
「脈を測ってみてぇ?」
「いえっ、その、すみませんいきなり……」
不躾な事をしたとその時は本気で思ったのだ。きっとツェッドのような半魚人へ触られるのなんて嫌だっただろうに。
だからレオナルドに誘われて、兄弟子のザップと三人で昼食を食べに事務所を出て店へ向かうことになったのは驚いたし、背中を何の躊躇無く押されたことにも本当は驚いたのだ。
シルビはツェッドが触れても怒りも嫌がりもしなかった。レオは何の躊躇も無くツェッドへ触れてきた。あの兄弟子のザップも、口は悪いし喧嘩腰だし人としてどうかとも思うが、何のためらいも無くツェッドへ向き合う。
何の偏見も目論見も無いその行動が、正直ツェッドには不思議で仕方が無かった。自分のことが怖くないのかと尋ねるのははばかられたけれど、内心ではずっと思っている。
「不思議ですね」
「何がすか?」
「ああいえ、何でもないです」
「ほー、魚チャンは秘密がタップリってか!」
「……言う必要の無い些細な事を考えていただけです」
言う必要が無いのか、言っていいものか。ツェッドの言葉に納得したらしいレオが腹が減ってるとまともに考えられないっすよねー、などと言って興味を無くした。そんなものだろうとツェッドも思う。
「で、何が不思議なんすか?」
だから、聞き返されるとは思っていなかった。
「え、あ、……シルビさん、とかですかね」
「あー、分かる」
咄嗟に違う言い訳を、と考えて口から出た名前が、今ここに居ない人物のものであった事に陰口になってしまうのではと思ったが、レオは然程気にせずツェッドへ同意する。それはそれでどうかと思ったが、彼の事が不思議であったのも確かだ。
ツェッドにとって彼はとても『不思議』である。第一印象だとか言葉を交わした時の雰囲気とかそういうものがではなく、本能的に『彼は絶対に大丈夫だ』という確信があった。
その確信がいったいどういう意味なのかも、何を根拠としているのかも分からないのにである。根拠でいうなら初対面でも気絶したツェッドへ的確な応急処置をしてくれた事からかもしれないが、それを抜きにしたって本能的にまで安心するものではないように思えた。
けれども彼の傍に居ると、彼の声を聞くと自然と落ち着くのだ。
「シルビってここぞって時に甘やかしてくれる感じっすよね。弟が居るらしいから面倒見がいいんじゃないすか? ……いやオレも妹居るけど面倒見良くないな」
最後にレオが何か呟いて落ち込んだようだったが、よく聞こえなかった。だがレオの言う『面倒見がいい』という言葉にはナルホドと納得が出来る。
シルビが嵌めてくれたリストバンドを見下ろす。あの時ツェッドは、少しだけこそばゆい気分になったのだ。
ザップが案内してやってきた先は回転寿司屋だった。えげつない笑みでニヤニヤとツェッドを見ている彼に少し呆れたのは仕方ない事だろう。
普通に入ろうとしたら驚かれた。