閑話5
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ザップの弟弟子の定期診察から戻ってくると、既に何処かへ出掛けた筈のクラウスは戻ってきていて、ザップが長椅子へ寝そべって寝ていた。一人掛けのソファへ座っていたレオはテーブルに何も書かれていない便箋を置いたままぼんやりしていて、シルビは足音を立てないように棚へ置いてあるブランケットを取る。
それを寝ているザップへ掛けてやったところで、やっとシルビが戻ってきた事に気付いたらしいレオに、シルビは口の前で人差し指を立ててからザップを指差した。このくらいでは起きないだろうが、無駄に起こす必要も無いだろう。
テーブルの上には食べかけのピザやゴミが放置されていて、ずり落ちるズボンに苦労しながらそれをゴミ袋へ放り込んでいく。途中で気付いたレオが手伝ってくれたのでそう面倒ではなかった。
「カフェオレでも淹れようかぁ。クラウスさんもよければ」
「では貰おうか」
備え付けのキッチンへ向かい、冷蔵庫から取り出したミルクをコンロで温めているとレオがやってくる。
「手伝う事ある?」
「カップを出しておいてくれるかぁ?」
コンロへ向き合うシルビの後ろでカチャカチャと音がした。それが止んだかと思うと直ぐ脇からレオが小鍋の中を覗き込んでくる。
「インスタントじゃねーの?」
「珈琲はインスタント。これならホットミルクがいい人はホットミルク飲めるだろぉ?」
「オレ別に珈琲飲めるけど」
「ホットミルクには、心を落ち着かせる効果があるんだぜぇ」
くるりと動かした鍋の中でミルクが揺れた。徹夜している人にあまり珈琲を飲ませたくないし、シルビ自身がちょっと飲みたかったのかも知れない。
「暖かくて甘いものは心を安らげさせる。ホットミルクは砂糖を入れて暖めりゃ出来るお手軽な精神安定剤だぁ。小さい頃泣いた後に淹れてもらった記憶は?」
「シルビにはあんの?」
「淹れてもらった記憶はあんまり無ぇかなぁ。俺は淹れる側だった気がする」
「ふうん」
自分から聞いてきたくせに、どうでも良さげな相槌だ。暖められたミルクをマグカップへ注ぐ。ミルクが鍋に余ってしまったが、お代わりすればいいだろうし放置していても誰かしらが飲むだろう。
インスタントの珈琲を淹れようとしたところで、レオが自身の分のマグカップに手で蓋をした。
「ホットミルク飲むよ」
「それじゃあクラウスさんだけがカフェオレになっちまうなぁ」
カフェオレを淹れに来たはずなのに、まるでカフェオレがついでのようだ。小さく笑ってかき混ぜて、持っていこうとしたところでレオがじっとシルビを見ていることに気付く。
「何?」
「前にさ、『思ってないことにそう深く良い事なんて言えない』って言ってたじゃん。あれスゲー分かるわ」
「……何か言ってもらおうと思ったつもりは無ぇけど」
「そうじゃなくてさ、言った方がいいんだけど何にも浮かばねーの。凄くね? 逆に凄くね?」
高層ビルの屋上から強制的に飛び降りる羽目になったのと、徹夜のせいで謎のテンションになっているのかと思った。そう思った事がばれたのか、レオは眉間に皺を寄せてシルビへ身を乗り出してくる。
「率直に言うけど、多分誰もシルビに居なくなって欲しいなんて考えてないぜ?」
「……疑わしいのに?」
「オレなんか義眼以外何も無いじゃん。それなのにクラウスさんはオレに『神々の義眼』以外にも意味があるって言ってくれたんだよ。だからさ、オレより何でも出来るシルビはもっと意味があるだろ?」
簡単といえば簡単だなぁと思ってしまったが、レオがシルビを慰めようとしている事は分かった。同時に、やはりレオがまだ自分が居てもいいのか悩んでいる事も分かって、シルビは否定する言葉を飲み込んだ。
「少なくともオレは、シルビ『が』いいよ」
クラウスの言葉でもう少し頑張ろうと思った。今、レオの言葉を聞いてもう少し頑張れると思えた。
「……クラウスさんに持って行かねぇと冷めちゃうぜぇ」
「え、あ、うん!」
カフェオレを淹れたマグカップを持ってレオがキッチンを出て行く。シルビは両手で顔を覆って深く息を吐き出してから、自分の分のホットミルクが入ったマグカップを持って後を追いかけた。
きっとレオは無意識だったのだろう。けれどもそのたった一字の違いが、五年前にもシルビを助けたのだ。
窓から入る霧越しの朝日に照らされながら、クラウスとレオが何か談笑しながらそれぞれマグカップへ口をつけている。起きたらしいソニックがレオの足から肩を経由して、頭へ登って髪の毛へ埋まった。
飲む為に傾いて居辛いだろうにと思いながら眺めていると二人がシルビへ気付いて振り向く。それにシルビもゆっくりと近付いていった。
余談ではあるが数時間後。シルビはスティーブンから借りた服のままの姿を出社してきたK・Kに目撃され、大笑いしながら写真を撮られた。
その後に来たチェインにも無言で写真を撮られ、ギルベルトがクリーニングし終えた服を持ってきてくれるまでライブラメンバーにからかわれた事で、クラウスとレオによって持ち直しかけた気概が失われ、本気でやはり要員交代を考えたことは秘密である。
それを寝ているザップへ掛けてやったところで、やっとシルビが戻ってきた事に気付いたらしいレオに、シルビは口の前で人差し指を立ててからザップを指差した。このくらいでは起きないだろうが、無駄に起こす必要も無いだろう。
テーブルの上には食べかけのピザやゴミが放置されていて、ずり落ちるズボンに苦労しながらそれをゴミ袋へ放り込んでいく。途中で気付いたレオが手伝ってくれたのでそう面倒ではなかった。
「カフェオレでも淹れようかぁ。クラウスさんもよければ」
「では貰おうか」
備え付けのキッチンへ向かい、冷蔵庫から取り出したミルクをコンロで温めているとレオがやってくる。
「手伝う事ある?」
「カップを出しておいてくれるかぁ?」
コンロへ向き合うシルビの後ろでカチャカチャと音がした。それが止んだかと思うと直ぐ脇からレオが小鍋の中を覗き込んでくる。
「インスタントじゃねーの?」
「珈琲はインスタント。これならホットミルクがいい人はホットミルク飲めるだろぉ?」
「オレ別に珈琲飲めるけど」
「ホットミルクには、心を落ち着かせる効果があるんだぜぇ」
くるりと動かした鍋の中でミルクが揺れた。徹夜している人にあまり珈琲を飲ませたくないし、シルビ自身がちょっと飲みたかったのかも知れない。
「暖かくて甘いものは心を安らげさせる。ホットミルクは砂糖を入れて暖めりゃ出来るお手軽な精神安定剤だぁ。小さい頃泣いた後に淹れてもらった記憶は?」
「シルビにはあんの?」
「淹れてもらった記憶はあんまり無ぇかなぁ。俺は淹れる側だった気がする」
「ふうん」
自分から聞いてきたくせに、どうでも良さげな相槌だ。暖められたミルクをマグカップへ注ぐ。ミルクが鍋に余ってしまったが、お代わりすればいいだろうし放置していても誰かしらが飲むだろう。
インスタントの珈琲を淹れようとしたところで、レオが自身の分のマグカップに手で蓋をした。
「ホットミルク飲むよ」
「それじゃあクラウスさんだけがカフェオレになっちまうなぁ」
カフェオレを淹れに来たはずなのに、まるでカフェオレがついでのようだ。小さく笑ってかき混ぜて、持っていこうとしたところでレオがじっとシルビを見ていることに気付く。
「何?」
「前にさ、『思ってないことにそう深く良い事なんて言えない』って言ってたじゃん。あれスゲー分かるわ」
「……何か言ってもらおうと思ったつもりは無ぇけど」
「そうじゃなくてさ、言った方がいいんだけど何にも浮かばねーの。凄くね? 逆に凄くね?」
高層ビルの屋上から強制的に飛び降りる羽目になったのと、徹夜のせいで謎のテンションになっているのかと思った。そう思った事がばれたのか、レオは眉間に皺を寄せてシルビへ身を乗り出してくる。
「率直に言うけど、多分誰もシルビに居なくなって欲しいなんて考えてないぜ?」
「……疑わしいのに?」
「オレなんか義眼以外何も無いじゃん。それなのにクラウスさんはオレに『神々の義眼』以外にも意味があるって言ってくれたんだよ。だからさ、オレより何でも出来るシルビはもっと意味があるだろ?」
簡単といえば簡単だなぁと思ってしまったが、レオがシルビを慰めようとしている事は分かった。同時に、やはりレオがまだ自分が居てもいいのか悩んでいる事も分かって、シルビは否定する言葉を飲み込んだ。
「少なくともオレは、シルビ『が』いいよ」
クラウスの言葉でもう少し頑張ろうと思った。今、レオの言葉を聞いてもう少し頑張れると思えた。
「……クラウスさんに持って行かねぇと冷めちゃうぜぇ」
「え、あ、うん!」
カフェオレを淹れたマグカップを持ってレオがキッチンを出て行く。シルビは両手で顔を覆って深く息を吐き出してから、自分の分のホットミルクが入ったマグカップを持って後を追いかけた。
きっとレオは無意識だったのだろう。けれどもそのたった一字の違いが、五年前にもシルビを助けたのだ。
窓から入る霧越しの朝日に照らされながら、クラウスとレオが何か談笑しながらそれぞれマグカップへ口をつけている。起きたらしいソニックがレオの足から肩を経由して、頭へ登って髪の毛へ埋まった。
飲む為に傾いて居辛いだろうにと思いながら眺めていると二人がシルビへ気付いて振り向く。それにシルビもゆっくりと近付いていった。
余談ではあるが数時間後。シルビはスティーブンから借りた服のままの姿を出社してきたK・Kに目撃され、大笑いしながら写真を撮られた。
その後に来たチェインにも無言で写真を撮られ、ギルベルトがクリーニングし終えた服を持ってきてくれるまでライブラメンバーにからかわれた事で、クラウスとレオによって持ち直しかけた気概が失われ、本気でやはり要員交代を考えたことは秘密である。