閑話5
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シャツの袖もスラックスの裾も捲くって、けれども肩幅が合っていないからシャツはずり落ちているし、スラックスもウエストが緩いのにベルトがなく、立っている時は掴んでずり上げていなければならない。歩く時も油断するとこけるので、床に零した水滴の掃除なんてやっていられる訳がなかった。
「すみません本当に……」
「気にする必要はございません」
ザップの弟弟子の為に、急遽手配していた水槽の件で色々作業をしていたらしいギルベルトへ謝る。聞けばライブラの事務所内の、クラウスの趣味である園芸の植物が置かれている温室へその水槽は置かれたらしい。まだ自己紹介もしていない彼は、疲労が残っているだろうからと既にその水槽の中へ収まっているのだという。
その水槽の件を片付けたギルベルトは現在、ソファへ座るシルビの後ろへ回ってシルビの髪を乾かしてくれていた。何処から持ってきたのかドライヤーで丁寧に乾かされる髪に、目を覚ましたソニックが手を伸ばして遊ぼうとしている。
飼い主であるレオは微妙そうな顔でそれを眺めていて、ザップはシルビの格好を見て大笑いした為、シルビによって幻覚の鎖で拘束されて床へ転がっていた。だが多分その幻覚の鎖はレオへは見えていないので、レオからすればザップが勝手に金縛りにあって転がっているようにしか見えないのだろう。
前にライブラメンバーの前で、幻覚で姿を隠した時に気付いたのだが、今のシルビが作り上げる幻覚はレオの『神々の義眼』では見破られてしまうようだった。ということは今まで何度か使った幻覚の鎖も見えていなかったのだろう。
つまり、レオは今までシルビが変なポーズを取っていたように思っていた可能性がある。仕方ないのでどうでもいいが。
「後は自然乾燥でいいです。ありがとうございましたギルベルトさん」
「どういたしまして」
ニコニコとドライヤーを片付けに行くギルベルトを見送ってから、シルビは指を鳴らしてザップの拘束を解いた。夜食の買出しに行っていた二人は、戻ってきて早々シルビの姿を見て大笑いしたのである。
レオは吹き出しこそすれ直ぐに謝ってくれたので許したが、ザップは腹を抱えてまで笑っていたので、立ったまま笑っているのも辛いだろうと拘束して床へ転がしたのだ。
「次笑ったテメェの服を剥いでこの服着せてやるぅ」
「オレはオメーほどスターフェイスさんと体格離れてねーし」
「このシャツ一枚幾らだろうなぁ?」
「ぐっ、い、一枚くらいは弁償出来るわ!」
ちなみにそのスティーブンは、大笑いしながら『明日K・Kに見せよう!』とシルビの姿を携帯で撮った後、満足して仮眠室で寝ている。疲れていたからあんなに笑ったのか分からなかったので、彼に対しての処分は明日の反応次第だ。
意識を取り戻し、自分で歩いたり話をするなども出来ているのでそう心配することは無いのだろうが、念の為ということで一時間おきにシルビは彼の様子を見に行っている。その為事務所で徹夜した。
クラウスに頼まれてそうしているのだけれど、暗に家へ帰しまいとしているようにも思えたのは、シルビの勘繰りすぎか。
日付が変わったどころか霧の向こうで朝日が昇り、うっすらと明るい誰も居ない事務所の廊下で携帯を取り出し、少し考えて結局“誰にも連絡出来なかった”。画面に表示されていたアドレス帳の名前の羅列が、省エネモードに移行して消える。
携帯を握り締めた指先が白くなったのを眺めて、深く息を吐き出す。
「シルビ君?」
声を掛けられて振り返れば、執務室へ居た筈のクラウスが立っていた。何処かへ行くところだった彼は、シルビがこんなところへいることを不思議に思って声を掛けたのだろう。その目がシルビの持っていた携帯を写して状況に納得するのが分かった。
「『復讐者』へ連絡かね?」
「いえ……誰かの声を聞きたかったんですけど、誰にも連絡出来なくて」
「誰かの声?」
「精神安定剤みてぇなものです。ちょっと気分が沈んだものですから」
きっと彼はそう言ったところで、それを誰かへ広める真似はしないだろうと判断して零す。
「『化け物』であることを知られるのは好きじゃねぇから、今までに何度もあったとはいえどうしても身構えて考えてドツボに嵌るっていうか、怖いんですよねぇ」
無意識にわき腹の傷を擦った。コレがあるから人の姿であってもシルビは自分が『化け物』であることを常に自覚させられる。ただでさえ人と違うのに、五年前の『とある事件』からずっと治らず、『お前は化け物なんだ』と囁き続けているような傷だ。
そんな事はとっくに自覚しているのに。
「私は、君の“あの姿”も美しいと思ったが?」
「世界の全てが貴方の様な人だけじゃない」
「だが世界の全てが君を嫌う訳でもない。君が聞きたかった声はそういう人達の声では無いのかね?」
身長差があって見上げた先の緑眼。それがシルビを見つめて、やがて瞬きをする。
「違っただろうか」
「いえ……いえ、あってます。そうですね。貴方は“そういう”人でした」
「……?」
首をかしげるクラウスへシルビは笑い返して、掴んだままだった携帯をポケットへしまった。『シルビは面倒臭い』とよく皆に言われていたのを思い出す。
クラウスと別れてザップの弟弟子が居る温室へ向かいながら、シルビはポケットの中で携帯を握り締めた。『復讐者』への連絡はまだしていないけれど、するつもりは無くなっている。
もう少し頑張れる気がした。
「すみません本当に……」
「気にする必要はございません」
ザップの弟弟子の為に、急遽手配していた水槽の件で色々作業をしていたらしいギルベルトへ謝る。聞けばライブラの事務所内の、クラウスの趣味である園芸の植物が置かれている温室へその水槽は置かれたらしい。まだ自己紹介もしていない彼は、疲労が残っているだろうからと既にその水槽の中へ収まっているのだという。
その水槽の件を片付けたギルベルトは現在、ソファへ座るシルビの後ろへ回ってシルビの髪を乾かしてくれていた。何処から持ってきたのかドライヤーで丁寧に乾かされる髪に、目を覚ましたソニックが手を伸ばして遊ぼうとしている。
飼い主であるレオは微妙そうな顔でそれを眺めていて、ザップはシルビの格好を見て大笑いした為、シルビによって幻覚の鎖で拘束されて床へ転がっていた。だが多分その幻覚の鎖はレオへは見えていないので、レオからすればザップが勝手に金縛りにあって転がっているようにしか見えないのだろう。
前にライブラメンバーの前で、幻覚で姿を隠した時に気付いたのだが、今のシルビが作り上げる幻覚はレオの『神々の義眼』では見破られてしまうようだった。ということは今まで何度か使った幻覚の鎖も見えていなかったのだろう。
つまり、レオは今までシルビが変なポーズを取っていたように思っていた可能性がある。仕方ないのでどうでもいいが。
「後は自然乾燥でいいです。ありがとうございましたギルベルトさん」
「どういたしまして」
ニコニコとドライヤーを片付けに行くギルベルトを見送ってから、シルビは指を鳴らしてザップの拘束を解いた。夜食の買出しに行っていた二人は、戻ってきて早々シルビの姿を見て大笑いしたのである。
レオは吹き出しこそすれ直ぐに謝ってくれたので許したが、ザップは腹を抱えてまで笑っていたので、立ったまま笑っているのも辛いだろうと拘束して床へ転がしたのだ。
「次笑ったテメェの服を剥いでこの服着せてやるぅ」
「オレはオメーほどスターフェイスさんと体格離れてねーし」
「このシャツ一枚幾らだろうなぁ?」
「ぐっ、い、一枚くらいは弁償出来るわ!」
ちなみにそのスティーブンは、大笑いしながら『明日K・Kに見せよう!』とシルビの姿を携帯で撮った後、満足して仮眠室で寝ている。疲れていたからあんなに笑ったのか分からなかったので、彼に対しての処分は明日の反応次第だ。
意識を取り戻し、自分で歩いたり話をするなども出来ているのでそう心配することは無いのだろうが、念の為ということで一時間おきにシルビは彼の様子を見に行っている。その為事務所で徹夜した。
クラウスに頼まれてそうしているのだけれど、暗に家へ帰しまいとしているようにも思えたのは、シルビの勘繰りすぎか。
日付が変わったどころか霧の向こうで朝日が昇り、うっすらと明るい誰も居ない事務所の廊下で携帯を取り出し、少し考えて結局“誰にも連絡出来なかった”。画面に表示されていたアドレス帳の名前の羅列が、省エネモードに移行して消える。
携帯を握り締めた指先が白くなったのを眺めて、深く息を吐き出す。
「シルビ君?」
声を掛けられて振り返れば、執務室へ居た筈のクラウスが立っていた。何処かへ行くところだった彼は、シルビがこんなところへいることを不思議に思って声を掛けたのだろう。その目がシルビの持っていた携帯を写して状況に納得するのが分かった。
「『復讐者』へ連絡かね?」
「いえ……誰かの声を聞きたかったんですけど、誰にも連絡出来なくて」
「誰かの声?」
「精神安定剤みてぇなものです。ちょっと気分が沈んだものですから」
きっと彼はそう言ったところで、それを誰かへ広める真似はしないだろうと判断して零す。
「『化け物』であることを知られるのは好きじゃねぇから、今までに何度もあったとはいえどうしても身構えて考えてドツボに嵌るっていうか、怖いんですよねぇ」
無意識にわき腹の傷を擦った。コレがあるから人の姿であってもシルビは自分が『化け物』であることを常に自覚させられる。ただでさえ人と違うのに、五年前の『とある事件』からずっと治らず、『お前は化け物なんだ』と囁き続けているような傷だ。
そんな事はとっくに自覚しているのに。
「私は、君の“あの姿”も美しいと思ったが?」
「世界の全てが貴方の様な人だけじゃない」
「だが世界の全てが君を嫌う訳でもない。君が聞きたかった声はそういう人達の声では無いのかね?」
身長差があって見上げた先の緑眼。それがシルビを見つめて、やがて瞬きをする。
「違っただろうか」
「いえ……いえ、あってます。そうですね。貴方は“そういう”人でした」
「……?」
首をかしげるクラウスへシルビは笑い返して、掴んだままだった携帯をポケットへしまった。『シルビは面倒臭い』とよく皆に言われていたのを思い出す。
クラウスと別れてザップの弟弟子が居る温室へ向かいながら、シルビはポケットの中で携帯を握り締めた。『復讐者』への連絡はまだしていないけれど、するつもりは無くなっている。
もう少し頑張れる気がした。