閑話5
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何故か興奮したまま自宅へと帰る為に事務所を後にしたK・Kを見送って、シルビもやっと執務室へ向かう。濡れていた髪や服が話している間に冷え切ってそろそろ本気で寒い。
上だけでも脱いでしまっておけばよかったなと思いつつ執務室へ向かえば、既にザップの弟弟子の姿はなく、クラウスとスティーブンだけかいる。書類の確認をしているクラウスがシルビに気付いて顔を上げるのに、声を掛ける気分にはなれなくて軽く頭を下げた。
スティーブンは少し離れて何処かへ電話をしている。漏れ聞こえる内容からして壊してしまったビルに関する事のようではあった。血界の眷属が全て壊したことにしようとしている。
「先程彼との話が終わったところだ。任せてしまって申し訳なかった」
「いえ、力になれて何よりです」
「その格好は?」
「見苦しい姿ですみません。報告してから着替えに戻ろうと思っていたのでこのまま来てしまいました」
俯くと裾の端から水滴が垂れていた。もしかして垂らしながら来てしまったのかと振り返れば、案の定水滴が跡を残している。
「すみません。すぐに――」
「直ぐに着替えた方がいい。そのままでは風邪を引いてしまう」
「自分が風邪を引くのはどうでもいいです。それより」
「どうでもいいなんて事は無い。君が風邪を引けば私を含めた皆が心配するのだ。床の掃除は後でも構わないから、どうか先に身体を温めてはくれないだろうか」
心の底からそう思って言っているだろうことが分かるから、クラウスは性質が悪い。きっとシルビが風邪を引けば、彼は宣言通りに心配してくれるのだろう。
しかし他の『皆』はどうだろうか。
「話をしてからにします」
「シルビ君」
「着替えるにしても一度家へ戻らねばなりませんから、それから戻ってきてでは二度手間になってしまいますし、クラウスさん達も待ってなければならねぇでしょう?」
だからいいのだ、と続けようとした時、電話を終えたスティーブンが振り返った。
「仮眠室に僕の着替えがあるから、貸してあげるよ」
「は? いえ、借りる訳には」
「そのままじゃクラウスの言う通り風邪を引いてしまう。サイズは合わないかもしれないが、ギルベルトさんへ頼んでその服を乾かしてもらうまでの間だ。いいだろうクラウス?」
同意を求めるように聞いておきながら、スティーブンはクラウスの返事を待つつもりとばかりに動き出し、シルビの腕を掴んで執務室の扉へと向かって歩き出す。うわ冷たいなとか言いつつ、仮眠室まで連れて行くつもりなのだろうかと戸惑ったシルビの視界に、ソファの上で眠っているソニックの姿が見えた。
シルビが落としていたのだろう水滴が執務室から仮眠室へ続いている。それを辿るようにして再び戻った仮眠室で、スティーブンはクロークに掛けられていた袋の中からシャツとスラックスを取り出してシルビへ差し出してきた。
「はい」
「ありがとうございます」
受け取りはしたものの、日頃見ている体型からして確実にシルビには合わないだろう。それを分かっていて渡したのであれば善意より悪意だなと思いつつ、着替える為にびしょ濡れで身体から体温も奪いつつあった上着を脱いだ。
湿り気のあるインナーも脱いでしまったところで、スティーブンがその場で眺めているのに振り向く。
「男の着替えを見ていて楽しいですか?」
「いやあ、そんな趣味は無いが君の身体には興味がある。――その“傷”が“失った眼”の部分かい?」
スティーブンが指差したのはシルビのわき腹。【白澤】の姿になった際穴だけが開いている眼窩の部分だった。現在は中にあるべき『眼』がなく傷の様に残っている。
見せ付けるつもりもなかったので、何も言わずにスティーブンから受け取ったシャツへ袖を通す。やはりサイズが合っていなくて袖も長ければ丈も長い。ついでに言えば肩のラインも合っていない。
「K・Kさんにも言ったんですけど、『復讐者』からの人員を、俺から違う奴に変えてもらおうと思います」
「お師さんと親しかったのがばれたのは、そんなに嫌な事だったのかい?」
「汁外衛に関しては想定外だったので特には。というよりスティーブンさん達のほうが、俺がいるのが嫌でしょう?」
「そうだね。僕は世界平和の為には遠慮しないな」
「なら」
「でもシルビ。君は『世界の敵』じゃないだろう?」
嫌なところを突く。
「大体ね。君の代わりの『復讐者』が来たとしてその復讐者は、空間転移はともかく怪我の治療や書類の整理や使い走りにも文句言わず行ってくれるか?」
「怪我の治療は仕方によりますけど、医療行為は無理だと思います。俺のあれは趣味が高じたものみてぇな話だし」
「だったら僕は君がいいね。どうせなら有能な奴が居てくれた方が助かる。それにシルビ、君が居なくなったら悲しいじゃないか」
どうでも良さげに、仰々しく言うスティーブンへ、シルビは黙って背を向けてシャツのボタンを留める。舌打ちすることを我慢したのは、その舌打ちを聞けば更に追討ちを掛けてきそうな相手だったからだ。
上着と同じようにびしょ濡れだったズボンも脱いでスラックスを履いたところで、後ろで結局ずっと眺めていたスティーブンが口を開く。
「言ってもいいかな」
「駄目です」
「君、最っ高にサイズ合ってないな! アハハハハハ!」
「言うなって言っただろぉがよぉおおお!」
上だけでも脱いでしまっておけばよかったなと思いつつ執務室へ向かえば、既にザップの弟弟子の姿はなく、クラウスとスティーブンだけかいる。書類の確認をしているクラウスがシルビに気付いて顔を上げるのに、声を掛ける気分にはなれなくて軽く頭を下げた。
スティーブンは少し離れて何処かへ電話をしている。漏れ聞こえる内容からして壊してしまったビルに関する事のようではあった。血界の眷属が全て壊したことにしようとしている。
「先程彼との話が終わったところだ。任せてしまって申し訳なかった」
「いえ、力になれて何よりです」
「その格好は?」
「見苦しい姿ですみません。報告してから着替えに戻ろうと思っていたのでこのまま来てしまいました」
俯くと裾の端から水滴が垂れていた。もしかして垂らしながら来てしまったのかと振り返れば、案の定水滴が跡を残している。
「すみません。すぐに――」
「直ぐに着替えた方がいい。そのままでは風邪を引いてしまう」
「自分が風邪を引くのはどうでもいいです。それより」
「どうでもいいなんて事は無い。君が風邪を引けば私を含めた皆が心配するのだ。床の掃除は後でも構わないから、どうか先に身体を温めてはくれないだろうか」
心の底からそう思って言っているだろうことが分かるから、クラウスは性質が悪い。きっとシルビが風邪を引けば、彼は宣言通りに心配してくれるのだろう。
しかし他の『皆』はどうだろうか。
「話をしてからにします」
「シルビ君」
「着替えるにしても一度家へ戻らねばなりませんから、それから戻ってきてでは二度手間になってしまいますし、クラウスさん達も待ってなければならねぇでしょう?」
だからいいのだ、と続けようとした時、電話を終えたスティーブンが振り返った。
「仮眠室に僕の着替えがあるから、貸してあげるよ」
「は? いえ、借りる訳には」
「そのままじゃクラウスの言う通り風邪を引いてしまう。サイズは合わないかもしれないが、ギルベルトさんへ頼んでその服を乾かしてもらうまでの間だ。いいだろうクラウス?」
同意を求めるように聞いておきながら、スティーブンはクラウスの返事を待つつもりとばかりに動き出し、シルビの腕を掴んで執務室の扉へと向かって歩き出す。うわ冷たいなとか言いつつ、仮眠室まで連れて行くつもりなのだろうかと戸惑ったシルビの視界に、ソファの上で眠っているソニックの姿が見えた。
シルビが落としていたのだろう水滴が執務室から仮眠室へ続いている。それを辿るようにして再び戻った仮眠室で、スティーブンはクロークに掛けられていた袋の中からシャツとスラックスを取り出してシルビへ差し出してきた。
「はい」
「ありがとうございます」
受け取りはしたものの、日頃見ている体型からして確実にシルビには合わないだろう。それを分かっていて渡したのであれば善意より悪意だなと思いつつ、着替える為にびしょ濡れで身体から体温も奪いつつあった上着を脱いだ。
湿り気のあるインナーも脱いでしまったところで、スティーブンがその場で眺めているのに振り向く。
「男の着替えを見ていて楽しいですか?」
「いやあ、そんな趣味は無いが君の身体には興味がある。――その“傷”が“失った眼”の部分かい?」
スティーブンが指差したのはシルビのわき腹。【白澤】の姿になった際穴だけが開いている眼窩の部分だった。現在は中にあるべき『眼』がなく傷の様に残っている。
見せ付けるつもりもなかったので、何も言わずにスティーブンから受け取ったシャツへ袖を通す。やはりサイズが合っていなくて袖も長ければ丈も長い。ついでに言えば肩のラインも合っていない。
「K・Kさんにも言ったんですけど、『復讐者』からの人員を、俺から違う奴に変えてもらおうと思います」
「お師さんと親しかったのがばれたのは、そんなに嫌な事だったのかい?」
「汁外衛に関しては想定外だったので特には。というよりスティーブンさん達のほうが、俺がいるのが嫌でしょう?」
「そうだね。僕は世界平和の為には遠慮しないな」
「なら」
「でもシルビ。君は『世界の敵』じゃないだろう?」
嫌なところを突く。
「大体ね。君の代わりの『復讐者』が来たとしてその復讐者は、空間転移はともかく怪我の治療や書類の整理や使い走りにも文句言わず行ってくれるか?」
「怪我の治療は仕方によりますけど、医療行為は無理だと思います。俺のあれは趣味が高じたものみてぇな話だし」
「だったら僕は君がいいね。どうせなら有能な奴が居てくれた方が助かる。それにシルビ、君が居なくなったら悲しいじゃないか」
どうでも良さげに、仰々しく言うスティーブンへ、シルビは黙って背を向けてシャツのボタンを留める。舌打ちすることを我慢したのは、その舌打ちを聞けば更に追討ちを掛けてきそうな相手だったからだ。
上着と同じようにびしょ濡れだったズボンも脱いでスラックスを履いたところで、後ろで結局ずっと眺めていたスティーブンが口を開く。
「言ってもいいかな」
「駄目です」
「君、最っ高にサイズ合ってないな! アハハハハハ!」
「言うなって言っただろぉがよぉおおお!」