閑話5
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意識を取り戻した彼を先に執務室へと向かわせて、シルビは腕に流れていた血を水で洗い流した。それからしとどに濡れきった服を軽く摘む。その摘んだ部分だけでも水滴が滴り落ちるのにため息を吐いた。
彼が意識を取り戻までの間に間違えて蛇口を捻り、三回くらい頭からシャワーを被ったのである。更に言うなら水の張った浴槽へ乗り出していた為、跳ねた水が掛かってもいる。袖は一応捲くっていたが、このままこの服を着ていたら風邪を引くだろう事は必須だ。
とりあえず濡れた髪を解いてタオルで軽く乾かし、そのタオルを肩へ掛けて浴室を出る。仮眠室を抜けて廊下へ出れば、戻ってきていたらしいK・Kとかち合った。
「あら、弟弟子くん眼が覚めたの?」
「はい。今はクラウスさんのとこに」
騒動の後事務所へ戻ってきてから、シルビが彼に付きっ切りだった事は全員が知っている。というかシルビが逃げるように付きっ切りでいた事も、恐らくばれているだろう。
気まずい気持ちに変わりは無い。追求されるのは怖いし、嫌われるのはもっと怖かった。
K・Kだけではないが皆もシルビを信じられなくなって当たり前だ。だから彼の看病をしている間に考えたのだが、『復讐者』のライブラの担当をシルビとは別の者へ変えてもらおうと思った。
そうすればライブラはシルビを信じるとかそういう問題ではなくなる。『復讐者』との提携はそのままなので、スティーブンもスポンサーがどうのという文句は言わない。シルビだけがここから立ち去ればいいのだ。
報告をしたら『復讐者』のイェーガーへ相談しようと考えて、目の前のK・Kから眼を逸らす。
「その怪我、どうしたの?」
肩に掛けていたタオルで口元を拭ったところ、そう聞かれて何のことだと眼を瞬かせた。だが直ぐに腕の傷かと理解してシルビもそれを見る。まだ止まらずにいる血が流れて一筋の線を描いていた。
最初よりは酷くないが、さっきまで濡らしていたせいか止まりにくいらしい。タオルで拭ってその血の筋を消す。
「さっき引っかいてしまって」
わざと主語をぼかした。
「さっさと治せばいーんじゃない?」
「ええ、そうですね。でも放っておいたって別に死なねぇでしょう?」
「治せばいーじゃない。どうせ直ぐに治せるでしょ」
「そうですね。でも今は他にすることがあるので」
「治しなさいよ」
「後で」
「今すぐ」
謎の威圧感と無言の怒りに、素直に指を鳴らして黄色い炎を灯し腕の怪我を治す。ミミズ腫れのような痕を残すだけになった腕へ、コレでいいのかとシルビより背の高いK・Kを見上げれば、K・Kはまだ不満そうだった。
「アンタさ、スカーフェイスほどじゃないけど何も言わないのよね」
「……言える事はちゃんと報告してるつもりです」
「言いたくないなら言いたくないって言いなさいよ。機械人形じゃあるまいし」
本当に機械人形の娘が居るのだと言ったら驚くだろうかと、明後日の方向を向いた事を考える。そうして現実逃避をしてK・Kの文句をあまり正面から受け取らないようにした。
ただの一組織の同僚というだけなら、深く食い込んでくる必要は無い。使えるものは親でも神性存在でも使え。全ては世界の為。けれどもライブラはそんな殺伐とした組織ではない。でなければシルビの脳天などとっくに撃ち抜かれているだろう。
殺伐としているのはシルビのほうか。
「……『復讐者』からの人員を、俺から違う奴に変えてもらおうと考えてました」
「は? ……なんで?」
「こんな得体の知れねぇ奴が傍に居るのはやっぱりどうかと思いまして。ただその場合、俺以外の『復讐者』は怪我を治したり書類仕事を手伝ったりは出来ねぇんです。でも俺は貴女達にとってデメリットなようですから」
「ちょっ、デメリットなんてっ」
「K・Kさんも思ったでしょう? 『汁外衛なんて者と知り合いなら同じくらいの技量を持っているのではないか』『それを使おうとしないのは何故か』」
すぐに言い返せなかったK・Kに、やはりかと思いこそすれ怒りはしない。むしろ真胎蛋のあった現場でのシルビの発言も、そう考えていたのなら皮肉一直線だっただろう。
「でも多分汁外衛と同程度の技量なんて持ってねぇし、ああやって敬語を使われる立場でも本来はなかったというか……。だから結構、俺は期待外れな奴ですよ」
「……過小評価ね」
「過信して痛てぇ目を見たことがありましたから」
K・Kを見上げて苦笑すれば、K・Kは何か言いたげに眼を逸らした。今日は皆がそんな態度を取るなとぼんやり思う。レオもチェインも、スティーブンもK・Kもそんな態度をとった。
言い返すわけではないが、それが罵詈雑言だとしても言いたいなら言えばいいのに。
「前言撤回するわ。アンタスカーフェイスより食えない男だわ」
「嫌われましたか。申し訳ありません」
「あーもう! だからそういうところがダメだつってんのよ! ライブラにそういうのは二人も要らないの!」
「だから俺は交代……」
「そういう話じゃない! いい!? シルビっちが交代するくらいならスカーフェイスのほうを追い出すわ!」
「いや、あの人『復讐者』じゃねぇんですけど……」
彼が意識を取り戻までの間に間違えて蛇口を捻り、三回くらい頭からシャワーを被ったのである。更に言うなら水の張った浴槽へ乗り出していた為、跳ねた水が掛かってもいる。袖は一応捲くっていたが、このままこの服を着ていたら風邪を引くだろう事は必須だ。
とりあえず濡れた髪を解いてタオルで軽く乾かし、そのタオルを肩へ掛けて浴室を出る。仮眠室を抜けて廊下へ出れば、戻ってきていたらしいK・Kとかち合った。
「あら、弟弟子くん眼が覚めたの?」
「はい。今はクラウスさんのとこに」
騒動の後事務所へ戻ってきてから、シルビが彼に付きっ切りだった事は全員が知っている。というかシルビが逃げるように付きっ切りでいた事も、恐らくばれているだろう。
気まずい気持ちに変わりは無い。追求されるのは怖いし、嫌われるのはもっと怖かった。
K・Kだけではないが皆もシルビを信じられなくなって当たり前だ。だから彼の看病をしている間に考えたのだが、『復讐者』のライブラの担当をシルビとは別の者へ変えてもらおうと思った。
そうすればライブラはシルビを信じるとかそういう問題ではなくなる。『復讐者』との提携はそのままなので、スティーブンもスポンサーがどうのという文句は言わない。シルビだけがここから立ち去ればいいのだ。
報告をしたら『復讐者』のイェーガーへ相談しようと考えて、目の前のK・Kから眼を逸らす。
「その怪我、どうしたの?」
肩に掛けていたタオルで口元を拭ったところ、そう聞かれて何のことだと眼を瞬かせた。だが直ぐに腕の傷かと理解してシルビもそれを見る。まだ止まらずにいる血が流れて一筋の線を描いていた。
最初よりは酷くないが、さっきまで濡らしていたせいか止まりにくいらしい。タオルで拭ってその血の筋を消す。
「さっき引っかいてしまって」
わざと主語をぼかした。
「さっさと治せばいーんじゃない?」
「ええ、そうですね。でも放っておいたって別に死なねぇでしょう?」
「治せばいーじゃない。どうせ直ぐに治せるでしょ」
「そうですね。でも今は他にすることがあるので」
「治しなさいよ」
「後で」
「今すぐ」
謎の威圧感と無言の怒りに、素直に指を鳴らして黄色い炎を灯し腕の怪我を治す。ミミズ腫れのような痕を残すだけになった腕へ、コレでいいのかとシルビより背の高いK・Kを見上げれば、K・Kはまだ不満そうだった。
「アンタさ、スカーフェイスほどじゃないけど何も言わないのよね」
「……言える事はちゃんと報告してるつもりです」
「言いたくないなら言いたくないって言いなさいよ。機械人形じゃあるまいし」
本当に機械人形の娘が居るのだと言ったら驚くだろうかと、明後日の方向を向いた事を考える。そうして現実逃避をしてK・Kの文句をあまり正面から受け取らないようにした。
ただの一組織の同僚というだけなら、深く食い込んでくる必要は無い。使えるものは親でも神性存在でも使え。全ては世界の為。けれどもライブラはそんな殺伐とした組織ではない。でなければシルビの脳天などとっくに撃ち抜かれているだろう。
殺伐としているのはシルビのほうか。
「……『復讐者』からの人員を、俺から違う奴に変えてもらおうと考えてました」
「は? ……なんで?」
「こんな得体の知れねぇ奴が傍に居るのはやっぱりどうかと思いまして。ただその場合、俺以外の『復讐者』は怪我を治したり書類仕事を手伝ったりは出来ねぇんです。でも俺は貴女達にとってデメリットなようですから」
「ちょっ、デメリットなんてっ」
「K・Kさんも思ったでしょう? 『汁外衛なんて者と知り合いなら同じくらいの技量を持っているのではないか』『それを使おうとしないのは何故か』」
すぐに言い返せなかったK・Kに、やはりかと思いこそすれ怒りはしない。むしろ真胎蛋のあった現場でのシルビの発言も、そう考えていたのなら皮肉一直線だっただろう。
「でも多分汁外衛と同程度の技量なんて持ってねぇし、ああやって敬語を使われる立場でも本来はなかったというか……。だから結構、俺は期待外れな奴ですよ」
「……過小評価ね」
「過信して痛てぇ目を見たことがありましたから」
K・Kを見上げて苦笑すれば、K・Kは何か言いたげに眼を逸らした。今日は皆がそんな態度を取るなとぼんやり思う。レオもチェインも、スティーブンもK・Kもそんな態度をとった。
言い返すわけではないが、それが罵詈雑言だとしても言いたいなら言えばいいのに。
「前言撤回するわ。アンタスカーフェイスより食えない男だわ」
「嫌われましたか。申し訳ありません」
「あーもう! だからそういうところがダメだつってんのよ! ライブラにそういうのは二人も要らないの!」
「だから俺は交代……」
「そういう話じゃない! いい!? シルビっちが交代するくらいならスカーフェイスのほうを追い出すわ!」
「いや、あの人『復讐者』じゃねぇんですけど……」