閑話5
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ツェッド視点
薄ぼんやりと意識が浮上する。少しも苦しくない呼吸にここは水中なのかと理解して安心した。だがすぐに、いつの間に水中へ移動したんだと意識を失う前のことを思い出し、瞼のない目を見開く。
飛び込んできた紫色に、叫ぶ声を忘れた。
しかし身体は自身の知らないうちに知らない場所へ居るという緊張から暴れ、もがこうとした手が何かへとぶつかる。おそらく尖っている指先が引っかいてしまったそれから、周囲を揺蕩う水に血の味が混じったのが分かった。
水の膜の向こうで紫色が一瞬小さくなる。それから手がぶつかってしまった何かが水中から引き抜かれていく。
赤い筋の流れる腕だ。そしてその腕の持ち主が、水中へ手を突っ込み今まで自分の頭を支えてくれていたのだと気付く。結構深く傷ついている。
紫色はその人物の眼で、意識を失う前に見た兄弟子が居たライブラのメンバーの一人だと思い出した。黒髪の、どうやら空間を操る女性。
「呼吸は出来てるかぁ?」
しかしその人物から聞こえた声は男のそれで、大声なせいで語尾が延びて聞こえる特徴的な声をしていた。聞かれたことへ頷いて答えると、その人物は安心したように眼を細める。
「声は聞こえてるなぁ? じゃあ身体で痛ぇところ、もしくは動かねぇところや変な感じがする場所はあるかぁ?」
「……ありません」
「コレは何本?」
「三本」
腕から血を流したままその人が立てた指の数を答えた。逆の手は気付かなかったが水中へ差し込まれてやんわりと手を掴んでいた。
「呼吸が出来ていても息苦しい?」
「大丈夫です」
「脈は……今驚かせたからちょっと早ぇけど許容範囲。よし。今あのボンベ持ってくるから、一度起き上がってもらえるかぁ」
そう言って差し引かれていく手を見送って、鰓の辺りへ手を伸ばす。彼が持ってくると言った通りそこへは現在何も装着されておらず、これでは起き上がって水中を出ることさえ出来ないだろう。
自分の状況を理解しようと横を見れば白い陶製の壁。壁というよりはこれはバスタブの側面か。
入りきらなかったのか足がバスタブの外へ放り出されている。これはバスタブが狭いからとりえあえず鰓のある上半身だけでも、という結果だろう。水を張っただけではなく、彼がかき混ぜ続けていたのか水中酸素もあまり不足は無い。初対面の相手だというのに、処置がそれなりに適切だ。
再びバスタブの外側から覗き込んだ彼が戻ってくる。ツェッドの生命線でもある、エアボンベとは逆の機能を有するエアギルスを水中へ沈めてくるのに、自分で装着してツェッドはバスタブの縁へ手を掛けてゆっくりと起き上がった。
「苦しかったり不具合は」
「ないです。ありがとうございます」
タオルを差し出されて受け取る。水中に居る間は気付かなかったが、彼はツェッドの傍に居て様子を見ていたせいかびしょ濡れだった。
そういえばまだ名前も聞いていない。彼の腕からはまだ血が流れている。
「あの……」
「向こうでライブラのリーダーのクラウスさんが待ってるから、質問はその後にしてくれるかぁ?」
質問ではなく、怪我について謝ろうと思ったのに。
薄ぼんやりと意識が浮上する。少しも苦しくない呼吸にここは水中なのかと理解して安心した。だがすぐに、いつの間に水中へ移動したんだと意識を失う前のことを思い出し、瞼のない目を見開く。
飛び込んできた紫色に、叫ぶ声を忘れた。
しかし身体は自身の知らないうちに知らない場所へ居るという緊張から暴れ、もがこうとした手が何かへとぶつかる。おそらく尖っている指先が引っかいてしまったそれから、周囲を揺蕩う水に血の味が混じったのが分かった。
水の膜の向こうで紫色が一瞬小さくなる。それから手がぶつかってしまった何かが水中から引き抜かれていく。
赤い筋の流れる腕だ。そしてその腕の持ち主が、水中へ手を突っ込み今まで自分の頭を支えてくれていたのだと気付く。結構深く傷ついている。
紫色はその人物の眼で、意識を失う前に見た兄弟子が居たライブラのメンバーの一人だと思い出した。黒髪の、どうやら空間を操る女性。
「呼吸は出来てるかぁ?」
しかしその人物から聞こえた声は男のそれで、大声なせいで語尾が延びて聞こえる特徴的な声をしていた。聞かれたことへ頷いて答えると、その人物は安心したように眼を細める。
「声は聞こえてるなぁ? じゃあ身体で痛ぇところ、もしくは動かねぇところや変な感じがする場所はあるかぁ?」
「……ありません」
「コレは何本?」
「三本」
腕から血を流したままその人が立てた指の数を答えた。逆の手は気付かなかったが水中へ差し込まれてやんわりと手を掴んでいた。
「呼吸が出来ていても息苦しい?」
「大丈夫です」
「脈は……今驚かせたからちょっと早ぇけど許容範囲。よし。今あのボンベ持ってくるから、一度起き上がってもらえるかぁ」
そう言って差し引かれていく手を見送って、鰓の辺りへ手を伸ばす。彼が持ってくると言った通りそこへは現在何も装着されておらず、これでは起き上がって水中を出ることさえ出来ないだろう。
自分の状況を理解しようと横を見れば白い陶製の壁。壁というよりはこれはバスタブの側面か。
入りきらなかったのか足がバスタブの外へ放り出されている。これはバスタブが狭いからとりえあえず鰓のある上半身だけでも、という結果だろう。水を張っただけではなく、彼がかき混ぜ続けていたのか水中酸素もあまり不足は無い。初対面の相手だというのに、処置がそれなりに適切だ。
再びバスタブの外側から覗き込んだ彼が戻ってくる。ツェッドの生命線でもある、エアボンベとは逆の機能を有するエアギルスを水中へ沈めてくるのに、自分で装着してツェッドはバスタブの縁へ手を掛けてゆっくりと起き上がった。
「苦しかったり不具合は」
「ないです。ありがとうございます」
タオルを差し出されて受け取る。水中に居る間は気付かなかったが、彼はツェッドの傍に居て様子を見ていたせいかびしょ濡れだった。
そういえばまだ名前も聞いていない。彼の腕からはまだ血が流れている。
「あの……」
「向こうでライブラのリーダーのクラウスさんが待ってるから、質問はその後にしてくれるかぁ?」
質問ではなく、怪我について謝ろうと思ったのに。