―Hello,World―
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朝食用に、と買った卵は黄身が双生児だった。運がいいと喜ぶよりも今日の運を使い果たした気分になった。
秘密結社ライブラと顔を合わせて二日目。騒動の際には必ず連絡が取れるようにしていれば、事務所へ詰めている必要は無いと言われた。それでいいのかと思わなくも無かったが、一つの場所へずっと居るのはあまり好きではないので助かる。
ライブラは『秘密』結社とあるだけあって内密の組織だ。故に本業として名乗ることは憚られるし、時には警察へ追われる。シルビもそれは例外ではなく、一応ライブラから活動資金という名の給与は出るそうだが、生活に足りない場合やカモフラージュの為に他の仕事へ就いている者もいるらしい。
昨日の別れ際にスティーブンから聞いた話ではそうだった。
シルビは一応『復讐者』としてHLへ来ている訳だが、『復讐者』も『復讐者』であまり表沙汰に出来ない組織である。かといって他の副業も収入は高いが一定ではなかった。
ヘルサレムズ・ロットへ長期滞在する以上、自分もカモフラージュの職を探すかと今日の予定を決める。焼いていたトーストが少し焦げた。
「こんにち――ぶっ」
「ああー! ちょっ、ソニック!」
ライブラの事務所へ赴き、ドアを開けた矢先に顔へ何かがぶつかってくる。昨日の少年の声と聞き覚えの無い笑い声を聞きながら、顔に張り付いた何かを取ればそれは大きな眼をした小サルだった。
思ったよりも柔らかいサルと目が合って、無言で駆け寄ってきた少年の手へそのサルを返す。昨日助けた少年だと思い出したのは、彼の細目の奥にある『眼』からの感覚に気付いたからだ。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
「動物に顔面アタックされるのは慣れてるから大丈夫……。君のペットかぁ? えーと」
「レオナルド・ウォッチです。こいつは音速猿のソニック」
「シルビ・T・グラマト。シルビでいいぜぇ。昨日は居なかったよなぁこの子?」
レオナルドの手の上のソニックを指先で撫でてやれば、ソニックが心地良さそうに目を細める。『音速猿』というのは聞いたことがなかったが、ヘルサレムズ・ロット内特有の生物かもしれない。
やがて撫でられることに満足したらしいソニックがレオナルドの頭の上へと移動する。それを追う形で視線を上げれば、レオナルドの後ろに昨日は見なかった面々が居た。更にその奥では少し旧型のパソコンを弄っているクラウスの姿。
「今日スティーブンさんは」
「今日は出掛ける用事があるってもう行っちゃいましたよ。シルビさんは顔合わせしたらとりあえず自由行動でお願いします、って伝言が」
「顔合わせ……そこの大笑いしてるのとかかぁ?」
「そうですね。そこで大笑いしてるのとかです」
レオナルドと一緒に振り向いた先には、ソファで先程シルビがソニックを顔で受け止めてからずっと爆笑している褐色の男。
白い服が良く栄える褐色の肌。シルビよりは年上だろうか、細く鍛えられた身体にはしなやかに筋肉が付いている。銀髪は評価しよう。
「だがその笑い方は駄目だろぉ。つか初対面相手のアクシデントを笑う時点でもう駄目だなぁ」
「うぉい! テメェも初対面相手に二度もダメつってんじゃねえよ!」
「あ、眼の色も綺麗ですねぇ。弟と同じ色だぁ」
「はん、ブラコンかテメー。陰毛と言い病気かってんだ」
「弟を馬鹿にしたら未来永劫体温のある生物に接触出来ねぇようにしてやるぅ」
「コワッ!」
レオナルドが怯えているが弟をけなすような不埒な相手には妥当な処分だ。だがとりあえず彼の性格は理解したので、近づいて握手の為に手を差し出した。
「シルビ・T・グラマト。君はぁ?」
「オレお前より年上だよな? ザップ。ザップ・レンフロだ」
それでも差し出した手を握り返してくる彼は、根は素直なのだろう。体格に似て手も細いのだなと考えていると、ふとその指へ嵌められている指輪に気付いた。
髑髏モチーフのそれはザップの指には少し大きい気がする。
「その指輪……」
「ああん? やんねーぞ?」
「見覚えのある気がしただけです。指輪はしねぇ主義なので」
手を離して他にまだ挨拶していない者が居ないかと部屋を見回せば、驚く事に誰も居ない。ライブラはこんなに人が少ないのかと内心でショックを受けていれば、そんなシルビの考えを察したのか慌ててレオナルドが否定してきた。
「今日! 今日はたまたま来てないだけでもっといるんですよ! K・Kさんとかチェインさんとか!」
「いつもこんな感じぃ?」
「今日はいつもより少ねーな」
ザップの言葉に曖昧な相槌を打って考える。不在のスティーブンに普段より少ない構成員と、昨日のうちに言われていた自由行動の話。
『試されているな』と考えてしまうのは、果たして考えすぎかどうか。
レオナルドが時間を確認して、バイトに遅れると慌てて事務所を飛び出していく。ソファに座りなおしたザップは何処かへ出掛ける気も無いらしい。クラウスはずっとパソコンへ向かっている。
「……俺も出掛けます」
「おー。何処行くんだ?」
「まだHLの地理に慣れてねぇんで、仕事を探しながら徘徊しますよ。何かあったら連絡をお願いします」
携帯のアドレスをザップと交換してから、レオナルドとは交換していなかった事を思い出した。彼も『同僚』ならば後で交換しておいたほうがいいだろう。
事務所を出て霧に覆われた空を見上げる。何者かにじっと見られている様な悪寒が首筋に走ってうなじを撫でた。
秘密結社ライブラと顔を合わせて二日目。騒動の際には必ず連絡が取れるようにしていれば、事務所へ詰めている必要は無いと言われた。それでいいのかと思わなくも無かったが、一つの場所へずっと居るのはあまり好きではないので助かる。
ライブラは『秘密』結社とあるだけあって内密の組織だ。故に本業として名乗ることは憚られるし、時には警察へ追われる。シルビもそれは例外ではなく、一応ライブラから活動資金という名の給与は出るそうだが、生活に足りない場合やカモフラージュの為に他の仕事へ就いている者もいるらしい。
昨日の別れ際にスティーブンから聞いた話ではそうだった。
シルビは一応『復讐者』としてHLへ来ている訳だが、『復讐者』も『復讐者』であまり表沙汰に出来ない組織である。かといって他の副業も収入は高いが一定ではなかった。
ヘルサレムズ・ロットへ長期滞在する以上、自分もカモフラージュの職を探すかと今日の予定を決める。焼いていたトーストが少し焦げた。
「こんにち――ぶっ」
「ああー! ちょっ、ソニック!」
ライブラの事務所へ赴き、ドアを開けた矢先に顔へ何かがぶつかってくる。昨日の少年の声と聞き覚えの無い笑い声を聞きながら、顔に張り付いた何かを取ればそれは大きな眼をした小サルだった。
思ったよりも柔らかいサルと目が合って、無言で駆け寄ってきた少年の手へそのサルを返す。昨日助けた少年だと思い出したのは、彼の細目の奥にある『眼』からの感覚に気付いたからだ。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
「動物に顔面アタックされるのは慣れてるから大丈夫……。君のペットかぁ? えーと」
「レオナルド・ウォッチです。こいつは音速猿のソニック」
「シルビ・T・グラマト。シルビでいいぜぇ。昨日は居なかったよなぁこの子?」
レオナルドの手の上のソニックを指先で撫でてやれば、ソニックが心地良さそうに目を細める。『音速猿』というのは聞いたことがなかったが、ヘルサレムズ・ロット内特有の生物かもしれない。
やがて撫でられることに満足したらしいソニックがレオナルドの頭の上へと移動する。それを追う形で視線を上げれば、レオナルドの後ろに昨日は見なかった面々が居た。更にその奥では少し旧型のパソコンを弄っているクラウスの姿。
「今日スティーブンさんは」
「今日は出掛ける用事があるってもう行っちゃいましたよ。シルビさんは顔合わせしたらとりあえず自由行動でお願いします、って伝言が」
「顔合わせ……そこの大笑いしてるのとかかぁ?」
「そうですね。そこで大笑いしてるのとかです」
レオナルドと一緒に振り向いた先には、ソファで先程シルビがソニックを顔で受け止めてからずっと爆笑している褐色の男。
白い服が良く栄える褐色の肌。シルビよりは年上だろうか、細く鍛えられた身体にはしなやかに筋肉が付いている。銀髪は評価しよう。
「だがその笑い方は駄目だろぉ。つか初対面相手のアクシデントを笑う時点でもう駄目だなぁ」
「うぉい! テメェも初対面相手に二度もダメつってんじゃねえよ!」
「あ、眼の色も綺麗ですねぇ。弟と同じ色だぁ」
「はん、ブラコンかテメー。陰毛と言い病気かってんだ」
「弟を馬鹿にしたら未来永劫体温のある生物に接触出来ねぇようにしてやるぅ」
「コワッ!」
レオナルドが怯えているが弟をけなすような不埒な相手には妥当な処分だ。だがとりあえず彼の性格は理解したので、近づいて握手の為に手を差し出した。
「シルビ・T・グラマト。君はぁ?」
「オレお前より年上だよな? ザップ。ザップ・レンフロだ」
それでも差し出した手を握り返してくる彼は、根は素直なのだろう。体格に似て手も細いのだなと考えていると、ふとその指へ嵌められている指輪に気付いた。
髑髏モチーフのそれはザップの指には少し大きい気がする。
「その指輪……」
「ああん? やんねーぞ?」
「見覚えのある気がしただけです。指輪はしねぇ主義なので」
手を離して他にまだ挨拶していない者が居ないかと部屋を見回せば、驚く事に誰も居ない。ライブラはこんなに人が少ないのかと内心でショックを受けていれば、そんなシルビの考えを察したのか慌ててレオナルドが否定してきた。
「今日! 今日はたまたま来てないだけでもっといるんですよ! K・Kさんとかチェインさんとか!」
「いつもこんな感じぃ?」
「今日はいつもより少ねーな」
ザップの言葉に曖昧な相槌を打って考える。不在のスティーブンに普段より少ない構成員と、昨日のうちに言われていた自由行動の話。
『試されているな』と考えてしまうのは、果たして考えすぎかどうか。
レオナルドが時間を確認して、バイトに遅れると慌てて事務所を飛び出していく。ソファに座りなおしたザップは何処かへ出掛ける気も無いらしい。クラウスはずっとパソコンへ向かっている。
「……俺も出掛けます」
「おー。何処行くんだ?」
「まだHLの地理に慣れてねぇんで、仕事を探しながら徘徊しますよ。何かあったら連絡をお願いします」
携帯のアドレスをザップと交換してから、レオナルドとは交換していなかった事を思い出した。彼も『同僚』ならば後で交換しておいたほうがいいだろう。
事務所を出て霧に覆われた空を見上げる。何者かにじっと見られている様な悪寒が首筋に走ってうなじを撫でた。