―Zの一番長い一日―
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
下の階からせり上がってきた衝撃によってビルの中心部を抉るように屋上へ穴が開く。その穴へ落下していく真胎蛋を下から血界の眷属が見上げ、僅かに恍惚の笑みを浮かべて飛び上がる姿が見えた。
半身を迎え入れようと手を伸ばす眷属に糸状の血が下から追いかけるように絡み付こうとするのに、シルビは静かに傍へ立って同じように穴の中を見下ろしていた汁外衛を横目で観察する。やはりシルビの“予想通り”、動く気配は無い。
そうしている間にも眼下では血界の眷属が己の半身と一つになり、手始めに周囲の邪魔な奴らを片付けてしまおうと算段をつける勝ち誇った笑みを浮かべていた。
血界の眷属。人界の敵。
「――人を試してるのは“俺ら”も同じかぁ」
眷属が完全体となった直後、その身体が凍りつく。何故だと目を見開いた眷族へ仕掛け人だったスティーブンがほくそ笑んだ。
真胎蛋に施されていた仕掛けによって全身が凍りついた眷属へ、ザップの投擲した血の剣が突き刺さる。それを寄り代に燃え上がる眷属の身体へ更に強風が襲い掛かっていった。
ビルの中心部へ吹き抜けるように空いた穴を、風と風によって燃え上がった炎が屋上へ居るシルビ達の傍を抜けて空へと霧散していく。その風に乗り、炎に隠れて高く飛び上がったクラウスが、血界の眷属を『密封』した。
風に乗ってクラウスの許しを請う声が聞こえた気がする。それに少しだけ目を伏せてから、シルビは同じように穴を見下ろしていたスティーブンへと顔を向けた。
「繋げてくれ」
「了解」
指を鳴らして下の階で頑張っていた皆の許へ『第八の炎』を繋げる。炎の輪の向こうではクラウスが、チェインから掌ほどの十字架を受け取っているところだった。
そうしてザップの隣には青みかかった半透明の肌をした、人とも異界人とも付かない人物が立っている。瞼のない眼に眉毛なのか触覚のようなもの。手首にはすらりと伸びた魚のヒレのようなものがあり、魚類系の異界人かと一見しては思った。
だが違う。
「こう言っちゃ悪ぃけど、あの子、『何』?」
シルビの後ろから炎の輪を覗き込んでいた汁外衛に問うが、汁外衛は自分の弟子だと言うだけだった。彼にとってはそれ以外の意味は無いのだろう。
血界の眷属を倒し、やっと少しばかり気が抜けたといった様子の彼は、シルビの後ろから炎の輪を覗き込んでいた汁外衛に気付いて駆け寄ってきた。
「師匠!」
金属を引っかいたような声でぞんざいな返事を返す汁外衛を見れば、視線に気付いてかシルビを見上げてきた。何ですかな、と聞かれてシルビは肩を竦める。
「いやぁ、『弟子』に慕われてるなぁと思って」
汁外衛は何も言わず、ザップと駆け寄ってくる若者を見つめていた。
「よお嬢ちゃん。あいかわらずイイ顔してんなあ」
「お前は相変わらずいい血色してるよ。あと嬢ちゃん言うなぁ」
「仲イイね」
「そうですか?」
「そうだよー。最近デルドロったら君が来ないかなっていつも言ってるよ?」
「ちょっ、おま、ドグ!」
「へぇー……寂しん坊めぇ」
「仲良しかっ」
退避していたブローディ&ハマーとレオも戻ってきて、地上では警察のサイレンが鳴り響き始めている。血界の眷属を捕まえる際に空いた壁の大穴から地上を見下ろせば、地上の道路を赤い点滅のうねりが近付いてきていた。自分達が当事者でなければ、なかなかに面白い光景である。
そんな状況から視点を目の前の状況へ移せば、脇へ弟子を控えさせた汁外衛がクラウス達と話していた。
「儂はもう去る」
「そうですか? 充分なおもてなしも出来ず申し訳ありません」
ザップの通訳で汁外衛がもう帰ることを表明する。通訳したザップが心底安心したような顔をしている事には誰も突っ込まない。
「貴様らは対“血界の眷属”戦において塵芥程度の見所がある。合格じゃ」
汁外衛がその『合格』を出したのに、シルビの存在が含まれているのかどうかは分からなかった。入れていなくて合格である事を祈る。
「こいつを任せたぞ。シルビ殿もよろしくお願いいたします」
「え?」
「ではな」
そう言って汁外衛の姿が一瞬にして消えた。残されたのは汁外衛の最後の言葉とザップの弟弟子。その弟弟子は師匠である汁外衛の居た場所を驚いた様子で凝視して固まっていたが、やがてぎこちなくシルビ達を振り返った。
「……聞いて、無いです」
振り絞るようにそう言って、弟弟子が意識を失って倒れこんだ。十時間以上の血界の眷属との激闘に、師匠へ置いていかれたというショックからの気絶。ザップ以上に汁外衛を慕っていたようだったので、そのショックは予想より大きかったのだろう。
慌てて駆け寄るクラウスやレオに続いてシルビも駆け寄り、クラウスが抱き起こした彼の呼吸や脈拍を確認する。こういう時は医療知識があって良かったと本気で思えた。ついでに言うなら異界人へも“合成獣”へも対応出来るだけの経験があって、か。
「シルビ君。彼は……」
「気を失っているだけで脈も異常はありませ――うわっ」
顔を上げたところでいきなり真横へ汁外衛が現れた。立ち去ったのではなかったのかとその場の全員が驚いていると、汁外衛はおもむろに外套の下から携帯を取り出してシルビへ差し出してくる。
「ああ、アドレス? いいよちょっと待ってくれぇ」
「メアド交換とかナンパか! オメーも普通に対応すんなよ!」
半身を迎え入れようと手を伸ばす眷属に糸状の血が下から追いかけるように絡み付こうとするのに、シルビは静かに傍へ立って同じように穴の中を見下ろしていた汁外衛を横目で観察する。やはりシルビの“予想通り”、動く気配は無い。
そうしている間にも眼下では血界の眷属が己の半身と一つになり、手始めに周囲の邪魔な奴らを片付けてしまおうと算段をつける勝ち誇った笑みを浮かべていた。
血界の眷属。人界の敵。
「――人を試してるのは“俺ら”も同じかぁ」
眷属が完全体となった直後、その身体が凍りつく。何故だと目を見開いた眷族へ仕掛け人だったスティーブンがほくそ笑んだ。
真胎蛋に施されていた仕掛けによって全身が凍りついた眷属へ、ザップの投擲した血の剣が突き刺さる。それを寄り代に燃え上がる眷属の身体へ更に強風が襲い掛かっていった。
ビルの中心部へ吹き抜けるように空いた穴を、風と風によって燃え上がった炎が屋上へ居るシルビ達の傍を抜けて空へと霧散していく。その風に乗り、炎に隠れて高く飛び上がったクラウスが、血界の眷属を『密封』した。
風に乗ってクラウスの許しを請う声が聞こえた気がする。それに少しだけ目を伏せてから、シルビは同じように穴を見下ろしていたスティーブンへと顔を向けた。
「繋げてくれ」
「了解」
指を鳴らして下の階で頑張っていた皆の許へ『第八の炎』を繋げる。炎の輪の向こうではクラウスが、チェインから掌ほどの十字架を受け取っているところだった。
そうしてザップの隣には青みかかった半透明の肌をした、人とも異界人とも付かない人物が立っている。瞼のない眼に眉毛なのか触覚のようなもの。手首にはすらりと伸びた魚のヒレのようなものがあり、魚類系の異界人かと一見しては思った。
だが違う。
「こう言っちゃ悪ぃけど、あの子、『何』?」
シルビの後ろから炎の輪を覗き込んでいた汁外衛に問うが、汁外衛は自分の弟子だと言うだけだった。彼にとってはそれ以外の意味は無いのだろう。
血界の眷属を倒し、やっと少しばかり気が抜けたといった様子の彼は、シルビの後ろから炎の輪を覗き込んでいた汁外衛に気付いて駆け寄ってきた。
「師匠!」
金属を引っかいたような声でぞんざいな返事を返す汁外衛を見れば、視線に気付いてかシルビを見上げてきた。何ですかな、と聞かれてシルビは肩を竦める。
「いやぁ、『弟子』に慕われてるなぁと思って」
汁外衛は何も言わず、ザップと駆け寄ってくる若者を見つめていた。
「よお嬢ちゃん。あいかわらずイイ顔してんなあ」
「お前は相変わらずいい血色してるよ。あと嬢ちゃん言うなぁ」
「仲イイね」
「そうですか?」
「そうだよー。最近デルドロったら君が来ないかなっていつも言ってるよ?」
「ちょっ、おま、ドグ!」
「へぇー……寂しん坊めぇ」
「仲良しかっ」
退避していたブローディ&ハマーとレオも戻ってきて、地上では警察のサイレンが鳴り響き始めている。血界の眷属を捕まえる際に空いた壁の大穴から地上を見下ろせば、地上の道路を赤い点滅のうねりが近付いてきていた。自分達が当事者でなければ、なかなかに面白い光景である。
そんな状況から視点を目の前の状況へ移せば、脇へ弟子を控えさせた汁外衛がクラウス達と話していた。
「儂はもう去る」
「そうですか? 充分なおもてなしも出来ず申し訳ありません」
ザップの通訳で汁外衛がもう帰ることを表明する。通訳したザップが心底安心したような顔をしている事には誰も突っ込まない。
「貴様らは対“血界の眷属”戦において塵芥程度の見所がある。合格じゃ」
汁外衛がその『合格』を出したのに、シルビの存在が含まれているのかどうかは分からなかった。入れていなくて合格である事を祈る。
「こいつを任せたぞ。シルビ殿もよろしくお願いいたします」
「え?」
「ではな」
そう言って汁外衛の姿が一瞬にして消えた。残されたのは汁外衛の最後の言葉とザップの弟弟子。その弟弟子は師匠である汁外衛の居た場所を驚いた様子で凝視して固まっていたが、やがてぎこちなくシルビ達を振り返った。
「……聞いて、無いです」
振り絞るようにそう言って、弟弟子が意識を失って倒れこんだ。十時間以上の血界の眷属との激闘に、師匠へ置いていかれたというショックからの気絶。ザップ以上に汁外衛を慕っていたようだったので、そのショックは予想より大きかったのだろう。
慌てて駆け寄るクラウスやレオに続いてシルビも駆け寄り、クラウスが抱き起こした彼の呼吸や脈拍を確認する。こういう時は医療知識があって良かったと本気で思えた。ついでに言うなら異界人へも“合成獣”へも対応出来るだけの経験があって、か。
「シルビ君。彼は……」
「気を失っているだけで脈も異常はありませ――うわっ」
顔を上げたところでいきなり真横へ汁外衛が現れた。立ち去ったのではなかったのかとその場の全員が驚いていると、汁外衛はおもむろに外套の下から携帯を取り出してシルビへ差し出してくる。
「ああ、アドレス? いいよちょっと待ってくれぇ」
「メアド交換とかナンパか! オメーも普通に対応すんなよ!」