―Zの一番長い一日―
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「火と風の二つの属性の血液を混ぜ合わせねえで体内循環させ、機に応じて別の血法として遣い分けるなんてえのは、『人間様のやっていい領域』を超えてんだよ」
この師弟は些細なところでシルビの精神を軽く抉ってくる。
勝手に抉られているのが悪いのだろうが、下手な事を言えないので黙っているしかないのが地味に辛い。
ザップの弟弟子は汁外衛の話によれば、心臓を持つ血界の眷属の本体を血法で旅客機の先端へ括り付け、そのままヘルサレムズ・ロットへ飛んでくる予定なのだという。
だがヘルサレムズ・ロットへ向かって飛んでくる飛行物体は、三年前から何一つの例外なく霧の下へ潜む巨大タコの足に絡め取られ、撃墜させられるのが当然となっていた。よってその飛行機もヘルサレムズ・ロットへ入る前に、タコによって叩き落とされるのが関の山だ。
運が良ければ旅客機の先端部分や破片はヘルサレムズ・ロットの範囲内へ進入できるかもしれないが、確証は無い。更に言うならシルビのせいで、タコは足を切り取られ機嫌が悪いという可能性もある。
「うわぁ、やっちゃった感が凄げぇする」
「何を?」
「タコいるじゃん? タコ。あのタコの足千切ったの、汁外衛に食わせちゃったぁ……」
「あー……あぁ!? ナニしてんのシルビ!?」
海岸から出来るだけ距離の近い高層ビルの屋上へ真胎蛋を運び、飛んでくる旅客機へと備える傍らで、シルビは一緒に待機していたレオと雑談を零した。ヘルサレムズ・ロットを覆う霧の向こうには、やっと微かに飛行物体の影が見える。既に昼間の襲撃から数時間が経過しており、空は既に霧を通さずとも暗い。
「アレかなぁ。タコに謝ってお願いしてきた方がいい的な……」
「何がどーなってそういう状況になったんだよ! つかだったら食わせんなよ!」
「何の話をしてんだよオメーらは」
「保険は多い方がいい?」
「冗談はいい加減にしてくれ」
点にしか見えなかった旅客機が、霧にぼやけながらもその形が分かる場所へまで迫ってくる。点から丸へ、丸から旅客機を前から見た姿へ。
その旅客機が、海から伸び上がったタコの足へ絡め取られる。心無し怒っているというより落ち込んでいるところへ面倒を持ってくるなとばかりの動きに、しかし旅客機は軽々と無残に握り潰された。
残骸が地上に居た見物人の頭上や海へと落ちていく中で、破壊を免れた旅客機の先端、操縦席より前の部分だけとなった機体が高度を落としながら突っ込んでくるのに、シルビは手を伸ばして指を鳴らす。
機体よりも大きな炎の輪が夜のヘルサレムズ・ロットへ燃え上がる。それを潜った旅客機の先端部が、シルビ達の待ち構えている高層ビルの前方へ浮かび上がった炎の輪から現れるのに、シルビはもう一度指を鳴らして幻覚の鎖で旅客機の先端部をがんじがらめにした。
炎の輪を通って各方向のビルと繋がっているものの、先端部の勢いは強い。操る為にも鎖を掴んでいるシルビまで引っ張られて、踏ん張っている足が地面を擦り鎖を掴む両手から血が出る。大体にしてシルビ一人で追突の勢いを殺そうというのが無理な話だ。
だから『彼ら』が呼ばれていた。
「ブラッドハンマー、GO」
クラウスの通信によって待機していたブローディ&ハマーが血を纏った巨体の姿で、まだ高度を落としつつも前進を止めない先端部へと飛び掛る。高層ビルの丁度目の前でそれを掴んだブローディ&ハマーが、遠慮なくビルの壁へとそれを叩き付けた。
ビルの中へと飛び込んでいったそれに、屋上から見守っていたクラウスがレオを振り返る。
「レオナルド君! 諱名は見えたか!?」
「まだっす! 半分しか……!」
「そうか」
必死に見えた分の諱名をメモしていたレオの服を掴んで、クラウスがレオを引き寄せたかと思うと、抱きかかえながら屋上の下へと飛び降りていった。レオの悲鳴が遠ざかっていくのを聞きながら、シルビは指を鳴らして幻覚の鎖や空に滞空したままだった炎の輪を消す。
レオは可哀想だが、近くへ行かなければ諱名が見られないのだから仕方がない。
「俺も下へ――」
「シルビ!」
行ってザップの弟弟子の安否確認へ、と思ったところでスティーブンへと呼び止められる。
「行かれたら困る。誰が師匠どのの通訳をしてくれるんだ!」
「このタイミングでぇ!?」
さっきまではいたザップも、クラウスと一緒に下へと飛び降りてしまっていた。自然と汁外衛の言葉が分かるのはシルビだけになってしまい、そしてここに汁外衛は残っている。確かにいきなり喋りだしたらスティーブンも困るだろう。
一応旅客機の先端部の誘導というシルビの役割自体は終わっているし、シルビは空間転移で何処へでも一瞬で行けるので何処へいようとあまり関係は無い。ただ何とも言えない顔になってしまうのは仕方ないだろう。
様子見として屋上の端から身を乗り出して下を見下ろせば、諱名を書き出し終えたのだろうレオがブローディ&ハマーに抱えられて飛び出してきたのが見えた。赤い巨体の肩越しに目が合ったような気がしなかったでもないが、とりあえずは無事に地上へ降り立つのを見送る。
真胎蛋がある屋上よりは地上の方が安全な筈だ。
この師弟は些細なところでシルビの精神を軽く抉ってくる。
勝手に抉られているのが悪いのだろうが、下手な事を言えないので黙っているしかないのが地味に辛い。
ザップの弟弟子は汁外衛の話によれば、心臓を持つ血界の眷属の本体を血法で旅客機の先端へ括り付け、そのままヘルサレムズ・ロットへ飛んでくる予定なのだという。
だがヘルサレムズ・ロットへ向かって飛んでくる飛行物体は、三年前から何一つの例外なく霧の下へ潜む巨大タコの足に絡め取られ、撃墜させられるのが当然となっていた。よってその飛行機もヘルサレムズ・ロットへ入る前に、タコによって叩き落とされるのが関の山だ。
運が良ければ旅客機の先端部分や破片はヘルサレムズ・ロットの範囲内へ進入できるかもしれないが、確証は無い。更に言うならシルビのせいで、タコは足を切り取られ機嫌が悪いという可能性もある。
「うわぁ、やっちゃった感が凄げぇする」
「何を?」
「タコいるじゃん? タコ。あのタコの足千切ったの、汁外衛に食わせちゃったぁ……」
「あー……あぁ!? ナニしてんのシルビ!?」
海岸から出来るだけ距離の近い高層ビルの屋上へ真胎蛋を運び、飛んでくる旅客機へと備える傍らで、シルビは一緒に待機していたレオと雑談を零した。ヘルサレムズ・ロットを覆う霧の向こうには、やっと微かに飛行物体の影が見える。既に昼間の襲撃から数時間が経過しており、空は既に霧を通さずとも暗い。
「アレかなぁ。タコに謝ってお願いしてきた方がいい的な……」
「何がどーなってそういう状況になったんだよ! つかだったら食わせんなよ!」
「何の話をしてんだよオメーらは」
「保険は多い方がいい?」
「冗談はいい加減にしてくれ」
点にしか見えなかった旅客機が、霧にぼやけながらもその形が分かる場所へまで迫ってくる。点から丸へ、丸から旅客機を前から見た姿へ。
その旅客機が、海から伸び上がったタコの足へ絡め取られる。心無し怒っているというより落ち込んでいるところへ面倒を持ってくるなとばかりの動きに、しかし旅客機は軽々と無残に握り潰された。
残骸が地上に居た見物人の頭上や海へと落ちていく中で、破壊を免れた旅客機の先端、操縦席より前の部分だけとなった機体が高度を落としながら突っ込んでくるのに、シルビは手を伸ばして指を鳴らす。
機体よりも大きな炎の輪が夜のヘルサレムズ・ロットへ燃え上がる。それを潜った旅客機の先端部が、シルビ達の待ち構えている高層ビルの前方へ浮かび上がった炎の輪から現れるのに、シルビはもう一度指を鳴らして幻覚の鎖で旅客機の先端部をがんじがらめにした。
炎の輪を通って各方向のビルと繋がっているものの、先端部の勢いは強い。操る為にも鎖を掴んでいるシルビまで引っ張られて、踏ん張っている足が地面を擦り鎖を掴む両手から血が出る。大体にしてシルビ一人で追突の勢いを殺そうというのが無理な話だ。
だから『彼ら』が呼ばれていた。
「ブラッドハンマー、GO」
クラウスの通信によって待機していたブローディ&ハマーが血を纏った巨体の姿で、まだ高度を落としつつも前進を止めない先端部へと飛び掛る。高層ビルの丁度目の前でそれを掴んだブローディ&ハマーが、遠慮なくビルの壁へとそれを叩き付けた。
ビルの中へと飛び込んでいったそれに、屋上から見守っていたクラウスがレオを振り返る。
「レオナルド君! 諱名は見えたか!?」
「まだっす! 半分しか……!」
「そうか」
必死に見えた分の諱名をメモしていたレオの服を掴んで、クラウスがレオを引き寄せたかと思うと、抱きかかえながら屋上の下へと飛び降りていった。レオの悲鳴が遠ざかっていくのを聞きながら、シルビは指を鳴らして幻覚の鎖や空に滞空したままだった炎の輪を消す。
レオは可哀想だが、近くへ行かなければ諱名が見られないのだから仕方がない。
「俺も下へ――」
「シルビ!」
行ってザップの弟弟子の安否確認へ、と思ったところでスティーブンへと呼び止められる。
「行かれたら困る。誰が師匠どのの通訳をしてくれるんだ!」
「このタイミングでぇ!?」
さっきまではいたザップも、クラウスと一緒に下へと飛び降りてしまっていた。自然と汁外衛の言葉が分かるのはシルビだけになってしまい、そしてここに汁外衛は残っている。確かにいきなり喋りだしたらスティーブンも困るだろう。
一応旅客機の先端部の誘導というシルビの役割自体は終わっているし、シルビは空間転移で何処へでも一瞬で行けるので何処へいようとあまり関係は無い。ただ何とも言えない顔になってしまうのは仕方ないだろう。
様子見として屋上の端から身を乗り出して下を見下ろせば、諱名を書き出し終えたのだろうレオがブローディ&ハマーに抱えられて飛び出してきたのが見えた。赤い巨体の肩越しに目が合ったような気がしなかったでもないが、とりあえずは無事に地上へ降り立つのを見送る。
真胎蛋がある屋上よりは地上の方が安全な筈だ。