―Zの一番長い一日―
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チェインが妙策を講じたお陰で、無事に『真胎蛋』の眼球器官の破壊については達成したザップが、車の上でチェインに騙された事に落ち込んでいる。誰もそれを慰めないところが凄い。
シルビは『真胎蛋』から『神々の義眼』で諱名を探っているレオの傍へ念の為に控えながら、眼球器官のあった部位から涙に似た液体を零している『真胎蛋』を眺める。
超常的と言ってもいい理論と原理を用いて細胞の奥底へ魔術式を書き込み、急激な再生能力と戦闘力を有した異界の存在である血界の眷属を完全に倒す方法は、現在の人界においては“一つも存在しない”。それだけ血界の眷属はこの人界において、凶暴で害悪な目の上のたんこぶだった。
その状況を辛うじて打破する方法が、クラウスの持つラインヘルツ家へ流れる『血界の眷属を密封』する血。そして血界の眷属の『諱名』を暴くことにある。
魔術的存在の弱点として、自身の真名を知られる事が古くから言い伝えられているものの一つであった。真名でなくとも呪術的世界の中には相手の名前を叫ぶだけで呪いを成立させるものもある。自身の技量さえ強ければその効果はより強くなり、場合によっては神さえ縛る事も可能だ。
そんな強い呪縛力を持つ『諱名』を暴き拘束することが、現状の人界で血界の眷属を倒す唯一の方法だった。そしてその『諱名』を、レオの持つ『神々の義眼』は読み取る事が出来る。
では『神々の義眼』を持つレオが来る前はどうしていたのかというと、古い文献を漁るなど地道に調べる事でどうにかしていたらしい。それはそれで努力の賜物だろう。
この事について考えると、シルビはどうしても複雑な気分になる。そんな事を知らないレオは、普段は首へ掛けているゴーグルを装着して『真胎蛋』を見つめて唸っていた。
「駄目っす。全く見える気配も無いっす」
「なんだと。諱名が掴めなきゃ長老級の封印は到底無理だぞ」
分かっているので必死に諱名を暴こうとしているレオの横で、シルビは真胎蛋を見つめて首へ手を押し当てる。多分シルビが『命じれば』すぐに分かるだろうが、その代わりシルビはおそらくその後過労で動けなくなるだろう。
だったらいっそのこと『命じて』殺してしまったほうがいいのかと悩んでいると、汁外衛が話しかけてきた。
「あースイマセン師匠どの。何言ってるか全然分かんないんです」
「スティーブンさんに話しかけてませんよ。――汁外衛。何故君が俺に指図する?」
喉から手を離して汁外衛を振り返り睨む。金属を引っ掻く様な声が説明してくるが、それは多分真意ではない。
「俺も今はライブラのメンバーだぁ。だから君の話は聞けねぇ」
汁外衛が試したいのはザップだけではなく、ライブラの全員だ。
「シルビ君。そう機嫌を悪くしないで欲しい」
「俺だってそうしてぇですよ。……すみません」
今のは八つ当たりだったなとクラウスへ謝罪して顔を逸らす。逸らした先では諱名を探ろうとしていたレオが、何か言いたげにシルビを見上げていた。
「何?」
「いやー、……別に?」
レオもどうせシルビが何も話していないことが不満なのだろうと判断する。クラウス達が、諱名が読めないのは心臓が無いからだと話し合っているのを聞き流しつつ、シルビは真胎蛋へと近付いてつま先で軽く蹴飛ばした。ザップが眼球器官を使えなくしたお陰で、そんな事をしても真胎蛋が反撃してくる事は無い。
いっその事蹴り潰してしまおうとかと足を振り上げたところで、背中へ流している髪を引っ張られる感覚。振り返ればチェインがシルビの髪を掴んで軽く引っ張っていた。
「……何です?」
「べつに?」
「レオ君といい貴女といい何なんですか」
「怒ってる?」
前にも聞かれたことのある問いかけをされて、黙る。チェインはどうにも人の機嫌が悪い時に踏み込んでくるようだった。
チェインに向き直ればゴーグルを外したレオがその後ろへ立っている。二人揃ってやはり何か物言いたげな顔に、シルビのほうが根負けしてため息を吐いた。
嫌われたい訳じゃないのだ。
「弟弟子!?」
心臓を持つ本体の話をしていたほうで汁外衛が発言し、それを聞いたザップが寝そべっていた車体の上から起き上がって振り返る。驚くということはザップも知らなかったのだろう。
「なんだって?」
「ザップさんの弟弟子が、今その本体を連れてこちらへ向かっているって」
レオに聞かれて答えれば、それを聞いたスティーブン達も驚いていた。
心臓を持つほうである本体であるのなら、今真胎蛋になっている半身よりも強力だろう。それをたった一人で制し、このヘルサレムズ・ロットへ連れてきているところなのだと汁外衛は言ったのだ。
半身だけでも苦労している側としては、それはあまりにも無謀にも思えなくも無い。それだけの技量がその弟弟子にあると判断したが故に、汁外衛はそうしているのだろうが一応『弟子』と呼ぶからには師匠である汁外衛を超えてはいまい。
「汁外衛。そのお弟子さんは大丈夫なのかぁ?」
「お心遣い痛み入りましょう」
「……。いや、痛み入るだけかよぉ」
せっかくザップが通訳してくれたが、汁外衛はそれしか言わなかった。信頼しているのかいないのかと言われたら、信用しているのだろうが。
「なんていうか、なんだかなぁ……」
「もっと言ってやれ――いだだだだだだだだ!」
「汁外衛止めてあげてくれぇ。君の弟子でも俺の同僚だよ」
シルビは『真胎蛋』から『神々の義眼』で諱名を探っているレオの傍へ念の為に控えながら、眼球器官のあった部位から涙に似た液体を零している『真胎蛋』を眺める。
超常的と言ってもいい理論と原理を用いて細胞の奥底へ魔術式を書き込み、急激な再生能力と戦闘力を有した異界の存在である血界の眷属を完全に倒す方法は、現在の人界においては“一つも存在しない”。それだけ血界の眷属はこの人界において、凶暴で害悪な目の上のたんこぶだった。
その状況を辛うじて打破する方法が、クラウスの持つラインヘルツ家へ流れる『血界の眷属を密封』する血。そして血界の眷属の『諱名』を暴くことにある。
魔術的存在の弱点として、自身の真名を知られる事が古くから言い伝えられているものの一つであった。真名でなくとも呪術的世界の中には相手の名前を叫ぶだけで呪いを成立させるものもある。自身の技量さえ強ければその効果はより強くなり、場合によっては神さえ縛る事も可能だ。
そんな強い呪縛力を持つ『諱名』を暴き拘束することが、現状の人界で血界の眷属を倒す唯一の方法だった。そしてその『諱名』を、レオの持つ『神々の義眼』は読み取る事が出来る。
では『神々の義眼』を持つレオが来る前はどうしていたのかというと、古い文献を漁るなど地道に調べる事でどうにかしていたらしい。それはそれで努力の賜物だろう。
この事について考えると、シルビはどうしても複雑な気分になる。そんな事を知らないレオは、普段は首へ掛けているゴーグルを装着して『真胎蛋』を見つめて唸っていた。
「駄目っす。全く見える気配も無いっす」
「なんだと。諱名が掴めなきゃ長老級の封印は到底無理だぞ」
分かっているので必死に諱名を暴こうとしているレオの横で、シルビは真胎蛋を見つめて首へ手を押し当てる。多分シルビが『命じれば』すぐに分かるだろうが、その代わりシルビはおそらくその後過労で動けなくなるだろう。
だったらいっそのこと『命じて』殺してしまったほうがいいのかと悩んでいると、汁外衛が話しかけてきた。
「あースイマセン師匠どの。何言ってるか全然分かんないんです」
「スティーブンさんに話しかけてませんよ。――汁外衛。何故君が俺に指図する?」
喉から手を離して汁外衛を振り返り睨む。金属を引っ掻く様な声が説明してくるが、それは多分真意ではない。
「俺も今はライブラのメンバーだぁ。だから君の話は聞けねぇ」
汁外衛が試したいのはザップだけではなく、ライブラの全員だ。
「シルビ君。そう機嫌を悪くしないで欲しい」
「俺だってそうしてぇですよ。……すみません」
今のは八つ当たりだったなとクラウスへ謝罪して顔を逸らす。逸らした先では諱名を探ろうとしていたレオが、何か言いたげにシルビを見上げていた。
「何?」
「いやー、……別に?」
レオもどうせシルビが何も話していないことが不満なのだろうと判断する。クラウス達が、諱名が読めないのは心臓が無いからだと話し合っているのを聞き流しつつ、シルビは真胎蛋へと近付いてつま先で軽く蹴飛ばした。ザップが眼球器官を使えなくしたお陰で、そんな事をしても真胎蛋が反撃してくる事は無い。
いっその事蹴り潰してしまおうとかと足を振り上げたところで、背中へ流している髪を引っ張られる感覚。振り返ればチェインがシルビの髪を掴んで軽く引っ張っていた。
「……何です?」
「べつに?」
「レオ君といい貴女といい何なんですか」
「怒ってる?」
前にも聞かれたことのある問いかけをされて、黙る。チェインはどうにも人の機嫌が悪い時に踏み込んでくるようだった。
チェインに向き直ればゴーグルを外したレオがその後ろへ立っている。二人揃ってやはり何か物言いたげな顔に、シルビのほうが根負けしてため息を吐いた。
嫌われたい訳じゃないのだ。
「弟弟子!?」
心臓を持つ本体の話をしていたほうで汁外衛が発言し、それを聞いたザップが寝そべっていた車体の上から起き上がって振り返る。驚くということはザップも知らなかったのだろう。
「なんだって?」
「ザップさんの弟弟子が、今その本体を連れてこちらへ向かっているって」
レオに聞かれて答えれば、それを聞いたスティーブン達も驚いていた。
心臓を持つほうである本体であるのなら、今真胎蛋になっている半身よりも強力だろう。それをたった一人で制し、このヘルサレムズ・ロットへ連れてきているところなのだと汁外衛は言ったのだ。
半身だけでも苦労している側としては、それはあまりにも無謀にも思えなくも無い。それだけの技量がその弟弟子にあると判断したが故に、汁外衛はそうしているのだろうが一応『弟子』と呼ぶからには師匠である汁外衛を超えてはいまい。
「汁外衛。そのお弟子さんは大丈夫なのかぁ?」
「お心遣い痛み入りましょう」
「……。いや、痛み入るだけかよぉ」
せっかくザップが通訳してくれたが、汁外衛はそれしか言わなかった。信頼しているのかいないのかと言われたら、信用しているのだろうが。
「なんていうか、なんだかなぁ……」
「もっと言ってやれ――いだだだだだだだだ!」
「汁外衛止めてあげてくれぇ。君の弟子でも俺の同僚だよ」