―Zの一番長い一日―
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「……話を戻して。ザップさんって君の弟子ぃ?」
「戻ってない。地味に戻ってない」
「左様。この肥えて今にも破裂せんばかりの肉の塊は小生の愚かな弟子でござりますれば。しかしてシルビ殿。この堕落した芋虫よりも醜き畜生さりとて、小生が見出し血法の使い手。再び我が元で鍛錬の積み直しをさせようかと」
自分のことを悪く言われていても、その言葉を他の皆が理解できない為に通訳しなければならないザップは既に泣いていた。下半身どころか声帯にも欠損か傷があって、汁外衛はまともな声が出ないのだろう。でなければわざとという事になるから流石にザップが哀れすぎる。
「ザップは確かに度し難い人間の屑ですが、我々にとって欠くことの出来ない大事なメンバーです」
「シルビ殿がおられるであろう」
「やめろぉ。俺を巻き込まねぇでくれぇ」
取り成そうとしたスティーブンへあっけらかんと言い放って、同意を求めるように振り返らないで欲しい。同時に泣きながら助けを求めてくるザップもシルビのほうを向く事になるので、非常に何とも言えない気分になるのだ。
ザップが連れて行かれないように、ここで汁外衛へ今のシルビが全力を出せない事を話すのは別にいい。彼だってシルビが十全ではないなら、戦力としてザップを残す手を取ろうと考えるだろう。問題はその事を知っているのがライブラのメンバーでもクラウスとスティーブンだけであるという事だ。
他にもザップを筆頭にK・Kやレオも傍に居る現状、あまり言いたいとは思わない。誰が好んで醜い姿を晒さなければならないのか。
一歩前に出たクラウスが汁外衛へ頭を下げた。
「どうか、お考え直しを」
真摯な懇願に汁外衛が考え込む態度を見せる。それからザップの口を血で塞いでおもむろにシルビを見上げた。
『貴方様も、この糞詰まりを必要となされるか?』
聞いて分かったらしいザップが怒りに暴れるが、汁外衛は軽々しく動きを封じてしまう。それを見てシルビは思わず笑みを浮かべた。汁外衛の真意が分かってしまったからだ。
きっと、ずっと一人で彼は戦ってきたのだろう。ザップはその過程で出会った弟子だった。他に弟子が居るのかどうか知らないが、コレはザップの堕落振りに憤慨しているだけではないと悟る。強くなった故に厳しい姿だけが目に入るようだけれど。
「あまり強くは言わねぇけど、俺は例えザップさんが血肉の塊に成り果てようと、君に連れて行って欲しくねぇと思ってるよ」
『……仕方ありませぬな』
嘆息した汁外衛がザップの拘束を緩め、塞いでいた口を自由にする。金属板を引っかくような声で、ザップを連れて“行かない”条件を言う汁外衛に、通訳する事も忘れてザップが言葉をなくした。
血界の眷属が酷く衰弱した際、回復を優先する為にとる最終自閉形態『真胎蛋』
汁外衛とインドから交戦し続けてヘルサレムズ・ロットへやってきた血界の眷属は、シルビがライブラのメンバーと合流して汁外衛と再会する前に、その姿へと変形していた。
大人の膝の高さくらいの大きさをした、卵に似た形状のそれは現在、内部で血界の眷属が急速再生治癒を行なっている。その間に外部からの攻撃を受けぬよう、蛋には外部の監視を行なう目が六つ付いていた。
外界からの刺激にはその眼球器官で認識、反射的な防衛攻撃を行なう。一つの眼を潰したところで残りの目が敵を認識するので、防衛攻撃を行なわせない為にはそれらの眼球器官を同時に潰さなければならない。
その目潰しを、汁外衛はザップへやれと言う。
「……俺、あまり血界の眷属について詳しくねぇから言うけど、刺激と認識させねぇ方法で簡単に潰せる気がする」
「例えば?」
「刺激の定義が不明瞭だけど、あれが呼吸をしてるのなら周囲にガスを散布とかぁ?」
「おいおい血界の眷属に効くガスがあると思ってるのか?」
「じゃあ単純に二酸化炭素とかぁ? 血界の眷属といえど、むしろ血に依存する存在故に血中濃度が弱点かもしれねぇ」
「ほんっとーに適当なコト言うのね。シルビッチは!」
K・Kに思い切り皮肉られて、シルビは言い返さずに頭を掻いた。シルビが汁外衛の知り合い、しかも敬われる立場だという新情報と、それを今まで話しもしなかったシルビへ疑心や怒りが湧いているのだろう。
シルビだって好きで言わないでいた訳ではない。むしろ汁外衛に関しては覚えてもいなかったし知りもしなかった。
そもそも血界の眷属とか牙狩り自体に興味も無かったのだから、話題に出すわけが無い。ライブラへ来たのだって牙狩りとは関係のない案件だった。とはいえ牙狩りで構成された組織なのだから、言われずとも分かるだろうと言われてしまえばそれまでだが。
落ち込んだシルビに気付いてか、ザップと『真胎蛋』とを一緒に血の膜で作り上げた結界に閉じ込めた汁外衛が振り返る。
金属板を引っかくような声で何かを言うが、それがクラウス達へ意味が通じることは無い。何せ通訳出来るザップは結界の中だし、シルビは通訳するつもりが無かった。
「なんて言ったの?」
隣に居たレオへ聞かれて、口を開きかけて止める。
若輩者が云々かんぬんという雑言だが、今それを言ったら力を失っている上に実際若いシルビも若輩者の中に入るし、そうでなくとも徒にライブラとシルビの関係を悪くするだけだ。
「俺、ライブラに居られなくなるの嫌だなぁ……」
聞こえたらしいスティーブンやK・K達が、シルビのことを見たのには気付かなかった。
「戻ってない。地味に戻ってない」
「左様。この肥えて今にも破裂せんばかりの肉の塊は小生の愚かな弟子でござりますれば。しかしてシルビ殿。この堕落した芋虫よりも醜き畜生さりとて、小生が見出し血法の使い手。再び我が元で鍛錬の積み直しをさせようかと」
自分のことを悪く言われていても、その言葉を他の皆が理解できない為に通訳しなければならないザップは既に泣いていた。下半身どころか声帯にも欠損か傷があって、汁外衛はまともな声が出ないのだろう。でなければわざとという事になるから流石にザップが哀れすぎる。
「ザップは確かに度し難い人間の屑ですが、我々にとって欠くことの出来ない大事なメンバーです」
「シルビ殿がおられるであろう」
「やめろぉ。俺を巻き込まねぇでくれぇ」
取り成そうとしたスティーブンへあっけらかんと言い放って、同意を求めるように振り返らないで欲しい。同時に泣きながら助けを求めてくるザップもシルビのほうを向く事になるので、非常に何とも言えない気分になるのだ。
ザップが連れて行かれないように、ここで汁外衛へ今のシルビが全力を出せない事を話すのは別にいい。彼だってシルビが十全ではないなら、戦力としてザップを残す手を取ろうと考えるだろう。問題はその事を知っているのがライブラのメンバーでもクラウスとスティーブンだけであるという事だ。
他にもザップを筆頭にK・Kやレオも傍に居る現状、あまり言いたいとは思わない。誰が好んで醜い姿を晒さなければならないのか。
一歩前に出たクラウスが汁外衛へ頭を下げた。
「どうか、お考え直しを」
真摯な懇願に汁外衛が考え込む態度を見せる。それからザップの口を血で塞いでおもむろにシルビを見上げた。
『貴方様も、この糞詰まりを必要となされるか?』
聞いて分かったらしいザップが怒りに暴れるが、汁外衛は軽々しく動きを封じてしまう。それを見てシルビは思わず笑みを浮かべた。汁外衛の真意が分かってしまったからだ。
きっと、ずっと一人で彼は戦ってきたのだろう。ザップはその過程で出会った弟子だった。他に弟子が居るのかどうか知らないが、コレはザップの堕落振りに憤慨しているだけではないと悟る。強くなった故に厳しい姿だけが目に入るようだけれど。
「あまり強くは言わねぇけど、俺は例えザップさんが血肉の塊に成り果てようと、君に連れて行って欲しくねぇと思ってるよ」
『……仕方ありませぬな』
嘆息した汁外衛がザップの拘束を緩め、塞いでいた口を自由にする。金属板を引っかくような声で、ザップを連れて“行かない”条件を言う汁外衛に、通訳する事も忘れてザップが言葉をなくした。
血界の眷属が酷く衰弱した際、回復を優先する為にとる最終自閉形態『真胎蛋』
汁外衛とインドから交戦し続けてヘルサレムズ・ロットへやってきた血界の眷属は、シルビがライブラのメンバーと合流して汁外衛と再会する前に、その姿へと変形していた。
大人の膝の高さくらいの大きさをした、卵に似た形状のそれは現在、内部で血界の眷属が急速再生治癒を行なっている。その間に外部からの攻撃を受けぬよう、蛋には外部の監視を行なう目が六つ付いていた。
外界からの刺激にはその眼球器官で認識、反射的な防衛攻撃を行なう。一つの眼を潰したところで残りの目が敵を認識するので、防衛攻撃を行なわせない為にはそれらの眼球器官を同時に潰さなければならない。
その目潰しを、汁外衛はザップへやれと言う。
「……俺、あまり血界の眷属について詳しくねぇから言うけど、刺激と認識させねぇ方法で簡単に潰せる気がする」
「例えば?」
「刺激の定義が不明瞭だけど、あれが呼吸をしてるのなら周囲にガスを散布とかぁ?」
「おいおい血界の眷属に効くガスがあると思ってるのか?」
「じゃあ単純に二酸化炭素とかぁ? 血界の眷属といえど、むしろ血に依存する存在故に血中濃度が弱点かもしれねぇ」
「ほんっとーに適当なコト言うのね。シルビッチは!」
K・Kに思い切り皮肉られて、シルビは言い返さずに頭を掻いた。シルビが汁外衛の知り合い、しかも敬われる立場だという新情報と、それを今まで話しもしなかったシルビへ疑心や怒りが湧いているのだろう。
シルビだって好きで言わないでいた訳ではない。むしろ汁外衛に関しては覚えてもいなかったし知りもしなかった。
そもそも血界の眷属とか牙狩り自体に興味も無かったのだから、話題に出すわけが無い。ライブラへ来たのだって牙狩りとは関係のない案件だった。とはいえ牙狩りで構成された組織なのだから、言われずとも分かるだろうと言われてしまえばそれまでだが。
落ち込んだシルビに気付いてか、ザップと『真胎蛋』とを一緒に血の膜で作り上げた結界に閉じ込めた汁外衛が振り返る。
金属板を引っかくような声で何かを言うが、それがクラウス達へ意味が通じることは無い。何せ通訳出来るザップは結界の中だし、シルビは通訳するつもりが無かった。
「なんて言ったの?」
隣に居たレオへ聞かれて、口を開きかけて止める。
若輩者が云々かんぬんという雑言だが、今それを言ったら力を失っている上に実際若いシルビも若輩者の中に入るし、そうでなくとも徒にライブラとシルビの関係を悪くするだけだ。
「俺、ライブラに居られなくなるの嫌だなぁ……」
聞こえたらしいスティーブンやK・K達が、シルビのことを見たのには気付かなかった。