―Zの一番長い一日―
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片手から焼タコの匂いがしてお腹が空いた。吸盤のせいで剥がしにくいタコ足に難儀しつつも指を鳴らして、『空間転移』で血界の眷属が現れた現場へ降り立つ。
スティーブンのからの連絡で、血界の眷属がインドの空軍基地からヘルサレムズ・ロットへやってきたらしい。空軍基地は三時間前に封鎖されており有力な情報は断片的にしか無いらしいが、その話によればインドの方で既に血界の眷属は何者かによって半身欠損状態へ陥り、しかし移動しながら交戦中だという。
向こうも現場へ急ぐところだったので、スティーブンとの通話はとにかく現場へ急行しろと言われたところで切れた。それからシルビも現場へ向かおうと、手を掴んだままだったタコ足に頼んで放してもらおうとしたところ、タコが嫌がったので軽く一戦交えてきたのである。
思ったよりも時間の掛かった上、そのつもりは無かったのにタコの足を切り取ってしまうという結果になり非常に残念だ。だが炎で炙られても放さなかった向こうも悪い。
一応後で謝りに行くかと考えたところで、剥がしたタコ足を片手に周囲を見回すが、戦闘が行なわれている気配は無かった。廃材と瓦礫の荒野と化したストリートの向こうに、クラウスの赤毛を見つけて、タコ足を持ったまま駆け寄る。
「皆さん! 大丈夫です……か?」
瓦礫の向こうにはライブラの戦闘メンバーとレオが揃っていた。シルビが叫んだせいで振り返った彼らの更に奥には、宙に浮く動物の頭蓋を被った生物と、その生物へ頭を掴んでぶら下げられ、脂肪の付いた腹を杖で突かれているザップの姿。
流石にちょっと、自分がしてきたタコとの格闘以上に意味が分からない。
多分動物の頭蓋を被った生物は人間だ。しかしその見た目からして下半身は無いのだろう。ザップの頭を掴む手は赤く細く、おそらく手の形に構成しているだけの血液。ボロボロの外套から伸びている左腕が唯一しわがれた年寄りの腕の見た目をしており、人間だろうと思わせる。
その“年寄り”がシルビを見て、驚いたように硬直した。
「シルビ殿!?」
「あ、はい?」
年寄りの声だろう金属を擦るような“音”を、ザップがぶら下げられたまま無心に『通訳』している。通訳せずともシルビは理解出来ているのだが、それを申し出る前にザップをぶら下げたまま年寄りが近付いてくるのに、シルビはあっけに取られて間の抜けた返事しか出来なかった。
「お覚えになられておられるでしょうか。裸獣汁外衛賤巌でございます!」
「……え、えっと」
興奮気味に話しかけられるが、なんだかちょっと嫌な予感しかしない。
「いえいえ覚えておられぬのも無理はございませんでしょうとも。当時我が身も斯様な姿ではござりませなんだ。賤しくも修行中であった身。貴方様との御邂逅も一度きり。忘れられておられぬ方が無理でございしょう」
「いやいや待って。待ってくれるかぁ? いつの……いやそれは駄目だぁ。“何処で”会ったぁ?」
いつの話か、と聞くにはクラウス達が傍に居るので無理だった。ギルベルトだけならともかく他の面々は知らない筈なのだから。
だから『出会った場所』を聞けば裸獣汁外衛賤巌というらしい彼は、僅かに胸を張って答えた。
「おこがましくも火と風の『指輪』を作って頂いた時でござます」
「――……あぁああああああ! 思い出したぁ! 風と火の子! え、あれじゃあザップさんの指輪って」
「確かにこの糞袋へ一つ譲っておりますれば」
「指輪に見覚えがある気がしてたんだぁ。へぇ、一回しか会ったこと無ぇのに良く覚えてたなぁ。……ってかアレ? 牙狩りだったのかぁ?」
「ちょ、ちょっ、ちょっといいかな!?」
話が盛り上がりそうなタイミングで横から声を掛けられて、二人揃って横槍を入れてきたスティーブンを見やる。その傍のK・K達の表情も見て、シルビは自分がナチュラルに凡ミスを犯したことを悟った。
レオの横へ立っていたギルベルトが流石に呆れの色を浮かべて頭を振っている。彼は知っているから然程驚かないようだが、他のメンバーは違う。
「シルビは、その、汁外衛どのと知り合いなのか……?」
「何を言うておる小童! この方は――」
「知り合いの知り合いです」
汁外衛の被っている頭蓋の下へ手を突っ込んで口を塞ぎ、ザップへ通訳させるのも阻止する。前にもした誤魔化しの笑みを浮かべるが、ここはあえて『知られたくない事があるのだ』と理解してもらうことにした。でなければ血界の眷属などよりも厄介な話になるのは眼に見えている。
シルビが汁外衛と出会ったのは約百年前。シルビがイタリアで『シルビ』と名乗っていた頃の話だ。
彫金師タルボの元へ汁外衛がやってきた時に、たまたまシルビと川平という知り合いが居合わせただけのこと。それ以上でも以下でもないのだが、事情を知らない者にとっては矛盾を生じるただの面倒事の種である。
「あまり言い広める事でも無ぇ。裸獣……」
「どうぞ汁外衛と」
「……汁外衛。俺の事を不必要に言わねぇでくれるかぁ?」
「貴方様がそう仰せならば。……ところで、前より若々しくおなられに――」
「うん! この焼きタコあげるからマジで黙ろうかぁ! 多分これ大味だけどぉ!」
コイツは口を開くとシルビの地雷をガンガン踏んでくると悟って、汁外衛の口へ持っていたタコの足をねじ込んだ。
スティーブンのからの連絡で、血界の眷属がインドの空軍基地からヘルサレムズ・ロットへやってきたらしい。空軍基地は三時間前に封鎖されており有力な情報は断片的にしか無いらしいが、その話によればインドの方で既に血界の眷属は何者かによって半身欠損状態へ陥り、しかし移動しながら交戦中だという。
向こうも現場へ急ぐところだったので、スティーブンとの通話はとにかく現場へ急行しろと言われたところで切れた。それからシルビも現場へ向かおうと、手を掴んだままだったタコ足に頼んで放してもらおうとしたところ、タコが嫌がったので軽く一戦交えてきたのである。
思ったよりも時間の掛かった上、そのつもりは無かったのにタコの足を切り取ってしまうという結果になり非常に残念だ。だが炎で炙られても放さなかった向こうも悪い。
一応後で謝りに行くかと考えたところで、剥がしたタコ足を片手に周囲を見回すが、戦闘が行なわれている気配は無かった。廃材と瓦礫の荒野と化したストリートの向こうに、クラウスの赤毛を見つけて、タコ足を持ったまま駆け寄る。
「皆さん! 大丈夫です……か?」
瓦礫の向こうにはライブラの戦闘メンバーとレオが揃っていた。シルビが叫んだせいで振り返った彼らの更に奥には、宙に浮く動物の頭蓋を被った生物と、その生物へ頭を掴んでぶら下げられ、脂肪の付いた腹を杖で突かれているザップの姿。
流石にちょっと、自分がしてきたタコとの格闘以上に意味が分からない。
多分動物の頭蓋を被った生物は人間だ。しかしその見た目からして下半身は無いのだろう。ザップの頭を掴む手は赤く細く、おそらく手の形に構成しているだけの血液。ボロボロの外套から伸びている左腕が唯一しわがれた年寄りの腕の見た目をしており、人間だろうと思わせる。
その“年寄り”がシルビを見て、驚いたように硬直した。
「シルビ殿!?」
「あ、はい?」
年寄りの声だろう金属を擦るような“音”を、ザップがぶら下げられたまま無心に『通訳』している。通訳せずともシルビは理解出来ているのだが、それを申し出る前にザップをぶら下げたまま年寄りが近付いてくるのに、シルビはあっけに取られて間の抜けた返事しか出来なかった。
「お覚えになられておられるでしょうか。裸獣汁外衛賤巌でございます!」
「……え、えっと」
興奮気味に話しかけられるが、なんだかちょっと嫌な予感しかしない。
「いえいえ覚えておられぬのも無理はございませんでしょうとも。当時我が身も斯様な姿ではござりませなんだ。賤しくも修行中であった身。貴方様との御邂逅も一度きり。忘れられておられぬ方が無理でございしょう」
「いやいや待って。待ってくれるかぁ? いつの……いやそれは駄目だぁ。“何処で”会ったぁ?」
いつの話か、と聞くにはクラウス達が傍に居るので無理だった。ギルベルトだけならともかく他の面々は知らない筈なのだから。
だから『出会った場所』を聞けば裸獣汁外衛賤巌というらしい彼は、僅かに胸を張って答えた。
「おこがましくも火と風の『指輪』を作って頂いた時でござます」
「――……あぁああああああ! 思い出したぁ! 風と火の子! え、あれじゃあザップさんの指輪って」
「確かにこの糞袋へ一つ譲っておりますれば」
「指輪に見覚えがある気がしてたんだぁ。へぇ、一回しか会ったこと無ぇのに良く覚えてたなぁ。……ってかアレ? 牙狩りだったのかぁ?」
「ちょ、ちょっ、ちょっといいかな!?」
話が盛り上がりそうなタイミングで横から声を掛けられて、二人揃って横槍を入れてきたスティーブンを見やる。その傍のK・K達の表情も見て、シルビは自分がナチュラルに凡ミスを犯したことを悟った。
レオの横へ立っていたギルベルトが流石に呆れの色を浮かべて頭を振っている。彼は知っているから然程驚かないようだが、他のメンバーは違う。
「シルビは、その、汁外衛どのと知り合いなのか……?」
「何を言うておる小童! この方は――」
「知り合いの知り合いです」
汁外衛の被っている頭蓋の下へ手を突っ込んで口を塞ぎ、ザップへ通訳させるのも阻止する。前にもした誤魔化しの笑みを浮かべるが、ここはあえて『知られたくない事があるのだ』と理解してもらうことにした。でなければ血界の眷属などよりも厄介な話になるのは眼に見えている。
シルビが汁外衛と出会ったのは約百年前。シルビがイタリアで『シルビ』と名乗っていた頃の話だ。
彫金師タルボの元へ汁外衛がやってきた時に、たまたまシルビと川平という知り合いが居合わせただけのこと。それ以上でも以下でもないのだが、事情を知らない者にとっては矛盾を生じるただの面倒事の種である。
「あまり言い広める事でも無ぇ。裸獣……」
「どうぞ汁外衛と」
「……汁外衛。俺の事を不必要に言わねぇでくれるかぁ?」
「貴方様がそう仰せならば。……ところで、前より若々しくおなられに――」
「うん! この焼きタコあげるからマジで黙ろうかぁ! 多分これ大味だけどぉ!」
コイツは口を開くとシルビの地雷をガンガン踏んでくると悟って、汁外衛の口へ持っていたタコの足をねじ込んだ。