―Don’t forget to don’t forget me―
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レオの新しく出来たバーガー友達、ネジは母親の記憶が無いらしい。母親のほうもネジを産んだ記憶が無く、互いに互いを親子と認識はしていても自分の母親、自分の子供だという確信が無いらしかった。
そういった記憶喪失はあるのかと聞かれ、シルビは少し考える。
「そもそも生まれた瞬間を覚えている赤ん坊のほうが少ねぇけど、母親が忘れてるのはどうなんだろうなぁ」
「ザップさんたちはそういう種族なんじゃないかって言ってた」
ライブラの事務所でスティーブンへ頼まれて、不要になった書類をシュレッダーへ掛けている最中に聞かれた記憶の話。
シルビに関して言うなら今はともかく五年前までは覚えていようが忘れようが、否応無しに『×××』があったので思い出す事が出来ていた。今だって『×××』によるシルビが実際に知らない情報の引き出しは出来ないが、今まで経験した事や学んだ事は問題なく思い出せるので不便は無い。
だがレオが聞きたいのはそういうことではないのだろう。
「記憶喪失にも色々あって、生活に必要な記憶も全て忘れてしまうものと、一時的な記憶の消失がまぁ大きな分類だぁ。んで、そのネジ君の親子の場合は、母親はそれを聞く限り一時的な記憶の喪失ってことになる」
「なんで?」
「産んだ事は忘れてても、親子である事は覚えてるって事は、孕んでる時の事は覚えてると考えていいだろぉ? ネジ君の種族が胎生か卵生か知らねぇけど、産まれるまでの期間の記憶はあるんじゃねぇかなぁ。なら産んだ時の記憶だけが無ぇことになる」
人類の場合十月十日で子供が生まれる。種族によってその違いは当然あるが、胎生だろうと卵生だろうとポンと産むことは多くない。卵であっても傍で守る期間が発生することを考えれば、ある程度長期間の記憶に子供の存在があるはずである。
産んだ事は覚えていなくとも自分が子供を孕んだ事を覚えているなら、それは一時的な記憶の喪失だ。ではその一時的な記憶の喪失は何故発生したのかとなると、件のネジ君やその母親に直接会ったわけでもないシルビには考える為の情報が少なかった。
「せめてそのネジ君親子だけなのか、ネジ君の種族が全員そうなのかくらいは分からねぇと何とも言えねぇよ。若年性健忘症の遺伝があるのかも知れねぇし、ストレスでそうだったと思い込むこともある。そうだとしたら一概に記憶喪失だとも言えねぇよ?」
「難しいなー」
「レオ君は何を気にしてるんだぁ?」
「何って、そーいう事ってありうるのかなって思っただけだよ」
「忘れられるのが怖ぇのかと思った」
「は?」
粉砕し終わったシュレッダーの紙屑入れを外して取り出し、しゃがんで目一杯になっていたその中へ手を突っ込み、指を鳴らす。紙屑だけを『嵐の炎』で分解しながらシルビはレオを振り返った。
「脳ってのは容量が決まってる。だから古い記憶や些細な記憶ってのはこんな風にどんどん消えていっちまうのは分かるよなぁ?」
「あ、うん。それが? つかそれどーなってんの?」
「それは今どうでもいい。君が振った話なんだからちゃんと聞けよぉ。――でもその古い記憶かどうか、些細な記憶かどうかってのは脳には判断出来なくて、間違って消してしまう事もある。物忘れが酷でぇ人ってのはそういうことなんだけど、その人が忘れてしまった“些細な”事の中に、もし自分のことが混ざっていたらどう思うぅ?」
「……忘れられるってことかよ」
「まぁ、そうなるんじゃねぇ? 実際そのネジ君の母親はネジ君のことを忘れている」
「フツー子供の事は“些細な事”じゃないだろ! ……あ」
「だから脳はそれが分からねぇんだよ。大事だと思っていても忘れたくねぇと思っていても、忘れてしまうことだってある」
脳の仕組みは未だに全てが明らかになった訳ではない。だから脳がその記憶をどう扱うのかさえ分かっていないのだ。
「……酷いな」
「脳にとっては自分を守る為の防衛だぁ」
難しげな顔をするレオから屑入れへ視線を戻す。中身が分解されて無くなったのを確かめて立ち上がり、シュレッダーの中へ戻してから手をはたいた。
「まぁ、いくら脳が頑張ったって完全には忘れられねぇんだけどなぁ」
顔を上げたレオの胸元を指先で小突く。
「本当に大切な事は脳以外の部分も記憶してる。ソレを人は『心』とか『魂』って呼ぶけど、脳なんかよりも有能な記録器官だよ」
ふとした瞬間既視感を覚えたり、初めて聞いた筈の音楽を聴いて懐かしさで涙を流したり。それらは脳ではなく身体が覚えていることだ。
脊髄反射とか条件反射という名称がついているものもあるが、それで表しきれないものだってある。
「ま、そのネジ君の記憶や脳がどうなってるのかなんて俺には分かんねぇから、もう何とも言えねぇけどなぁ。そもそも記憶喪失じゃなくて記憶改竄だったらまた話は違ってくるしぃ」
「あーもう訳わかんねー。難しい!」
頭を抱えて唸るレオに苦笑が漏れた。記憶なんて身体に脂肪が貯まるのと同じだと考えれば簡単だが、難しく考えれば何処までも難しく考えられるものである。
そうして思い出したが、レオはどうやらまた記憶より脂肪が身体へ蓄積したようだった。
そういった記憶喪失はあるのかと聞かれ、シルビは少し考える。
「そもそも生まれた瞬間を覚えている赤ん坊のほうが少ねぇけど、母親が忘れてるのはどうなんだろうなぁ」
「ザップさんたちはそういう種族なんじゃないかって言ってた」
ライブラの事務所でスティーブンへ頼まれて、不要になった書類をシュレッダーへ掛けている最中に聞かれた記憶の話。
シルビに関して言うなら今はともかく五年前までは覚えていようが忘れようが、否応無しに『×××』があったので思い出す事が出来ていた。今だって『×××』によるシルビが実際に知らない情報の引き出しは出来ないが、今まで経験した事や学んだ事は問題なく思い出せるので不便は無い。
だがレオが聞きたいのはそういうことではないのだろう。
「記憶喪失にも色々あって、生活に必要な記憶も全て忘れてしまうものと、一時的な記憶の消失がまぁ大きな分類だぁ。んで、そのネジ君の親子の場合は、母親はそれを聞く限り一時的な記憶の喪失ってことになる」
「なんで?」
「産んだ事は忘れてても、親子である事は覚えてるって事は、孕んでる時の事は覚えてると考えていいだろぉ? ネジ君の種族が胎生か卵生か知らねぇけど、産まれるまでの期間の記憶はあるんじゃねぇかなぁ。なら産んだ時の記憶だけが無ぇことになる」
人類の場合十月十日で子供が生まれる。種族によってその違いは当然あるが、胎生だろうと卵生だろうとポンと産むことは多くない。卵であっても傍で守る期間が発生することを考えれば、ある程度長期間の記憶に子供の存在があるはずである。
産んだ事は覚えていなくとも自分が子供を孕んだ事を覚えているなら、それは一時的な記憶の喪失だ。ではその一時的な記憶の喪失は何故発生したのかとなると、件のネジ君やその母親に直接会ったわけでもないシルビには考える為の情報が少なかった。
「せめてそのネジ君親子だけなのか、ネジ君の種族が全員そうなのかくらいは分からねぇと何とも言えねぇよ。若年性健忘症の遺伝があるのかも知れねぇし、ストレスでそうだったと思い込むこともある。そうだとしたら一概に記憶喪失だとも言えねぇよ?」
「難しいなー」
「レオ君は何を気にしてるんだぁ?」
「何って、そーいう事ってありうるのかなって思っただけだよ」
「忘れられるのが怖ぇのかと思った」
「は?」
粉砕し終わったシュレッダーの紙屑入れを外して取り出し、しゃがんで目一杯になっていたその中へ手を突っ込み、指を鳴らす。紙屑だけを『嵐の炎』で分解しながらシルビはレオを振り返った。
「脳ってのは容量が決まってる。だから古い記憶や些細な記憶ってのはこんな風にどんどん消えていっちまうのは分かるよなぁ?」
「あ、うん。それが? つかそれどーなってんの?」
「それは今どうでもいい。君が振った話なんだからちゃんと聞けよぉ。――でもその古い記憶かどうか、些細な記憶かどうかってのは脳には判断出来なくて、間違って消してしまう事もある。物忘れが酷でぇ人ってのはそういうことなんだけど、その人が忘れてしまった“些細な”事の中に、もし自分のことが混ざっていたらどう思うぅ?」
「……忘れられるってことかよ」
「まぁ、そうなるんじゃねぇ? 実際そのネジ君の母親はネジ君のことを忘れている」
「フツー子供の事は“些細な事”じゃないだろ! ……あ」
「だから脳はそれが分からねぇんだよ。大事だと思っていても忘れたくねぇと思っていても、忘れてしまうことだってある」
脳の仕組みは未だに全てが明らかになった訳ではない。だから脳がその記憶をどう扱うのかさえ分かっていないのだ。
「……酷いな」
「脳にとっては自分を守る為の防衛だぁ」
難しげな顔をするレオから屑入れへ視線を戻す。中身が分解されて無くなったのを確かめて立ち上がり、シュレッダーの中へ戻してから手をはたいた。
「まぁ、いくら脳が頑張ったって完全には忘れられねぇんだけどなぁ」
顔を上げたレオの胸元を指先で小突く。
「本当に大切な事は脳以外の部分も記憶してる。ソレを人は『心』とか『魂』って呼ぶけど、脳なんかよりも有能な記録器官だよ」
ふとした瞬間既視感を覚えたり、初めて聞いた筈の音楽を聴いて懐かしさで涙を流したり。それらは脳ではなく身体が覚えていることだ。
脊髄反射とか条件反射という名称がついているものもあるが、それで表しきれないものだってある。
「ま、そのネジ君の記憶や脳がどうなってるのかなんて俺には分かんねぇから、もう何とも言えねぇけどなぁ。そもそも記憶喪失じゃなくて記憶改竄だったらまた話は違ってくるしぃ」
「あーもう訳わかんねー。難しい!」
頭を抱えて唸るレオに苦笑が漏れた。記憶なんて身体に脂肪が貯まるのと同じだと考えれば簡単だが、難しく考えれば何処までも難しく考えられるものである。
そうして思い出したが、レオはどうやらまた記憶より脂肪が身体へ蓄積したようだった。