―とある執事の電撃作戦―
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『再生者』とはその名の通り、致命傷を負った際すぐに即死しない程度の状態へまで身体が急速再生するという力を持った者のことだ。しかしながら急速再生するのは致命傷だけで、どんなに重傷だったとしても致命傷で無い場合は、ごく普通に回復していく事になるのだという。
ギルベルトの顔や全身の包帯は最初に聞いた通り、そういった怪我の回復が年のせいで遅い故に巻いているものだった。
「ですから、そんなに心配なさらずとも良いのです」
「……心配通り越して反省タイムですよ」
悪化した背骨の骨折に、今回の怪我もあって入院することになったギルベルトのベッドへ顔を突っ伏す。隣のベッドでは抜き出された脳を戻す手術を受けたフィリップが今は眠っていた。
「先に聞いてりゃそんなに驚きはしなかったと思います。ザップさんいなかったら俺本気出してたでしょうしぃ……」
「申し訳ありません」
「謝る必要は無ぇんです。俺が勝手にした事ですし」
突っ伏していたベッドから顔を横へ向けてギルベルトを見る。
「……貴方を見ていると『復讐者』の皆を思い出しますね」
「ご同僚の方々ですか」
「俺以外は全員、『半死人』なんです」
本当は半分であっても『死人』なんて表現は使いたくない。しかし彼らの身体は死体のようにボロボロで人間とは呼べず、中には身体の一部が無い者だっている。
治してやりたいとは何度も思った。けれども彼らはソレを望まなかったのだ。
シルビは死者を生き返らせることをタブーとしている。
「自分達で半『死人』だって言ってるもんだから、治してやれねぇんですよ。しかも結構今の人生を楽しんでるしぃ。別にいいんだけど俺の心情も察してくれねぇかなぁって思うんですよねぇ」
「元は裏社会の法の遵守者、でしたね」
「気になりますか?」
「ええ。日本人であるはずの貴方が、何故イタリアの組織と関わりがあるのか。気になりますね」
ギルベルトの言葉に、やはり調べていたかと思う。フィリップが弟の事を持ち出してきたし、そうでなくともライブラへ来た段階で調べられてもいただろうとは予想出来ていた。別に調べられて困る事でもない。今まで聞かれなかった事のほうが驚きなくらいだ。
ただ、調べても流石に事情が分からなければ知れない真実もある。
「そこまで知ってるのなら、『シルビ』についても調べたのでは?」
「偽名として使うには、いささか有名過ぎるかと」
「どうなんでしょうねぇ。今はもう『アマネ』のほうが有名だと思うんですよ。あの名前が背負っている肩書き一気に言ったら、未だに一回は必ず舌噛みますしねぇ」
力なく笑う。
「『シルビ』なら単なる偶然で済ませられる場合もある。……普通は、百年前の人物と同一だなんて思わねぇでしょう?」
今回も同じだった。百年前にイタリアで生きて死んで、また日本で生まれた。転生は何度もしているが、飽きたと思わない事だけは僥倖だ。
だって世界はまだまだ広い。
『シルビ』という名前に、それなりに価値があるという自覚は流石にしている。今の自分が弱体化していることを隠すつもりは【白澤】の姿に比べると実のところ余り無いが、今は『アマネ』の名前が持つ地位のままのほうが危なかった。『シルビ』なら、魔術や異界、裏社会関連の者か余程マイナーな歴史好きでなければ分からないだろうし、分かったとしても前に会ったことがあるような長生きしか同一人物だとは思うまい。
「驚きました」
「でしょう?」
目を見開いてシルビの言葉への感想を告げるギルベルトだって、予想していなかったようだ。
流石のヘルサレムズ・ロットでも転生をする存在というのはいないのかもしれない。いたとしても姿を現したり、自分がそうなのだと声高に主張したりもしないだろう。
シルビだって隠してはいないが自分から言う事もなかった。状況によっては誤魔化すし隠しもするけれど比較的簡単に話す。
「せいぜいが子孫だとかそういう感じで、俺もそうやって勘違い“させる”ようにしてる。簡単に誤魔化せるからいいんです。それに『シルビ』だって使ってやらねぇと。俺の名前ですもん」
隣のベッドでフィリップが寝返りを打っていた。ギルベルトの視線が僅かにそちらへ向いて、それから再びシルビへとそれを戻す。
「今回は我が同胞が多大なご迷惑をお掛けいたしました」
「いえいえこちらこそぉ」
「貴方の弟君のことも、浅はかな発言でした」
「いえいえ……でも多分、その場であの子は『カズヒト』とは名乗らなかったはずですから、その名前を口にするのは今後は止めたほうがいいと思います。俺もここでは『シルビ』と呼ばれたいので」
それは事実上、駆け引き的な意味合いが込められた発言だ。『復讐者』以外の肩書きは、ヘルサレムズ・ロットで使うつもりなどシルビには無い。
この場所では、たとえ正体が『化け物』であっても『シルビ』としてライブラのメンバーでありたかった。そう思い始めている。
「ところでクラウスさんやスティーブンさんにはもう?」
「私から言わずとも、お二人は既に気付いておられでしょう」
「ですよねぇ……。二人なら大丈夫だと思うけど、ザップさんに知られるのは嫌かなぁ」
「何故です?」
「絶対金たかられる」
ギルベルトが目を丸く見開き、それから声を上げて笑った。
ギルベルトの顔や全身の包帯は最初に聞いた通り、そういった怪我の回復が年のせいで遅い故に巻いているものだった。
「ですから、そんなに心配なさらずとも良いのです」
「……心配通り越して反省タイムですよ」
悪化した背骨の骨折に、今回の怪我もあって入院することになったギルベルトのベッドへ顔を突っ伏す。隣のベッドでは抜き出された脳を戻す手術を受けたフィリップが今は眠っていた。
「先に聞いてりゃそんなに驚きはしなかったと思います。ザップさんいなかったら俺本気出してたでしょうしぃ……」
「申し訳ありません」
「謝る必要は無ぇんです。俺が勝手にした事ですし」
突っ伏していたベッドから顔を横へ向けてギルベルトを見る。
「……貴方を見ていると『復讐者』の皆を思い出しますね」
「ご同僚の方々ですか」
「俺以外は全員、『半死人』なんです」
本当は半分であっても『死人』なんて表現は使いたくない。しかし彼らの身体は死体のようにボロボロで人間とは呼べず、中には身体の一部が無い者だっている。
治してやりたいとは何度も思った。けれども彼らはソレを望まなかったのだ。
シルビは死者を生き返らせることをタブーとしている。
「自分達で半『死人』だって言ってるもんだから、治してやれねぇんですよ。しかも結構今の人生を楽しんでるしぃ。別にいいんだけど俺の心情も察してくれねぇかなぁって思うんですよねぇ」
「元は裏社会の法の遵守者、でしたね」
「気になりますか?」
「ええ。日本人であるはずの貴方が、何故イタリアの組織と関わりがあるのか。気になりますね」
ギルベルトの言葉に、やはり調べていたかと思う。フィリップが弟の事を持ち出してきたし、そうでなくともライブラへ来た段階で調べられてもいただろうとは予想出来ていた。別に調べられて困る事でもない。今まで聞かれなかった事のほうが驚きなくらいだ。
ただ、調べても流石に事情が分からなければ知れない真実もある。
「そこまで知ってるのなら、『シルビ』についても調べたのでは?」
「偽名として使うには、いささか有名過ぎるかと」
「どうなんでしょうねぇ。今はもう『アマネ』のほうが有名だと思うんですよ。あの名前が背負っている肩書き一気に言ったら、未だに一回は必ず舌噛みますしねぇ」
力なく笑う。
「『シルビ』なら単なる偶然で済ませられる場合もある。……普通は、百年前の人物と同一だなんて思わねぇでしょう?」
今回も同じだった。百年前にイタリアで生きて死んで、また日本で生まれた。転生は何度もしているが、飽きたと思わない事だけは僥倖だ。
だって世界はまだまだ広い。
『シルビ』という名前に、それなりに価値があるという自覚は流石にしている。今の自分が弱体化していることを隠すつもりは【白澤】の姿に比べると実のところ余り無いが、今は『アマネ』の名前が持つ地位のままのほうが危なかった。『シルビ』なら、魔術や異界、裏社会関連の者か余程マイナーな歴史好きでなければ分からないだろうし、分かったとしても前に会ったことがあるような長生きしか同一人物だとは思うまい。
「驚きました」
「でしょう?」
目を見開いてシルビの言葉への感想を告げるギルベルトだって、予想していなかったようだ。
流石のヘルサレムズ・ロットでも転生をする存在というのはいないのかもしれない。いたとしても姿を現したり、自分がそうなのだと声高に主張したりもしないだろう。
シルビだって隠してはいないが自分から言う事もなかった。状況によっては誤魔化すし隠しもするけれど比較的簡単に話す。
「せいぜいが子孫だとかそういう感じで、俺もそうやって勘違い“させる”ようにしてる。簡単に誤魔化せるからいいんです。それに『シルビ』だって使ってやらねぇと。俺の名前ですもん」
隣のベッドでフィリップが寝返りを打っていた。ギルベルトの視線が僅かにそちらへ向いて、それから再びシルビへとそれを戻す。
「今回は我が同胞が多大なご迷惑をお掛けいたしました」
「いえいえこちらこそぉ」
「貴方の弟君のことも、浅はかな発言でした」
「いえいえ……でも多分、その場であの子は『カズヒト』とは名乗らなかったはずですから、その名前を口にするのは今後は止めたほうがいいと思います。俺もここでは『シルビ』と呼ばれたいので」
それは事実上、駆け引き的な意味合いが込められた発言だ。『復讐者』以外の肩書きは、ヘルサレムズ・ロットで使うつもりなどシルビには無い。
この場所では、たとえ正体が『化け物』であっても『シルビ』としてライブラのメンバーでありたかった。そう思い始めている。
「ところでクラウスさんやスティーブンさんにはもう?」
「私から言わずとも、お二人は既に気付いておられでしょう」
「ですよねぇ……。二人なら大丈夫だと思うけど、ザップさんに知られるのは嫌かなぁ」
「何故です?」
「絶対金たかられる」
ギルベルトが目を丸く見開き、それから声を上げて笑った。