「ギャ、ギ、ギギギギギギルベルトさぁあん！」

目の前で頭部を真っ二つにされたギルベルトに、シルビはレオの様に声を上げる事さえ出来ない。指を鳴らすことも出来ず、ただ真っ二つにされたギルベルトの“内側”を見つめていた。
だってこれは流石に即死だろう。即死では病院へ運んで治療を受けさせる事も出来ない。
即死では助ける事が出来ない。即死では、“生き返らせる”しか出来ない。

「――おいシルビ！」

直ぐ横でザップの声が響く。振り返ればザップの顔と自分の身体から噴き出しかけていた『黒い炎』が見えた。
息を飲んで唇を噛み締め、体勢的にシルビの脚を掴んでいたザップの手を掴み返す。ギルベルトの静かな声が聞こえたのは、その直後だった。

「勝ち誇るな。三流め」

振り返れば未だ太刀が身体に食い込んでいるというのに、ギルベルトは痛みすら感じていないという風に喋っている。だんだんその身体も分離した部分が結合しあうように元通りになっていっていた。
まるで逆再生を見ているような光景だが、真っ二つにしたままの太刀は彼の腹部辺りで抜かれもせずにそのままだ。そのまま、ギルベルトが操作したのか車体の銃口が逃げようとした異界人へと向けられる。

「『再生者』に挑んだこと、地獄で悔いるがいい」

撃たれて異界人の上半身が肉片となって飛び散った。抱えられていた脳の入ったケースが宙を舞い、ザップが伸ばした血液によって無事に取り返される。
肉片をタイヤで更にすり潰しつつ走っていた車へ、ギルベルトが走り始めてから初めて停車目的でブレーキを踏んだ。車体を半回転させつつ停止した車の中で、シルビは直ぐに後部座席で起き上がって運転席のギルベルトを確かめた。

「ギルベルトさん！」
「……申し訳ありませんが、コレ抜いていただけますか」
「ザップさん抜けぇ！ あんまり刃を揺らさねぇように！」
「っていうか病院！ 病院行きましょう！？ ねえ！」

レオがフィリップの脳を抱きかかえて慌てている。慌て過ぎて脳の入ったケースを壊してしまいやしないかと考えて、“そういう事”を考えられるまでは理性を取り戻せていると気付いた。
多分ザップへ名前を呼ばれなければ、あのまま『黒い炎』を使っていたかも知れない。

「抜いたぞ！」
「ありがとうございます。病院へ行きましょう」
「ギルベルトさんが運転すんの！？」
「でなければ誰が運転なさるのですか？」
「ごめんギルベルトさん飄々と言わねぇでぇ！」
「落ち着けやオメーら！ イザとなったらシルビが転移させりゃいいだろ！」
「……あ、そっか」

訂正。まだちょっと正気に戻っていなかった。